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  作者: くま
2026年 夏
3/4



 ————携帯のマップ機能を使い、しばらく歩くとレストランが見えてきた。なかなか繁盛しているようで、客足も良い。

 うん、ここにしよう。


「あれ、晴君?」


 ふいに僕を呼ぶ声がした。と言っても、僕を"晴"と呼ぶのは決まった人数だけだ。つまり、それなりに仲の良い人物。


「沙奈じゃん、久しぶり。」


 会うのは成人式以来だ。二年前より少し大人っぽくなった気がする。


「久しぶりー。眼鏡じゃないから、間違ってたらどうしようかと思った。」

「あ、そっか。成人式の時は眼鏡だっけ。」

「うんうん、イメチェン?」

「まあ、そんなとこかな。」


 僕は昔から眼鏡だったが、つい最近——と言っても一年ほど前だが——コンタクトに変えたばかりだった。

 仕事柄、パソコンと眼鏡のままにらめっこをするのは目が疲れるので、思い切って変えたのだ。


「晴君もここのレストラン来たの?」

「うん、ちょうど今から。」

「そっかそっか、なら一緒にいいかな? 一人で食事ってのも、なんか寂しいし。」

「いいよ、僕もそう思ってたところなんだ。」


 二年ぶりの再会だ。成人式ではあまり話も出来なかったし、ゆっくり話もしてみたい。嫌な記憶も、この時ばかりは頭から消えていた。


「このオムライス、たまごがふわふわ!」


 目の前でオムライスを美味しそうに食べる女性。

 僕はステーキを口に運ぶ。美味い。このレストランは正解だった。


「晴君は最近どう?」


 痛い質問だ。忘れていた嫌な記憶が脳裏を過ぎった。久々に会った時点で、こういう質問が来るのを身構えていなかった自分が悪い。


「まあまあかな。」


 嘘を付いた。変に気を遣わせてしまうのも悪いし、何より自分自身が言いたくなかった。


「……嘘だ。」

「え。」

「晴君、昔から嘘付くの下手だよね。」


 しまった。顔に出ていただろうか。

 確かに彼女の言う通り、僕は昔から嘘を付くのが下手だ。そのため、サプライズとかの類は滅法苦手であり、誰かの誕生日には皆に良く注意されたものだ。


「はぁ、沙奈には敵わないなぁ。」

「君が不器用なだけだよ。……上手く行ってないの?」

「うん、いつも失敗しちゃってさ。昨日もすごい怒られて。」

「そっかぁ。私もなんだ。」

「え、そうなの?」


 沙奈は昔から美容師になるのが夢だと皆に言っていた。以前に会った時には無事就職出来たと聞いたが、やはり美容師の世界は難しいのだろう。彼女の笑顔は歪んでいた。


「えへへ、先輩に怒られてばっかりでさ。一回辞めようかとも思ったよ。」

「でも、続けてるんでしょ?」

「うん、夢だったからさ、美容師。」


 昔からこういうところは強いと思う。

 普段は、虫が出ただけで騒いでいたが、一度決めた事は貫く芯の強さがある。


「あ、そうだ。晴君、タイムカプセルの事覚えてる?」

「ああ、小六の時に埋めたやつでしょ?」

「そうそう! あれって確か、今年開ける予定だったよね?」


 今年だったか。記憶が曖昧だ。

 しかし、覚えていない僕よりも彼女の情報の方が信用出来る。


「覚えてないんだ。今年だったっけ? なら、そろそろ彰から連絡が来るかな。」

「私も曖昧なんだけどね。彰ってそういうところ、きっちりしてるからね。」


 彰は勉強こそ出来なかったが、自分が興味を持ったものはしっかり覚えている。確か、千佳から貰ったブローチだったか、それの形など全て覚えていた気がする。今思うと、ある意味天才ではないだろうか。


「あっ、昼休み終わっちゃう!」

「じゃ、そろそろ行こうか。」

「ごめんね、またゆっくり話そ。」


 慌てて走って行く彼女の後ろ姿を見送ると、僕は家路を歩いた。

 久々に昔の話をした。

 タイムカプセルも今年開けるとなれば、そろそろだろう。何を入れたのか、すっかり忘れてしまったが、それもそれで開けるのが楽しみだ。

 何より、また皆で集まって話すのが楽しみだった。

 沙奈とは話したが、やはり小さい頃を共に過ごした思い出は懐かしく面白い。他の三人とも話すのが待ち遠しく思えた————。



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