↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/54

四十三本目 パターン『白』

◇楓


「密さん?!!」


 密さんの右手には、豪華な扇が握られている。少しだけ開いていた扇は、おもむろにパチンっと大きな音を立てて閉じられた。


「つい先程、導きの神から連絡があっての。大泣きしながら話す故、いつも以上に何を言っているのかよく分からなかったが、大方楓の結婚のことだろうと思って、すぐに駆けつけたのじゃ。すると大当たり! 妾の勘もたまには当たるものだ」


 研さんが連絡?! どうやって?! と思って尋ねてみると、神と天女はしゃべらなくても必要な時は心の声を伝え合うことができるらしい。便利なような、面倒臭いような……いや、何より胡散臭いぞ、そのシステム。私、天女には一生なりたくないな。


「そういや、結婚が決まったら呼べとか言ってたな」


 翔が密さんに話しかけた。


「楓も翔も、当然婚儀は挙げたいであろう? そなたらは旅館業もあって忙しい。妾が直々にささっと取りしきってやろうと思ってな」


 密さんの背後に控える天女様達も、やる気が漲(みなぎ)っている様子。それぞれ、担当の楽器を抱えて不敵に笑っている。笛に鼓、あれは尺八? でも1人だけ、バイオリンを抱えた金髪美女がいる。あー!たぶんこの人が、以前の女子会に来て無くて噂話されてた方だ!!


 えっと……じゃぁ……お願いしようかし……ら?

 私は、翔の方を見た。


「ありがたいけど、一応楓の親には挨拶してからの方がいいし、楓だって女なんだから、どんな風にしたいとかあるだろうし……」


 翔は、私を守る様にして、密さんの前に出た。



「案ずるな。万事、整っておる」


「……」



 何なのですか? この威圧感。笑っているのに怖いよ、密さん!! 一応今はおめでたいシーンなんだからね?! そんな黒いオーラを背負っちゃ駄目!!


「……そうだな。楓、密さんに任せよう。いいな?」


 私はすぐに頷いた。

 私も、婚儀に対しては考えていることもあるけれど、すごく拘りがあるわけでもない。そもそも、以前は結婚することがあるなんて思ってもみなかったし。できれば、皆に祝ってもらいたいなとは思うけれど。


「本日は懇親会らしいな。しかも、宴はまだ始まっていない。ちょうど良いではないか! 懇親会は取りやめて、これから婚儀と宴を催すぞ」


 何、勝手に決めちゃってるんですか?!

 私は、少し離れた所にいる千草さん、巴ちゃん、椿さん、柊さん、シュリさんを見渡した。


「それでいいんじゃないか?」


 一番反応が気がかりだった千草さんからは、すんなりとOKが下される。

 密さんは、巴ちゃんに目配せして一言呟いた。


「巴、作戦パターン『白』だ」


 作戦?! 何それ?! もしかして前々から私以外の皆で、秘密裏に準備が進められていたということ?!

 巴ちゃんは元気よく「はい!」と返事すると、あっという間に客室から廊下の方へと素早く身を翻した。



* * *



「楓さん、もうちょっと腕を上げてください」


 私は今、自分の部屋で白無垢の着付けをしてもらっている。白無垢は、和装の花嫁衣裳の中では最高位らしく、天女様方から一式プレゼントされたのだ。


 プロポーズされた日に早速婚儀だなんて、こんなスピード婚があってもいいのだろうか?!

 あ、別に、翔に「はい」って返事したのを後悔しているわけじゃないんだからね! ただ、こんなに良いことがトントン拍子で進んで大丈夫なのだろうか。実は夢オチなんてことにならないかと、不安になってしまったのだ。


「私、白無垢なんて似合うかしら……」


 巴ちゃんは、せっせと帯を結びながら答えた。


「幸せの絶頂にいる女性で、似合わない人なんていません!」


 私は毎日着物を着ているので、着物は着慣れているはずなのだが、やはり白無垢ともなると緊張してしまう。白無垢は、普通の着物とはつくりも少し違うし、着方も特別なので自分で着ることはできない。巴ちゃんは、随分昔からこの日のために、白無垢の着付けを勉強していてくれたらしい。なんてありがたいのだろう。うっかり涙をこぼして、ビューティー担当の天女様に盛ってもらったせっかくの詐欺メイクを台無しにしてしまうところだった。


「楓さんは、いろいろぺったんこなので、補正もそれほど要りませんし、思っていたよりも着付けに時間がかかりませんでしたね!」


 ……どうしよう。別の涙も零れそうだ。


「さ! 最後にこれを羽織ってください!」


 何これ?! 重い!! 私、白無垢舐めてた!!

 小物系を装備した後で、最後の打ち掛けを羽織ったのだが、肩にずっしりとくるのだ。これ絶対に、肩こりコースまっしぐらだよ。それでなくても、髪の毛の長さが足りなくて、高島田のカツラかぶってるのに!!


 私がブツブツ文句を言っている間に、頭の上には綿帽子が乗っかった。


「はい! できました!!」


 巴ちゃんは、私の前に全身が映る大きな姿見を運んできてくれた。



「わぁ……」


「お綺麗ですよ」



 鏡に映っていたのは、以前テレビで見たことのある、いかにも『花嫁』という感じの女性だった。それは、確かに私なのだろうけれど、とても自分だとは思えない程……艶めいていた。


「楓さん……おめでとうございます」


 巴ちゃんの声が震えた。瞳も潤んでいる。彼女は私のことを幼い頃から知っているだけに、本当の姉のような存在だ。感極まって、私の手をそっと握る巴ちゃんを見ていると、私まで泣きそうになってきた。


「もう皆様お揃いの頃ですよ。そろそろ参りましょう」


 巴ちゃんは自分も着替えると言って部屋を出ていき、代わりに忍くんがやってきた。いつもの作務衣姿ではない。改まった感じの着物に身を包んでいる。


部屋に入って私の姿を見るなり、床に膝をついて頭を下げる彼。所謂、隠密が行う『家臣の礼』だ。



「此度はおめでとうございます」


「ありがとう」



 忍くんは、私を見上げて薄らと笑った。


「奴よりも早く、楓さんの美しい晴れ姿を見れたことが、何よりも嬉しいです」


 奴って……翔のこと?! もしかして忍くん、私のこと……


「粋が、会場を整えてました。密さん達も準備できたようですし、楓さんと翔には外から揃って入ってもらいます。ご案内しますね」


 なんだか、私が止まり木旅館のお客様になったような気分だ。変なの。

 

 忍くんは「これが最初で最後です」と言うと、私の右手を壊れ物のように優しく握った。

 そして私達は、ゆっくりと廊下の方へ出て行った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。