ヌーベエ狩り
マウロは目が覚め、寝袋から這い出た。
あくびをしながら身支度を始める。
周りの旅人も、ちらほらと出発の準備を始めていた。
「すいません、顔洗いたいんで、水を分けてもらってもいいですか?」
とマウロは隣にいた男に水を分けてもらい、顔を洗った。
「ぷっは、気持ちいいな」
冷たい朝の風が心地よく感じる。
今日することは決まっていた。
干し肉を作るため、ヌーベエと呼ばれる動物の狩りだ。
そのために、まずはヌーベエがどこに生息しているのか、それを聞き出さなければならない。
そして、狩りに必要な道具一式も、このバザールで揃える予定である。
朝のバザールは夜とは雰囲気が違うが、相変わらず人混みでごった返している。
干し肉屋に到着したはいいが、早くも客で列をなしていた。
「肉を買うわけじゃないのになぁ」
と愚痴りつつも、列にならんだ。
前の客が、朝の干し肉セットを購入し、自分の番になった。
「お、昨日の少年。どうした?もう全部食っちまったのか?」
と店員の男が聞くと、
「いえ、昨日言ってたヌーベエがどこにいるのか、聞きに来たんですよ」
とマウロは言った。
「ヌーベエを狩りに行くのか?もしかして、その腰の剣でってんじゃないだろうな?」
マウロは、絶対やめとけ、と言う男の心の声が聞こえた気がした。
「ヌーベエって、どんなやつなんですか?」
「早い話が水牛だ、筋肉質で、瞬発力がある。草食のおとなしい動物だが、やつらを怒らせたらそのツノで人間も襲う。まあ、早い話が」
と言いかけた時、後ろの客に急かされた。
「買わないなら、どいてくれ」
マウロは慌ててそこから離れた。
マウロが仕方なく立ち去ろうとすると、
「やつらはこのバザールの近くに生息してる。狩りの道具を揃えてる店に聞けばわかる!」
と店員が教えてくれた。
最後に、
「ヌーベエをなめるなよ」
と店員の男は言った。
マウロは教えてもらった通り、狩りの道具を揃えているテントの中に入った。
テントの前に、「狩りの道具専門店」という立て札があったので、すぐに分かった。
「すいません」
とマウロはそのテントの主人に話しかけた。
「ヌーベエを狩る道具ってありますか?」
「ヌーベエ狩りなら、そこの弓だな。矢の先に麻酔薬を塗り込んで、それで仕留めればいい」
主人はそう言って、弓と矢の入った筒、そして、麻酔薬の入った小瓶を出してきた。
「矢は何本いる?」
と聞かれたが、具体的に何本必要か分からなかった。
「5本だと、いくらですか?」
「5本なら1万ゴールドだな」
5本で1万もするのか、やけに高いな、とマウロは内心思った。
「じゃあ、全部セットだといくらですか?」
「弓が14万で、矢が1万、麻酔薬が1瓶で3万だから……」
ちょうど18万か、ギリギリだな、と思って袋から金を出そうとした時、
「税込みで18万1800ゴールドだな」
と主人は言った。
「税込みってなんですか?」
思わず聞き返すと、
「ここを管理している私立の警備兵に売り上げの1パーを渡さなければいけない決まりでね、その分を上乗せして客に払ってもらってるのさ。」
とこともなげに返された。
あと1800ゴールド足りない。
矢の数を減らすか、とも思ったが、5本以下で仕留められる自信は全く無かった。
「何とかまけてくださいよ。」
マウロは自然と、このバザールでみながしているような交渉に出た。
ところが、
「狩りの道具ってのは、消耗品だからね。結構売れるんだ、だからあんまりどこもまけないよ。」
と言われてしまった。
テントから出てきたマウロが持っていたのは、一本の小瓶のみ。
「剣に麻酔薬を塗って、うまいことやればいけるかも」
と思った結果であった。
バザールを抜けると、しばらく草原地帯である。
テントの主人いわく、その草原を歩いていくと、水場があり、そこにヌーベエが生息しているとのことだった。
マウロは草原地帯をかけ抜けた。
途中、ウサギや、シマウマのような動物も見かけたが、
「目指すは、最高の肉!」
という意気込みで、他の動物を無視し、先に進んだ。
草原地帯を突き進み、小高い丘のようなところに着いた。
その丘から下をのぞくと、雨によってできたと思われる、水たまりがあった。
そこに、ヌーベエもいた。
ヌーベエはパッと見は水牛である。
「結構でかいな、あれなら一匹仕留めたら結構な分の肉が取れそうだ」
と思った。
マウロは、まずイメージを膨らませた。
どうやって狩ればいいのか。
ヌーベエは恐らく、こちらに気付いてからタックルを仕掛けてくるに違いない。それをギリギリでかわし、横から脳天に突きを食らわせればいい。
そんなことを思い描いた。
ザザザ、と丘を降りて、水場の近くまでやって来た。
ヌーベエとの距離は10メーターほどだ。
まだ相手は気づかない。
そのままジリジリと進んでいく、5メーター、4メーター、
すると、ヌーベエがこちらに気付き、マウロの姿を目視した。
ヌーベエと目が合う。
その時、マウロは思った。
「あれ?こいつかわいいな」
つぶらな瞳が、マウロを見つめていた。
ネットで調べたら、14万の弓なんてないですねw
それより、矢は思ったより高いです