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10。来るべきもの

みゆが合宿所に戻るとミルルーこと白滝美留、そしてリーナこと田代梨奈が待ち受けていた。

ロビーの長椅子に寝そべっていた二人は立ち上がるとみゆの腕を引く。

「ちょっとこっち来て」

「な、なんすか?」

ミルルーとリーナはみゆを裏庭に連れ込んだ。

「なんですか?時間通りに帰ってきたはずですよ?」

トレーニングウエア姿のリーナがみゆに詰め寄る。

「あんたさ、いつもどこ行ってるん!?」

「どこって、買い物と散歩ですよ。瞑想して構想練ってる。外を歩くとMCのアイデアが湧いてくるから」

ミルルーが言った。

「買い物ってゆうたよね?買ってきたもの見せてよ」

「なんで見せなきゃいけないの」

「見せられへんの?」

「何が言いたいんですか先輩!?」

「外を歩くと……、ゆうたやん?あんたがタクシーに乗ったのを見たって子がおるねんけど?」

みゆはMCを担当するようになってから、厳しいツッコミには「逆ギレ」が有効だということを学んだ。視線をそらしたら負けだ。二人のほうが先輩とは言えみゆのほうが年上だ。

「連れてきなよ!テキトーなこと言ってんじゃないわよ!」

みゆは端正な顔に精一杯の険を込め、二人に向かって身を乗り出してみせた。リーナは一瞬怯んだがミルルーは負けてはいない。

「買ってきたもの見せてみいや!」

みゆは膨らませた頬から息を吐くとバッグを開いて中から喉のクスリを取り出した。

「明日は総合MCだからね。レシートもありますよ先輩!」

それから、と書き込みがびっしり入った台本を取り出して二人に見せた。

カイトがマークしたところを中心に、帰りのタクシーの中でみゆが補足を書き込んだものだ。

「あとはこれ」

生理用品を突きつけられ、さしものミルルーも手で押し返しながら言った。

「悪かったよ。もうええよ。行こ」

そう言ってミルルーとリーナは引き上げていった。

「明日もよろしくおねがいっす!せんぱい!」

みゆがそう言うとミルルーは背中越しに手を上げて応えた。

「そろそろ来るかもな」

そう言ってカイトは事前に用意しておいたクスリのパッケージ、そして生理用品を帰り際のみゆに押し付けるように手渡していた。

「本当に来たよ。危ない危ない」

これでひとまずミルルー一派は抑えられるだろう。

みゆはふうっと安堵の息を吐いた。私にはカイトがついている。明日もきっと上手くいく。

一安心、そう思ったみゆに別の不安がよぎった。今月の生理がまだ来ないのだ。

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