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第一話

完結まで書いたので読んでいただければ幸いです。

 意外に時間がかかると思った。なにがと言えば最近発売されたネットゲームのインストールにかかった時間だ。

 ダウンロードに六時間かかり、そこから苦労してアバターを作り始めたところだった。


 手にしている物は目元も完全に覆うヘルメット状で、最近発売されたネットゲーム機の接続に使う機器だ。

 初期は全身を覆い隠すほど大きかった機器も、第三世代ともなればバーチャルゲームとは思えないほどチープである。

 軽くて楽だと思いながら、ベッドに横たわり装着する。とたんに目の前にはブルースクリーンが現れロゴが回り始めた。


「結構選べるんだな」

 映された設定画面に感心したのは後藤マサヒロ十七歳。ごく普通の高校生でとりたてて言うほどのことでも無い一般人だ。

 ロゴには『楽園世界の極楽浄土編』と書かれていた。


 俗に言う仮想現実大規模多人数オンライン。長くなるので世間ではVRMMOと略される事が多い。

 この手のゲームとしては、海外製作の物は存在していたが純国産では初めての作品である。


 思考で動かすといった慣れない操作に苦労しながらも、出て来るアイコンを次々とクリックしていく。

「エルフエルフと」

 正式公開を一ヶ月先に控えたオープンβは五種類から種族を選べることが出来る。

 見た目で選ぶと、あとで思いっきり後悔する事になるのだがそこは高校生の男子。容姿にすぐれたエルフを選ぶと細かく外観を修正していく。

 やがて満足そうにうなづくと設定を終了した。


『ポーン! 種族の設定が終了しました。ダイブ開始しますか?』

 決定すれば後は始めるだけだ。職業などはゲーム内でチュートリアル後に選ぶ事になっている。


 無言でイエスを押すと『ダイブ開始します。それでは良い旅をお楽しみ下さい』の無機質な音声が聞こえ、ベッドに横たわったマサヒロは軽い浮遊感を感じながら意識を失っていった。







