ハヤブサ、戦火を舞う
Q.家の前に違法駐車されています。どうしますか?
クラルテ「穏便にレッカーで移動させて……」
ロザリー「それから人目の付かないところで部品バラして……」
ラウル「トドメに部品を売って金にする」
チャンさん「首先,在锅里倒入油,用小火加热。同时,将汽车零件拆解成小块,再切成一口大小的块状。将金属部件与其他部件分开可以避免口感不均匀,所以多花这一步进行准备是值得的。到那时,锅应该已经加热到合适的温度了,所以一旦你确认锅足够热,一滴水会立即蒸发,就开始放入需要更长时间加热的金属部件,并快速煮熟它们。然后……(まず鍋に油を引いて弱火で加熱。その間に車の部品を細かく分解して食べやすい大きさにカット。その際に金属部品とその他の部品に分別しておくと食感にムラが出なくなるのでひと手間かけて下準備しておくべし。それが終わる頃には鍋もいい感じに加熱されているので、水滴を落として瞬時に蒸発するくらいの温度に達しているのを確認したらまず熱の通りにくい金属部品から投入して一気に火を通す。それから……)」
ヴォイテク「↑怖いよお前ら」
ソコロフ「何なんスか今年の新人たち」
ユリウス「いやまずチャンさんにツッコむべきでは?」
ずん、ずん、と重々しい爆音が、遠雷の如く轟いてくる。
若い機関士や整備士が怯えたような声を出すが、無理もない事だとヨルゲンセン機関長は思う。自分のように年配の人員ならば天地戦争を経験しており、今更空爆だの艦砲射撃だので怯える事はない。
しかし幼少期を戦争末期に過ごした戦後世代の若手にとっては戦争とは遥か遠い記憶であり、非日常そのものなのだ。
ドン、と一際近い場所で砲弾が炸裂したらしい。テンプル騎士団の空中艦が激しく揺れ、配管が軋む音を立てた。
(はっはっは……昔を思い出すわい)
あの頃は地獄だった。どこもかしこも死体と残骸にまみれ、地面に転がるそれらに五体満足のものはない。度重なる砲撃と爆撃で鼓膜はすっかりイカれてしまい、眠ろうにも爆発や断末魔の幻聴が脳裏を苛んで眠れたものではない。眠れたとしても悪夢に苛まれた日は一度や二度ではなかった。
あの頃に比べれば、今はだいぶマシだ。
「にしても意外じゃのう。その……テンプル騎士団とかいう連中の罐も対消滅エネルギーで動くとは」
配管の接続部に隙間がないか確認しながら、ヨルゲンセン機関長は呟く。
このカッパドキアに不時着しておよそ59000年―――今が観測歴38000年だから、それこそ栄華を極めた第1文明以前の時代からここにあったという事になる。いったいどんな太古のオーバーテクノロジーが出てくるものかと期待していた機関長だったが、要求されたのはイライナ純正の対消滅機関であったというのだから驚きだ。
「存外、我々の技術のルーツはここからなのかもしれん」
傍らにあるコンソールでアセンブルの状況を確認していたトキのキム機関長が、先ほどのヨルゲンセン機関長の言葉に応えるように言った。
彼とは古い付き合いになる。戦争中期に通った統一獣人戦線の訓練校にて、同じ機関科の同期だった男だ。当時は機関の効率的な立ち上げ方で激論を交わし、何度も意見をぶつけ合った仲である。
「見てみろ、ヨハン」
「お前もそう思うか」
「ああ」
配管の口径、プラグの形状……何から何まで、ぴったりと適合するのだ。
何故、異世界からやってきたはずのテンプル騎士団の機関部とこの世界の対消滅エンジンの規格がまったく同じなのか。
動く動かない以前の問題で、そもそも規格が合うのかと懐疑的だったキム機関長とヨルゲンセン機関長。それもそのはず、相手はそもそも異世界からやってきた存在でこの世界の技術体系とは全く異なる代物を扱っているのが当たり前なのだ。
だから対消滅機関を供与したとしても、接続用の配管やプラグ、電流、プログラム……ことごとくが全く異なる規格であるのは目に見えており、そもそも機関部が適合するのかという問題が立ちはだかっていたのである。
しかし、実際に蓋を開けてみればどうか。
配管やタービンの規格と言い、ボルトの本数といい、プラグの形状と言い、電気配線の定格電流といい……まるで同じ図面を使って設計したのではないかと疑ってしまうほど、テンプル騎士団側の図面とイライナ製の対消滅機関の図面は一致していたのだ。
これを偶然の一致で片付けていいものか。
当然、規格を合わせるとなると膨大な時間とコストが掛かる。機械というのはそういうものだ。兎にも角にもデリケートで、定格電流や油の粘度が違うだけでも動作不良の原因になりかねない。それが同じ世界で異なる技術体系ならばいざ知らず、異世界の艦に機関部を移植するとなれば実質的に造り直すも同然の膨大な作業となってしまう。
これは大仕事になるぞと腹を括ってやってきた熟練の機関長たちだが、見事に肩透かしを食らったような格好だった。
(本当に……このテンプル騎士団は何者なんじゃ?)
