2。キャラ
「どうしよう。なんて言ったらいい!?」
みゆはあれよあれよという間に最終選考に残ってしまった。最終選考では課題パフォーマンスをステージで披露したあとでインタビューを受ける。みゆはカイトのために懸命にレッスンに食らいつき、ダンス審査を突破した。後はインタビューだけだ。ここで『キャラ』が審査されるのだ。会場には何台もカメラが用意され、他の最終候補者たちも並んでいる。実力、キャラともに兼ね備えた強豪たちだ。
「私に『キャラ』なんてないよ!」
涙声で電話してくるみゆにカイトはアドバイスした。
「哲学が好きと言えばいいよ」
「て、哲学!?私そんなの知らない!」
「ニーチェくらいは知ってるだろ?」
「な、名前くらいは……。でも内容は……」
「オレだって知らないさ。誰もわかりゃしねえ。アイドルヲタクどもは委員長キャラに弱い。それっぽい名言言っときゃいい。俺に任せとけ」
「だ、だけど、それじゃ嘘つくことに……」
「いいんだよ。バレなきゃいいんだ。舞台裏さえ見せなきゃ何やってもいいんだよ。それがウケたらスタッフたちがなんとかしてくれるさ。やれるよ。みゆなら。オレのために、ね」
「わ、わかった。頑張ってみる!」
「大丈夫。オレがついてる」
ステージにみゆがあがった。
司会の中堅芸人がみゆを紹介する。
「今回のオーディションの目玉です!」
「みゆちゃんはどんなアイドルになりたい!?その先の夢なんてある?」
「私は……、哲学者になりたいのです!」
会場が大きくどよめいた。
「おおおお!みなさん!聴きましたか!哲学者ですよ哲学者!!」
「どんな哲学者になりたいのかなぁ!?」
「そうですね。ニーチェ先生を尊敬しているので……」
「おおー!ニーチェですかあ!好きな言葉なんてありますか?」
「神は死んだ」
会場が再び大きくどよめいた。
「永劫回帰」
「い、いやあ、これはすごいですね!凄いキャラが現れました!どうですかお母さん。」
観覧テーブルにいるみゆのママの元に司会者が走った。
「は、はぁ……。て、哲学というのは、ちょっとわからない、けど。頑張って」
「僕もよくわからないんですけどねー(会場から笑い)。とにかく凄いです!大物が現れました!」
「いよいよ選考結果の発表です。第5回国民的アイドルグループオーディション!合格者は!サーヤ姉さん、お願いします!」
「はい」
グループ代表者のひとりである山本サーヤにマイクが渡された。
そして大歓声ともに名前が読み上げられた。
「いやー、文句なしですね!」
「ええ、こういうキャラを私達も待っていたんです」
『発表します!エントリーナンバー48。柊みゆ!』
カイトはテレビの前でほくそ笑んだ。
「さすが体育会系ダンスバカのサーヤ姉さんだ。コロッとひっかかりやがった。生徒会長なんて言ってるが姉さんが1年のうち5日くらいしか登校してないことはファンならみんな知ってる」
カイトがネット検索してみゆに教えた哲学用語が見事にヒットしたのだ。