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夢現  作者: mine
1/7

第一夜

「俺をあまり舐めるなよ」


そう言って俺は街中にて手に持っていた刀を振るう。避難したのか、周りには人はいない。

今俺は巨大な蜘蛛のような化け物と戦っていた。

戦わなくて良いはずだが、倒さなければならないという使命感にかられ、夢中で戦っていた。


「こいつはどうだ」


そう言って俺は刀を振り抜き、堅い殻に覆われているはずの蜘蛛の前脚の一本を軽く切り落とす。だがそれによって蜘蛛は怒ったのか残った前脚を使い、俺を刺そうとしてきたので刀を鞘に収め飛んで後ろに避ける。

蜘蛛は俺を追撃するために近づいてくるが、


「甘いな」


甘すぎる、虫だからなのか怒ったためなのか分からないが、動きが単調すぎて攻撃が読みやすい。

その攻撃を全て半身で避けつつ前に進み、鞘に収めた刀に手をかける。

そろそろ遊びも終わりだな。


「この断罪は人々を襲ったことによるお前の結末だ。」


「喰らえ!夢想流(むそうりゅう) 居合『悪因悪果(あくいんあっか)』」


鞘から刀を下から上に全力で振り抜く。蜘蛛を真っ二つにして、刀を鞘に収める。その時間コンマ数秒。

この技は悪事を働いたものに死という報いを受けさせるという意味を持った技だ。


「キシャアアアアアアア」


蜘蛛は切られた事に気付いていないのか、こちらに襲いかかろうとしてきた。だが、蜘蛛の攻撃がこちらに届くことはなかった。



「次生まれてくるときは精々悪事を働かないことだな」


そう捨て台詞を吐き、俺は蜘蛛に背を向け刀をーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーージリリリリリッッッッ


設定していた目覚ましが鳴り響く。


「夢だったか……」


そう呟きながら俺は目覚ましを止める。

最近こんな厨二くさい夢ばかり見る気がする。正直友達に話すのも恥ずかしいレベルだな。

そう思いつつベットから起き上がる。


うちは父と母との三人家族だが、仕事の都合上両親は家にいないため家事などは自分でしなければならない。


とりあえず学校へ行くために洗面所に向かい、顔を洗う。


英語が苦手なので海外の学校に行きたくないというしょうもない理由から両親についていかず、俺は日本に残っている。

というのも英語の勉強をいくらしても身につかず、高校の入試の時も全然解けなくて他の教科のおかげでなんとか合格できたくらいだ。


顔を洗った後、食パンをトーストにする。その上にトーストしてる間に焼いた目玉焼きを乗せてかぶりつく。

この組み合わせ何度味わっても飽きないな。

食べてる間なんか寂しいのでテレビをつけた。


さすがに朝の時間帯なので昨日の出来事についてのニュースをやっていた。

また人が放心状態で発見されたというニュースだ。


「またか、怖いなぁ」


最近この手のニュースが多い。どうやら放心状態の人は時折錯乱したり植物状態の様に一切動かなかったりするそうだが、いまだに原因は分かっていない。まるで一種の発狂状態だと誰かが言っていた覚えがある。その人達の証言によると、巨大な化け物に食われたやら襲われたなどと言っているらしい。

さらには行方不明者なんかも特に災害があったわけではないのに最近多いのでとても怖い。


そんな不安になるニュースを見つつ、俺は学校に行く準備を済ませて家を出た。



学校は家から15分ほど歩いたところにある。公立の至って普通の高校だ。

まあぶっちゃけ家から近いから選んだようなものだ。


「よう悠木(ゆうき)、おはようさん」


道を歩いていると声をかけられた。


「ああ、おはよう雷牙(らいが)