イライナだけが辛うじて製造できる純正の対消滅機関。
それとこうもぴったりと規格が同じという事は、ソーキルの機関部にも採用されているあの対消滅機関は元を辿ればテンプル騎士団製だとでもいうのだろうか。
そんな疑念を抱きながらも、ヨルゲンセン機関長は図面を頼りに細部の最終チェックを一通り済ませた。
「よーし、すぐ機関部を真空状態にするぞ。吸気ポンプの作動条件をチェック、点火プラグと真空破壊弁には絶対に触るな!」
対消滅機関の原理は、火力発電や原子力発電と似通ったものだ。
まず大前提として、【対消滅エネルギー】という白い閃光にも似た超エネルギーが存在する。これは気体、液体、個体、有機物無機物問わずあらゆる物質に接触するとその物質を瞬時に消滅させるが、その際に強烈な熱量を放射するという性質がある。
その反応時に生じる熱を利用して水を沸騰させて蒸気を作り、その蒸気でタービンを回して得た電力で艦を動かすというのが対消滅機関の大まかなメカニズムである。
原子力と比較すると発電効率は概ね3~5倍、大出力の直列型であれば10倍にも達するというのだから驚きだ。
加えてタービン込みでも原子力機関よりはるかにコンパクトであり、ソーキルのような駆逐艦の動力源としても採用できるほどである。おまけに放射能漏れの危険もなく環境に優しいが、しかし対消滅エネルギーの管理を誤ると周囲一帯を巻き込んで全てを消滅させてしまうという大きなリスクも持ち合わせている。
そもそも対消滅エネルギーは、『真空状態に晒すと増殖する』という特性を持っているのだ。
そのため【反応で喪失したエネルギーを適度に真空に晒し増殖させる】事で、消費と供給のバランスを均一に保つ必要がある。
今はまだエネルギーが魔力で覆われ不活化されているので害はないが、吸気ポンプで真空になれば話は別だ。一気に増殖が始まってしまう。そうなったら機関始動に合わせて真空破壊弁を作動、外気を流入させつつ点火プラグで反応を開始させる事になる。
一番緊張する部分だ。
機関部に耳を当て、ヨルゲンセン機関長は息を殺した。
―――聞こえる。
罐の声が。
今自分がどんな状態なのか。
どう動かしてほしいのか。
それら全てが、微細な振動、熱、臭い―――そういった断片的な情報に含まれている。
最近の若い機関士はどれもこれも自動制御に頼るが、最終的に重要なのは自分の五感なのだ、と常々ヨルゲンセン機関長は思っている。
ずん、ずん、と轟く爆音も、どこか遠くに聴こえた。
きっと大丈夫だろう。
ヴォイテクならば―――ラウルたちならば、きっとうまくやってくれる。
今はそう信じるしかない。
(頼んだぞ、おやっさん―――!)
ソーキルの艦橋の窓からカッパドキア地表の空中艦を見下ろし、ヴォイテクは全てをヨルゲンセン機関長に委ねた。
あの人は対消滅機関のエキスパートだ。戦時中、徴兵され訓練課程では機関科を卒業。その後は空中艦の機関士として地獄の天地戦争を渡り歩き、何度も乗艦を撃沈される憂き目に遭いながらも終戦まで生き延びた経歴を持つ男である。
これまでの経験で鍛え上げた観察力と技術は最早どんなAIでもそう簡単にまねできないレベルに達しており、だからこそ未知の空中艦への対消滅機関搬入、及びアセンブルという一大作業に彼をあてがった。
なお、今のソーキルの機関部はソコロフがひいひい言いながら回している。
《敵艦1隻、防衛線を突破》
「やらせねえよ!」
ソーキルが大きく右旋回。モニカ艦隊の側面を抜けようとする手負いの敵艦に艦首の軸線を合わせ、対艦ロケットと20.3㎝連装砲の斉射を叩き込む。
扇状に放ったロケット弾が横っ腹に全弾直撃。それだけでも深手だというのに、おまけに20.3㎝砲が艦橋と煙突をぶち抜いたのだからたまったものではない。大きな爆発の連鎖に加え指揮系統を吹き飛ばされた敵戦艦の艦首が沈み込み、雲海へと向かって沈降を始めた。
追い打ちをかけるように、ラウルが艦首のバルバス・バウのような部位(航法室だ)に据え付けられた6連装12.7㎜機銃を射かけていく。
敵もいよいよなりふり構っていられなくなったらしい。
それもそうだろう。このままいつまで経ってもカッパドキアを確保するどころか、カッパドキア沖で協商連合艦隊に足止めされ続ければ戦力をすり減らした挙句、目標であるテンプル騎士団の空中艦というオーパーツまで取り逃す事になる。
そして何より、『発足10年足らずの新興レギオンに戦時中から活躍していた老舗レギオンが敗北する』という、これ以上ないほどの辛酸を舐めさせられる羽目になるのだ。そうなれば現場指揮官はどうなるか―――今のミストルテイン最高指導者、『ウォーロード』の事である。間違いなく首が飛ぶであろう。
