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気流結節点を越えろ

どうでもいい話


転生前ラウル君は電車に乗っていた際、痴漢冤罪を仕掛けようと寄ってきた女性の腕を掴んで逆に「この人痴漢です!」で相手を陥れ示談まで持っていき大金をせしめた事がある。


なおせしめた金は実家への仕送りに充てた。


 雲海の向こうに、複数の空中艦が見えた。


 雲に紛れるように陣形を描いて飛ぶ5隻の空中艦。そのうち3隻は駆逐艦クラスであるようで小ぶりな船体をしているが、陣形中心を飛ぶ2隻はどうも様子が違う。


 ―――飛行甲板がある!


 そう、飛行甲板があるのだ。扁平な甲板を跨ぐようにアーチ状の構造物があり、その上に発艦管制を兼ねる艦橋構造物がどどんと居座ったような形状をしている。そしてその飛行甲板目掛けて複葉機たちがゆっくりと降り立っては、その場で整備兵たちの手により弾薬と燃料の補充を受けているようだった。


 格納庫、なんて洒落たものはないのかもしれない。


 随分と空母なんて洒落たものをもってるもんだと思ったが、しかし帰還する敵機の後方に紛れて接近していくうちに、空賊たちの厳しい懐事情が垣間見えてきた。


 装甲の表面や飛行甲板の表面が、よく見ると溶接パッチだらけででこぼこしているのだ。船体構造もよく見ると軍艦ではなく貨物船とか飛行タンカーのそれで、旧式の民間船を改造し無理矢理空母に仕立て上げている事が分かる。


 きっと機械的に騙しながら無理に飛んでいるのだろう、とそんな惨状が窺い知れるほど旧い即席空母。両舷に並ぶ対空火器も口径や製造国、メーカーがバラバラだ。とにかく手に入った武装を無理矢理搭載しました、といった感じである。


 賊はどこまで行っても賊なんだな、と哀れみすら覚えた。


 次々に着艦していく航空機たち。彼らから見れば、やや遅れて飛んでいる俺のF4Uコルセアも味方機に見えるのかもしれない(だいぶフォルムが違うが)。


 気付くな、まだ気付くな……!


 艦隊陣形の外周部を守っている駆逐艦の頭上を通過した際に、駆逐艦の対空砲手が驚いたような眼でこっちを見ながら指差して、何やら叫んでいたのが見えた。ありゃあウチの機体じゃないとか、敵機だとか叫んでいる姿が目に浮かぶ。


 複葉機と単葉機の見分けもつかない猿に向かって中指を立てつつ、爆弾の照準器を覗き込んだ。


 狙うはもちろん飛行甲板。駐機中の艦載機に命中してくれればそれでよし、そこから弾薬や燃料に引火して誘爆してくれれば最高だ。花火大会を特等席で見れる。


 駆逐艦が発光信号で必死に空母へ敵襲を伝えようとするが、もう遅い。


 ぺろり、と舌なめずりしてから、爆弾の投下レバーを引いた。




我奇襲ニ成功セリ(トラトラトラ)ぁ!!!」


 


 がこん、と機体が一気に軽くなった。


 加速の勢いを乗せた爆弾は砲弾さながらの速度で疾駆。空中空母の飛行甲板を狙い違わず直撃すると、駐機中だった艦載機を何機か巻き込んで飛行甲板を貫通。溶接パッチまみれのスクラップ同然な飛行甲板を容易にぶち抜いたそれは、よりにもよって艦内で盛大に起爆した。


 船体が一瞬膨らみ、たわみ、紅蓮の炎が四方八方へと伸びていく。


 満足な装甲も無ければまともなダメコンも出来なかったのか、と心の中で嘲っていると、被弾し炎上した空母の甲板上で更に大爆発が連鎖する。


 補給中だった燃料と予備の爆弾かロケット弾に誘爆したのだ。


 炎上した空中空母は消火活動もダメコンも何もできず、火達磨になるとそのまま高度を下げて雲海の中へと沈んでいき―――3秒ほどの静寂の後、雲を押し上げるような大爆発が生じた。


