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強盗作戦:キケロー伯爵

どうでもいい話


ヴォイテクは最近、新入りがみんなARやらグロックやらを装備しているのでAK派として危機感を抱いている。


 ついにこの日がやってきた。


 消防士のヘルメットをかぶり、顎紐をきっちりと締める。耐火服に隙間がないか確認して消防車の助手席に乗り込んでシートベルトを締めると、運転席に座ったクラルテがキーを捻ってエンジンをかけた。


 何気なくダッシュボードを開けてみると、中にはアメリア語で記載された車検証がある。この消防車はきっと、天地戦争の後になってアメリア側から寄贈された車両なのだろう。今の浮遊大陸ではガソリンで動く車はそう多くないと聞いている。


 竜人たちのかぶるヘルメットには角を通す穴と、角を防護するプラスチック製っぽいカバーがあって、正面から見るとまるで戦国時代の大名の兜みたいになっているのが特徴的だった。いくら竜人の身体が頑丈とはいえ燃えながら落ちてきた瓦礫に頭を打たれればただでは済まないし、何かの間違いで角が折れるような事があれば脳に障害が残ってしまう。しかし角が邪魔で普通のヘルメットをそのまま使う事は出来ない……という竜人特有の身体的特徴を考慮して設計されたのがこのヘルメットなのだろう。


 幸い角の形状には大きな個人差は無いようで、ユリウスもロザリーも問題なくヘルメットを装着しているようだった。


「知ってるか、ラウル」


 後部座席に座り、消防斧の柄をトントンやってたユリウスが、ガソリンエンジンが唸る車内で静かに言った。


「ごく稀にな、竜人の角は折れても再生する事がある」


「そうなのか」


「ああ。医学的には骨芽細胞の暴走によって引き起こされるらしくてな。でも元の形に再生するって事はほぼなくて、捻じれたり枝分かれしたりして悪魔の角みたいになるんだ。この角は竜人にとっては戦士の証、種の象徴みたいなものだが、そんな悪魔みたいな角になっちまった奴は”悪魔憑き”なんて呼ばれて忌み嫌われる」


 種の象徴、誇りが一転して迫害の対象になってしまうとは、竜人にも色々と大変な事があるものだと思わされる。


 自分たちと違う、という事が受け入れられない人間というのはどこにでも一定数存在するものだ。


 だからなのだろう、ユリウスは折れた自分の角をペンダントにして、お守りのようにいつも首に下げている。


《―――あー、あー、聴こえるかな強盗諸君?》


 無線機から聴こえたのはソコロフの声だった。


 今回の作戦にあたり、無線機の投入が決定した。人数が増え、意思疎通を円滑に図るためという事だ。まあ確かに撤退のタイミングは屋敷内で強盗やってるこっちからすると図り辛い事ではあるのでありがたいといえばありがたい。


 無線機の親機はソーキル艦内にあり、艦の周囲であれば無線での通信が可能との事だ。通信可能範囲は、通信中継ドローンを周囲に展開させる事で多少は拡張できる……らしい。


《今しがたドローンから火炎瓶を投下、キケロー伯爵の屋敷に火がついたところだ。周辺住民からの通報もそろそろあるだろう。現場に向かってくれ》


「了解」


 頼む、とクラルテに言い、消防車を出してもらった。


 さて、消防署から通報を受けて駆け付けた本物の消防士が来たらどうするのかと思うかもしれないが、そこは対策済みだ。既に消防署へと繋がっている電話線は切断してあるので時間を稼げる。


 とはいえ騒ぎが大きくなって火事が消防署の知るところとなり、応援の消防車が投入されるというイレギュラーは十分に考えられる。そういう意味でも時間をかけるのは好ましくない。この作戦は迅速に実施する必要がある。


 カチ、と運転席にあったスイッチを弾き、サイレンを鳴らすクラルテ。赤い警報灯がひっきりなしに点灯するなり、けたたましいサイレンと共に消防車が現場へと爆走していく。


 キケロー伯爵の屋敷からは、確かに火の手が上がっているのが確認された。火元は厨房、火の不始末に見せかけられるので放火が疑われる事はないだろう。


 現場に到着するなり、消防車を正門の前に停めて外へと降りた。消火器をいくつか消防車から取り外し、「消防です、道を開けてください!」と竜人語で叫び大声を張り上げ、使用人たちを押し退けて屋敷の中へと向かう。