比喩的な表現でも、物理的な意味でも、だ。
だから敵は死に物狂いになっている。
進んでも逃げても地獄である事に変わりはないのだから。
《敵巡洋艦、防衛線突破》
「ッ!」
ぎり、と歯を食いしばるヴォイテク。
確かに兵器の質と乗員の練度では、協商連合側がミストルテインを大きく上回っている。相手はいくら天地戦争で自由天空連合の一翼を担っていた老舗レギオンとはいえ、ベテランの多くはあの地獄のメルキア沖空戦で死んでいるのだ。今こうして協商連合の前に敵として立ちはだかっているのは、後方の訓練施設で天地戦争の終戦を迎えたというだけの”自称”ベテランに率いられた新兵たちである。
それに対し協商連合には、獣人・竜人問わずかの戦争に従軍したベテランが多く在籍しているのだ。
しかし、それでも数的不利だけはどうしても覆しようがない。
「左30度、下げ舵20!」
《警告。それでは敵艦との接触コースです》
「ソーキルで押すんだよッ!!」
戦闘人形からの警告を一蹴し、アームレストにある艦内電話の受話器を取った。艦内放送に切り替えるや、「艦長より達する」と全乗組員に通達する。
「これより本艦は敵艦への体当たりを試みる。総員衝撃に備え!」
体当たり、といっても特攻ではない。
強引な戦線突破を図る敵艦(おそらく巡洋艦クラスだ)の真横にソーキルをつけ、そのまま右側面からぶち当てる事で敵艦の軌道を逸らそうというのである。
先ほどの斉射から、まだ主砲やロケットの再装填が済んでいない。
相手は巡洋艦―――艦首の6連装機銃で止められる代物ではない。質量でも艦級でもソーキルより”格上”だ。
純正対消滅エンジンの馬力を信じるしかない。
「ぶち当てろ!」
命じるなり、操縦桿を握っていた戦闘人形が《衝突します》と短く警告を発した。
ごしゃあっ、とあまり聞きたくない音が艦橋の中にもはっきりと聞こえてきた。装甲が潰れる音、竜骨が軋む音、レシプロエンジンの悲鳴。
接触面から火花が散った。
艦橋の窓のすぐそこに、ミストルテインの巡洋艦『ケストレル』の威容が見える。
しかし以外にも、押し負けているのはソーキルの側ではなく、ケストレルの方だった。
従来型のレシプロエンジンしか搭載していないケストレルに対し、ソーキルは第1文明以前から細々と受け継がれてきたイライナ純正の対消滅機関搭載艦である。そのパワーには一般的なファミリーカーと、少数生産型のスーパーカーのような差があるのだ。
だが、それでも意地を見せるケストレル。
ソーキルに押し負けるならばと、前部甲板に並ぶ15㎝3連装砲を旋回させ、その砲口をあろう事かカッパドキアへと向けたのである。
「やらせねえつってんだろォ!」
主砲の再装填が完了したという旨の報告を受け取るなり、ヴォイテクはダイブブレーキの展開を命じた。
バクンッ、と音を立ててダイブブレーキが展開。艦首側からの猛烈な空気抵抗を受けたソーキルが徐々に後方へと押し流されていくや、ギャギャギャ、と鋭角的な艦首がケストレル左舷に鋭い爪痕を刻んで後退していく。
ソーキルをオーバーシュートする形になるケストレル。後部に備え付けられた15㎝5連装砲が慌てたように旋回を始めるが、もう遅い。
既にソーキルの艦首軸線はケストレルの尻にぴったりと合わせられており―――20.3㎝連装砲の徹甲榴弾が、その無防備な尻目掛けて撃ち出されていたのだから。
着弾した後はもう、一瞬の出来事だった。
20.3㎝という重巡洋艦の主砲クラスの巨砲から撃ち出された徹甲榴弾は、ケストレルの尻をこれ以上ないほど無慈悲にシバいた。ぼごんっ、とやや間の抜けたようにも聴こえる装甲板が穿たれる音を響かせ、艦尾で回転するプロペラシャフトすらもぶち折って機関室にまで達した2発の砲弾はそこで起爆。船外で何が起こっているのか知る術もない機関士たちを理不尽にも吹き飛ばすと、ケストレルの推力と動力を一気に奪った。
全長170m級のケストレル艦内の電力が喪失、非常電源に切り替わるも、艦尾で推力を確保していた二重反転プロペラが2基ともダメになってしまっていてはもう手の施しようがない。船体左右から突き出たエンジンポッドが虚しくプロペラを回転させ、せめて揚力だけでも確保しようと無駄な努力を費やすが、そうしている間にもケストレルの船体は艦首を真っ逆さまに地表へと向け、さながらケーキ入刀に用いられるナイフの如くカッパドキアの大地に衝突。勾配を滑落しながら船体をぶち折り、中小規模の爆発を連鎖させながら、浮遊大陸の縁から転落していった。
無残な最期を遂げたケストレルを一瞥し、ソーキルは舞う。
まだ、戦いは終わっていない。




