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Diamond☆Girls  作者: 由真
7/9

第6話 試合が終わって

わああああああっ!!!





まさかの風祭学園の勝利に、スタンドが歓声に沸く。

その様は女子が男子に勝っただとか、奇跡の勝利だとかそういうものではなくただ純粋に、最高に熱い戦いを見せた風祭、伊丹学園のチームに向けられた歓声であった。




が、それを是としない者はやはりいる。

風祭学園の教頭、黒崎だ。




「まさか勝つとは思いませんでしたね………ッ。これでは」



「保護者会に、説明付かないーっ♪っと」



「!?」




黒崎は慌てて飛びずさるが、ここは野球場。

飛びずさったせいで、黒崎は足場を踏み外して階段を転がり落ちてしまう。



「ぬわーーーっ!!」




がらがらどっすーん…




「え、大丈夫ですか教頭…」


「く…くそ…」



近くにいた生徒に助けられ、改めて声の主の元へ歩み寄った。


声の主は、初老ではあったがそれなりに若々しい。

しかし、着こなすスーツ姿はどこか小汚い。

が、その襟元に凛然と輝くのはまごうことなき湊凪の校章ピン。




「唐沢校長…」



「どうも、暮らし安心暮らし500。学校の平和を幅広くカバーする唐沢校長だよ、きらっ☆」




湊凪の校長を名乗った唐沢は、ロリっ子歌姫のような決めポーズを決めながら話す。




「この事は校長には伝えてなかったはず……」


「うん?そうだな。だって鈴音と俺がいなくなる日を選んで職員会議してたもんな」




黒崎は押し黙る。

まさかここまで策を練ってこの試合を組んだのに、こんなバカっぽい校長に筒抜けな上に目論みは失敗。

プライドはガタガタだろう。




「どうして、分かったのですか?」



「そりゃあお前、あの時俺の娘が職員室通ったからな。気づかないだろ?職員会議してたらよ。いや、そもそも気づいててもどうしようもないもんな?アイツが教室に向かうためにはあそこを通らざるを得ないから」


