13。夢へのステップ
マコは天井を見上げて言った。
「私さあ、まだ事務所も決まってないんだよね」
「そういえばそうですね。めんたいのサクラン先輩もまだだって」
『めんたい』とは国民的アイドルグループの姉妹グループの一つ、『博多めんたいっ子』のことである。そのセンターを務めるのが「サクラン」こと宮坂桜音である。
「王道センター候補はそう簡単に手放せないってことじゃないっすか?」
みゆが所属する「チームなにわっ子」メンバーは全員『島本興行』所属である。
島本興行はかつて東証一部に上場していたこともある老舗お笑い芸能事務所である。
それに対して小比類巻マコや宮坂桜音は国民的アイドルグループの運営会社である『KKS』に所属している。
「これさ、どういうことなのかな?」
「KKSも事務所ではあるんすよ。だけど本格的な芸能事務所ってわけじゃないから……」
「『なにわっ子』は最初から島本なのはなぜ?」
「お笑いの島本がアイドル界に進出したいと、お金を出してグループを立ち上げて、KKSが運営する国民的アイドルグループに加盟したからですよ。『めんたいっ子』はKKSが出資して、博多の企業の協賛を得て立ち上げたわけです。生い立ちが異なるわけです」
「なんかめんどくさいね」
「芸能事務所と言いますが実態は派遣会社ですからね。うちらは派遣社員みたいなもので、それぞれの会社からひとつの現場に送り込まれてるんです」
「KKSも芸能事務所なのにさ、なんで新しく事務所見つけなきゃいけないんだろうね?」
「KKSにいると自社プロデュースの『国民的アイドルグループ』関連のシゴトしか取れないっすからね。大手事務所なら全国ネットバラエティとかのメジャーな外仕事への出演ルートがありますからね。ギャラも違いますよ」
「へー、さすがみゆ。私はそういうことがもうひとつ理解できん」
「事務所によって得意ジャンルがありますからね。マーユ先輩はドラマの扇プロ、リーノ先輩はバラエティの奥田プロ、ユナリン先輩は王道音楽ショーのナベ・エージェンシーに買われて行ったわけです。その際多額の移籍金をKKSは手にしています。」
「さすがにタダじゃないんだ」
「プロ野球やサッカーのトレードと同じですよ。育てた選手を売りつける。高額なマネーが動く人身売買ビジネスです。マコリン先輩やサクラン先輩が決まらないのもKKSが移籍金を吊り上げてるからです。次世代アイドル界を背負う大物っすからね!」
「またまたァ!」
そう言いながらマコの顔には笑顔がこぼれる。
「もうあんましゃべんないほうがいいよ。熱があがるよ」
「しゃべったほうが緊張がほぐれて熱も下がります」
「あんたってさ、ほんと変わってるよね。アイドルとしては異質だよね」
「私はアイドルなのかな?」
みゆの言葉にマコも考え込んでしまった。
「アイドル……。アイドルってなんだろうね?自分がアイドルだと自信を持って言えるアイドルって
いないんじゃないかな?そしてみんないつか卒業して次の道へと進んでいく。アイドルは夢へのステップというけど犠牲のほうが多いし。アイドルのまま終われる人はいない。なんていうか、儚い……」
「私はてっぺん取らなきゃいけない」
みゆの思い詰めたような声にマコは少々戸惑った。
「私だって……!あ、そろそろホールに戻ったほうがよくね?」
「国民的アイドルグループってね。ジャミーズのエースとスターブーストのエースが常に共演してるようなものなんですね。毎回オールスターなんだけど、でもファンはそういうところはあまり気づきません」
「それMCで使おう!」
マコがみゆの手を取って立ち上がった。
「マコリン先輩」
「ん?」
「だけどアイドルって、いいですね」
「いいね!」




