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濁流

ザアアという川の音を聞いて、マウロは目を覚ました

「気が付いたか、うかつに動くなよ」

ゼルセットが言う

「今がどういう状況か説明する 俺たちは崖から転落した 馬車自体はどうにか木に挟まって形をとどめているが、すぐ下は濁流、そして、崖の上は切り立っていてここからでは登れない」


現在、マウロは馬車の中にいる 

馬車は木で支えられているという以外は、向きも正しく着地したようで、これと言って問題のない状態であった

何が違うのかと言えば、すぐ下は濁流で、飲み込まれたらどこまで流されるか分からない 


「そういえば、リーダーとターニアさんは?」

マウロは聞いたが、

「2人は恐らく、馬車から投げ出され、川に落ちた」

「そんな……しかし、まだ生きているなら、何とかして探さないと」

ゼルセットはうつむいていたが、

「よし、俺の魔法陣で2人の安否を確認しよう こんな使い方をするのは初めてだが」

と言い、

「まずはリーダーの方からだ、生きていれば、鼓動が聞こえるハズだ」

そう言って目をつぶり、集中した

検知式の魔法陣を起動させる

「……だめだ、聞こえない」

「そんな……」

リーダーの鼓動は聞こえなかった

「次は、ターニアの方だな」

再度、集中する

一瞬の間であったが、マウロにとっては何十秒という間のように感じた

そして、

「……聞こえるぞ、生きている!」

「ほんとですか!」

2人はターニアが生きていることを確認し、すぐにでも助けに行こう、と思い立った

しかし、馬車から出ればそこに道はなく、水の中に落ちるだけだ

ゼルセットはマウロを見た

「その片手剣、使えるかもしれないな」

そう言って、天井を指さした

「剣を杖代わりにして崖の上に?」

「違う、この馬車は天井がお椀みたいになってるだろ 要するにだ、剣でうまいこと切り取って、川に投げればそのままイカダの代りになるだろ 剣をオールにすれば、陸地にたどりつける」

なるほど、とマウロは思った


この馬車は幌馬車(ほろばしゃ)と呼ばれる、昔ながらの馬車で、天井がアーチ状になっている

木でできているため、片手剣をうまく使えば切り取ることもできるに違いなかった

マウロは馬車の胴体に片手剣をあてがい、それをノコギリのようにして、削り始めた


かなり時間はかかったが、ゼルセットと協力して、どうにか天井を切り離すことに成功した

それを2人でゆっくり持ち上げ、裏っかえしにした

食料を袋に詰め込み、ひっくり返った天井にそれを乗せ、2人も乗り込んだ

片手剣でズズズ、と馬車の残骸に剣を突き立て、イカダを押した

ザパーンと着水し、そのまま川の流れに乗った


「どこかにターニアが引っかかってるかもしれない」

とゼルセットは言い、マウロもうなずいて周りをよく見渡した

「かなり衰弱してるかもな、治癒式の魔法陣を使う前に死ななきゃいいが……」

マウロは不安げな表情で川の周囲を見渡す

こんな濁流にのまれては助かるまい、そう思うのが普通だ


かなりの勢いで流され続けた

このままでは目的地からも、結構離れてしまうかもしれない

マウロがそう思い始めた時、陸の向こうで手を振る女性の姿があった

「ターニアか!」

ゼルセットが言った

確かに、陸の上に女性がいた

マウロは剣をオール替わりにして、その陸に向かった


2人とも陸に上がり、ターニアと合流した

「あたし、泳ぎは得意なのよね~、でもびっくりしちゃったわよ ほら、まさか崖から落ちるなんてさ、やーねー」

ターニアはあはは、と笑っている

「こいつ、ピンピンしてやがる」

とゼルセットが呆れながら言う

「確かに、踊り子とは思えない生命力ですね」

とマウロが相槌を打った


雨を凌ぐために、先ほどのイカダを屋根替わりにし、やむまで野宿しようという話になった

火をおこしたかったが、こうも湿っていてはどうにもならない

「とにかく、あまり流されなかったのが不幸中の幸いと言えるな バザールにはこのまま目指せそうだ」

とゼルセットが言う

「そうね、それよりこの干し肉おいしくない?」

とターニアはむしゃむしゃと干し肉をほおばっている

「確かに、これはおいしいですね どこのお土産ですか?」

とマウロもかぶりつきながら聞いた

「それはバザールで買ったやつだ 保存が効くし、味もいいからってリーダーはいつも大量に買い込んでるな」

マウロは、バザールに着いたらまずこれを買おう、と思った


夜になった

雨もやみ、出発は明日の朝、という話になり、各自寝る準備を始めた

「あんたたち、あたしがいくら魅力的でも、こんなところではダメよ」

と言ってターニアは2人から少し離れたところで、横になった

「ここじゃなきゃいいのかよ……」

とゼルセットが言った

空は暗闇に包まれ、マウロはその日の疲れで瞬く間に眠った


翌日、空は快晴

3人は話し合い、崖を上って元の道に戻るのがいい、ということになった

切り立った崖を3人で登っていく

斜面はかなり急で、更に地面はぬかるんでいたため、体力を著しく奪われた

「もう、休憩、しましょう、よ」

とマウロは息絶え絶えに言ったが、

「なんで魔道士の俺が疲れてなくて、護衛のお前が疲れてるんだよ」

とゼルセットに突っ込まれた

2人とも、自分より強く、商売道具を持っている

マウロは2人の背中を見て、そう思った


美人な踊り子が主人公をたぶらかす展開にはなりませんw

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