アーシムの過去
アーシムとマウロは、王国の城下町に向かっていた
そこに活動拠点の自分の家があるとのことであった
その道中、野営の準備の終え、就寝に着く前の1時間程度、マウロはアーシムに剣を習った
「両手を使うなと言っただろう!」
マウロはアーシムから使えと言われた自分の身長ほどの大剣を、片手で素振りするように言われていた
20回素振りを終える頃には、もう腕が上がらなくなっていた
しかし、素振り50回、それが終わらなければ寝るな、との指示を出されていたため、思わず両手で持ってしまっていた
「はあ、はあ、腕が上がんないですよ……」
そう言いつつ、無理やり剣を担いで振り下ろす
ブン、と鈍い音がする
「黙って続けろ、あと29回だ」
それが終わると、死んだように眠った
ある日、訓練が終わり、焚火の前に座っていた時だった
マウロは気になってアーシムに質問してみた
「少し気になってたんですが、聞いてもいいですか?」
「どうした」
やすりで爪を研いでいるアーシムに、マウロはこう話しかけた
「前あった傭兵団を、どうして解散したんですか?」
アーシムの手が止まり、こちらに向き直った
一瞬の沈黙に、マウロはゴクリと唾を飲む
まずいことを聞いたか
しかし、アーシムは口を開き、ことのいきさつを説明し始めた
「あれは1年くらい前だ 現れた前線の敵の数およそ5000、突然現れた大規模な敵の群れに王国もそれを迎え撃つため、城内のほぼすべての兵を投入した」
戦争……マウロはそんな言葉を思い浮かべた
だが、あまりにも多すぎる数に、それがどんな数なのか、まるで想像もつかなかった
「そして、俺の傭兵団にも緊急収集がかかった 俺は自分の兵10人を引き連れ参加した 戦いがいつ始まるのかを見守ったが、一向に相手は動く気配をみせない そのうち日が暮れて夜になった」
アーシムの顔が火に照らされ、これから何かが起こる、そんな予感を一層引き立たせた
「俺はどうもおかしいと勘ぐっていた まるで時間稼ぎをしているみたいだ、と 俺は部下の一人に、王国の様子を見て来いと通達した それからすぐに部下が戻って来た 城下町から火の手が上がっていると報告を受けた」
「城下町から火の手?」
「そうだ、敵は包囲網の目をかいくぐって、城下町の手前まで接近して、魔法陣で敵の精鋭50人を召喚したんだ」
マウロはそんなことがあったのか、と驚きを隠せなかった
城下町が直接攻め入られたなんて、噂でも聞いたことがなく、自分がいかに田舎の村出身かを思い知った
そしてもう一つ、魔法陣についても知らなかった
「魔法陣って、なんですか?」
「お前、魔法陣を知らないのか 魔法陣ってのは、いわゆる転送装置のことだ 魔法陣は2つで1つのセットもので、魔法陣を設置して、離れたところに同じ魔法陣をセットする そして、その上に乗ると、動作して離れた魔法陣に移動できる」
ははあ、とマウロは関心した
そんな便利なものが世の中にあったのか
「ごめんなさい 話の腰を折ってしまって で、その後は?」
「城下町が危ないことを知った俺たちは10人で即座に向かった かなり危ない状態だったが、どうにか事なきを得た その時の戦いで、仲間は大いに奮闘してくれた」
その後は聞くまでもなかった
町を救うために、その傭兵団はアーシムを除いて全滅したのだ
「その件があってから、城内、外の警備は強化され、町の中で魔法陣を設置することは禁止されるようになった」
もし魔法陣が町の中で作動し、召喚されたものが敵の国の兵であったらひとたまりもない
「それで、旅をして傭兵を探してたってことですか」
マウロは聞いた
アーシムは、
「それもあるが、純粋に疲れを癒すための意味合いの方が大きいな もう1年たったし、そろそろ国に戻って仕事を始めるかって気にはなっていたから、ちょうど良かったがな」
アーシムは焚火を消して、マウロにそろそろ寝ろと促した
それから更に1週間が経過した
長い旅路を終えて、ようやく2人は城下町の検問までやってきた
「あ、あなたは!」
憲兵がアーシムの姿を見つけ、そう叫んだ
アーシムはいわば、王国の英雄である
その名を知らないものは城下町ではほとんどいないといっても過言ではない
「久しぶりに戻って来たぜ」
軽く立ち話をした後、
「では、刻印を拝見してもよろしいでしょうか?一応、決まりでして」
憲兵は申し訳なさそうにそう言った
話に聞いていた通り、警備は厳重のようだとマウロは思った
アーシムは手の甲に刻まれている、国民の証の印を見せた
マウロも同じように見せる
この国の出身の者は、みな生まれたときに、消えることのないこの国民の証を焼き入れる決まりであった
2人は中に通され、しばらく城下町を進み、アーシムの自宅へ歩を進めた
途中何度も、「アーシム様、帰ってこられたんですね」
と声をかけられていた
家がごちゃごちゃと入り組んだ市街地にアーシムの家はあった
国の英雄のわりに、質素な感じの一戸建てが、傭兵団の活動拠点であった