「………ッ」



唐沢はタバコに火を付けながら話を続ける。



「野球部監督が鈴音に変わってから野球部潰しが表面化し出した。上手いことのらりくらりかわしているようだが、ぶっちゃけやってることは人権損害だぜ」



「…………」



「…横暴だ」



「横暴?それはお言葉だな」



唐沢はふーっと煙を吐きながら呟く。




「そんな最もらしいこと言って、生徒の未来を潰してるような税金泥棒にゃいわれたかねぇよ」


「な…っ!」



さすがの黒崎も、さすがにキレかかった。が、それを敏感に読んだ唐沢はトドメと言わんばかりに続ける。



「あ、そうそう。今日緋奈に掃除ついでにお前の部屋ガサ入れたから。んで面白いのを見つけたんだよね」



「なっ、貴様……ッ!」




よほど見られたくないものがあったのだろう、今にも黒崎は唐沢につかみ掛かろうとしていた。

それをとめたのは、コート姿の二人組の男。



「な、何をするッ!?」


「横領と脱税の疑いだ。悪いが警察署まで来てもらおうか」



そして、そのまま黒崎は引きずられるようにして球場から出されていく。



その様子を見送りながら、唐沢は歓喜に沸くグラウンドを振り返った。


どうやら両者の整列が始まるようだ。



「まったく…私を小間使いに使わないでよ…。大変だったのよ?あの部屋に乗り込むのも」


「悪い悪い。だが、俺がやった資料は役に立ったろ」



後ろから唐沢の娘である緋奈が歩いてきた。

恐らく、黒崎の部屋をガサ入れして通報、そのまま球場まで来たらしい。



「なに言ってるのよ…娘にあんな危険なマネさせて」


「それはこっちのセリフだ…。一騎が可哀相だから野球部を潰してほしくないって」


「だッ!バカッそんなこと言ってないわよ!?」



急に赤面してジタバタする緋奈を軽く無視して、唐沢はタバコをくわえ直してグラウンドを見直す。



球場の近くを走る橋を特急列車が警笛を鳴らしながら通過する。

唐沢には風に乗って聞こえるソレは、まるでこのデコボコ野球部の清々しい船出の笛のように聞こえた。




「ふん……まぁ頑張ったんじゃないか?今日のとこはよ」




『『ありがとーございましたーっ!!!』』



風祭 10-7 伊丹



快勝とは言い難いが、一騎たちの初陣にしては十分過ぎる勝利であった。



「「勝ったぁ!!」」



フェイトと夏波が抱き合いながら喜びを分かち合う。


それに呆れながら、挨拶から引き上げてきた一騎達が帰ってくる。



「公衆の前でユリユリはやめとけよ」


「ユリユリッ!?」



そういうのに弱いフェイトは一発赤面する。



「ふふふ…大丈夫、おねーさんはオープンでも大丈夫だからな」


「待て西條。お前が絡んだらR指定だ」



いやらしい笑みを浮かびながらフェイトにじり寄る姫香を敬麻が止める。

姫香はそんな堅物な敬麻が気に食わない。



「どうした?あまり打てなかったからひがんでるのか、うん?」


「テメェ…」


「敬麻、落ち着いて」



案外乗せられやすい敬麻。

希来もそんな敬麻をなんとかなだめにかかるあたり、すごく苦労してるんだなと一騎は思った。



「勝ちましたよ先輩ッ!」


「ごはっ!」



そんな一歩引いて見つめていた一騎を巻き込む少女が一人。

もちろん、怪物幼女日向である。



「えへへ~、これで野球が出来ますねっ」


「分かったから脇腹に頭を擦り付けるな、痛い」



意外と力が強い日向の頭をなんとか引きはがす。

引きはがされた日向は少々文句のありそうな顔をしていた。



「せっかく初勝利なんですから、もっと喜んでくださいよー」


「あ、ああ」



ただ、一騎は一抹の不安を抱えていた。正直、あの教師を信用するには事足りない。

最悪、コレを質に部を潰しにかかって来るかもしれないと考えていたからだ。



「先輩…?」



急に押し黙る一騎をいぶかしんだ日向は、一騎の顔を覗き込んだ。

それに気づいた一騎は不安を抱えた様子を隠すように、日向を乱暴に撫でる。



「わわわわっ!?」


「大丈夫だよ、日向」


「ちょ、痛いっですってセンパイッ!」



ちょっとやりすきだなと感じた一騎はやがて手を離す。

頭をボサボサにしてうーっと唸る日向は、一騎の瞳に可愛く映る。



「って、勝ったのになんでそんな遠くから見守ってますよって顔してるんですか」


「はは…悪い悪い」



優しく笑いながら、一騎は日向に謝った。

正直、フェイトに漏らしたようにまだ一騎にはこのチームの輪に溶け込められてないのだ。


「まだ溶け込めないって言いたいんですか?」


(うっ…)



どうしてこうも人の心情を読まれるのか。こいつらみんなサイコキネシスでも使えるのか。

ポンポン心を読まれた一騎はいたたまれない気持ちになってきた。



「って、一騎なにしてるのよっ」



輪の中にいないと気づいた麻希が、一騎と日向の元へやってきた。



「ほらっ、行くよッ!日向ちゃんもっ」


「え、わっ」


「おおっ?」



意外に力が強い麻希に引きずられるようにして、一騎は輪の中に放り込まれた。

それに築いた敬麻達は一騎に歩み寄る。



「なんだ、また要らない気負いでもしてたか?」


「一騎は考えすぎだよー、もっと気楽にね?」


「もう、仲間」



みんながみんなして、一騎を受け入れて各が口を開く。



「ね?君はもう私達の中心なんだよ。だから、もうそーゆー一歩引いた行動はダメだからね」


「よく言うぜ、三日前まで辞めるとかほざいてた奴がよ」


「う…っ」



要のツッコミに麻希は体を強張らせた。

その上手い返しにまた笑い声がこだまする。



「…で、どうするんだ。続けるのか?」



タイミングを計っていた黒山は、改めて麻希に心の内を問いただした。


だが…彼女にもう迷いはない。



自分の目を覚まさせてくれた人。


こんな馬鹿な自分に付き合ってくれた人。


今度こそ、野球が続けられる。



もう…少女に迷いはなかった。



「はいっ……私、続けますッ!!」



麻希はいきなり姿勢をただし、みんなに向かって礼をする。


そうして…、風祭野球部はようやく始動するのだった。



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