こいつの名前は小林(こばやし) 雷牙(らいが)で同級生だ。

小学校から一緒で中学に上がってしばらく経ったある時、名前かっこいいなと言ったらめちゃくちゃ怒られたのはいい思い出だ。

本人曰く、


「苗字は普通なのに名前は雷牙って馬鹿なの⁉︎普通の名前思いつかなかったのかよ俺の親ああああ‼︎」


と、結構気にしてるらしい。ちなみに俺は爆笑して軽く殴られた。

そんな雷牙と合流して学校に向かう。授業をうたた寝しつつ受け、休み時間は友人と馬鹿な話をして爆笑する。いつもの日常だ。


学校が終わり自宅に帰ってきて、しばらくテレビを見て休憩した後着替える。

昼は学校で学食が使えるが、朝と夜は自分で作らないといけないので買い出しに行かないといけない。面倒くさいがもう慣れたことだ。

準備を終え、家から出ると暗くなりかけていた。


「はぁ、家を出るの遅かったのかな。帰りは暗そうだ」


そんなことを呟きながら歩いているとふと不思議な感覚に襲われた。まるでなにかに入ってしまったような感覚であたりも一気に暗くなった気がした。

ただ特に異常はない。


「まあ、気のせいか」


暗くなったのは日が落ちたのだろう、そう思いつついつものスーパーに向かおうとする。


今ではあの時帰っていればと思っている。帰っていればいつもの日常が異常に変わることなんてなかったのに……。


「きゃあああ!」


それは女の人の悲鳴だった。少し怖くて躊躇したが、悲鳴のあった場所に向かう。行かなければ良いのにその時の俺は何故かそこに行ってしまったのだ。


それはカエルだった。そうカエルだ。あの目が可愛くて梅雨の時期によく見かけるあのカエル。

ただそのカエルは大きかった。

そこらの一戸建ての家ぐらい大きいのではないだろうか。

それを少しの時間見ていたが、俺は気づかれないうちに逃げることを決意した。

何故かって?いやだってあんなにでかいカエル見たことないし、しかも


「ーーー、ーーーッ‼︎」


カエルの中から先ほどの女の人と思われる叫び声が聞こえてくるのだ。

食われる?そんなの絶対お断りだ!助けを求めているのだろうが、俺には逃げることしか出来ない。だから必死に逃げた。極度の運動神経だが、そんなものは関係ない。

いつのまにか家の中にいた。逃げてる時、何かを通り抜けたような変な感覚はまたあった気がするが、そんなことはどうでも良い。


怖い怖い怖い怖い、あの目あの体そして女の人の叫び声、すべてが恐ろしすぎる。いつも見ているものが大きくなるだけで、あんなにおぞましくなるのか。あんなものを見てしまったら食欲なんて失せてしまう。思い出したからなのか、久しぶりに運動したせいなのか少し吐いてしまった。


「はぁはぁ……」


あれはなんだったのだろう、夢か?幻覚か?分からないけど、熱はなかったから大丈夫だろう。決して薬なんかやってないし、放心して発狂してるわけでもない。

疲れてるんだろう、運動もしたし今日は早めに寝よう。そんなことを思いつつ、ちょっとずつ落ち着きを取り戻し始めた時にインターホンが鳴った。

疲れてるのにこの時間にいったい誰だろう、不思議に思いながら玄関に向かう。


「はーい、どちら様ですか?」

「警察よ。開けてもらえる?」


警察⁈しかもこんな時に。先程のことにもう気づいたのか?


「あ、あの何の用でしょうか?何かした覚えはないんですが」

「突然だけど、君にはさっき見たはずのカエルみたいな化け物を倒して欲しいの」


……いきなり何言ってんだこいつ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

とりあえずドアを開けた。その人は20代前半くらいの女の人だった。

正直に言うと喋りたくない、初対面でしかも化け物を倒せと意味のわからないことを言ってくる奴だからだ。


「えっと、さっきのは冗談ですよね?」

一応聞いてみる。


「冗談なわけないじゃない。一応救助に向かってる子がいるけどあの子は戦闘向きじゃない。だからあなたにはあいつを倒してもらわないといけない」

「いや、待ってください。もしあいつがいるとして、ただでさえ化け物を見て混乱してる奴に、そいつを倒せって言ったところで、はい分かりましたってなるわけないでしょ。そもそもあの化け物はなんなんだよ?もっとちゃんと説明してください」


本当にいきなりすぎる。最近の戦闘系アニメを見てみろ、あっちの方がまだ親切だぞ。


「チッ、物分かりの悪い」


聞こえてますよー、というかもう良いよね。眠くなってきたしもう無視して良いよねこんな奴。よく考えてみろ、こいつが例の放心状態の人間かもしれないしな。うん、無視しよう。


「なぜ家の中に戻ろうとしてるの?」


彼女が聞いてくる。煩わしい。


「はぁ、当然でしょう。疲れて寝ようとしてる時に唐突にやってきて化け物倒せとか言ってくる面倒くさいキチガイが来たんですよ。しかも事情を聞こうとしたら、物分かりが悪いと来た。ざけんな、ささっと帰れ‼︎」


