四十八本目 プレゼント
◇潤
集合写真を撮影した後、楓さんと千景さんはしばらく話し込んでいた。2人は、扉を隔てて見えない壁ごしに手を重ね合わせ、その一瞬一瞬を大切にしているようだった。
千景さんの最後の言葉は「楓、幸せになってね」だった。楓さんは泣き崩れてしまったけれど、その横顔はとても凛とした格好よさがあり、一皮むけたかのように僕には感じられた。
楓さん達がそうしている間、止まり木旅館に集まっていた時の狭間の住人達は一時帰宅。そして、それぞれが楓さんと翔さんへのお祝いの品を持って、また止まり木旅館へ戻ってきていた。
さて、次は披露宴代わりの宴がスタート!
懇親会用に準備されていた料理は、グリーンマンと粋、巴さんが祝い事の席に相応しくなるようにアレンジして、宴の席に並べられた。
なぜか大きな鯛を振り回して踊り狂う椿さんとシュリさん。他の方達は飲み食いの合間に、楓さん達へ祝の品々を渡しにいくわけだが……
「……ありがとうございます?」
苦笑いの楓さん。千歳さんがプレゼントしたのは、またまたランジェリーだった。
「これ着たら、写真に撮って送ってね!絶対だよ!」
満面の笑みの千歳さんは翔にグーで殴られて、空の彼方へと飛んでいった。
「やっぱり実用的な物がいいと思って、これにしたのよ」
続いてやってきた梓さんからのプレゼントは……鞭だった。
「なかなか良いでしょ? ほら、愛の鞭とか言う言葉もあることだし。夫のしつけは初めが肝心なんだからね! うちはちょっと失敗したけど、楓さんはがんばるのよ!!」
失敗って、グリーンマンのことか。あれは失敗というよりも……全ては言うまい。受け取った楓さんは、「私でも使いこなせるかしら? 巴ちゃんなら、使い方を教えてくれるかも!」とはしゃいでいる。翔さんが、さりげなく楓さんから距離をとったのは言うまでもない。
「こんなもので、ごめんね? でも、ファンの間では、レアチケットなんだよ?」
次にやってきたのは柊さん。髪をかき上げて極上スマイルをキメる姿は、まるで乙女ゲームにでてきそうな美男子である。こうやって、変ながんばりを重ねてる子って応援したくなる。こっそり写真を撮らせてもらった。
「何なに……? 柊さんと1日デート券?! しかも、10回綴りの回数券になってるの?!」
楓さんは反応に困っている。柊さんから渡されたデート券は、小学生が片手間に作った『肩たたき券』並みのしょぼさ。オレンジ色の歪な色画用紙の切れ端に、『1日デート券、ひいらぎ♡』と書かれてある。これは嬉しくないだろうな。楓さんがこれをゴミ箱に捨てたら、こっそり拾って代わりに使ってみようかな。怖いものみたさ、というやつで。
「皆、お祝いっていう言葉の意味、分かってるのかな?」
ぷっと可愛く頬を膨らませてやってきたのは、桜さん。彼女ならば、まともな祝い品が出てくるのではないか?!と思っていたのだが……
「私からはこれを。魔除けになるから、いつも肌身離さず持っておいてね!」
大きな包みから出てきたのは、亀とコウモリとチンパンジーが合体したような動物の置物。大変愛嬌のある……と言ったら良く言い過ぎか。はっきり言って、見ると呪われそうな表情をした謎の生き物なのだ。夜には絶対に見たくない。
「桜ちゃん……こんな大きなもの、常に持ち歩くのは無理かなぁ?……なんて……」
楓さんは顔を引き攣らせて、なんとか桜ちゃんに返そうとしている。
「おばさん、これはね、ランドセルみたいに背負えるように、革のベルトがついてるの。ほら! 背負ってみて!」
背負える仕様になってるんかい?! 無理やり背負わされた楓さんは、祝いの品というよりも、この世のあらゆる不幸を背負い込んだかのような様相になってしまった。
「おばさん、似合ってる!!」
いや、似合ってないから! 桜さんって、もしかして美的感覚がおかしい? 常識人っぽいと思っていたけれど、彼女もやはり時の狭間の住人だったということか。
楓さん、完全に目が死んでる。満足した桜さんが楓さんから離れた隙に、翔さんは楓さんの背中から置物を取り外した。すかさず密さんもやってきて、お祓いのようなものまで施している。やっぱりあの置物、呪われてるんじゃ……。
その後も妙なプレゼントばかりが楓さんと翔さんの元には集まり続け、酔っ払った天女様方は酒が足りないと騒ぐし、シュリさんが『木物金仏石仏』の従業員になることが決定したり、グリーンマンが部屋の中を緑に塗装し始める始末。
……これではいけない。
せっかくの2人の門出が、こんなカオスで汚されるなんて!!
そこで、僕達止まり木旅館の従業員達は、こっそり厨房裏に集合して話し合った。
「僕達から楓さん達へのお祝いは、これにしよう!!」




