カッパドキア防衛戦
どうでもいい話(転生前ラウル君編)
・転生前ラウル君はパワハラ上司からの攻撃を全弾回避して就業時間を終えた事がある
・転生前ラウル君は職場の飲み会参加率0%。断った理由は全て「母が危篤です」であり、実家に帰省した際には母をダシにした事をしっかり謝罪して温泉旅行に連れて行っている
・サービス残業の疲れからか、何故か山手線ではなく東海道新幹線に乗ってしまい東京から広島まで連行された事がある(なんで?)
・サービス残業の疲れからか、何故か山手線ではなく山形新幹線に乗ってしまい東京から新庄まで連行された事がある(なにゆえ?)
・サービス残業の疲れからか、何故か山手線ではなく秋田新幹線に乗ってしまい東京から秋田まで連行された事がある(そろそろわざと)
・さすがにパワハラ上司から「お前わざとだろ」と詰められたので、ボコボコにした上司を肩に担いで東京から東北新幹線に乗って新函館北斗まで連行し一緒に函館で海鮮食べてから東京に帰った。なんだかんだで許してもらえた(確信犯)
・サービス残業の疲れを言い訳にして上司も一緒についてくるようになったので2人で新潟まで行った(仲良し)
・ラウル君が事故死しなければ今度は金沢まで行く予定だったらしい(無念)
・事故の現場には上司が買ってきた金沢のお土産がお供えされているらしい
《アルカディア艦隊司令部より入電。”ミストルテインヨリ正式ナ開戦宣言アリ”、との事です》
分析担当の戦闘人形の報告に、モニカ艦隊旗艦『スラヴァ』の艦橋内部ではどよめきが広がった。
レギオン”ミストルテイン”からの開戦宣言―――つまるところ宣戦布告だ。天地戦争では自由天空連合側に組し、メルキア防衛ではその一翼を担った老舗レギオンが、新興レギオンたる協商連合に対し宣戦布告をしたというのである。
艦橋内で仁王立ちしながら、モニカは腕を組んで微動だにしない。
(そう……いよいよ大手を振って殴りにきたってわけね)
それほどまでに、彼らにはカッパドキアに眠る遺物―――”テンプル騎士団”という異世界の軍隊の空中艦を諦めきれないらしい。
当初はレギオン間の小競り合いで済ませるつもりが、相手も引っ込みがつかなくなってしまったのだろう。圧倒的物量の艦隊を動かせば協商連合も歯向かってはこまい、と高を括っていたが、しかし現れた協商連合艦隊により派遣した艦隊を全滅させられたとあっては、老舗レギオンとしての面目が丸潰れだ。
面子を何よりも大事にする権力者とは実にわかりやすいが、同時に権力を握る者としては欠陥品であるとモニカは常々思う。余計な問題を回避するためにも矛を収め、胸の内に怒りや不満を押し留めておく器の大きさもまた指導者には必要なのだ、と。
自らのメンツを優先する権力者とは、実際のところ自分の器の大きさが権力に見合っていないのだ。
ミカエルという指導者の背中をすぐ間近で見ていたからこそ―――そしてそんな彼女に伴侶として迎え入れられた身であるからこそ、自信を持って言える。
「狼狽えるなッ!」
ざわめく艦橋内で、モニカは声を張り上げた。
「相手が堂々と殴りかかってきただけの事。ならば我々はそれを真っ向から殴り返すのみ!」
結局、やる事は変わらない。
相手が拳を振り上げ堂々と殴りかかってくるのであれば、こちらもまた拳を握り締め、顎の骨が砕けるまで殴り返してやればいいのだ。