思わず素が出てしまう。

俺は医者でもないし、心理学者でもないのだ。彼女を治すことはできない。


「……私が悪かったわ。正直焦ってたの。説明するからせめて話だけでも聞いて」

「知らねーよ、さっさと精神科でも行ってその頭を「今も襲われてる人がいるの!」……いきなり大声出さのやめてもらって良いですかね?」

「私では助けられないの。ただあなたならあいつを倒せる力があるの」


またそれだ、無視して良いだろう。


「あの空間に閉じ込められて今も襲われてる人がいる。たぶんあなたの知り合いもいるかも。ほら、これがその映像よ。お願い助けてあげて!」


そういって女は端末の画面を見せてくる。

確かに助けるべきだろう。だが、倒せるかもしれない、そんな可能性があるってだけで、もしそれが失敗したら死ぬ人数が増えるだけだ。俺だって死にたくわ……ちょっと待て。


「おい、確認するがそれ今の実際の映像なんだな」

「だから、さっきそう言ったじゃない」


ハッ、流石に冗談だろう?あのお人好しめ…


「まったく、いったい何でそこにいんだよ雷牙……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(やべー、やべーよ。なんだあれ、カエルか?コンビニでおにぎり買って帰る途中にとんでもないもんに遭遇しちまった。)


カエルが後ろから家を踏み潰しながら追いかけてくる。


(出来るだけ中に人がいるかもしれないから家を破壊されないルートを通らなきゃな)


彼は出来るだけ被害が出ないようにカエルから全力で逃げていた。


(ん?)

ふと嫌な予感がして後ろを見る。


「あぶねっ⁈」

横に避けた瞬間、舌が飛んでくる。

(あんな攻撃できんのかよ。膝が震える。俺死ぬ、無理死ぬ。)


彼は昔から不幸だった。よく傘を無くすし、車に轢かれて骨折したりもした。

そう彼は不幸な人間だ。


彼がカエルに遭遇した時、彼は悠木みたいに逃げるべきだった。だが彼は、


「よかった、あの子達の方には行ってねーな」


女の子が瓦礫に挟まれた人を救助しているところをカエルが襲おうとしているのを見てしまった。

見てしまった彼はきっと、


「アハハッ!さてこの捕まったら死ぬ鬼ごっこ、せいぜい楽しむか」


不幸なのだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一部始終を見た。雷牙は昔からこういう奴だ。

よく傘をなくすのは人が雨に濡れて寒そうにしてる様子を見たくなくて渡してしまうから。

轢かれて骨折したのは轢かれそうになった少女を助けるために飛び出してしまったから。


あいつはそういう困った人を見るとほっとけない奴なんだ。だから今あいつがわざわざ追われてるのもたぶんそういうことなんだろう。


馬鹿だなあいつは。あんなことしても自分が死ぬだけだろう。………でも俺の方が馬鹿だ。

もし助けられない状況ならあいつも助けにいかないだろう、いやあいつならそれでも助けに行くのかな?

この女はあのカエルみたいな化け物を倒す力が俺にあると言った。ならきっとここでぐずってる場合じゃないのだろう。なぜならそれはあの空間に閉じ込められてる雷牙を、閉じ込められてる人たちを助けられるということなのだから。


忘れてた俺の方が馬鹿だ。例え死ぬかもしれないって分かってても困った人を助けに行ってしまうあいつに憧れて、俺もああいう奴になりたいと思っていた。

だから、憧れたあいつみたいになるために助けられる可能性があるのなら…


「なあ、あれどうやったら倒せるんだ?」

「え?」

「え?じゃねぇよ、助けに行かないといけないんだろう?ならさっさと倒す方法を教えてくれ!」


絶対救ってみせる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あの女によれば、どうやらこの不思議空間は夢の中?みたいなものらしい。つまりあいつを倒すには夢の中で戦っている自分を想像して、その想像を顕現させることができればあいつとまともに戦うことができるらしい。だから早速その不思議空間に入って


「夢よ、顕現せよ」


とか想像しながらやってたんだけど、全然顕現できなかった。というか、恥ずかしいし、絶対これあの女にガセつかまされただろ!

ああそういえば、今俺は何してるかって疑問に思うだろう?決まってんだろそんなもん。


「おいおいお前までなんでここにいるんだよ?」

「知らねーよ。あのクソアマが俺ならあいつを倒せるとか言いやがったから助けに来たんだよ!」

「ハハッ!なんだそりゃあ、つかお前運動しても平気なのか?」

「分からないけど、たぶんアドレナリンのおかげかも」


雷牙と一緒にカエルと鬼ごっこしてんだよ!

