1
————暑い。
服が体に張り付いている感覚がする。
僕は無性に暑さを感じ、目を覚ました。
カーテンの隙間から朝日が漏れている。
部屋は散らかっていた。いや、いつもの事か。
「あっつい……。」
ベッドから起き上がると、直ぐに顔を洗いに行った。冷たい水がまだ覚醒していなかった頭を覚ました。
「酷い顔。」
洗面所の鏡に映った自分の顔はやつれていた。
頭が冴えてくると、昨日の出来事が鮮明に思い出された。
『何度言ったら分かるんだ! お前は会社を潰す気か! 役立たずめ、もう顔も見たくない!』
嫌な記憶だった。
仕事で失敗をしてしまったのだ。それも大きな。発注ミスだった。
これも一度ならば良かったものの、僕は良く失敗をしてしまっていた。それが、今回を境に上司の堪忍袋の織もとうとう切れてしまったらしい。
怒鳴られている最中、同僚も僕を心の無い目で見ていた気がした。僕が失敗する度に尻拭いをさせられているのだから当たり前と言えば当たり前だ。表面では僕に励ましの言葉を掛けてくれた時もあった。でも、昨日を思い出すあたり、心の中では僕を見下していたのだろう。
もう、どうでも良くなった。いや、どうでも良くは無いが、会社に行きたくない。
今日は土曜日だ。土日が休みの会社なため、今すぐ行かなくてはいいが、猶予は二日である。
もういっそ退職して、他の仕事を探そうか。
しかし、今の会社でさえやっと就職出来たくらいだ。退職して、さて新しい仕事が見つかるのかどうか。
それにしたって、あの会社で働き続けるのは酷だった。
そんな事を考えていたら目眩がした。起きたばかりだからだろうか。とりあえず水を飲もう。
そういえば、懐かしい夢を見た。昔、皆で。いつものメンバーで遊んだ夢だ。
その頃流行っていた、確かブレイブマン。その話を彰と俊哉として盛り上がっていると、沙奈が横槍を入れるのだ。"子供っぽい"と。落ち込む俊哉とは対照的に、彰は怒る。そして、それを見ていた千佳が"うるさい"と言うと、皆静かになる。千佳は怒ると怖いと知っているから、皆千佳の言葉には敏感である。
「皆、元気にしてるかな。」
ポツリと出た言葉だ。
皆とは中学に上がって以来、勉強や部活やらでまともに五人揃って遊ぶ機会は無かった。
高校になると、皆別々になり、会う機会も減った。
そして、二年前の成人式で久々に会ったくらいだ。その時に思い出話もしたものだが、既に友人も変わっていたため、あまり話は弾まず連絡先を交換したくらいで終わってしまった。
小学生の頃は毎日のように遊んだが、時間が空いてしまえばこんなものだろう。僕もあまり気にしていなかった。
そういえば、小学六年生の夏にタイムカプセルを埋めた記憶がある。あれはいつ開ける予定だったか。そもそも何処に埋めたのか。十年も経ってしまうとすっかり忘れていた。
まあ、開ける時となれば彰辺りから連絡が来るだろう。僕は特に気にしなかった。
とりあえず気分転換だ。今はとても気分が悪い。
外は暑そうであるが、少し風があって日影に行けば涼しそうだ。
僕は外に出る事にした。
外に出ると、案の定暑かった。しかし、思った通り日影は涼しく、僕は近くの自然公園のベンチで、景色をぼーっと眺めていた。
親子連れの家族が遠くで遊んでいるのが見える。幸せそうだ。皆笑っている。
僕は昔もあんな風にはしゃいだものだが、今となってはそんな余裕は無い。少し羨ましくも思えた。
幾分か景色を眺めていると、自然の和み効果だろうか。気分も落ち着いて来た。
そういえば、昼飯はどうしようか。一応財布は持ってきていたが、ノープランだった。
近くに新しいレストランが出来たと聞いた。そこに行ってみようか。不味かったら最悪だが、僕の心は既にレストランへ傾いていた————。