表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/16

実弾訓練、解禁

ラウル「問題です」


エミリオ「バッチコイ」


ラウル「たかし君はリンゴを5個持っています。家に帰る途中で2個食べてしまいました」


エミリオ「たかし君……」


ラウル「するとたかし君の目の前に剣を持った黒騎士が現れこう言いました。【小僧、そのリンゴを寄越せ。さもなくば貴様をこの剣の錆にしてくれよう】。たかし君は言いました。【ハッ、やれるもんならやってみな。そんななまくら、頭突き一発でへし折ってやんよ!】」


エミリオ「ん、流れ変わったな」


ラウル「丸腰のたかし君が黒騎士に勝てる可能性はどれくらいでしょうか?」


エミリオ「たかし君逃げて超逃げて」


 観測歴37994年


 ラウル 9歳







 さて、この世界には『魔法』と『魔術』が存在するのはご存じだろうか。


 どっちも一緒じゃん、と思うかもしれないがこれには明確な違いが存在する。


 魔術はまあ、皆がよく想像する炎を出したり水を出したり闇だったり光だったり地面だったり雷だったり、まあ属性を使った攻撃をするものである。


 ただしもちろん、全員が魔術を使えるわけではない。


 ”適性”という概念が存在するのだ。


 検査装置を使って適性を調べる事で、対象者がどの属性の魔術にどの程度の適正を持っているのかが判明するわけである。


 原則として魔術は1人につき1属性のみ、となる。なのでもし仮に俺が炎属性に適性があったら炎属性だけが使用でき、水とか氷とか雷の魔術は使用できない。


 なぜこうなるのか……魔術の教本には『魔術適性とはその人間の魂に刻まれたものである』と記載があり、まあ生まれつきのものであるのだそうだ。完全に先天性の要素で決まってしまうので、努力したり特殊な装備を身に着けて後天的に伸ばそうとしても大きな変化はない、というのが魔術の常識である。


 そして一方の【魔法】はというと―――はっきり言うと、こちらは()()()()()()()()()()()()()()()


 魔法で繰り出す炎の威力は鉄を溶かすどころか周囲の大気までプラズマ化させ、氷の魔法を繰り出せばその場所は永久凍土となり、風の魔法は大気の流れを大きく狂わせてしまう。


 それだけではない。


 時間を停止させたり、相手の心を読んだり、周囲の物体を浮遊させたりといった魔術の分類に当てはまらない超常的な現象も魔法の範疇に含まれるのだ。


 それもそのはず、この世界の魔術は元々は『第1文明よりも遥か昔に存在した”魔女”たちの魔法を、人間が使用できるようダウングレードしたもの』なのである。


 人間の丈に合わせて劣化させたのが魔術、その原石となるのが魔法、という認識で間違いはないだろう。


 魔法は魔術の適正を持つ人間以上に稀有な存在で、”魔法使い”が検査で判明すれば国は全力でその子を囲い込みに来る。他国に対する抑止力として育てたいのもそうだが、放置していれば一部の魔術師が魔法使いの原石を拉致して標本にでもしかねないからだ。


 ちなみに大昔はこの魔法使いを「異端」として魔女裁判にかけ処刑していた……というどこかで聴いた事のある話もあったらしい。


 どうやら『自分と違う』という下らない理由でそこまでヒステリーになれる点においては、異世界人と前世の世界の人間はそれほど大差がないようだ。


 というわけで本日、9歳になったラウル君も孤児院にやってきたスパーニャ王国魔術省の人に適性を見てもらえる事になったわけなのだが……。


「あー……これは」


 銀のナイフで薄く切り裂いた指先から滴る血をプレパラートに乗せ、その上に試薬を垂らした”適性検査官”は期待外れとでも言いたげな態度を隠すつもりもなく、まあそんなニュアンスを込めて堂々と言い放ちやがった。


