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野生の力

じっと、ヌーベエが見つめてくる。

「なんだ、こいつ愛嬌あるなぁ」

と言って、狩りに来たことを忘れ、無防備に近づいた。

そして、頭を撫でようとした瞬間、マウロの体は宙を舞った。


マウロは相手が何をしたのか、全く分からなかった。

体は宙を舞っている。

結果的に、自分が吹き飛ばされた、ということだけは分かった。

ヌーベエは狙っていた。

マウロが不用意に近づくのを待ち、瞬間的に全身のバネを使って、頭に引っ掛けて飛ばしたのだ。


バッシャアアアンと体が水場に落ちた。

ものすごい激痛がマウロの体を駆け巡った。

だが、息つく暇もなく、気づいたらヌーベエはマウロに馬乗りになって、ツノを突き立ててくる。

「っぐ、やめっ、うがあっ」

マウロは何とか剣を抜いて、ツノを受けたが、ヌーベエの圧力はものすごく、水で目を開けることもままならない。

(ほんとに、殺される!)


マウロはこの瞬間、自分はここで死ぬんじゃないか、と思った。

干し肉を作って、金を稼ぎたい。

最初は何気なく思っただけだった。

しかし、相手の命を取るということは、同時に相手からも自分の命を狙われる、ということに他ならない。

ヌーベエは、

「ウゴオオオオオオ」

という物凄い鳴き声と共に、更に圧力をかけてくる。

腕がパンパンになり、

「もう、ダメか」

と思い始めたその時、ヌーベエの力が弱まった。


何が起きたのか分からなかったが、マウロはその場から抜け出すことができた。

ヌーベエの動きは鈍い。

マウロは思い出した。

ポケットに小瓶を突っ込んでいたことを。

この小瓶の中身は麻酔薬で、それがヌーベエの圧力によって割られ、水に溶けたのだった。

圧力から抜け出したと同時に、マウロはガクっと膝を着いた。

マウロ自身も、麻酔薬入りの水を飲んでしまったためだ。

しかし、動物に使う麻酔のため、効き目の出かたに差が出たのであろう、そうマウロは思った。


すべての麻酔薬が水場に溶けてしまったが、ヌーベエを捕獲することに成功した。

早速、肉を切り分け、10人前はあろうかと思われるヌーベエの肉を手に入れた。

シーケットのバザールに戻って、塩コショウを買い、干し肉屋に向かった。

そこで、調理場を借りて、塩コショウを肉にすり込み、釜を使って燻り、燻製が出来上がった。

初めて作ったヌーベエの燻製にマウロは喜んだ。

更に、その肉を店に並べてもいい、と店員の男は言ってくれた。

「ほんとですか!」

「ああ、その肉は食べきれないだろうし、場所代を払ってとなると、金がかかるからな」


その日、マウロはヌーベエの肉の売り上げ、1万ゴールドを貰い、意気揚々と寝床に戻った。

事件は翌日起こった。


干し肉屋に朝食を食べようと思い向かうと、ザワザワと人だかりができていたのだ。

「あんたの肉を食ったら、突然眠気に襲われたんだ!」

客がそう言って、店員の男に怒鳴り散らしている。

マウロはまさか、と思った。

「あの麻酔薬がヌーベエの体の中に残っていたのか……」

客は怒鳴り続ける。

「営業停止だ!ふざけた肉出しやがって!」

店員の男は、

「分かったよ、うるせえな、この肉全部処分したら、それで満足か?」

と言ったが、

「信用できるか!毒を盛るようなマネしやがって、営業停止じゃ足りねえ、逮捕だ!」

と一向に引く気配を見せない。

「こりゃ、クレーマーだな」

とマウロは思った。

居酒屋でバイトしてた時もたまにいる。

そういう客に運悪く当たると、まずいからタダにしろ、などとごねられる。

今回はこちらにも非があるが……


「じゃあ、こうしよう」

と店の男は言い、

「警備を呼んで、どういう処分が妥当か、決めてもらうとしようぜ」

「ああ、いいだろう」

クレーマーの客も納得した。

マウロが成り行きを見守っていると、奥から警備兵が現れた。

マウロは少し不安になっていた。

もし、自分の肉だとバレた場合、最悪牢獄行かもしれない。


客がいきさつを説明し、一通り聞き終わると、警備兵はこう言った。

「店側に非があるようだが、証拠がない。そこで、こちらの肉をすべて処分し、以後気を付けるよう指導を行う」

「え、それだけですか?」

客は不満そうに答えるが、

「これだけ?」

と警備兵が睨みをきかせると、おとなしく去っていった。


どうやらこの干し肉屋はこの警備団に大いに売り上げを献上しているらしい。

どうにか助かったが、マウロは店の男に引き留められた。

「おい、一体どういう狩りをしたんだ、説明してもらうぞ」

と言われ、話の一部始終を話した。

「すいませんでした……」

マウロは頭を下げた。

店に迷惑をかけてしまうとは思ってもみなかった。

「偶然とは言え、その狩りの仕方はまずかったな。一度に大量のヌーベエを狩ったら他の狩人にも目をつけられちまうし、何より、今日みたいなことも起こりかねん」

再度、マウロは頭を下げる。

「まあいい、だが、お前の肉は悪いがもう取り扱わない。それくらいのペナルティは当然だ」

「はい」

「ただし、肉はまた買いに来いよ」

店員の男は最後に、ニカッと笑った。







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