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ユメ

作者: 甘栗

日が沈んでいき、夜が深まっていく。その間に夜飯を食って風呂にも入った。


自室に引きこもっていた。俺こと小林春樹以外の家族団らんの声も小さくなり、やがて聞こえなくなってきていた

 引きこもって、おれにしては珍しく読書に集中していたのだが、その間、だんだんと舟を漕ぐ回数が増えてきているなとは自覚していた。壁に掛けてある時計を何気なく見れば十一時を差している


 なるほど、納得した通りで眠いわけだ。体が睡眠を取るように促してくるのだ、俺にどうしてそれを拒めようか。いや、拒める訳がない

さあ、眠ってしまおう。布団の中に潜り込み目を閉じた

さて、明日もまだ学校は、あるのだから。寝坊すれば親がうるさいしな


「あれ? ここは? 俺は確か、布団に入って寝たはず……だよな?」


そのハズなのに、意識はハッキリとしていて俺は居間に置いてある電話の前に突っ立っていた

 辺りをキョロキョロと見回してみるが、親父や母さんに兄貴や弟の友紀の姿がなかった。姿は見えないのに、家族の楽しげな会話する声が聞こえてくる


「……どう、なってんだ?」


まさか、これは夢なのか? だとしたら、よっぽど出来の悪い夢だろ。これ

 確かに、俺は今日は団らんの輪から外れたがソレは部屋の隅で、いつの間にか袋に入ったまんまで置きっぱなしになっていたマンガやラノベを読むためであって、こんなふざけた夢を見るためなんかじゃあない


「ったく、なんだってんだ」


と、そう俺が一人ぼやいた時だった。電話機の着信音がけたたましく鳴り響いた。思わず、びくりと体が震えた


「……ふぅ、驚かすなよな」


着信音は、まだ鳴り響いている。どうする? 無視すんのも、アリだと思うが

……いや、いいか。出よう。どうせこれは夢なんだ。電話に出るくらい、どうってことないさ


「………もしもし」

『やあ、春樹。』

 男の声だ。抑揚の無い淡々とした感じで俺の名前を言ってくる

「アンタ、誰だ?」

『フフフ、その質問をまた聞くことになるなんてね』

「なに言ってんだ?」

『そうだね。君にとっては初めてだったね。つい忘れていたよ。でもまたその質問だなんて、君は本当に芸が無いというか、なんというか』


受話器越しに笑っているのがわかる。なんだってんだよ? ただの夢の登場人物のくせに生意気だ


『君にとって、ここは、本当にただの夢なのかな? ひょっとしたら、コッチが現実だってこともあり得るよね』

「そんなわけねえよ。だって、俺は覚えてる。自分の布団に入って寝たのを。だから、ここが夢なんだ」


 そうだ。だから、こっちが現実なわけがない


『……このやり取りも数えきれない程にはしてるんだけどな。

君には初めてのままか。じゃあ、僕も言い飽きてきた同じ事を言うとしよう』

「なんだよ?」

『君が記憶しているのは、読書をして睡魔の誘惑に誘われるがままに眠った事じゃないかな?』

「………ッ!?」


思わず、息を飲んだ。確かに、そうだ。だけど、夢の登場人物なんだ。当てたって思議じゃない

バクバクと心臓が早鐘を打ち、うるさい。落ち着け、落ち着くんだ!? でも、俺は覚えてるんじゃなかったのか? コイツの言葉を聞いたら、そうだったかもしないと思うだなんて


『夢、ね。でもさ、逆に向こうが夢だって事はないのかな?』

「………どういう意味だよ?」

『だって、僕は毎回このムダな問答をしつづけている。それこそ作業、と言い換えてもかもね』

「ふざけてんのか?」

『まさか、僕は至って真面目だよ。これを聞くことにより、君は慌てるかもね』


コイツ、なんなんだ? さっきから、心臓がうるさいくらいに鳴ってる。ソレ以上は聞くなって言ってるみたいに


『君、ソレ以外の記憶はあるのかい?』

「……えっ? ………それは、どういう!?」

『だから、夕飯を食べて、お風呂に入った。そして、普段なら、家族と仲良く談笑するのを拒み読書をして、眠った。これ以外の記憶はあるの?』


 当たり前だ、と反論しようと口を動かそうとしたのに、声にならなかった。ぼんやりとは思い出せるが、ハッキリと思い出せるのは言われた通りの出来事だけだ、でも、俺にはコイツとこうやって電話するのも記憶には、なかった


『無いんじゃないかな? そうだろうね。ねえ、春樹? 明晰夢を知っているかい?』

「なんだよ?」

『知らないのかな?』

「知ってるよ。あれだろ? 夢を夢だって自覚して見る夢、だろ?」


受話器越しにパチパチと拍手したのだろう、乾いた音が伝わった。なんなんだ? だから、どうしたっていうんだよ?


