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32、スキャンダルメン

『アイドル忍者戦隊』は通路をひた走った。時間は10分しかない。

美留、梨奈、カナエ、ヤンチュ、ナナミ。華麗なヴィジュアルと抜群の運動神経を備えた面々だ。

先を急ぐ彼女たちにも地の底から轟くような大歓声が聞こえた。思わず立ち止まる。

「な、何が起こってん!?」

「リーノ!リーノ!って聞こえる」

「リーノさんが!!」

リナが持っていたスマホをかざした。

突如現れた『炎上女王』リーノこと指浜莉乃が会場を湧かせているのだ。

「ほんまや!!」

「どういうアングルやねんこれ?」

「まさかドッキリ?」

「うちらの行動全部撮られてるとか?」

「そんなんめっちゃ恥ずかしいやん!」

「そのうち『大成功』のプラカード持ったオッサンが出て来よるってか?」

「……それは、ないな」

「なんでそう言い切れるん?」

「みゆが『みかんマン』を手放すことはありえへんからや」

美留がそれ以上の根拠は語ることはなかった。しかしこれが真実の持つ力とでもいうのか?不思議なほどに説得力があった。みゆが『みかんマン』のステッカーが貼ってある私物を冷たい床の上に放置することは考えられない。

「みかんのキャラか……。それって水田ちゃんも好きやったな。みゆも愛媛人?」

「バリバリの東京人やん」

「なんか愛媛に思い入れがあるんかな?」

「さあな。わかったほうがええのか悪いのか。神のみぞ知る。オンリーヘヴンズノウや」

メンバー達は顔を見合わせた。わかったようなわからないような……。

何かしら知ってはいけないような……。しかし「何か」があることだけは女子の本能からか?明確に感じられる。尤も今はそれ以上追求する必要があるとも思えない。梨奈は美留と共にみゆに「カマシ」を入れた夜のことを思い出した。美留は梨奈の視線を感じて肩をすくめた。

「まぁええやん」

そんな美留をヤンチュが冷やかす。

「さすが大学行っとるだけのことはあるな」

美留はお嬢様大学として知られる手塚島女子短大に通ってアイドルと両立させている。

アイドルとはいえ女性として最低限の教養は必要だからだ。

「それは関係あらへん。行くで」

メンバーたちは再び走り出した。しかし歓声が上がるたびに後ろを振り返ってしまう。

「気になるか?」

「ま、まあね」

「戻ってもええんやで!」

「そ、そういうわけにはいかんわ」

「ほな、前見んかい」

「ミルルーは気にならへんの?」

「あん?」

美留が立ち止まると全員が立ち止まる。振り返って言った。

「あんなもんスキャンダルメンやないか!!」

それだけ言うとまた前を向いてひた走る。

「そんな言い方せんでも……」

「なあ、うちらの夢はなんやったっけ?」

「え!?」

「てっぺん獲ることやろ!!なにわっ子を『本店』にすることやろ!!それでそのまま『次世代』達へ譲ることや。ええか!20歳過ぎたらどんなアイドルでも人気下がるねん。うちらに残された時間はだからせいぜいあと2年や。ここで勝負できひんかったらあとは消化試合の賑やかし要員やぞ!?今日が大事なんや。今が大事なんや。ナウ・オア・ネヴァー!!キャーゆうとったらいつまでたっても超えられへん。板の上では神も干されも関係ないねん!殺気があるほうが勝つんや!ジェラシー持たなきゃ上にはあがれんで!!総選挙1位かなんか知らんけどな、肩書に負けたら終わりやぞ!!

スキャンダルメンはどこまで行ってもスキャンダルメンなんや!!そんなもんに負けたらあかんねん!!」

美留がそう一気に言い切るとそれからはもう誰も振り返らなかった。「例の通路」の前に到着した。しかし通路がない。壁があるだけだ。

「さっきは開いてたのに……」

「確かこうやって。うーん」

メンバーたちで力を合わせて押してみたが動かない。

「どういうこっちゃ!?」

「この向こうに通路があるはずやのに!」

殴っても蹴ってもどうにもならない。厚い壁があるだけだ。

「向うから廻れるルートがあるん、かな?」

駆け出すが妙な感覚がする。

「なんか道間違ってない?」

「確かに違和感あるよな」

一本道であるはずなのに入り組んだ路地裏に迷い込んだような違和感を感じる。

「あれがうちらの楽屋やろ?」

「せやせや。愛しのマイホーム」

ノブを回す。しかしカギがかかっている。

「どういうこっちゃ!?」

メンバーたちは来た道を振り返った。

「別の部屋っぽい?」

「もっと先ちゃう?」

「あっちから来たっちゅうことは、こっちへ行けばいいってことやんな?」

進行方向に向かって「まっすぐ」進んでいるつもりだ。駆け出そうとするメンバー。

しかし美留が言う。

「ここからは慎重に行ったほうがええ」

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