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12。商売敵

「企業秘密ってわけね?」

「そういうことっす。うちらは商売敵っすからね」

マコはみゆから体を離した。じっとみゆの目の奥を覗き込む。

「それカラコンじゃないよね?」

「よく言われるんですけど自前っす。黒目が生まれつき大きいんすよ」

「あんたってさ、そういう……。まぁいいや」

マコはあまり理屈は得意ではないのである。

「敵に塩を送っといてやるよ」

そういって愛用の頭痛薬をみゆに飲ませた。給湯室なのでお湯はすぐに作れる。

みゆは水でもいいと言ったのだがお湯が効くのだとマコは言い張る。

「女の子ってめんどくさいよね!」

「めんどくさいっす。これと一生付き合わなきゃいけない」

「一生ってこともないだろうけど」

「終わっちゃったら終わっちゃったで寂しいんでしょうね」

「あのさ?」

「なんです先輩?」

「あんたのほうが歳はイッコ上なんだし、こうやって普通に喋るときはタメ語でいいよ」

「マコ先輩~、優しいっすね!でも先輩は先輩だし。1コ上と言っても半年上なだけだし」

「商売敵だもんね。だけど所属は違っても同じグループの仲間なわけじゃん」

「アイドルって何歳までできるんでしょうね?」

マコは15歳でオーディションに合格し、1年間の研究生期間を経たあと昇格し、「チーム・レジェンド」次期センター候補として王道を歩んできた。みゆは17歳の9月に特別企画オーディション合格し、3ヶ月の猛レッスンを経て「なにわっ子」グループ本隊に合流した。

「だいたい『即戦力オーディション』というのが無理がありますよね」

「みゆは頑張ってると思うよ。それ言い出したらアイドル自体が無理スジの存在だよ」

「ないものを無理やりあるにしてる世界ですからね」

「若手の頃は20歳までには卒業しようと思ってたけど、そうもいかないね」

「マコリン先輩は、その、『本店』のセンター候補様じゃないですか?」

「あははは!それなぁ~」

「そうなると28歳まで卒業できないですよ。恋愛も当然禁止」

「それきっついわ~!きっついわ~!」

おどけてみせるマコのリアクションにはなんともいえない華がある。

これがナチュラルボーン・アイドルなのかとみゆは思った。

圧倒的な差を感じる。

「私は恋愛できるかわからないです。人を好きになったことがないから……。付き合ったら結婚するしか無いと思う」

「安心安全のみゆちゃんだもんね」

そう言われたみゆはマコを強く見つめ返して頷いた。

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