第9話 もうあれこれ考えるのはやめた
「やっと来たな。サボり魔!」
「ご、ごめんなさい」
試合後、悠司先輩にLINEで呼び出された私は、何て言えばいいのか心の準備も出来ないまま不安でいっぱいだったけど、先輩のそんな言葉のおかげでひとまず謝る事が出来て、ほんの少し胸のつっかえが取れたような気がした。
「ありがとな! 柏木の声援、ちゃんと届いた」
先輩が最後に放ったシュートは、ゴールネットを揺らした。
そして、一瞬の沈黙のあと……。
「柏木、俺お前が好きだ」
ストレートな告白に、心が揺れる。
「いつも俺達のために見えない所まで一生懸命仕事をしている姿が好きだった。大人しく見えて実は熱い気持ちを持っているのを知ってからもっと好きになった。そんな柏木に、これから一番近くで俺の応援をして欲しい。だから、戻ってこい」
良いのかな、こんな気持ちでサッカー部に戻っても……。
私のこの気持ちのせいで、また噂になって先輩に迷惑かけて部の雰囲気を乱したくない。そんな気持ちを見透かしたかのように、先輩はこう言ってくれた。
「なぁ、柏木は失格だって言ってたけど、それって俺への気持ちがあるって事で良いんだよな。確かに、お互い反省しなきゃいけない部分もあったかもしれない。けど、柏木のその気持ちはダメなんかじゃない」
先輩は話を続ける。
「白石や清田にもちゃんと話をして納得してもらった。あの噂の件も……あれは色々俺の配慮が足りなくて……でも解決したから」
私が下を向いている間にこんなにも頑張ってくれたのかと思うと、嬉しさと申し訳なさでいっぱいだ。
「それに、うちの部は恋愛禁止じゃないし、普通に彼女いる奴もいる。大丈夫だから、そろそろうなずいて欲しいんだけど……」
そんな私に先輩は少しおどけたように、優しく微笑んでくれた。
「ははっ、結構頑固なんだな。じゃあ、とっておきだ! お前の笑顔見ると元気が出て、頑張れって言われたら、いくらでも頑張れるような気がする。柏木は俺にとっては最高のマネージャーだ!」
もうあれこれ考えるのはやめた。
マネージャーと先輩どっちも大切で、片方だけなんて選べっこない……。そこまで先輩が言ってくれたなら、そんなの全部ひっくるめて一生懸命頑張るしかないじゃない。
だって、これ以上自分の気持を抑えられない。
――頑張れ!
心の中、何度も自分を励ましながらやっと本当の気持ちを先輩に告げる。
「私も先輩のことが、好きです」
やっと重なり合った想いに瞳の奥が熱くなった。
さんざん迷惑かけたから、せめて先輩の告白に笑顔で返事したくて、何とか笑ってみたけど涙がポロリとこぼれた。
――大失敗……。
距離が近くなった先輩の瞳に、ちょっと不細工に泣き笑いの私が映っていた。
「その顔は、反則だ」
誰にも見せたくないと耳元で囁かれたあと、ぎゅっと抱きしめられた。ほんの少し分け与えられた先輩の体温に、心までじんわりと温かくなった。
「ごめん。汗臭いだろ」
謝りながらも、抱きしめる手を離さない。
温かい腕の中、先輩の心臓も早鐘を打っているのが分かって、それだけでこの先どんな事があっても頑張ろうって思えた。
だから、私も先輩の胸に顔を擦り寄せて息を吸い込む。
「これは、一生懸命の匂いだから……。私は、先輩の匂い、大好き」
「はぁ……。こんなの、やっぱ反則だ。可愛すぎだろ」
ため息まじりで先輩がそうこぼすと、さらに強くその腕で私をかき抱いてくれた。