「……氷属性に微弱な適性がある程度、か。Eランクだねコレは。うん」


 お、おう……。


 Eランク……適正はランク付けされているのだが、その中でも最底辺に位置するランクである。


 一応は魔術は使えるが、どう足掻いても初歩的なレベルで精一杯……という、本当にクソほども役に立たないレベルだ。


 おうふ、と落ち込みつつ、ちゃんと「ありがとうございました」とお礼を言って踵を返すラウル君。狼のケモミミもぺたんと倒れ、全身全霊で落胆を表現する(※獣人は本音がケモミミや尻尾に現れてしまうため表情豊かな種族として知られる)。


 せっかく異世界転生したんだしここで「お、お前その適正は……そんな馬鹿な、こんなの有り得ないッ!!」からの周囲ざわざわ、そこから始まるチート無双を期待していたのだがマジで何なんだろうかこの世界は。転生したら孤児だし戦争中だったし一日二食だし男の娘だしなんか今にも某ソビエトデスヒグマに尊厳破壊されそうな気配がプンプンするんだけど。


 待て、やめろ。俺を某ミニマムサイズハクビシンの二の舞にするんじゃない。俺から尊厳を取り上げたら何が残るって言うんだ。


 脳裏にうっすらと浮かぶ、目元に黒い修正の入った身長150㎝のミニマムサイズハクビシン獣人男の娘(属性の過剰積載)。やめろ近付くな、俺のそばに近寄るなァーーーーーッ!!!


 などと己の身に降りかかるであろう災難を予見しつつも庭に出て、憂さ晴らしに自作カカシを殴る、蹴るの暴行を加える。


 一通りカカシをボコっていい汗かいたところで、踵を返し部屋に戻ろうとして……弟分のエミリオと目が合った。


「……なんだよ」


「ヒッ……な、なんでもごじゃいましぇん……」


 ぽん、とエミリオの頭に手を置き、俺はそのまま孤児院の外へ。


 「どこ行くのさ?」と後をついて来ようとしたエミリオに「ん、ちょっと散歩」とだけ言い残して、孤児院の敷地を出た。


 まったく、何を期待してたんだか。


 チート能力に魔術適性まであったら鬼に金棒だよなぁ、なんて思ってたが、現実はそう甘くない。先天的な要素で全てが決まってしまう以上、この適性と上手い事付き合っていくしかないのだ。


 空を仰ぐと、遥か彼方の雲の下を2隻の空中巡洋艦が飛んでいた。ここからではシルエットでの判別すら難しく、「あーなんか飛んでるわ」程度の解像度だが、おそらくは復員船か何かだろう。戦後処理は1年やちょっとで終わるものではない。


 何せ100年間も続いた大戦争である。その()()()()もさぞ大変なのだろうな。


 他人事のように思いながら廃村への道を歩いていると、向こう側からガタイの良い子供×2が木の棒を持って走ってきた。


 アイツら確か……アレだ、近所で有名ないじめっ子だ。


 孤児院の弟分共も「世話」になったらしい。


 だがまあ、いきなり殴りかかるのもちょっと大人げないというか、大義名分ナシに仕掛けたら後で叩かれるのは俺なので向こうから手を出してこない限りは放置しておこう。手を出されたら徹底的にやるけども。