どの道この浮遊大陸カッパドキアは協商連合の領空内に存在する。『ミストルテインによる侵略からの防衛戦争』という立派な大義名分もこちらにあるのだ。ならば大手を振り、陽の光の当たるところで思い切り殴り返す事に一体何の疑問を抱く必要があろうか。
そして今ならば、判る。
何故この局面で、ミカエルがアルカディアを空けたのか。
何故この局面で、艦隊総旗艦【チェルノボーグ】を動かしたのか。
こうなる事を見越して先手を打つ形で動いていたのだとするならば、全て話が繋がる。
このままミストルテインと協商連合がなし崩し的に戦力を投入していけば、レギオン間の抗争に端を発する戦火は拡大していくであろう。今この不安定な世界情勢の中で本格的な戦争に発展してしまえば、終戦8年を迎え老いさらばえた筈の竜人・獣人両種族の戦意を刺激し『第二次天地戦争』勃発の引き金になりかねない。
それはミカエルとしては本意ではない筈だ。
だからきっと、摘み取りに行ったのだ。
この問題の根源を。
「ミストルテイン艦隊を目視! 戦艦12、巡洋艦38、駆逐艦多数!」
「左回頭、右砲戦用意! フギンとムニンにロケット弾攻撃を要請、ヴォイテク艦隊の位置は?」
「ハッ、本艦3時方向。距離1200に展開」
「同じ作戦で行くわ。ロケット弾の着弾に呼応し突撃、敵艦隊の陣形を左右に分断し各個撃破!」
「とーりかーじいっぱーい!」
安定翼のフラップが稼働し、戦艦スラヴァのずんぐりとした船体がゆっくりと左へ進路を変更し始める。
それに呼応するように4基の36㎝3連装砲が旋回を始めたその時だった―――艦橋右舷で命綱を身に着け、観測任務に当たっていた観測員の悲鳴じみた報告が、伝声管から響いてきたのは。
《て、敵艦隊ロケット弾を発射!》
「対空防御!」
長距離ロケット弾による先制攻撃。
狼狽える必要はない、とモニカは自分に言い聞かせていた。さすがにこの距離でのロケット弾攻撃は、いくら長距離タイプとはいえそれほど命中精度は高くない。あくまでも当てずっぽうの攻撃だ。先制攻撃を見せ、こちらの士気を挫く心理的効果を狙っているに違いない。
事実、モニカの見立ては当たっていた。
迫ってくるロケット弾は明後日の方向へと飛んでいき起爆。夜の雲海の上に紅い炎の華を咲き乱れさせる。
しかし不運にもそのうちの1発が戦艦スラヴァの右舷、艦橋の付け根付近に着弾したのは、回頭を終えて今まさに砲撃命令が下らんとしていたタイミングであった。
ずん、と金槌で殴りつけられるような衝撃。損害報告を命じるよりも先に、関係部署から被害報告が上がってくる。
第1高角砲損傷、第7銃座沈黙―――報告を聞いた若手の乗員が顔を青ざめさせるが、モニカの飛ばす檄がそれを許さない。
「戦艦が簡単に沈むか!」
戦艦とは、圧倒的火力と防御力で敵艦と殴り合うためのモンスターである。それは戦いの場が海から空へと移行した現在においても変わらない。
《全砲塔、砲撃準備完了!》
「痛いのをぶっ喰らわせてやれ! 撃ち方始め!」
「全砲塔、交互撃ち方」
「撃ち方始め、撃ち方始め」
『撃ちーかたー始め!』
一方的に殴られるばかりだった戦艦スラヴァの主砲が、鬱憤を晴らすかのように火を噴いた。
観測目的だった砲撃―――しかしそのうちの1発が、敵艦隊先頭の戦艦にラッキーヒットをかましたのは、その直後であった。
《すまねえなラウル、陸戦の次は空戦……お前をまた鉄火場に送り出す事になる》
「気にすんな、これも仕事さ」
コルセアのコクピット内で計器類をチェック、管制室にいるクラルテに向かって親指を立ててウインクする。