 操縦桿を起こし急上昇。キャノピー越しに敵艦隊の輪形陣を俯瞰しながら、次の狙いをもう1隻の空母に定める。


 加速、加速、加速。コルセアが重力に導かれ、翼を焼かれたイカロスさながらに落ちていく。


 いや、落ちていくのではない。


 獲物を狩るために急降下しているのだ。これから大物を仕留めにかかるのだ。


 唐突の奇襲と虎の子の空母の喪失に、敵艦隊はよほど泡喰ったらしい。飛行甲板の両舷に備え付けられた雑多な対空火器を、射程距離も考慮せずに撃ちまくって弾幕を張ってくる。


 命中すれば御の字、そうでなくとも攻撃の意図を挫く事ができれば儲けものと思っているのだろう。少しでも手数を増やすためか、手隙の甲板要員がボルトアクション小銃や拳銃を持ち出して発砲してきたのには笑ってしまった。


 そんなもので航空機を止められたら苦労はしない。


 慌てふためく空賊たち。そのまともに洗ってもいないであろう黄ばんだ前歯が見えるくらい引き付けてから、俺は対艦ロケットを全弾発射した。


 そのまま敵艦の甲板の脇を掠める形で、敵空母の真下へと抜けていく。


 発射された対艦ロケットは距離を詰めに詰めた事もあって全弾が命中(お見事!)。飛行甲板に6発も必殺の一撃を受ける羽目になった敵艦は背後で大爆発を何とも繰り返し、やがて船体を真っ二つに折って墜落し始めた。


 崩壊していく甲板から、駐機中だった艦載機やパイロット、整備兵たちが雲海へと転がり落ちていく。


 空中艦に対する攻撃は、水上艦よりも楽である。


 水上艦への爆撃の際は、適度なタイミングで上昇に転じなければならない。さもなくば敵艦か、その周囲に広がる海に顔面から突っ込む羽目になるからだ。


 しかし空中艦はその限りではない。よほどの低空を飛行していない限り、その下方に広がるのは何もない空という空間だ。だから敵艦の真下を潜り抜けて離脱する、なんて芸当も十分に可能なのである。


 操縦桿を起こし急上昇。身体に強烈なGがかかるのを感じながら、早くも空母2隻を失い浮足立つ駆逐艦のどてっ腹に狙いを定める。


 航空機相手に太刀打ちできないと判断したのだろう、船体下部のハッチを解放して艦載機を出撃させようとする駆逐艦。クレーンアームに吊るされたボロボロの複葉機がせり出してくるが、よりにもよって真下から狙ってくる敵機に腹を開く馬鹿がどこにいるものか。


 容赦なく機銃掃射を見舞った。6門の12.7㎜機銃に加え、2門の20㎜機関砲を収めたガンポッドが盛大に火を噴いて、ガツガツガツンッ、と駆逐艦の艦底部に火花を散らす。


 機銃掃射にズタズタにされた複葉機が炎上、格納庫付近で中規模の爆発が起こり、駆逐艦の足の速度が目に見えて鈍る。


 上空に抜けると、2機の複葉機が追い縋ろうと必死に上昇してきた。当たりもしない8㎜機銃で応戦してくるが、しかし当たらない、届かない、意味がない。無駄な資源の浪費でしかないのだ。


 機体を失速させストールターン。何もかもを地表に引き寄せたい重力の悪癖の力を借りて急旋回するなり、必死に上昇しようとして空で溺れる敵機に12.7㎜弾を見舞う。


 1機撃墜、残り1機と3隻。


 そのまま急降下、先ほどダメージを与えた駆逐艦へ逆落としの急降下。


 ボンッ、とコルセアの周囲で黒い煙が花のように開いた。前部甲板に備え付けた主砲……というより高射砲だろうか。それをポンポンと必死に撃って抵抗しようとしてくるが、高射砲の癖に仰角が足りていないらしい防弾が爆発しているのはコルセアの遥か下方だ。


 機銃掃射。


 12.7㎜弾と20㎜弾の交響曲。ボボボ、と大口径の20㎜榴弾が前部甲板を殴りつけ、12.7㎜弾の雨が乗員たちを吹き飛ばす。せっかくなのでガラス張りの艦橋にも機銃掃射を叩き込むと、瀟洒なガラス細工を思わせる艦橋はいとも容易くぶち割れて、トマトジュースをぶちまけたが如き惨状へと早変わりした。


 そのまま艦首から艦尾へと抜けるように操縦桿を起こし、甲板にありったけの愛と殺意と鉛弾をぶち込んで離脱。背後で駆逐艦が小さな爆発を何度か起こしたかと思いきや、力尽きたように高度を落として雲海の中へと消えていった。