顕現しようとしたけど全然顕現できなかったからとりあえず雷牙のところに行こうとしたらあっちからやってきやがった。


「いや〜悪いな。人のところに行かないようにうまく逃げてるつもりだったんだがな」

「仕方ねーよ、というか今までよく周りを気にして逃げてたなぁ。とてもじゃないが真似できないぞ」

「まあそこは自分、天才なんで」

「あーはいはい天才だな。つっても早いとこあいつ倒さないとそのうちこっちの力が尽きちまうな」


というか未だに俺の身体能力で逃げることができているのが不思議なくらいだ。


「だろうな、でもお前なら倒せんだろ?」

「ある奴の情報によればな。ただ試しても全然うまくいかねーんだよ」


と、走りつつ後ろを警戒する。時々舌が飛んで来るからうまく避けなければならない。

にしても雷牙はすごいな。うまく人が居ないところを避けて逃げていた。本当に天才なのかもな…。


ただそれは聞こえたり見えたりする範囲だけでだ。限度は流石にある。


「これはどうすれば良いんだ……」


思わず俺は立ち止まってしまった。なぜなら前方で魔法少女みたいな格好した女の子がおそらくだが魔法を使って瓦礫から人を救出していたのが見えたからだ。

ただ瓦礫が重いからか助ける速度が遅い。だからといってカエルを向かわせるわけにはいかない。

どうすれば良いんだ?

走りながらどうするか考えてるとどうしても警戒が疎かになってしまう。

雷牙も困って考えていたのだろうが、突然叫んできた。


「悠木!」

「やばっ⁉︎」


雷牙は考えている間でも警戒を解かなかったから気づけたらしい。俺の方向にカエルの舌が飛んで来た。あわてて横にかわす。だが、


「なっ!!」


地面に当てて、跳弾させてきた。

おいおいそんなのありかよ、流石に終わったわ。

だけど雷牙なら俺がカエル飲み込まれてる間の短い時間であの子達とうまく逃げるだろう。正直死ぬのは嫌だが、避けれないから食われるしかない。

せいぜいもがくとかして時間を稼いでみせる‼︎

俺は覚悟を決めて、目を閉じた。が、その瞬間俺の体は横に飛ばされる。


「悠木。俺の不幸に付き合わせて悪かったな、来てくれて嬉しかったぜ」


地面を転がる。無理矢理止めて顔を上げる。顔を上げた時にはこっちを見て笑っていた雷牙がカエルに飲み込まれる瞬間だった。


「ら、雷牙ああああああああ‼︎」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カエルが雷牙を飲み込んだ。

どうするどうしようどうすればいい。

………いやまだだ。人間は食べ物を食べた時、胃に到達するのも消化にも時間がかかる。それはカエルも同じだろう。だからきっとまだ間に合うはずだ。だが、どっちみち早く助けないといけないのは変わらない。

そうあの化け物を倒すしかない、でもどうやって?

雷牙が死ぬかもしれない。いや、もしかしたらこの世界のカエルは消化が早くてもう死んでるかも…………そう考えると、目から涙が溢れて来る。足に疲れが来たのか、親友がカエルに飲まれた恐怖なのか分からないが、足がガクガク震える。


いやまだ死んだって決まったわけじゃないんだ!考えろ‼︎


雷牙を飲み込めたからか、カエルがこちらに目を向けてくる。


確かあの女の人は、


「イメージしやすいものなんかあれば顕現しやすいわ」


とか言っていた。なので、雷牙とカエルに追われる前に技名を言ってポーズをとってみたりしたが、やっぱり顕現出来なかった。


俺には無理なのか…………?


カエルは逃げずに泣きながら考えてる俺を見て、俺が観念したと思ったのかゆっくりと近づいてくる。カエルも今までの狩りで疲れたのだろう。動かない相手に対して舌を出す必要はないと判断したのかもしれない。