 途中、私兵たちに護衛されたキケロー伯爵らしき人物と目が合った。寝間着姿で髪は乱れ、いつも議会で獣人との再度の開戦を主張する威厳はどこにもない。


 しきりに「私の屋敷が、屋敷が!」と叫んでおり、火事が起こったというだけでも相当堪えている様子だった。


 いい気味である。


「メルキア消防署です、建物内にはもう誰も残っていませんね!?」


 私兵の1人に問いかけると、私兵は必死に頷いた。


「あ、ああ。火元は厨房だ、急いでくれ! 中には伯爵のコレクションが……!」


「お任せください、さあ早く避難を!」


 私兵たちに避難を促す。伯爵のヒステリックな声が遠ざかっていくのを背中越しに聞きながら、正面玄関から堂々と屋敷の中に入った。


 防火設備とか消火装置みたいなものは備え付けていなかったのだろうか、と貴族のガードの甘さを心の中で指摘している間に、最後尾のロザリーがマボガニーの大きなドアを閉じ、ポケットから取り出した結束バンドで黄金のドアノブをしっかりと結ぶ。


 これで外側からは開かない。逃げる時は裏口だ。その頃には銀行で裏金を盗み終えたヴォイテクが、車で迎えに来ている手筈になっている。


「ソコロフ、第一関門はクリア」


《いいぞ、後は手筈通りに》


「了解。艦長の方はどうなってる?」


《問題ない、あの人はプロだ。想定したタイムラインよりも早くコトが進んでいる》


「……了解、こっちは仕事に取り掛かる」


 心配する必要なんてないな、むしろこっちがしっかりやらないと。


 やるぞ、と仲間たちに目配せし、バックパックから隠していたAR-57を引っ張り出す。セレクターを弾いてセミオートに入れ、コッキングレバーを引いて初弾を装填。


 手筈通り二手に分かれる事にする。俺とクラルテが2階で盗み、ユリウスとロザリーが1階で火元の消火を行いつつ1階を物色する手筈だ。


 準備を終えるなり、俺とクラルテはダッシュで階段を駆け上がった。


 踊り場の所に犬型の戦闘人形(オートマタ)がいたので起動前に5.7×28㎜弾を叩き込んで黙らせる。ボディアーマーも貫通する弾丸を喰らえばいくら戦闘人形(オートマタ)でもただでは済まないようで、スチームパンクを題材にした映画に出て来そうな、どこかレトロフューチャーな感じの姿をした犬型戦闘人形はそれっきり動かなくなった。弾痕から溢れたオイルが血のように広がる。


 ドアを蹴破り、寝室の中へ。


 やはりそうだ。よほど大慌てで逃げ出したのだろう、金庫もそのままだ。枕元には小さな宝石箱があるが、ダイヤル式の暗証番号を入力しなければ開かない仕組みになっているらしい。


 確かキケロー伯爵の誕生日は3月17日だったから……試しに”0317”と入力してみたらあっさりと宝石箱が開いた。


 中からはルビーやサファイア、エメラルドにダイヤモンドをふんだんに使った指輪やネックレスが。こりゃ凄い、見た目の割にずっしりした重さがある……宝石以外の部分は純金か?


 うひょひょコイツはすげえ、悪人から盗んだ金で食う焼肉は実に美味かろうとそれこそ悪人みたいな思考回路を働かせ、盗品をバックパックに詰め込む俺の後ろでは、相変わらず徹甲弾が戦車の装甲を貫通する(抜く)ような音がした。


 振り向くまでもない。どうせクラルテが思い切りパンチして金庫をぶち破っているのだろう、そうに決まっている。


 デカい女が馬鹿力持ちで素手で金庫を破壊するのは最早一種の伝統なのだろうか。嫌だよそんな伝統芸能、もっと穏健なのにしようよと思いつつ部屋を物色。枕元に置いてある時計も純金製っぽくて割とずっしりしていた。金メッキでは出せない重みであるのでバックパックに収めて隣の部屋へ。


 金の延べ棒を片っ端からバックパックに詰め込んだクラルテも少し遅れて合流。キケロー伯爵夫人の部屋も同じように物色し、宝石類を片っ端から盗んでいく。


 部屋の中には絵画もあった。額縁の中に収まっているのはサーベルを掲げる竜人将校の絵画で、背景では綺麗な編隊を組んだ飛行機と空中艦が飛んでいる様子が描かれている。


 政治的意図に塗れた、如何にもタカ派の貴族におあつらえ向きなものだ。相場は分からんが金にはなりそうだし、盗む事に意味がある作戦なのでそれも持っていく事にした。額縁からガラスカバーを外して絵画をナイフで切り取り、丸めてバックパックの中へ。


 パシュシュ、と発砲音。視線を向けると、部屋から半身を乗り出して通路を警戒していたクラルテが発砲したらしかった。重々しく崩れる音も聴こえたので、おそらく犬型戦闘人形目掛けて射撃していたのだろう。


 次は書斎だ、とクラルテに短く言いながら室内をクリアリング。書斎の中には2体の犬型戦闘人形がいて、口の部分にある鋭いナイフ状の牙で飛びかかってこようとしたが、いくら何でも遠すぎる。それなりに訓練した人間であれば照準を合わせ引き金を引けるほどの猶予があった。


