38、恐怖!機動ビック・サム
「使えそうな武器みーっけ!」
美留は「クイーン」を選択した。
「いけーっ!!」
飛び出してきたのは無線誘導式の小型ビーム砲台だ。チェスの「クイーン」のような形をしている。
思念を込めると6つのクイーンが自在に宙域を舞う。
「やあっ!」
更に思念を込めるとビームが放たれる。
「これ凄いわ!」
「うーん。うちにはもうひとつ使えんな」
梨奈は思念コントロール装備を放棄してしまった。
「うちはこれやな!」
そう言って両刃のビーム・ナギナタを振り回す。
「私はこれや、スピンドル・チューニング!サッカーはスピードやでえ!」
カナエの石板はスピードが1・5倍アップした。
「ほな、いこかあ!」
敵機の影が遠く見え始めた。
「向うさんも数揃えて来おったな」
「AIにコントロールさせとんのやろ。よーし行けっ!」
「ん……?」
「どないした美留?」
「いや、なんか人の声が聞こえた気がした。あんたら聞こえんかった?」
梨奈とカナエは首を振る。
「うわっ!!」
三人は一斉に散った。機甲兵団からビーム砲による攻撃だ。
「気ぃつけてや!」
カナエがうなずくと突撃を開始する。
「おりゃーあああ!」
「ちょっとカナエ、速い、速いよ!!」
「うち一人で蹴散らしたるわ!!」
カナエがチューンナップされた石板に乗って先行する。
その後を美留と梨奈が続く。
「ん!?また聞こえた!」
何者かの声が確かに美留には聞こえた。
「ぼやっとすんな!撃たれるぞ!!」
梨奈の声にハッとする美留。
「二手に分かれる!」
「おう!」
突っ込んでいくカナエの後方、そのサイドに付く形になった。
「行けっ!クイーン!!」
美留が思念を送り込むとクイーンが飛び出し、カナエの援護をする。
(それにしてもカナエ、どうしてあんなに……)
梨奈の声が通信システムから聞こえる。
「なんでカナエがあんだけ飛ばすかわかる?」
「なんでなん?」
「センターやからやで!!」
確かに今カナエは美留と梨奈を従えるようにセンターポジションを突っ走っている。
「ええもんやな。前に人がおらんのは!」
カナエは隕石型攻撃機の目前で急速潜航し、ガントレットでカチあげながら打撃を与える。
センターに立つのは加入2年目のカップリングセンター以来だ。カナエは高揚感に包まれていた。
あれからもう3年経つ。ローカルアイドルを引退した後、最後の夢を追って「なにわっ子」に加入したカナエは今年で24歳になる。地元の友人の中には結婚する者もいる。
石板を一気に踏み込んだ。
「おりゃーっ!!」
ぶらついた攻撃機に美留のクイーンによるオールレンジ攻撃が加えられ、逃れようとするところを梨奈のビームナギナタの餌食となっていく。
「無敵やなー!!このゲーム、難易度低すぎやーっ!!」
美留が呼びかけた。
「気ぃつけてや!そういうのフラグやで!」
しかしその声はカナエに届かなかった。
「なんかゆうたかーっ!?あんたらこそ気ぃつけえや!来よったぞ!!ボスキャラ!!」
巨大円盤型のマシンが力を貯めている様子が伺える。
ゆっくりと惑星基地から飛び立つとアイドルたちが待ち受ける宙域に迫ってきた。
「うああっ!」
眩しい光が辺りを包む!
マシンの砲門から発せられたレーザーがリングのように拡散しながら迫ってきた。
「いけない!リップルレーザーや!!包まれたら焼かれる!!」
「急速退避!!」
「くっそお、せっかくのセンターやのに!!」
「早く!」
美留と梨奈がカナエの肩を掴んで引き戻す。繋がった三人が一斉に出力を上げるとスピードは更に加速された。辛うじてレーザーの攻撃範囲から逃げ切った。
「どうする?」
「やばいやん!」
「あんなん食らったら一撃でライフゼロやで」
「追ってきた!」
機体の頭部にある眼球のようなモニターが禍々しい赤色の光を発している。
「激怒やん!!」
青白い電流にその全身が包まれている。
「バリアやな」
「近づいたらガチで感電死するぞ」
「あのマシンはビッグ・サムいうらしいで」
データを検索した美留が言った。カナエと梨奈がパネルを覗き込む。
「弱点は……?」
「そこまではちょっと……。」
「攻略本を買いに行ってる暇はあらへんぞ」
「ここやろ、ここ!」
カナエが指さしたのはビック・サムの底、足の付け根だ。
「ここに潜り込んでガツーンとカチあげてアナを開けるしかない」
「でも……」
ビック・サムの足には巨大なツメ型ミサイルがある。
「みゆを助けるんやろ?『禁じられた運命』やるんやろ?」
美留がうなずくより先にカナエが飛び出していた。
「頼むでえ~、次期センターさん!」
カナエはビック・サムをきっと睨み、石板を激しく踏み込んで加速させていった。




