二十二本目 潔く
椿さんの目は、完全に死んでいた。
「だって、ずっとこの格好だったし。お母さんに強要されてたってのもあるけど、そんじょそこらの女よりは可愛い自信はあったんだけどな。そりゃ皆が皆に受け入れてもらえるとは思ってなかったけどさ。でも、せめてみっともない格好はしないでおこうと思って、変な筋肉つけないように気をつけてきたし、着る服もいつだって、ちゃんと気を遣ってきたんだよ。この努力は、姉さんの柊も認めるぐらい健気なものだったのに。なんでここに来て、女の子の命ともあろうものが、こんな悲惨なことに……」
椿さん、お姉さんいたんだ……。そんなことより、椿さんがこんなにブツブツ言うには、もちろん理由がある。椿さんは、手鏡を持ったまま、畳の上に倒れ込んだ。
そこへやってきたのは礼くん。
「椿、すっきりしたな! うんうん、その方がいいよ。これで俺も、黒歴史を忘れられるかもしれないし!」
椿さんは、礼くんの方を見上げたが、その顔は今にも泣きそうである。
「やだよ! こんなの男みたいじゃないか!」
そう、椿さんは……桜ちゃんと密さんに言われて、断髪したのだ。けっこう短くなった。ベリーショートである。ちなみに、断髪式の後、綺麗に切りそろえたのは巴ちゃん。巴ちゃんが、やけにノリノリだったのが印象的だった。
しかもその後、一番背格好が近い粋くんから男物の着物を押し付けられて、着せられてしまった。これなら、ぱっと見、男の子で通りそうだ。礼くんと話す彼は、口調もいい感じに崩れていて、女の子っぽさが随分少なくなっている。でも、髪色が薄い桃色だし、仕草は男の娘のままだから、どことなく可愛いらしい。
「良いではないか。なかなか似合っておるぞ。これで、女に後戻りしないという決意は、お母上にも伝わるであろう」
密さんは、おかきを摘みながら、ご満悦だ。
「その潔さ……。お前のこと、認めてやらんこともない」
断髪を見守っていた忍くんも、大きく頷いていた。粋くんもそれに続く。
「これで良かったと思います。なんか、すっきりしましたね」
この2人は、どうにも椿さんとそりが悪かったのだ。研修生としての卒業を控えて、ようやく全員から認めてもらえたことは、椿さんにとっても嬉しいことではないのだろうか。見ると、椿さんは恥ずかしそうに頭を掻いていた。
桜ちゃんも、満足そうである。
「後は、お客さんに退場してもらうだけだね」
その通り。その通りなんだけど……。椿さんが里千代様に異世界へ行こうと勧誘しているところなんて、まだ見かけたことがないし、説得するとしたら今からになる。果たして、彼女は素直に頷いてくれるだろうか? 相当うまくやらないと、きっと彼女は大きく荒れて、夜中、藁人形の世話になること、間違いなしだ。
すると、密さんがおもむろに立ち上がった。
「では、そろそろ妾の出番じゃの。楓、アレはどこじゃ?」
え? もう、あの物騒な武器は返してあげないよ? それに、さっき粋くんが、ショーケースに入れて『遺品展』の展示室に持っていっちゃったもの。
「楓。だから、それは勘違だと言っておる」
「そう言って、また面白い嘘を言おうとしてるんでしょ?」
「……。知らぬ間に、なかなか成長したようだな。だが、これは真の話。あれは、舞に使う道具なのじゃ」
「舞……ですか?」
「妾ができるのは、雨乞いと人捜しだけではない。まぁ、見ておれ」
つまり、舞を通して、何かをするおつもりなのだろう。妖艶に微笑む密さん。これ以上のヒントをもらうのは難しそうだ。
私は、粋くんに、あの槍と盾を持ってくるよう依頼。巴ちゃんには、里千代様を大広間にお連れするように頼んだ。