ごうん、と重々しい音と共に足元のハッチが開き、クレーンアームがコルセアを船外へと降下させていった。機体が格納庫の外に出たのを確認してからスイッチを弾き折り畳まれていた主翼を展開、エンジンスタート。
排気口から煙が迸り、プロペラが回転を始めた。
今、ソーキルは敵艦隊目掛けて雲海を飛んでいる。まるでミルクの海にダイブしたかのようにキャノピーの周囲はどこもかしこも真っ白だ。後に続いている筈のチャイカとカナレイカの姿も見えない。
《突入と同時に機体を分離、敵艦隊のど真ん中を突っ切る。ヤバくなったらいつでも着艦をリクエストしろよラウル》
「了解」
《チャンさんが夜食に蘭州牛肉麵を準備してくれてる。絶対生きて帰ってこい》
「了解した。生きて帰る理由がまた1つ増えたよ」
蘭州牛肉麺、聞くところによると日本のラーメンの原型の1つとなった中国の麺料理だとか。
アレ美味いんだよな、と転生前に東京の中華料理店に行って食べた時の事を思い出す。そんな代物が夜食で待っているならばこんなところで死んでいられない。
今回の武装も前回と同じだ、爆弾1発とロケット弾8発、20㎜機関砲が収まったガンポッドが2基、弾数はそれぞれ100発ずつ。
毎度思うんだが、俺ってこういうペイロードに余裕のある機体で大物を狙うのが向いているのかもしれない。戦闘爆撃機とか攻撃機とか、そういう機体が好みというか向いているのだろうか。
雲海が晴れた。
眼前にはおびただしい数の敵艦隊―――敵艦隊進路から見て左舷9時方向から姿を現したソーキル、チャイカ、カナレイカの3隻にはまったく気づいておらず無防備な横腹を晒している。
《リリース!》
がごん、とクレーンアームが外れた。
ソーキルのバカみたいな加速もあって既に十分な推力を得ていたF4Uコルセア。滑らかに発進するなり、まずは艦隊の先頭を進む戦艦へと狙いを定める。
黒煙が見える―――既にもう1隻、モニカ艦隊からの砲撃を受けて大破に追いやられているらしい。先ほどまで艦隊の先頭に陣取っていたのであろう空中艦が、艦橋の周辺から濛々と黒煙と火柱を吹き上げて高度を落としていくや、雲海へと沈んでいった。
モニカ艦隊の練度は凄まじく高いと見える。
ならば俺もカッコ悪いところは見せられない。味方の奮戦に奮い立たされながらも照準器を覗き込み、急降下する勢いを乗せて爆弾を投下。そのまま敵艦に見せつけるように船体下部へと抜けていく。
どう、と重々しい爆音が背中を殴りつける。目視で確認してみると、爆弾はちょうど艦橋の付け根付近を直撃したらしい。予想外の攻撃を受けた敵艦が慌てふためくのが見える。
操縦桿を起こし急上昇。身体に凄まじいGがかかり、身体中の血が足元へと集中していく。脳がボーっとする感覚を覚えながらも何とか堪え、照準器の向こう側を睨みつけた。
見えるのは大慌てで旋回する対空砲塔群。
船体中央下部にある戦闘艦橋―――ガラス張りのゴンドラみたいなそこを目掛けて、ロケット弾を全弾叩き込んでやった。
対空砲が吹き飛び、2発のロケット弾がガラス張りの戦闘艦橋を突き破る。大型爆撃機の航法室みたくガラス張りになっていた戦闘艦橋の中でロケット弾が起爆して、中に詰めていた乗員たちを1人残らず吹き飛ばした。
船体の脇をすり抜けながら機銃掃射。船体から突き出たエンジンポッドの1つを吹き飛ばして上昇に転じ、そのまま宙返り。手負いの敵艦の艦橋へと狙いを合わせる。