 残り時間―――3分。


 離脱までの時間を考慮すればこの辺が限界か。


 不用意にも前に出てきた敵の複葉機を12.7㎜弾で撃墜し、逆ガル翼を翻す。


「―――タイムアップ」


 敵は残してしまったが、やむを得まい。


 少なくとも厄介な空母を2隻潰し駆逐艦も1隻オマケしたのだ。結果は上々だろう。ヴォイテクだって子の戦果ならば通知表に4くらいはつけてくれる筈だ。


 キャノピー上方に追加された特殊装備―――”マジックコンパス”をチラ見してソーキルのいる方角を確認しながらコルセアを飛ばす。


 マジックコンパスは常に母艦のいる方向を指し示してくれる便利な装備だ。これのおかげで雲の多い空域で滅茶苦茶に飛んでも母艦を見失う事はなく、いつでも帰るべき方向を教えてくれる。


 当たりもしない敵艦の砲撃(やる気ある?)の炸裂音を遥か後方に聴きながら、雲の切れ目を飛んだ。


 タイムリミットまであと1分と15秒……というところで、見慣れたグレーの武装貨物船が見えてくる。


 水上艦の如く船体上がグレー、船体下部が赤に塗り分けられた、自分を水上艦艇だと思い込んでいる飛行武装貨物船『ソーキル』の姿が見える。翼をバンクさせて帰ってきた事を告げると、船体下部のハッチが解放されてクレーンアームが伸びてきた。


 曳航されているトキにぶつからないよう気をつけながら、ゆっくりとソーキルとの相対速度を合わせていく。ちらりと後方を見てみると、トキの甲板ではこっちに向かって手を振っている船員の姿が見えた。


 仇取ったぞ、と快活な笑みを浮かべて手を振り、ソーキルの格納庫の真下へ。


 がごん、とクレーンアームがコルセアを掴み、そのまま艦内へと引き込んでいった。スイッチを弾いて主翼を折り畳み、エンジンを停止。ハッチが完全に閉鎖されるのを待ってキャノピーを開け、コルセアから降りる。


 戦闘配備中だから出迎えは無し。まあ仕方がない。


 飛行服姿のまま艦橋へと向かう。エアロックを通り抜けてタラップを駆け上がり艦橋に向かうと、クラルテとロザリー、それから操縦席に座って操縦桿を握るソコロフの姿があった。


 みんな俺の姿を見るなり、労うような笑みを浮かべて出迎えてくれる。


「どうだ、何隻やった?」


「空母2隻と駆逐艦1隻、艦載機2機」


「空母だァ? つーかすげえなオイ、お前もうウチのエースだよ」


 ヴォイテクにでっかい手でわしわしと頭を撫でられた。ロザリーも「ラウルすごーい! さすが私の旦那様!」と目を輝かせている。


 その時だった。ドパン、と炸裂音が連鎖して、敵艦隊の襲撃を俺たちに教えてくれたのは。


 ぎょっとしながら艦長席の後ろにあるタラップを駆け上がり、後ろ向きに配置されている上部銃座へと転がり込む。艦の後方がしっかりと見えるレイアウトになっている銃座からは、雲の中から現れ必死に追い縋ろうと加速しながら主砲を撃ってくる2隻の駆逐艦の姿が見えた。


 さっき仕留め損ねた2隻だ。


「ヴォイテク、どうする?」


「構わん、このまま気流結節点へ突入する! ソコロフ!」


「ヨーソロー、進路そのまま!」


 ぐんっ、とソーキルが加速した。


 手負いのトキを曳航していてもこの加速である。純正の対消滅機関と現行のレシプロエンジンの間には、隔絶した性能差があるらしい。


 強烈な灰色の積乱雲が迫り、船体が軋む。


 強烈な気流がソーキルの140mの船体を揺るがした。ぎぎぎ、と船体が悲鳴を上げ、操縦桿を握るソコロフが「気流結節点へ突入!」と報告する。


 曳航されているトキの船体が右へ右へと流されていくが、しかし向こうの操縦手も熟練らしい。巧みな姿勢制御で揺れを抑え、ソーキルの尻にしっかりと食らい付いてきている。


 その遥か後方、2隻の空賊の駆逐艦も気流結節点へと突入してきた。エンジンの馬力が気流に抗えるほどのものではないからなのだろう、まるで濁流に押し流される小舟のように揺れに揺れ、砲撃どころか姿勢制御で手いっぱいの様子だった。


