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22。虐殺者のように

「序列」とはアイドルにとっての宇宙である。輝く星々の間には厳然たる規則があるように、アイドルには序列が存在する。序列を限りなくあげること。それが天への道。輝きへの道である。

それが「0番」つまりセンターに近いほど輝きを放つことができるのだ。


『なにわっ子』には不動の序列が存在する。絶対センター・山本サーヤ。そしてグループ結成時からのセンター候補「白滝美留・美濃楓子・四谷渚・薮本葵」の「ビッグ4」である。


山本サーヤと不動のツートップとして君臨していたのがミユキーことわたりみゆきである。結成から6年余り、「なにわっ子」の二枚看板であった『サヤミユキー時代』はみゆきの卒業、映画女優転身によって終止符が打たれた。


みゆきは現在人気漫画を映画化した「任侠の墓場・くちなしの色」を台湾にて撮影中である。


そしてサーヤの夢であったシンガーソングライター活動が活発になるにつれ、なにわっ子次期センター構想が本格的に動き出した。次期センターは白滝美留を中心として「ビッグ4」で廻し合うものであるとファンたちは想定していた。しかしそこに現れたのが柊みゆだった。


観衆達が驚いたのはこの抜擢だけではなかった。ミルルーこと白滝美留はサーヤに続くグラビア女王としてAV界からも注目されるほどの「豊満ヤンチャボディ」の持ち主としても知られている。


ステージ上。サーヤが羽衣を脱ぎ捨てた。「和」をベースとしながらも、ノースリーブと超ミニにメタリックなライトが反射するセクシー衣装が現れた。総立ちの観客が更に伸び上がって総立ちである。負けじとミルルーが侍女の衣装を脱ぎ捨てた。これまた激しく躍動する胸元、そして自慢の脚線美が強調されたセクシー衣装だ。『ヤンチャボディ』を存分に暴れさせている。


「ウオオオオオオッ!!」


観客たちが声にならない声を地響きのように吐き出しながら夢心地でコブシを突き上げる。


観客たちからどよめきが起こった。


「い、いつの間に!!」


柊みゆはセンター候補に成り上がった。とはいえ、まだまだ一番手とは言えないと考えられていた原因の大きなもの、それはそのボディであった。かつて『企画センター』を努めた際の楽曲PV。それはファン待望の水着曲ではあった。しかしそこで披露されたその身体は貧弱そのもの。ディープなファン掲示板「ディーちゃんねる」には容赦のない「ガッカリおっぱい!」「鶏ガラボディ!」「色気なし!!」などの罵声が叩きつけられた。


それがどうだ!!


衣装を脱ぎ捨てたみゆの身体はサーヤ、ミルルー、この二人のグラビア・クイーンと充分に勝負できる豊かさに育っていたのだ!!


「すげえ!ぶるんぶるんしている!!」

「あ、あのみゆが……。ぶるんぶるん……!」


曲は『リヴィング・オン・スレイヤー』(虐殺者のように)


サーヤが巻き舌で叫んだ「おらあ!トキオーっ!声出していかんかあ!もっと行けるやろがーっい!!」

ミルルーが腕を伸ばし脇を全開にして跳ねる「ジャンブ!ジャンプ!ジャンプ!お前ら飛んでこーい!!」

みゆが胸を突き出しながら叫んだ。

「HOLD ON! HOLD ON!しっかりつかまれやーっ!!置いてけぼりにすっぞーっ!!」

そして「シュートサイン」を作ると客席に向けた。ビシっと決まる。大歓声が上がる。

観客たちもシュートサインを向け返す。


灘井ヒロシは今度はしっかりとスタッフ腕章を身につけていた。スタッフの一人として観客を見守るという名目で潜り込んだのである。撮影録画をしている者がいれば取り締まる、気分が悪くなった者がいれば介抱するという名目だ。腕組みをして通路に立つ。しかしヒロシの厳しい視線は観客にはほとんど向かずステージ上、柊みゆに向けられていた。


みゆが「シュートサイン」を観衆全体に向けているように見せて、自分に突きつけていることがヒロシにはわかった。

(感づきやがった……)


ゲストギタリストのリッキー・サンドラが伝説のギタリスト「ジム・ヘンダリックス」のフレーズを奏でる。これが『リィヴィング・オン・スレイヤー』のエンディングだ。激しい曲調から一転して未来への希望を込めたセレナーデ。その調べとともにゆっくりとステージ上のアイドル達が羽をたたむように静かに、自身を包み込むようなポーズで身体をかがめて目を伏せて静止する。美しく幻想的なエンディングに観客は大歓声だ


みゆが大きな黒目を開くとヒロシに向けた。

口元が小さく動いた。

「I'm SLAYER」

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