やっと俺の存在に気付いた対空砲が時限信管式の砲弾を撃ってくるが、もう遅い。まともな信管調整もせず、当たってくれたらいいなという神頼みに近い砲撃では、この空飛ぶ海賊は止められない。
急降下の勢いのままに、機銃の発射ボタンを押し込んだ。
12.7㎜機銃と翼下の20㎜ガンポッドが火を噴いた。南方の島々のスコールのように、12.7㎜弾と20㎜弾の豪雨が敵艦の艦橋に牙を剥く。
艦橋付近の銃座に命中した機銃が、機銃手を潰れたトマトみたく吹き飛ばすのを見て吐き気を覚えた。殺しに対する忌避感はまだ少し残っているが、あんなにも徹底的に過ぎた、人間の尊厳を踏み躙るが如き人体破壊を間近で見てしまうと精神的に来るものがある。
それでも機銃掃射を叩き込んで、敵艦下方へと抜けた。
爆弾、ロケット弾、機銃掃射。搭載してきた武装をほぼ全て使い切る勢いで火力を叩き込まれた敵の空中戦艦が、小さな爆発を何度も繰り返しながら墜落を始める。船体のいたるところから炎を芽吹かせ高度を落としていく敵艦。やがてその姿が雲海へと没すると、ミルクのような雲の中で赤く大きな炎が瞬いたのがはっきりと分かった。
「見たか!」
―――敵戦艦撃沈!
巡洋艦や駆逐艦ではない、「戦艦」である。
今まで仕留めた獲物の中でも最大クラスのものだ。
自慢できる話が増えた、と思いながらすっかり軽くなったF4Uを急旋回。無粋にも後ろから機銃を射かけようとしていた敵の艦載機の背後を取り、12.7㎜機銃で爆砕する。
勢いのままに次の標的を敵の駆逐艦に定める。ドン、ドン、と主砲を撃って抵抗してくるが、そんなものなど意に介さない。堂々と真正面から突っ込んで、敵艦の艦橋に12.7㎜機銃と20㎜機関砲を弾切れになるまで叩き込んだ。
すっかり弾切れだ―――もっと弾が欲しい、と思いつつ「ソーキル、補給を要請」と無線機に向かって報告しつつマジックコンパスを見た。
凄まじい速度で移動するマジックコンパスの針。よもやバグったかと思ったが、そうではないらしい。
ソーキルは戦っていた。
2隻の同型艦を引き連れ、一糸乱れぬ統制を維持したままの一撃離脱戦法を繰り返しては、敵艦隊の艦列を滅茶苦茶にしている。
獣人側では評価が低く、失敗作の烙印を押される670型空中駆逐砲艦であるが、竜人側から見ればそうでもないのかもしれない。そりゃあ650㎞/hの速度で飛び回る140mの船体から、巡洋艦クラスの20.3㎝砲がバカスカ飛んでくるのだ。おまけに対艦ロケット持ちともなれば発狂モノであろう。
こちらの着艦要請を受け、今しがた戦艦1隻を撃沈に追いやったソーキルが艦列を離れた。後続の『チャイカ』に戦闘継続を任せたようで、こっちに向かって高度を落としてくる。
ダイブブレーキを展開して減速に転じたソーキルと相対速度を合わせ収容ハッチの位置にコルセアを合わせる。見慣れたクレーンアームが伸びてきて機体を掴むなり、そのままするすると格納庫の中へと引きずり込んでいった。
ハッチが閉じるなり、ツナギ姿のロザリーがやってくる。
キャノピーを開け、かけてもらったタラップを滑り降りて「補給までどのくらいかかる?」と問いかけた。
「30分で終わらせる!」
「了解、無理しないでね!」
「ありがとラウル!」
短いキスを交わし、格納庫から艦首区画へ。
ドンパチやってる最中に休憩などしていられない。
多分艦首にある12.7㎜6連装機銃は空いている筈だ。補給が完了するまで、そこで戦闘に参加する。
できる事はすべてやる―――それが俺のモットーなのだ。