『その通り。そう、夢を夢だって自覚して見る夢。

でもさ、自覚できてるからって、自分が自分だとは限らないよね?』

「ハァ? さっきからなに言ってんのさ? お前ふざけてんのか!?」

『まあまあ、落ち着いてよ。これは君にとっては夢なんだろ? 何をそんなに苛立ってるんだい?』

「さっきから、訳わかんねーこと抜かすからだろうがっ!! どこにいんだよ! 言いたい事があるならここに来て言いやがれ」


やれやれ、とため息を漏らす音がした。くそ、馬鹿にしてんのか


『やれやれ、またその台詞か。飽きないね、君は』

「テメ―」

『―いいよ。どうせ、その台詞が出た以上は会いに行くのが早いだろうからね

せっかくのこの時間も、おわりか』


 俺が言い終わるよりも、早く告げてきた。額に浮かぶ汗を拭う。来るなら来い、そう思う半面来ないでほしいとも思ってしまう

両頬を叩き、弱気になりそうな自分に叱咤する。よし、大丈夫だ

と、突然。玄関の扉が開く音がした。来た!?

アイツだ、あのふざけた奴が入ってきたんだ。くそ、夢だからって好き勝手にしやがって

そして、居間の扉が開いた。俺は入ってくる人物を見て言う筈だった言葉が出せなかった

魚のように、口をぱくぱくと開閉させるだけだった


「そのリアクションですら、僕には既に見馴れた光景でしかないんだけどな」

「ウソ、だろ? なんで?」

「さあ、なんでだろうね? でもさ、そんな事どうでもいいだろう?」


そこにいて、俺を見て笑ってるのは、よく見馴れた顔をした………『俺』だった


訳がわからない。なんで自分が目の前にいるんだ? まさか、ドッペルゲンガーか? いやいや、落ち着け。ドッペルゲンガーなんか居るわけないんだ。だから、目の前の奴は……なんなんだ?


「お前は、誰だ?」

「またソレか。見てわからない? 僕は君だよ。君もまた僕であると言ってもいいかな」


コイツは、俺? 俺は、コイツ? ダメだ、わからない。いや、わかりたくない。


「まあ、要するに同一人物だね。違いは、色々あるけど」

「違う! お前が俺な訳がない!? だって、俺は覚えてる。色々と覚えてるんだぞ!?」


覚えてるんだ。だから、あり得ない。奴は俺に笑顔を向けてくる。


「……ふうん。仕方ないな。君が記憶にない事を言ってあげるよ」

「なんだよ?」


そんな事、あるわけないけどな。ハッタリを抜かそうとしたってムダだ。

何を言っても、ムダだ………なんで、こんなに汗を掻いてるんだ? なんで、俺はこんなに苛立ってるんだよ?


「袋に入ってた本は、面白かった?」

「は?」

「君が読んだ本だよ。面白かった?」

「あ、ああ。でも、買うほどのもんでもなかったな。気紛れで―」

「―いつ買ったか覚えてないでしょ?」


買うんじゃなかったと続ける事ができなかった。そう、確かに、覚えていない。それだけが記憶にない

なんで、知ってるんだ?


「あれ、僕が買ったからね」

「!?」

「買った日は今から、五日前。袋にレシートが入ってたはずだけど?」


あった。確かにレシートが袋に入ってた。俺はソレを気にもしないで捨てた

コイツが買ったから俺は覚えていない。信じたくない

コイツの言葉を聞きたくない


「君に、いつの間にか存在した僕は。時々、君とこうやって会話をする為の準備をした

まあ、毎回。そうやって拒絶されるんだけど」

「どう、して?」

「さあね。言ったろ? コッチが現実かもって。コッチは退屈だから、君に付き合って貰いたくてね」


視界が、暗くなる。このふざけた時間が終わるのか? 良かった。やっと終わる


「やれやれ、またね。近いうちにまた会う事になるだろうさ」

「なんで!?」

「ただの言葉遊びさ。気にしないでよ

そうだ、もし覚えてたら――」





そして、俺は目を覚ました。寝汗が酷い。なんか悪い夢を見ていた気がする

それがなんだったかは、まるで思い出せない。だけど、思い出せなくていいのかもしれない

不思議なことにそう思うのだ。思い出したくないのかもだが

俺は、布団から出て机の上にある本をぼーと眺める


『もし覚えてたら、机の引き出しを開けてみて』


引き出しを開けてみる。なんで、引き出しを開ける気になったのかはわからない。ただ、なんとなくだ

引き出しの中には、一枚の紙が入っていた


『夢が幻だとは限らない。現実のほうが幻のようなもの

忘れても、ふとした弾みで思い出すよ』


とだけ書かれていた。なんだ、これ? 俺の字なのか? いやでも、こんな事を俺が書くだろうか? と、首を傾げた時だった。思い出した



これは、アイツだ。じわりと浮かぶ汗を拭う。

忘れよう。そうだ、忘れよう

夢を見た。その夢に出てくる人物は何だったのか、俺にはわからない。

ただ、分かるのは。またアイツとは会うのだろうということだけだ


また、夢を見た。夢の中で電話機がけたたましく鳴る音がした


突飛もなく、浮かんだ話を書いたのでやっちまった感、満載です


もし読んでいただけたなら、幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 夢と現実の違いとは何か、自分自身と向き合うという話のテーマは良いです。 [気になる点] 「起」の部分で終わってしまっているという印象を受けます。無限にループするという結末なのでしょうが、た…
2014/02/16 16:38 退会済み
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