プロローグ 2016年 夏
「————なぁ、昨日のブレイブマン見たか?」
小学六年生、夏。僕達はいつも通り秘密基地に集まっていた。
今は誰も使っていない納屋だ。壁にはところどころ穴が空いていて、外の光が漏れている。天井からは、彰が持ってきたランプがぶら下がっており、僕達を薄暗く照らしていた。この薄暗さがテレビとかで見る秘密基地のような雰囲気を醸し出し、皆でワクワクしたのを覚えている。
「見たよ! やっぱりかっこいいよなブレイブマン!」
彰の質問に俊哉が答える。
ブレイブマンとは、今小学生の間では人気のヒーローアニメだ。
「君達、まだそんな子供っぽいの見てるの?」
「子供っぽいってなんだよ! ブレイブマンだぞ!」
「もう小6よ?」
盛り上がる二人に、沙奈が横槍を入れた。彰は怒っているが、俊哉は"子供っぽい"と言われたのがショックだったのか、元気が無くなっている。当の僕も、未だに見ているため子供っぽいという事になるだろうが、確かにかっこいいのだ、ブレイブマンは。
「んだよぉ。なっ、晴はブレイブマンで誰が一番好きだ?」
「んー、やっぱりブレイブマンかな。」
「俺もブレイブマンだな。彰は?」
「俺はもちろん、ファイマーだ!」
「ファイマー? あのパソコン弄ってるやつ?」
「おう!」
ファイマー。ブレイブマンの仲間の一人で、パソコンを使って敵のセキュリティシステムへ侵入やハッキングを主な仕事としている。ブレイブマンに比べて人気は薄く、あまり目立たないキャラクターだ。
「俺は将来、ファイマーみたいになるんだ。」
「子供っぽい。」
「なんだと!」
また沙奈が横槍を入れる。
——すると、薄暗かった室内に光が漏れた。皆、一瞬目を細める。
「ごめん、遅くなった。」
「千佳!」
それまで怒っていた彰の表情が変わった。
今日は土曜日。朝から秘密基地に集合という約束だったが、千佳がなかなか来ないため、皆心配していたのだ。
「ちょっと手伝いしてて、ごめん。」
「大丈夫大丈夫、皆ちょっと話してただけだから。」
「良かった、ごめん。」
「ごめんはいいってば。」
千佳は良く"ごめん"と言う。千佳のお母さんが言うには、お父さんが亡くなってから、良く口にするようになったらしい。彼女の中で何か変わってしまったのかもしれない。
「じゃ、やるか。」
彰が机の下に置いてあった、大きめの箱を取り出した。
「皆、これに入れてくれ。」
その中に各々、手紙やら宝物やらを入れていく。
遡ること水曜日。彰がタイムカプセルを埋めようと言い出したのだ。
僕達も六年生だ。来年には中学生である。勉強も難しくなるし、部活も始まり、遊ぶ時間も短くなるだろうと、自由な時間が過ごせる今に埋めようという事になったのだ。
「ちーちゃんは手紙?」
「うん、あとこれ。」
沙奈が千佳に入れるものを問いかけた。手に持っているのは、手紙と押し花が入れられた栞だ。
「可愛い。ちーちゃん、本読むの好きだもんね。」
「うん、沙奈は?」
「私も手紙と、ハンカチ。いつも使ってるものにしようと思って。」
そんな女子トークを他所に、僕達三人も何を入れるか話していた。
僕が入れるのは、手紙とブレイブマンのバッジだ。バッジは惜しいが、宝物なので入れることにした。
「俊哉、それは入らないぞ。」
「だよな、こっちにするか。」
俊哉の手にはサッカーボールが持たれていた。サッカーが好きな俊哉は、それを入れようとしたらしいが、どう考えても大きすぎる。仕方なくサッカーシューズにしたらしい。それにしても大きめな気がするが。
「俺はこれだな。」
彰は手紙と、ガチャガチャでお目当ての物と違うと言って捨てようとしていた千佳から貰ったブローチである。後に形や大きさなど、全て覚えていると知って皆で気持ち悪がった記憶がある。
「皆入れたか?」
箱の中には、皆の思い出が詰まっていた。俊哉のサッカーシューズによって圧迫されてはいるが、無事全員分入りきったらしい。
「よっしゃ、埋めるか。」
その日、皆の夢と思い出が箱の中に眠った————。