第8話 ありったけの思いを込めて!
練習試合の早朝、まだサッカー部のみんなが来る前に準備を済ませると、目立たずにグラウンドを見渡せる場所でこっそりと時間まで待った。
一応、綾香先輩と京先輩にメモをしておいたけれど、どう思うか分からない。
ただ、皆には試合に勝って欲しいと純粋に願っている。
◇◆◇
試合は、0対0のままハーフタイムに入った。
監督の話を真剣に聞きながら選手たちがタオルやドリンクを手にしている。
私が用意したものだった。
けれど、それを見た瞬間、激しく後悔した。
必要な物を全部用意したからと言って、それはただの自己満足でしかない。
一生懸命プレイしている部員達に手渡せないで、声援も直接掛けられないで、自分の気持ちばかり気にして、部の雰囲気を乱して何がマネージャーだ……。
自分の情けなさに打ちのめされる。
みんなを応援したいという気持ちは、ちゃんと本物だったのに。
あの時、逃げ出さずに自分の気持ちを話せば良かった。
先輩への気持ちをさらけ出す事になったとしても、マネージャーの仕事に対してどう思っているかを全部打ち明けて、それだけでも分かって貰えるように言葉を尽くせばよかった。そうすれば、今一人でこんなところでこんな気持ちでいる事はなかったかもしれない。
後半に入るとだんだんと攻めこまれる時間が長くなった。
私がぐるぐる思い悩んでいる間にも試合は進み、審判がチラリと時計を見ると、ロスタイムの時間が掲示された。
一瞬の隙をつき、橘キャプテンがボールを奪うとラインを押し上げる。
これが、最後の攻撃になるかもしれない。
「走れ!」
一際、声を張り上げ、みんなを引っ張っていく悠司先輩の姿。
あの夏の準々決勝と同じように、目の前を駆け抜ける姿が眩しい。
それに比べて、逃げ出して隠れてこそこそと私は何て弱虫なんだろう。
――走れ!
もう一度先輩の言葉が私の脳裏に蘇った。
私は自分を変えたくて、一生懸命になれる事を探して、マネージャーになった。エールの1つも送れずにこんなところで下を向いている場合じゃないのに……。
――走れ!
何度も先輩の言葉を、リピートする。
何一つ答えは見えないままだけど、それでも今ここで立ち上がらないと一生うつむいたままの自分になってしまうような気がした。そうしてやっと一歩踏みだすと、あとは勝手に前へ前へと全速力でグラウンドのネット裏まで駆け寄った。
思いっきり声を張り上げた。
「みんなー、頑張って!」
いまさら何しに来たって呆れられるかもしれない。
「頑張れー!」
自分勝手で迷惑だって怒られるかもしれない。
それでも、もうこんな後悔はしたくない。
私はもう一度大きく息を吸ってありったけの思いを込めて叫んだ。
「頑張れー!!!」
それは、皆へだけじゃなく自分に対するエールだったかもしれない。
悠司先輩がシュートモーションに入る――。




