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————携帯のマップ機能を使い、しばらく歩くとレストランが見えてきた。なかなか繁盛しているようで、客足も良い。
うん、ここにしよう。
「あれ、晴君?」
ふいに僕を呼ぶ声がした。と言っても、僕を"晴"と呼ぶのは決まった人数だけだ。つまり、それなりに仲の良い人物。
「沙奈じゃん、久しぶり。」
会うのは成人式以来だ。二年前より少し大人っぽくなった気がする。
「久しぶりー。眼鏡じゃないから、間違ってたらどうしようかと思った。」
「あ、そっか。成人式の時は眼鏡だっけ。」
「うんうん、イメチェン?」
「まあ、そんなとこかな。」
僕は昔から眼鏡だったが、つい最近——と言っても一年ほど前だが——コンタクトに変えたばかりだった。
仕事柄、パソコンと眼鏡のままにらめっこをするのは目が疲れるので、思い切って変えたのだ。
「晴君もここのレストラン来たの?」
「うん、ちょうど今から。」
「そっかそっか、なら一緒にいいかな? 一人で食事ってのも、なんか寂しいし。」
「いいよ、僕もそう思ってたところなんだ。」
二年ぶりの再会だ。成人式ではあまり話も出来なかったし、ゆっくり話もしてみたい。嫌な記憶も、この時ばかりは頭から消えていた。
「このオムライス、たまごがふわふわ!」
目の前でオムライスを美味しそうに食べる女性。
僕はステーキを口に運ぶ。美味い。このレストランは正解だった。
「晴君は最近どう?」
痛い質問だ。忘れていた嫌な記憶が脳裏を過ぎった。久々に会った時点で、こういう質問が来るのを身構えていなかった自分が悪い。
「まあまあかな。」
嘘を付いた。変に気を遣わせてしまうのも悪いし、何より自分自身が言いたくなかった。
「……嘘だ。」
「え。」
「晴君、昔から嘘付くの下手だよね。」
しまった。顔に出ていただろうか。
確かに彼女の言う通り、僕は昔から嘘を付くのが下手だ。そのため、サプライズとかの類は滅法苦手であり、誰かの誕生日には皆に良く注意されたものだ。
「はぁ、沙奈には敵わないなぁ。」
「君が不器用なだけだよ。……上手く行ってないの?」
「うん、いつも失敗しちゃってさ。昨日もすごい怒られて。」
「そっかぁ。私もなんだ。」
「え、そうなの?」
沙奈は昔から美容師になるのが夢だと皆に言っていた。以前に会った時には無事就職出来たと聞いたが、やはり美容師の世界は難しいのだろう。彼女の笑顔は歪んでいた。
「えへへ、先輩に怒られてばっかりでさ。一回辞めようかとも思ったよ。」
「でも、続けてるんでしょ?」
「うん、夢だったからさ、美容師。」
昔からこういうところは強いと思う。
普段は、虫が出ただけで騒いでいたが、一度決めた事は貫く芯の強さがある。
「あ、そうだ。晴君、タイムカプセルの事覚えてる?」
「ああ、小六の時に埋めたやつでしょ?」
「そうそう! あれって確か、今年開ける予定だったよね?」
今年だったか。記憶が曖昧だ。
しかし、覚えていない僕よりも彼女の情報の方が信用出来る。
「覚えてないんだ。今年だったっけ? なら、そろそろ彰から連絡が来るかな。」
「私も曖昧なんだけどね。彰ってそういうところ、きっちりしてるからね。」
彰は勉強こそ出来なかったが、自分が興味を持ったものはしっかり覚えている。確か、千佳から貰ったブローチだったか、それの形など全て覚えていた気がする。今思うと、ある意味天才ではないだろうか。
「あっ、昼休み終わっちゃう!」
「じゃ、そろそろ行こうか。」
「ごめんね、またゆっくり話そ。」
慌てて走って行く彼女の後ろ姿を見送ると、僕は家路を歩いた。
久々に昔の話をした。
タイムカプセルも今年開けるとなれば、そろそろだろう。何を入れたのか、すっかり忘れてしまったが、それもそれで開けるのが楽しみだ。
何より、また皆で集まって話すのが楽しみだった。
沙奈とは話したが、やはり小さい頃を共に過ごした思い出は懐かしく面白い。他の三人とも話すのが待ち遠しく思えた————。