アーシムサイド
エガルドの提案はこうである
有力な3人の兵士長にエガルドが挨拶に行く
その際に、最近アーシムが戻って来たという噂を聞いた
自分は、回ってくる仕事が減るから迷惑だ、とカマをかけ、それに乗ってくるかどうかを探るという手である
もしその中で、秘密裏にやつを殺す計画がある、などと誘ってくるものがいれば、黒だ
アーシムは、
「お前はその手を使って探りを入れてくれ 俺は仕事を斡旋した人間の方を当たってみる」
と言った
もしそちらが関与していれば、脅してしっぽをつかめるだろうと踏んだからだ
アーシムはマウロを家に置いて、城にやって来た
仕事を紹介している2階の受付に行き、昨日自分の仕事を紹介した人物のもとに向かった
個室に入ると、その男がいた
およそ40歳前後と思われる
扉の鍵をさりげなく閉め、大股で歩いていくと、
「ちょっと話がある」
アーシムはそう言っていきなり剣を相手ののど元に突き付けた
「なっ、何を……」
相手の男は書類を手に持ったまま硬直した
「昨日、お前から紹介された仕事で向かった先、どこだと思う?この城の地下牢だ」
「全く、何も、存じ上げません!」
「ほんとのことを言え、3、2、1」
「わ、私は、にゃ、何も知りません!」
男は全く事情を飲み込めない様子であった
「……本当か?」
「本当です」
相手は目をそらさず、アーシムの目を見て話している
うそはついていない、アーシムはそう思った
仮に、こいつは何も知らないとして、そうなると魔法陣の方か、と一つの考えがよぎった
しかし、そうなるとことはかなり厄介になる
「分かった、邪魔したな」
そう言って、アーシムは去っていった
アーシムは帰る途中で、考え事をしていた
「もし仮に、魔法陣を設置した方が怪しいとなれば、一体やつらはどういう動機があって俺のことを狙ったんだ」
やつら、というのは魔道士のことである
司法制度を管理している者たちのことで、主に魔法陣を精製できる人間で構成されていて、彼らのことを魔道士と呼ぶ
司法部門、軍務部門とはそれぞれ分かれていて、司法大臣は魔道士から、軍務大臣は兵士から、と決められている
また、立法を司るのは、この国の王である
これらの部門は、お互い侵害することはできないようになっている
そのため、今回の件で、魔道士が関与しているとなれば、兵士側の立場から司法を司る魔道士を容疑者にあげ、裁く、ということが難しくなるのである
証拠があったとしても、仲間を守るため、もみ消られる可能性すらある
相手が大物ならなおさらその可能性は大であった
裁くことが可能なのはこの国でただ一人、国王のみである
魔道士が犯人、という結果にならないよう祈りながら、アーシムはエガルドのもとに向かった
エガルドは2人の兵士長から話を聞くことができた、と言った
2人ともアーシムの帰還を歓迎しており、疑わしい点もないとのことだった
最後の一人とは会えなかったため、また後日聞きに行く、と言われたため、その日は帰宅することになった
「明日以降だな」
ソファに腰かけ、アーシムは言った
椅子に座って本を読んでいたマウロが話しかけた
「犯人はあなたのことを狙っているんでしょ?この家にいたら危ないんじゃ……」
「それなら逆に手間が省ける そいつを捕まえて、主犯を聞き出せばいい」
しばらくソファで横になったあと、アーシムは剣を持って用意してあった布団に入った
「お前の分の布団も棚に入っているだろう 寝るときはそれを使え あと今夜以降、油断するなよ 剣は常に携帯しておけ」
そう指示を出した
深夜、何者かの足音がアーシムに近づいてくる
「来たか……」
アーシムは心の中でそう思い、薄目で周りを確認する
アーシムに近づくものはすでに家の中に侵入しており、フードで顔を隠しており、片手に剣を持っている
アーシムに近づいた男が、剣を振り上げた瞬間、手に持った布団を男に素早くかぶせ、視界を奪った
その上から思いっきりケリを食らわせ転倒させると、こちらも剣を抜いた
その剣を男に突き付ける
「顔を見せな」
フードの男の顔を覗き込んだ
その時、アーシムに衝撃が走った
その男はマウロであった
マウロはアーシムが驚いてる隙に、倒れてる状態から剣を振り、アーシムの剣を払うと、そこから立ち上がり、構えた
「なぜお前が……」
マウロは何もしゃべらない
どうも様子がおかしいと思い、さらに、よく顔を見ようと覗き込むと、真相が分かった
マウロの額に魔法陣が描かれていたのだ
マウロは操られていた
そして、今回の主犯も同時に分かった
嫌な予感が的中してしまった
主犯は魔道士である
マウロは剣を振り上げ、こちらに突っ込んで来た
アーシムはマウロの振り上げた片手を即座につかみ、手を後ろに回し、動きを止めた
しかし、何かに縛り付けておかない限り、マウロはアーシムを狙い続けるだろう
「く、縄はこの部屋にはない」
マウロはもがき続ける
「何かしらの方法でこの部屋をのぞいてるはずだ」
アーシムはそう思って、マウロの手をつかんだまま部屋の周りを探り始めた
床下、天井、テーブル、
そして、
「見つけた!」
そこには棚の上に、あるはずのない水晶が置いてあった