        ※※※




 あれ? ここはどこだと思った。

 目の前に広がる景色というほど広くない空間。廻りを見渡せばごく普通の室内である。

「えーと、教会じゃ無いよな」

 ログハウス風の室内は中央にテーブルが一つ、隅にベッドが置いてある。公式サイトの説明では始まりの町の教会でチュートリアルが出来ることになっていた。

「始まりの町に、ダイブするって聞いてたけど、出現場所はランダムにでもなってるのか?」

 とりあえずは教会を探そうと、通りに出たら十字架を載せた塔を見つけた。

「よし行こう」

 教会を確認したところで走る。ゲームでは、スタートダッシュは重要で一分でも無駄に出来ないからだ。

 けれどマサヒロは気づかなかった。

 よく作りこまれた町並みにも目もくれず走り出した姿は、エルフでは無く人間のままだった事を……。




        ※※※




「あれ? 意外に空いてる?」

 二十万人の同時スタートでごった返していると思いきや、始まりの教会は閑散としていた。

 これは個別の空間でチュートリアルが行われるためなのだが。


「どちら様ですか?」

 中には一人の神父がいた。NPCである。

 会話型で進行するこのゲームは、通常は話しかけないと反応しないはずなのだが……いきなり話しかけてきた。


「すげぇ、良くできてるじゃん。チュートリアルってやつか」

 もちろん、チュートリアルでは無い。というか本来は入れないはずの裏口から入ってる事実を彼は知らない。

「じゃ、さっそく始めてくれ。俺の名前はマサヒロ、剣士希望なのでヨロシク」

 神父が眉をひそめた。何か考え込んでる様子である。


「不思議なことを言いますね、ここは教会ですが?」

「教会は分かってるって。良いからさくっと始めてよ、俺早くスタートしたいから」

「おっしゃる意味がちと理解出来ないのですが?」

「いやー、だ、か、ら、とっとと進めてくれれば良いからー、てか始めて下さいやがれ」

「ぐぬぬぬぬ! 罰当たりな! 神に祈りに来たのでなければ失せるがよい!」

「えっ! ちょっ、ちょっと待て!」

 マサヒロは怒りだした神父によって教会の外に追い出された。もちろんこれはチュートリアルでは無い。


「まったく、何だあれは……今日は冒険者が多くて忙しいというのに」

 溜息をついた神父は、続いて現れた冒険者を見つけると嬉しそうに話しかけた。


「ようこそ始まりの教会へ、ご用は何ですかな?」





        ※※※





 表通りに放り出されたマサヒロは途方に暮れていた。

「……困った」

 そう、このゲームはチュートリアルを終わらせないと進むことが出来ない仕様なので、始める前から詰むという異常な状態を迎えていたからである。


「あれ? マサヒロじゃん」

 これからどうしようかと考えていた時に初めてゲームが動き出す。

 声を掛けてきた方に振り向くと、背の低い男と顔色の悪いノッポがいた。


「えーと……確かに俺だけど、誰?」

「オレだよオレって、あっ! すまん、ドワーフに成ってたから分からないよな」

 よく見ると背の低い男は、メガネを掛けたドワーフだった。

「もしかして? 和島くんか」

「うん、さっきダイブしたんだ。ちょうどチュートリアルが終わって、ケンちゃんとギルドに登録しに行くところだよ」

「じゃ、こっちはケンちゃん?」

「ヨロシク」

 仲の良いクラスメートの和島くんとケンちゃんもダイブしてきた様子だ。


 ケンちゃんは外見は怖そうに見えるが中身は静かな男である。

 対称的に和島くんは、大人しそうに見えるが中身はおばさん高校生だ。

「でも、良く俺だって分かったよな」

 そう。アバターは個人情報的な問題を防ぐために基本を残して結構変わるのだ。

 その為、言われなければ気がつかないくらいには変身しているのだが。


「いや、オレ的にはそのセリフはどうかと思うけど」

「うん、ボクもそう思う」

「えっ! だって、俺はエルフに成ったから」

「マジで言ってる? ネタとかじゃ無くて」

「当然だろって……まさか!?」


 良く作り込まれた一軒の建物がある。ガラスに映った現実そのままの姿に、呆然と立ち尽くすマサヒロがいた。

 先ほどの教会のやり取りを思い出したマサヒロは、背中に嫌な汗をかいていた。

「なあ……お前らダイブのあと……どうなった」

「ダイブのあと? 決まってるじゃん、教会だろ?」

「うん、うん」

「いや、それ……えっ! 、えぇえええええええ!!!」





        ※※※




「……死にたい」

 始まりの町の中央にある公園。通称冒険者の広場にあるベンチでは、希望に夢をふくらませたプレイヤーが寛いでいた。

 約………………一名を除いてだが。


「元気だせよ、いま運営に連絡取ったから」

 あれからマサヒロだけが正常にダイブして無いという事実に気づき、運営に対して連絡を取っていた。

「まさか……。ログアウトも出来ないなんて」

 ステータス画面を開けない。つまりゲームに付属するすべての機能が使え無いために、和島くん達に会えなければこの世界を彷徨うことに成っていたのだ。


『ポーン。楽園運営部。〈チーム世界〉の広瀬です』

「マサヒロ、運営から連絡が来た」

「えっ! マジで、どこどこ? 何も見えないんだけど」

 ホノグラムで現れたのは、金髪の男性だった。

『コードネームは、GMジミーと呼んでください』

 呼び出したのは和島くんだったので他の連中には見えない。もちろん会話の内容も漏れないようにブロックされている。

 主に通報的な何かのためであるのは、おわかり頂けると思う。

「えーと……実は……かくかくしがじか何です」

 詳しい会話は、無駄なので省くが……。

『……えーと、どうしよう……あれ? マニュアルに無いぞ、ちょっと待ってくださいね』

 ホノグラムの映像は慌てた様子のままで固まった。


「くそっ! 何時間待たせる」

「……遅いね」

「だね」

「まあ、直してくれればかまわないけどな」


 待たされること一時間。軽いノイズのあと動き出した映像は『お待たせしました。