ズシリズシリとカエルの足音が聞こえる。だけど雷牙が食われたことによるショックで何も考えられない上に、もう体にも限界がきていた。



もうだめだと思っている時にふと、声が聞こえた。


「そうか、なんかそう言われると嬉しいなぁ。ただな、俺が出来るんだぜ。なら当然お前でも簡単に出来るはずだぜ‼︎」


この声は雷牙だ。恥ずかしかったが、人を助けるお前の姿に憧れお前みたいになりたいと話した時にあいつが言ってくれた言葉だ。


ここでこいつを倒さなきゃ次は後ろの人たちが食べられるだろう。その次はその次は、そうやって人がどんどん死んでいくだろう。

だから、俺がやるしかない。


「俺ならやれる。救える。雷牙に出来るんだ。なら、やれない方がおかしいだろ‼︎」


雷牙が出来ると言ってくれた。俺には倒せる可能性がある。

疲れが来たのか、全身がもう動かなくなってきてる。

動け、限界を超えろ。泣くのは全力でやった後だ。

カエルが俺の前まで来る。


頼む、俺に力を。

全力で最近見たあの夢をイメージする。そしてあの技はあの夢を初めて見たときから使っている技だ。

なら、それを使う以外の選択肢があるか?


腰に手を添える。集中して神経を研ぎ澄ませる。カエルがこちらに顔を近づけて来る。

やってやる‼︎


「夢想流 居合!『悪因悪果』」


全力で刀を振るうように手を振る。

何も起きない。顔が自然と下を向いてしまう。


やっぱり無理…なのか?


「ゲゴォォォォォォ‼︎」


なんだ?……カエルが、苦しんでる?

見ると、真っ二つにはなっていないが確かにカエルの体には線が入っていた。

顕現…出来たのか………?

そう思った時、手には夢で見た刀が握られ、服はいつの間にか着物になっていた。

なんでだ何が違かったんだ?



……そうか、ここは夢の世界。出来ない、そう思ったら本当に出来なくなってしまうのだろう。あの時恥ずかしさも相まって心の中でそんなことできるわけがないと思ってしまっていたのだろう。


なら、どうすれば顕現できるか?

答えは単純だ。出来ると思えばいい、そうしたらここは夢の中、自分のしたいことがイメージできればなんでも出来る。


(ありがとう、雷牙お前のおかげだな)


いまだに危機的状況なのに、あいつのおかげで笑みが溢れる。だがそれも一瞬、すぐに構えを取る。


「時間がないのでな、一撃で決めさせてもらおう」


半身になって腰を落とす。刀の柄をほおの横に持っていき、剣先を相手に向ける。いわゆる、霞の構えだ。


「夢想流『精妙巧緻(せいみょうこうち)』!」


この技は狙った箇所を正確に穿つ突きを放つ技だ。

雷牙がいるから真っ二つにするわけにはいかない。

だからこの技しかない、この技を使ってあいつを助ける‼︎


刀の切っ先が、カエルの頭へと向かう。

その速さは常人には到底見切ることは不可能だろう。


ブシャァァァァァァ……………


瞬間、刀はカエルの脳を正確に抉った。数秒後、カエルの頭からは血が滝のように流れ出る。

カエルは声もあげずに絶命した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


さて、早く雷牙を助けないと、そう思ってカエルに近づく途中で


「あ、あの…」


先程の魔法少女が話しかけてきた。たぶん瓦礫に挟まっていた人は助け終わったのだろう。ただ俺は早く雷牙を助けたい。申し訳ないと思うが、彼女に構ってる余裕はないのだ。


「すまないな、この異形の中から大切な友を助けなければならない。だからお主に構ってる余裕はないのだ」


いやちょっと待てなんかいつもと喋り方が違うんだが。なんだこの古風な感じでクール系の喋り方は。やめろ、ルックスが良くないというか、俺みたいなやつがこういう感じで話しても似合わねぇよ‼︎と、俺が心の中で動揺していると少女が


「それについてはそろそろ消えると思いますよ」


と、よく分からないことを言ってきた。ただその言葉の後、カエルの体が消え始めた。


「ちなみに中にいた人は出てくるので安心してください」

「そうか、貴重な情報感謝する。なにぶんこの空間で異形を倒したのは初めてなのでな」


なんかめっちゃ恥ずいんだが。もうやめてくれないかな。俺恥ずかしくて死ぬ。てか、絶対この子引いてるよね。この顔でこういい感じに低い声出してますよ感だしてるから、絶対調子乗ってるんじゃねーよとか思われてるって‼︎


「こちらこそ助けていただきありがとうございます。私魔法は使えるけど戦闘向きではないから助かりました。」


うわ、それでも話してくれるとかこの子めっちゃ良い子。しかもめっちゃ笑顔だし。


「別に礼を言われるようなことはしていない。俺は異形を倒せる存在。それを倒して人を助けるのは当然だろう?」


ハハッ……もう死にたい……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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