 まあ何事もないのが一番さ、と気楽に構えて口笛を吹きながら隣を通り過ぎようとすると、いじめっ子の太い方が足を止めてこっちを見た。


「あ、おいアイツ。あの狼女」


 男 だ っ つ ー の 。


「ん? あれ確か……あ、孤児院のビンボー人じゃねーか!」


「ぎゃははは! ああ、そうだな! 着てる服もボロボロだからすぐわかったぜ!」


 呑気なもんだな。


 2年前まではどいつもこいつも貧困の真っ只中、明日食べるパンにも難儀していたというのに今はこれだ。


 まあ、世の中がそれだけ安定してきたという事だ。少なくとも裕福さで相手にマウントを取れるだけの心の余裕が生じた裏返しなのだろう。良い事……ではないか。


「オイ、無視すんなよ」


「ん、ああゴメン。俺に向かって話してたのか」


 肩を掴んできた手を虫でも払うように払い除けながらそう返す。


 笑顔を浮かべ、なあにラウちゃんに何の用かなぁー、みたいなノリを崩さない。


 そんな余裕が癪に障ったのだろう、太っている方のいじめっ子が顔を近づけ唾を飛ばしながら叫ぶ。


「なんだよおめえ、ナマイキだな!!」


「ちょ、唾飛ばすなよ」


「あぁ!?」


「あのさ、悪いけど俺忙しいからさ。この辺で終わりにしようぜ。な?」


「うるせえ! おいお前、ちょっとこっち来いよ」


「貧乏人が俺たちに逆らったらどうなるか教えてやるよ!」


 あー、めんどくせ。


 孤児院から少し離れたところの廃屋に連れ込まれるなり、胸倉を掴まれる。


「逆らった罪だ、持ってるもん置いてってもらおうか?」


「いやいや、そう言われてもね。ガキの小遣いくらいしか持ってないんだってば」


 ()()の帰りに何か、おやつになりそうなものを弟分とか妹分に買って帰ろうかなぁ、と思ってたので少し金はある。小銭ばっかりだけど。


 それ取られるのは嫌だなぁ、少し抵抗するかなぁ。


 痩せてる方のいじめっ子がポケットの中に手を突っ込んで財布を抜き取ろうとしたので、手首を掴んで軽く捻ってやった。


「いででででで!!」


「なっ……おいてめえ、何やってんだよ!!」


 胸倉を掴んでいる手をそっと包み込むように握り、力を込める。


 握力が予想外のレベルだったのだろう、太っている方のいじめっ子の顔がブルーベリーみたいに青くなった。


 こんなでっぷり太ったブルーベリーの品種ってあるのかな、と思いながら彼の頭を掴んで引き寄せ、耳元でASMRの如く囁く。


「正・当・防・衛♪」


「なっ……」


「ねえ……どうするのお兄さん?」


 ふう、と吐息を吹きかけつつ、手に力を込めた。


 びくりと身を震わせるいじめっ子だが、それが女性声優が演じる少年役みたいな感じのラウル君ボイスと吐息をASMRの如く喰らった結果なのか、それとも単純に痛いからなのかは定かではない。


 爪が食い込み、血が滴る。


「やめちゃう? それとも……もっと凄いコト、しちゃう?」


「ひっ、ひぃぃっ!!」


「ねぇ……いいよぉ。ラウ、お兄さんが相手なら……イけるとこまでイっちゃお?」


「ば、馬鹿馬鹿馬鹿! いたっ、や、やめっ!」


 手を離し、大慌てで逃げていくいじめっ子。


 痩せている方のいじめっ子も慌てて廃屋を飛び出し、昼下がりの道を全速力で転がるように走っていった。


 そんな後ろ姿を見ながら、えっちなお姉さんになり切ったつもりで指先に舌を這わせる。


 なんかその……声帯に生息している”二頭身ラウル君”が勝手にえっちなセリフを選んで発してしまったけど、誤解がないように言っておくがアレ身体を許すわけじゃないからね? もっと凄い事=ガチでボコすぞって意味だからね?


 いやぁー……あいつらの性癖壊れてないよね、大丈夫だよね?


 それにしても何故今になって転生前にプレイしていたエロゲのセリフが出てきたのだろうか。違うよね、今明らかにそういう場面じゃないよね?


「はぁ……」


 まあいいや。


 ちらりと外を見た。


 孤児院からだいぶ離れたところに連れ込まれたが……いや、むしろ好都合か。


 ここで実弾射撃、やってしまおう。


 どうせ人も滅多に立ち寄らない場所だ。


 メニュー画面を召喚し、武器の一覧を表示。ずらりと並ぶ武器の中からこの前新たに生産したアメリカのアサルトライフル―――『M16A5』。


 長大な銃身と黒い銃本体、そしてハンドガードやレシーバー上に搭載されたギザギザのレール―――”ピカティニー・レール”が目を引く。


 ベトナム戦争中から脈々と受け継がれてきたM16シリーズの最終形態とも言える代物だ(とはいえM16A5というのは正式な名前ではないが)。


 使用弾薬は5.56×45㎜NATO弾。AK-47などが使用する7.62×39㎜弾と比較すると至近距離での威力は劣るが、弾道がフラットで離れた敵にも当てやすく、反動も小さく、そのおかげもあって命中精度の向上にも寄与している。