 確認のためスタッフを送りますので接触を取って頂けますか』と、言葉だけを取れば普通の会話。

 けれどとても不安に思える表情をしていたのだ。





        ※





「申し訳ございません」

 土下座をするネコミミ幼女(社長)。ある特定の嗜好を持った人ならば泣いて喜んだろう。

「何か見てるだけで、腹が立ってくるんだが」

 そう、中身がおっさんで無ければ……。

 貰った名刺には丁寧にも顔写真が載っていたのだ。

 慌ててスキャンでもして作ったのか、その写真の顔は現実リアル世界のそのままで、しかも笑って写っていた。


「で、早いこと、修正してくれるんだろうな?」

 当然の要求である。VRマシンとソフトは安くないのだ。マサヒロにとっては血のにじむようなバイト半年で貯めた全額であったのだから。

「そ、それが……」

 ネコミミ幼女の顔がゆがむ。だがしっぽは揺れている。

「原因を究明中でして。お時間さえ頂ければ、必ず何とかいたします」

「ど、どういう事だよ!?」

「現在、開発した人間に連絡を取っておりまして……」


 はっきりと答えられないのは当然であった。なぜなら原因がまったく分からない。

 すでに三回ほどアカウントを消して再登録から始めてみた。結果はいずれも同じなのだ。


「申し訳ございません。必ずや究明して対処いたしますので! 今日のところはお納めください!」

 これ以上ないという位に土下座するネコミミ幼女だったが、収まらないのはマサヒロなのだ。

「おい、ログアウトも出来ないんだぞ。ゲーム参加出来ないじゃん……俺」

 そう、ゲーム内での機能が使え無いために、楽しみにしていたゲームを初日にして諦める(クリア)など悲しすぎる。


「そ、それでは、アレをお貸ししましょう」

 ポンと手を打ったネコミミ幼女(社長)が何かをつぶやいた。

『えっ!? アレ出すんですか!』

 突然聞こえた音声。どうやら運営と会話しているらしい。

『……分かりました。でも一体しかないんですが、良いんですか?』

「かまわん、早く送ってくれ」

『転送しますけど、主任には後で話をしておいてくださいよ』

「……わかった。私から話す」

 気落ちしたようなネコミミ幼女(社長)が溜息をつきながら「お待たせしました、これをお貸しします」と言った瞬間、目の前の空間がゆがみ中から何かが現れた。


「えっ!」

 出て来たのは、メイド服を着た少女エルフ

「移動型デバイスのレイです」

 少女はその青い眼を開けると、おもむろに声を出した。

「ご主人様マスター登録が、済んでいません。ご主人様マスター登録を完了して下さい」

 どこかぎこちない言葉使いでプログラムされた動作に見える。


「あー、本来ならステータス画面から、登録するんだが……困ったな」

『脳波拾えればオッケーなんで、頭でも撫でて貰えますか? 後はこっちでやります』

 すかさず、GMジミーから連絡が入る、どうやらモニターしているようだ。

「頭を撫でる? 俺が?」

 身長一四〇センチくらいの美少女を前にして、緊張を隠せないのは女慣れしてないのが丸分かりである。


「えっと、こうかな」

 おそるおそる、頭に手を伸ばすマサヒロに『オッケー、拾えました。そのまま撫でておいて貰えます?』と妙に恥かしくなる時間が始まった。

 その間、上目遣いでマサヒロを見上げる美少女は青い眼でじっと見つめている。

 機械的ににこっと笑うと「ご主人様マスターチェック……開始します」と声に出した。


「エルフの美少女の頭を撫でるだと? うらやましい」

「手が腐ってシンデモ良いよ」

 和島くんとケンちゃんの嫉妬を受けながら経つこと二〇分。


「チェック完了……ご主人様マスターと認識されました」

 目が一瞬輝いたあとレイが不思議そうに首を傾け。

「ご主人様マスターのレベルは20です。職業不明と認識しました」

 レイはにっこり笑った。さっきまでとは違って懐いている様子に見える。しかも感情豊かで人形の面影は無い。

「俺がレベル20って何もしてねーぞ? 大丈夫かよ? 壊れてるんじゃねーの」

「ご主人様マスターのレベルですが問題でもあるのでしょうか?」

 マサヒロの声に不安そうなレイ。


「いまいち噛みあわない会話になるのも仕方がありません」とネコミミ幼女(社長)からフォローが入った。

「レイの場合使っていただければ進化していきます。それとアップデートで実装する予定の最上位機種でしたから、読み取ったデータには間違いは無いはずです」

 聞けばどうやらあまりにも高性能なために、サーバーの負担を考えてプロトタイプのみ作られたらしい。

 移動型デバイスは常にご主人様マスターの状態を確認して、異常があれば回復などを行う優れものだ。当然戦闘にも参加できる。


「強いね」

「チートだな」

 反応はそれぞれだが、よく分からない状態に表情は微妙である。





「マサヒロ様のデータも含めて、何とか我々も問題解決に努力しますので、それまで不便だと思いますがお許し下さい」

 そう言って、ネコミミ幼女(社長)は消えていった。






        ※




「しかし……どうしたものか」

 レベルと職業は確認出来たのだが他のステータスやスキルに関しては、何度レイに聞いても首をかしげるだけであった。

「拠点まであるもんな」

 マサヒロが最初に現れた所は自分の拠点だったのだ。俗にいうギルドホームとかいうやつである。


「まー、手に入れるのは金も掛かるしラッキーだったけど」

 普通はゴールドを稼いで買うか課金しないと手に入れられない拠点が、最初から付いていたからである。

「……。とりあえず寝よう。レイ、ログアウト」

「分かりました、マスター」


 それからレイの力に因ってログアウトしたマサヒロは、自分の部屋に戻っていた。

「寝るまえに、済ましておくか」

 おもむろにパソコンの電源を入れると、何かを書き込むマサヒロだったが。

「……出来た。寝よう」

 満足げな様子でベッドに入ると、すぐに夢の中に溶け込んでいった。

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