 それもそうだろう。


 気流結節点―――浮遊大陸アルカディアの潜む積乱雲は推定での直径が北海道並み、3つの気流が内側へと吹き込むせいで積乱雲が巨大なハリケーンのようになってしまっているのだ。普通ならば避けて通るべき天変地異クラスの危険空域、こんな場所を突っ切れるのは純正の対消滅機関というオーパーツのみ。


 渦の流れに逆らわないよう、ゆっくりと内部へ舵を切るソコロフ。流れに逆らえば如何に純正の対消滅機関であろうと流されてしまう恐れがあるためだ。だから渦の流れには逆らわず、少しずつ左へと舵を切って渦の外縁部から内縁部へと向かわなければならない。


 船体の軋む音が一段と大きくなった。


 曳航しているトキの遥か後方、滅茶苦茶に砲撃しながらなおも追尾してくる駆逐艦の片割れから装甲が剥がれ落ちた。エンジンポッドも脱落し、完全に制御を失って、そのまま気流に浚われて吹き飛んでいく。


 もう、引き返す事も出来ない。


 気流結節点に突入してしまったが最期、アルカディアまで辿り着くしか道はないのだ。引き返そうと無理に反転すれば流れに逆らう結果となってしまい、空中分解する羽目になる。


 それを理解できなかったのだろう、残ったもう1隻の駆逐艦が無理な反転を試みようとして、そのまま気流に押し流されていった。装甲も武装もエンジンポッドも、駆逐艦を構成するあらゆる部品が剥がれ落ち、滅茶苦茶で不規則な回転をしながら空中分解していく。


 やがて―――雲が晴れた。













 その向こうに広がっていた青空と、雲の宮殿。








 擂り鉢状に広がる雲の防壁と、頭上に広がる円形の空。


 





 ここが気流結節点の中心なのだ。







 そしてその中央に浮遊する、巨大な浮遊大陸。







 『アルカディア』。







 世界から棄てられた者たちの最期の楽園は、確かにそこにあった。




亡霊大隊ファントム・バタリオン


 竜人側の大陸落としで故郷や家族を失い、独り身となった兵士たちで構成された部隊。天地戦争末期のワルハワ防衛戦を契機に設立された。ノヴォシア共産党は『復讐心に燃える愛国の烈士たち』として大々的にプロパガンダに利用したが、実際は主力部隊の弾避け、肉の楯として運用される事が多く、あらゆる激戦地に真っ先に投入されては満足な補充もなく大損害を出し続けた。創設時には875名だった部隊も、終戦時には僅か7名のみとなっていた。


 しかし亡霊大隊の兵士たちも死に場所や復讐の場を求めていたため、軍の扱いに対し不満はなかった模様である。むしろその復讐心を動力源とした苛烈極まる戦い方は敵対する竜人側の兵士たちに多大な損害を与え、生存者もPTSDで苦しむほどであり、実際竜人側では『復讐部隊の兵士には気をつけろ』と公式に注意喚起が行われていたほど。


 亡霊大隊には以下のような逸話がある。

・機関銃に10発以上被弾しているのにそのまま突っ込んできた

・火達磨になった兵士が死んだ家族の名前を叫びながら突っ込んできた

・武器を失っても竜人兵の喉を噛み千切って仕留めにかかってくる

・身体に自爆用の爆薬を巻きつけているのが基本で、死を悟ると自爆する

・四肢を失った兵士が這って塹壕に肉薄し自爆してきた

・奪った敵兵の武器と弾薬で戦い、仕留めた敵兵の肉を食って生き延びた兵士がいる

・榴弾砲の効力射を受けていようとお構いなしに突撃してくる

・彼らの攻勢を受け生き延びた竜人の兵士がPTSDになった

・天地戦争で竜人側が被った損害の2%は亡霊大隊によるもの




 なお、これだけの熾烈な戦いをしていながらノヴォシア国内に亡霊大隊の慰霊碑は存在しない。しかしイライナ、ポルスキー両国内には彼らの献身を讃え安らかな眠りを祈念するための慰霊碑が建てられており、戦没者全員の名前が刻まれている。



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