 ベトナム戦争で活躍したこの小口径アサルトライフルが、ソ連に対しアサルトライフルの小口径化という方向へ舵を切らせたのは有名な話だ。あの時点で現代的なアサルトライフルの最適解の原型は概ね出来上がっていたと言ってもいいだろう。


 30発入りのSTANAGマガジンを手に取り、それをそっと装着。セレクターを安全装置(セーフティ)の位置からセミオートに入れ、チャージングハンドルを引いて初弾を装填する。


 これであとは引き金を引くだけで発砲できる状態になった。


 息を吐き、銃を構え―――引き金を引く。


 ダンッ、と装薬の咆哮が響いた。


 ストック越しに肩を殴る反動(リコイル)の感触。身体が大きくなったうえに鍛えているとはいえ9歳の子供には大きいんじゃないかな……と思っていたが、セミオートで撃つ分には思いのほか大きくはなかった。


 ドンッ、と肩を突かれるくらいのものだ。


 発射された5.56㎜弾は廃屋の壁に弾痕を刻みつけ、その破壊の痕跡を俺に見せつけた。


「お……ぁ……!」


 エアガンを弄るばかりだったが……これが”本物”の銃か。


 その威力に驚く一方で、思う。


 ―――現代兵器があれば魔術とかいらなくね?


 魔術を使えばそれ相応の魔力を体外へ放出する事になるから、それで察知される恐れがある。しかし銃を始めとした現代兵器は魔力に依存しない、合理性を追求した代物だ。それでいて訓練さえ受けていればその破壊力を存分に発揮できる。


 魔術適性なんざクソ喰らえ、だ。


 いいじゃあないか。


 俺はコレの使い方を磨く。


 見様見真似でも、手探りでも何でもいい。せめて現代兵器を必要最低限、使えるレベルまで己を訓練する。


 そうでもしなければ―――きっとこの苛酷な世界では生き延びられない。




浮遊大陸


 この世界に存在する空に浮かぶ大陸の総称。サイズはバラバラで、最小で小島サイズほど、最大でも南米ほどの大きさの大陸が空を飛んでいる。浮遊している高度もバラバラで、最高で高度1万mを飛行していた大陸も発見されたが、一部の文献には『空の遥か彼方、成層圏を飛んでいる大陸を見た』という事例も散見されるなど謎が多い。


 浮遊大陸の中心部には『賢者の石』と呼ばれる紅色の結晶(※不活化時→蒼、活性化時→紅)が存在しており、これが重力に干渉する事で大陸を浮遊させるほどの力を生み出しているとされている。しかしながら現代においてはどういうメカニズムでそのような力場を発生させているのかは解明できていない。

 また浮遊大陸には同時に大陸固有の重力も発生しているため、大陸に接近しすぎると惑星の重力に引っ張られるように空中艦が「引き込まれる」事もある。そのため航空機や空中艦には浮遊大陸の重力圏を振り切る事が出来るだけの推力が求められる。


 一般的に浮遊大陸は竜人たちの生活圏となっており、大気が薄い環境や重力が強い環境で育った彼らは総じて獣人よりも優れた身体能力を発揮するとされている。


 天地戦争中は竜人たちの手により、不要と判断された浮遊大陸を攻撃目標の上空まで運搬し意図的にコアを破壊、地上へ大陸を落下させる【大陸落とし】作戦が何度か行われた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ラウル君、魔力適性審査の段階で無自覚にミカチュウとソビエトデスヒグマを意識してますねえ。やっぱりこのシリーズの主人公は素質があるんやなって… 文明が逸失しつつあるということは、つまり徒手格闘術も失わ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