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23。『つくりごと』の世界

「ジュリア先輩が来てからお見せしようと思っていたんです」

みゆはそう言うとそのページを開いた。紙を貼り合わせて袋とじにしていた部分。

マコから隠した部分だ。そこから紙片を取り出して二人に渡す。

「いいの?」

ジュリアはそう言いそうになって飲み込んだ。

みゆの気持ちを理解したからだ。マコは独特のへの字口になって、マジになったときに出るとファンに言われている「マコリップ」で見ている。

みゆは自分の秘密を明かしているのだ。『炎上』も『ぶっ込み』も全てが事前に用意されたものであることを。もちろんアイドルの世界は全てが事前に作りこまれた台本である。

「つくりごと」の世界である。

例えば歌番組のCM開け、番組進行する司会者の後ろで隣り合ったメンバー同士が雑談をする。これらも全て事前の台本とリハーサルのあることである。「フリートーク」などは存在しないのである。

アイドル同士は事前に打ち合わせを行い、ヤリトリを何度も繰り返す。そして本番では如何にも自然に、たった今思いついたように、ハプニングであるかのように装う。

しかし視聴者はこれを自由な精神から発せられるアドリブだと信じている。

「4分20秒。ここから私はジュリア先輩にタメ口を使います」

ジュリアは渡された『裏台本』をじっと見ている。

台本は運営が設定したアングル(ストーリー)に基づいて専属の作家が書いたものだ。

作家の存在は公には伏せられている。『国民的アイドルグループ』は新進気鋭の覆面作家陣にアイデアを発注し、運営首脳部が協議を行い、それぞれの台本を決定する。メンバーが現場で勝手にこれを改変することは『査定』の対象となる。つまり反逆とみなされ、干されるリスクを背負うということでもある。『台本』には柊みゆが松下ジュリアに対して『タメ口』を使うシーンなど存在しない。

ジュリアは表情を変えずに言った。

「それ面白いね」

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