 胴体に向かいAR-57を射撃、射撃。胸板を撃ち抜かれ崩れ落ちた2体の番犬の頭にトドメの一撃を叩き込んで黙らせ、書斎の中を物色し始める。


「クラルテは本棚を。俺は机を見る」


「分かりました」


《ラウル、そっちの様子は?》


「上々だ。上手い焼き肉が食えそうだぞ。そっちは?」


《宝物庫の鍵を手に入れて今室内を物色中だ。そろそろバックパックがパンパンになる》


「そりゃあ楽しみだ」


《うふふ、これなら100人養える……♪》


 怖い、怖いよロザリー。


《ヴォイテクより各員、こっちは終わった。今から迎えに行く、到着は2分後》


《ソコロフより各員へ、駐屯地に動きあり》


「了解した。ラウルより各員、タイムリミットは2分だ」


 予想より憲兵の動きが早い。


 まあ、有能な指揮官でもいたのだろう。こっちがやられて一番嫌な事を、一番嫌なタイミングで、一番嫌なだけやってくるというのは紛れもなく有能な敵である証拠である。


 書斎の机の引き出しには何やら書類が保管されていた。議会での資料や議事録、他の貴族との私的なやり取りが事細かに記された手紙の数々。


 そんな引き出しの中に1つだけ、鍵のかかっている場所があった。


 鍵を探すが見当たらない。


 タイムリミットはそろそろ1分を切る。


 ええい、と悪態をつきながら、引き出しに向かって思い切り消防斧を叩きつけた。瀟洒なデザインの机の引き出しに無粋な傷がつき、大きく抉れた場所から指を差し込んで開錠。引き出しを無理矢理こじ開け、中身を確認する。


【人身売買ビジネスについて】


「……おいおい」


 とんでもねえものを掘り当ててしまった気分だ。


 手紙の中身を見てみると、どんどん胸糞悪い気分になっていくのが分かった。この手紙の内容によると、どうやらキケロー伯爵は獣人、竜人問わずに戦災孤児を攫ってきては奴隷にして売り捌いたり、臓器売買にも手を染めていたらしい。


 これは地上でも浮遊大陸でも共通だが、奴隷という制度自体は存在する。しかしそれは刑罰の中に含まれる『人権剥奪刑』を言い渡された罪人のみが落ちる身分であり、厳正な法の裁きを経て初めて罪人は人権で一切の保証を得られない()()()()()()()に成り下がる。


 だからこうやって、身寄りのない子供たちを勝手に奴隷にしてビジネスを展開するのはれっきとした違法行為だ。


 手紙のやり取りをしている相手もまともではなかった。浮遊大陸の竜人ギャングに娼館の総支配人、麻薬カルテル……表では天地戦争の英雄を気取っておきながら裏ではこれか。本当に反吐が出る。


 人間社会の汚い部分を見てしまったようだ。


 中にある手紙を全部バックパックの中に押し込んで、懐中時計を確認した。


「タイムアップ」


「離脱しましょう」


 頷き、廊下を走った。撃破した犬型戦闘人形を飛び越えつつ、ヘッドセットのマイクに「階段から降りる。撃つなよ」とユリウスに告げてエントランスへ。


 周囲を警戒していると、ユリウスとロザリーもやってきた。バックパックはパンパンに膨らんでおり、ロザリーのバックパックからはおさまりきらなかったのであろう丸めた絵画がいくつか飛び出していて、まるで平成初期のオタクみたいな感じになってるのちょっと草生える。


 行こう、と目配せして裏口へ。ドアを静かに開けて裏庭へと出るなり、格子を施錠していた南京錠を消防斧でぶっ壊して強引に開錠、敷地の外へ。


 既に裏にある路肩には見覚えのないピザ配達のバンが停車しているところだった。運転席に見覚えのあるデスヒグマが座っているのを見て、後部座席へとぞろぞろと乗り込んでいく。


 バンバン、と叩いて車を出すように指示し、バンが静かに現場を離れ始めた。


「上出来だよお前ら。よくやった」


「……なあ、ヴォイテク」


「ん」


「核爆弾級のやべえもの手に入れちまったんだけどさ」


 そう言いながら、盗んできたキケロー伯爵の例の手紙をヴォイテクに渡した。


 ハンドル片手に運転しながら手紙を素早くチェックするヴォイテク。


 その顔が、嫌いな奴への最高のイタズラを思いついた悪ガキのように歪んだのは言うまでもない。




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― 新着の感想 ―
やっぱり好きなんすねえAK、それ以外にもPKMとか使ってましたし。こうなるシリーズでデスヒグマが西側の銃器を使っていたら…いや結構使ってましたっけ。必要に応じては。 宝石や金貨以上にヤバいものが見つ…
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