悪夢の絵画
マウロはこのところ、よく夢にうなされていた。
夢の詳細は覚えていないが、最後は必ず自分が刺されて起きる。
「くそっ……」
途中で起き、その日も朝方まで寝付けなかった。
冴えない頭で干し肉屋に向かう。
これがマウロの日課になっていた。
このバザールに来て、1週間が過ぎようとしていた。
ヌーベエの件以降、全く狩りをしようという気にはなれず、ただ1日バザールの商品を見て過ごすだけになっていた。
そろそろ、何か始めなければならない。
もしそれができないのなら、強制的に村に戻る他なかった。
しかし、相変わらず何かする気力が起きずに、バザールの商品を見ながらブラブラしていると、何やら変わった絵画を売る店を発見した。
そこには、骸骨を集める男の絵や、苦痛に苦しむ表情の絵、と言った、何か不吉なものをはらむ要素があった。
そんな画を売る傍らで、そこの店主と思われる女性が客の絵を描いている。
「似顔絵か?」
と思って、遠巻きにのぞいていると、女性は黒やら灰色、と言った色の絵具を使い、とても似顔絵とは似ても似つかぬものを書き上げていった。
「じゃあ、1万ゴールドですね~」
と言って、その女性は客に絵を渡さし、代わりに金を受け取った。
女性の方に近づいていき、
「何の絵を書いてらっしゃるんですか?」
とマウロは聞いた。
絵具の整理をしていた女性はこちらに向き直り、
「あー、わたくし、他人の悪夢を描いております」
と言った。
「他人の悪夢?そんなものが分かるんですか?」
マウロは少し疑いの目を向けて、女性に質問する。
「はい、みなさま最初は疑われるんですが、絵を書きあげると驚かれますねぇ」
と言う。
悪夢か、ちょっと面白いな、と思いマウロも書いてもらうことにした。
なにせ自分も最近悪夢にうなされている。
この女性がペテンかどうか、すぐに判別つく。
女性は、白い画用紙を取り出し、それを台に立てかけると、うーん、と言いながらマウロを眺め始めた。
そして筆を取り、一気に絵を書き始めた。
小一時間が経過し、絵が完成した。
「……すげえ」
マウロは関心してしまった。
なぜなら、そこには自分の見た悪夢そのものが描写されていたからだ。
それどころか、夢では見えなかった部分まで描かれている。
その絵には、2人の人物がいた。
1人は背後から刺された人物、もう1人は、顔は見えないが刺した側の人物で、黒いターバンをしている。
背景はどうやら家の中で、その天井には得体の知れない模様があり、刺された人物はマウロのよく知る人物であった。
「これは、アーシムか?」
マウロは、自分が今まで見た夢はアーシムが刺されることを暗示した夢だったのか?と思った。
「もしかして、この悪夢は予知夢か何かの類ですかね?」
と女性に聞いてみた。
「そうですねぇ、本人が過去にその出来事があったという自覚がない場合、それは予知夢の可能性が高いですねぇ、あ、1万ゴールドです~」
手を差し出しながら、女性は言った。
マウロは金を払いつつ、
「でも、これじゃ時期が分からないよね?」
と言った。
「時期は1年後くらいかと思いますよ?私が透視する際に、景色が早送りで流れるんですけど、月の満ち欠けが12回くらい繰り返されたんで」
結構正確に月の満ち欠け数えてたな、とは思ったが、
「そんな先の未来の出来事を見せるなら、もっと直前に見せればいいのに」
と疑問をぶつけた。
女性は、
「予知夢を見る時期っていうのは、必ず意味があると、私は思いますね」
マウロはウーンとうなってしまった。
一体、今それを見て、自分にどうしろと言うのだろうか。
「そういえば、夢の中では、僕が刺されていましたけど」
と最後に質問してみた。
「あー、分かりました。あなたは多分この絵の方を助けようとするけど、今のままだと自分が刺されるわよ、ってことだと思いますねぇ」
「ま、マジですか……」
納得がいった。
もしこのまま何も習得せずに、アーシムを助けに行ったところで、おそらくは返り討ちに合う。
だから、今からでも何とかしろ、ということなのだ。
マウロはもう一度よく絵を見た。
家には天井が描かれていて、アーシムとターバンの男がいる。
ターバンの男の雰囲気から察するに、恐らく殺し屋だ。
だが、相手が殺し屋でも簡単に刺されるアーシムではないはず、とマウロは思った。
そして結論を導き出した。
「アーシムは、魔法陣で家に戻ったところを狙われ、刺される」
その夜、マウロは寝付けずにバザールの夜から朝方までやっている居酒屋に来た。
マウロは最近ハタチになったので、酒を飲んでも罪にはならない。
「オレンジのカクテル1つ」
と店員に注文し、それをチビチビと飲み始めた。
「あー、結構酔っぱらったぁ~」
まだカクテルは半分しか減っていない。
そこに、顔見知りがやって来た。
「あら、マウロ?」
女性の声だ。
ぼやけた相手の顔を覗き込むと、
「あれ?ターニアさん?」
ターニアがこの居酒屋に来ていたのだった。




