大臣サイド
アーシムは水晶を覗き込んだ
水晶の向こうの者と目が合った
水晶は曇り、マウロは急に脱力して、地面に倒れた
「そんな……」
アーシムは愕然とした
水晶で見た相手、それはこの国の司法大臣その人であった
まさか自分が司法大臣に狙われていたとは
アーシムはそう思った
そして、国王に直訴するか、この国を出るか、2択を迫られることになった
「マウロ、お前には悪いことをしたな」
アーシムは棚から一枚の紙を取り出し、筆でマウロ宛の手紙を書き始めた
時はアーシムが帰還した日に遡る
司法大臣はアーシムの帰還に不満を漏らした
「やつが帰って来るとはな、私の計画の邪魔でしかない」
その計画とは、魔法陣を使って、国の兵を操り、我が王国の領土をさらに拡大しようというものであった
この計画では、国の兵士が魔法陣で操る対象になるため、傭兵のアーシムはその対象外であった
魔法陣にも制約があり、移動式の場合は飛ばせる人数や、距離、使える回数に制限がある
また、操作式の場合は、操れる相手、操った際の能力、に制限がある
制作した魔法陣は、長時間操れるという優れた点があったが、王国に所属する兵以外には効果を示さない
厄介なことに、この男は国を守るために働く、という側面を持っている
今回の計画の話を聞けば、非人道的、と言って反対するに違いない
「これが邪魔者以外の何になるか、すぐに捕まえて始末するぞ」
そう言って、部下の魔道士に指示を出した
「奴がまた傭兵として活動を再開するなら、必ず城に出向いて仕事を斡旋してもらいに来るはず その際、こちらから魔法陣を提供すると申し出て、その魔法陣の行き先をこの城の牢屋にする」
そして、刺客を送り込めばあっという間に終わりのはずだ
大臣はそう思惑を巡らせた
アーシムを牢屋に閉じ込めるまではうまくいった
しかし、刺客を差し向けるより先に、アーシムは牢屋から抜け出したのであった
司法大臣はそのことを知り激怒したが、まだそこまでの焦りは無かった
もし魔法陣の件から、自分が主犯だとばれても、自分を裁くことはできない
だが用心するに越したことはない
そう思って、次の手に打って出た
それは、アーシムと一緒に行動している人間を操り、殺す、というものだ
これなら部下を使うよりも、証拠は残らないだろう
部下の魔道士がアーシムの家に向かうと、そこにはマウロがいた
部下は、まずマウロをおびき出した
「アーシム様はいらっしゃらないようですね」
と言って、マウロが部屋に戻ろうとしたところを、背後から杖で殴った
マウロが気絶しているうちに、操作式の魔法陣を額に書き、
そして、水晶を部屋に設置した
目が覚めたマウロは、
「強盗の類か……」
と思って、部屋を見たが、荒らされてる様子もなく、金庫もこじ開けられた形跡はない
恐らく諦めて逃げたに違いない、と思うことにした
そして、夜になり、アーシムが寝静まったのを水晶から見て、司法大臣は魔法陣を起動させた
そして、マウロを操り、アーシムに襲わせたが、失敗した
更に、部屋の水晶まで見破られ、顔を見られたと思い即座に水晶を曇らせた
「顔を見られたな」
と言い、司法大臣は刺客を差し向けるよう部下に指示を出したのだった
そして現在
マウロは目を覚ました
朝日が窓から入ってくる
床で寝ており、体の節々が痛い
起き上がって周りを見たが、アーシムの姿はなかった
ふとテーブルに目をやると、一枚の手紙が目に入った
取り上げて読んでみることにした
マウロへ
面倒なことに巻き込んでしまい、すまなかった
俺はある人物に命を狙われることになるだろう
お前がこれを読んでいる頃には、もうここにはいないと思う
この国には何か怪しいものが裏でうごめいている
そして、それは俺だけじゃどうすることもできない
お前はこの国を出るんだ
来年の徴兵で、国の兵になったらおそらく厄介ごとに巻き込まれる
居酒屋で情報を集めろ
この国の外でも働き口はある
キャラバンに参加して、旅に出るのもいい
一人旅よりは身の安全は保障されるだろう
これで終わりだが、もし縁があったらまた会おう
アーシム
マウロはそれを読み、アーシムとの旅は終わった、ということを悟った
魔法陣で牢屋に飛ばされた事件
自分が思っている以上に大きな陰謀と関わっていたのか
しかし、あのアーシムが姿を消すなんて……
牢屋からすぐに脱出し、村で一瞬で盗賊を始末した、あのアーシムにも解決できないことがあるのか、とマウロは信じられなかった
もう一度手紙を読んでみる
国で兵士になることを勧めない一文が気にかかった
やはり、国を出ていくしかないのか
そうマウロは思った
夜になり、エガルドと会ったあの居酒屋に向かった
これからどうすればいいのか
それを知りに行くためである
懐には20万ゴールドがあった
アーシムがマウロのために残してくれたものだ
事件に巻き込んでしまった償いの意もこもっているかもしれない
居酒屋に入ると、相変わらずいろんな人でにぎわっている
マウロは、まず店員に話しかけた
「訪ねたいんですが、キャラバンを率いてる人はこの中にいませんか?」
店員は、店の中で酒を飲む、少しやつれた感じの男を指さした
こっからどうなるんでしょうかw