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36,ファイヤーボール

「なんやこの部屋!?」

突入した場所はだだっ広いホールで、そこは青い空間で満たされている。

三人が部屋へと足を踏み入れると背後でドアが閉まった。

「開かない!こう来たか!」

「ベッタベタなやり口やなあ~!」

「ベタ(=定番)は敵に回すと案外手強いで」

不思議な音が聞こえる。

「この音どっかで聴いたことある」

「あべのカルパス(←巨大百貨店)のスターシャイン・プロムナードやな」

『宇宙の音』だ。宇宙空間は行き交う音で溢れている。それをシミュレートして再現したものだ。

湧き上がるような重低音とともに青い空間いっぱいに緻密に描画された星空が浮かび上がった。

「これまたホログラフィってわけか。あ、あれは地球やん」

「こっちは天の川やで。フィフティー・ルナや」

「このあたりがルナスリーで、こっちがソロモン、するとあの辺がア・バオア・キューか」

惑星達が自転しながら小さな太陽の周囲を公転している。

群青や紅の星雲があちらこちらに渦巻いている。

「きれいなもんやな、と感心してる場合ちゃうで」

身体が徐々に軽くなる。重力が減少していくのだ。フロアは石板状のタイルが敷き詰めてあった。

そこから3つの石板がふわりと浮き上がり三人の前に並ぶ。美留が飛び乗った。梨奈とカナエも各々の目の前にある石板の上に立つ。その瞬間フロア全体が消失し見渡す限りの宇宙空間となった。

「これはつまり……、なんやろ?」

「ボードみたいな感じやな」

「波乗り、っつか宇宙乗り石板ってか」

体重を前にかけるとボードが前に進む。飛び降りようとするとサッと足の下に移動する。

「ってことは!」

体重を後ろにかけてバックし、さらに踵を深く踏み込むと上昇角度が形成された。

そして一気に体重を前方に解放すると石板はその角度のまま空間へと舞い上がった。

ほんの数十秒の間に三人はボードを乗りこなせるようになった。小宇宙の中を滑走する。

「ここはヴァーチャル・リアリティ・ルームなんや!」

「体感ゲームの本格派バージョンか」

「おもろいで?おもろいけどな。うちらに宇宙のハテまで走り続ける暇はないで!」

空間を高速旋回しながら美留が叫んだ。

「おらあー悪者どもーっ!どこに隠れとんじゃー!?勝負せえやあ!」

応えるように空間に声が響き渡った。

「さすが運動神経抜群の精鋭達だ」

「どこや、どっから声がしてんねや!?」

「あれや!」

人の頭くらいの大きさの円形ポッドがふわふわと浮遊している。

緑色の細いレーザー光を美留たちの身体にサーチライトのように照らす。

データを収集しているようだ。

「しっつれいなやっちゃなあ!ボデーチェックゆうたらなあ!」

キレるカナエを美留がなだめる。

「ええからええから」

そして大きく息を吸い込んでからポッドに向かって叫んだ。

「ぬるいノーガキ垂れとったらいてまうどコラアっ!!」

美少女が凄むと異様な迫力がある。完全に戦闘モードだ。

「わりゃーっ!!」

カナエが石板ボードを駆って突進した。しかしポッドは追いかけるのと同じスピードで逃げていく。

距離は一向に縮まらない。

「チッ!」

美留、梨奈のいる場所まで戻ろうとすると後ろから追ってくる。

追いかけるとまた逃げていく。

「ムダや。一定の距離を自動的に取るように設定されてるねや」

「こっちの動きを解析して先読みしよる」

「なにがしたいんやーっ!!」

揺らめく幾つもの炎が現れた!それらは回転しながらひとつの強い力となった。

赤い火焔は狙いをつけるとアイドルたちに突進してきた。

「ファイヤーボールや!!」

アイドルたちはさっと三方に分かれてかわした。

「アッツ!なんやこれ!ホンマに熱いやんけ!!」

「気ぃ付けや。なんか魔改造されとんねん。こっからは仮想やない」

「顔イカれたらアイドルでけんくなるでえ!」

続いて青い炎が現れた。赤い炎と示し合わせたような波状攻撃だ。

赤と青の燃え盛る火焔が襲ってきた!!

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