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作戦決行前日

どうでもいい話


チャンさんは麻雀で未だ無敗。


 サイレンを鳴らしながらやってきた消防車に、これ以上ないほど大きく手を振った。それこそ右腕が方から外れて、思い切り吹っ飛んでいくんじゃないかってくらい。


 真っ赤な塗装の消防車が停車して、中から耐火服とヘルメットに身を包んだ消防士たちが降りてくる。ヘルメットには角を通す穴とカバーがあって、腰の後ろには尻尾を防護するための大きなカバーがあるのが特徴的だった。


「あの、火事はいったいどこで?」


「こっちです、そこの路地の裏で―――」


 さすがに煙もなく、何かが燃えている気配もなければ怪しむだろうけれど、その疑問を抱いた頃にはもう既に何もかもが遅かった。


 次の瞬間には空気の抜けるような音と共に麻酔弾を撃ち込まれ、消防士たちは次々に眠りへと落ちていったのだから。


 ずるり、と崩れ落ちた消防士の後ろから、サプレッサー付きのグロック40を構えたラウルの姿が現れる。


 やっぱりラウルはカッコいい。銃を構える姿は様になるし、まるで映画俳優みたい。動きはもう軍人のそれのようだけど所々にぎこちないところがまだ残っていて、それが初々しさを感じさせて非常にいいアクセントになっている。


 願わくば早く仕事を終わらせて大金を稼いで、ラウルをぶち犯……げふん、激しく愛し合って子供を育てたい。


 うふふふふ、なんて笑いながら消防士たちの身体から耐火服を脱がせていく。ラウルが何かを感じ取ったようで顔を青くしながらこっちを見てくるけど、ラウルも楽しみなんだよね? だってこれから貴族の屋敷に盗みに入るのよ? お金どれくらい稼げるか、予想もできないじゃない。少なくともちまちま冒険者の仕事をしているよりははるかに稼げるだろうし、そうなれば子育てに十分な金額も集まるわよね?


 楽しみだなぁ……昨日の夜、ラウルとの子供につける名前を37人目まで考えてたの。男の子でも女の子でもどっちでも問題ないわ、両方のパターンで名前を考えてたから。うふふ、ママに死角はないのよ♪


「……ちょっとサイズ大きくね?」


「これから大きくなるんだから1サイズ大きめでいいんじゃない?」


「いや子供の服じゃなくて」


 ともあれ、第一段階はこれでクリア。


 服を脱がしパンツ一丁にされた消防士たちの手足を縛って路地裏のゴミ箱の中に隠し、消防車に乗り込んだ。


 ここは聖都メルキアの西側に広がるスラムの外れ。人は殆ど住んでいないし、スラム街の住人がゴミを漁りに来る事もない。だから消防士たちが目を覚ましたとしても通行人に発見される可能性はそれほど高くはない……というのが兄さんの見立てだった。


 運転席には既にクラルテが乗り込んでいて、サイレンを消しシートベルトを締めているところだった。


 私とラウルは後部座席に、兄さんは助手席に乗り込んだのを確認するなり、クラルテは消防車を走らせ始める。


 ドライブすること10分と少し。聖都メルキア郊外にある廃業になったガソリンスタンドが見えてきたので、クラルテはそこへと消防車を入れた。洗車機の奥の方に車両整備用の大きなガレージがあり、そこにバックで消防車を停車させる。


 メルキアにはこういう廃業になったガソリンスタンドが多い。


 天地戦争の前までは普通に営業していた、という話は聞いた事がある。浮遊大陸は地上と違ってリソースが限られていて、化石燃料の埋蔵量も決して多くはないから、多くは地上から、もしくは石油がたくさん眠っている資源用の浮遊大陸からの輸入に頼っていたんだけど、戦争が始まってそれらが軍艦の動力に優先的に回されてしまった結果、民間にまで出回る事が殆どなくなってしまいガソリンスタンドは多くが廃業してしまった。


 車はガソリンから石炭で動くモデルへ、そして石炭すら入手できなくなってくると魔力で動く車に代替され、化石燃料で動く車というのは今でも浮遊大陸では稀少な存在になっている。まあ、終戦後から地上で作られた車が浮遊大陸にも輸入されるようになっているから見かける機会は増えたけども。


「やあ、ご苦労さん」


 ガレージの中で待っていたのは、紺色のツナギ姿の獣人男性だった。胸元には三日月みたいに白い体毛がある熊型の第一世代獣人。確かソコロフだっけ。古株で、私たちやラウルたちがギルドに加入する前までは一番の若手だった彼。今では中堅ギルドメンバーとしてギルドを裏方で支えている苦労人、という印象が強い。


「消防車の方は任せてくれ。こっちで細工しておく」


「頼んだ。偵察の方は?」


「艦長がやってる。本番の際は俺がオペレーターやるから、そん時は俺の指示に従ってもらうからな、ラウル」


「了解……って、オペレーターはヴォイテクじゃないのか?」


「それがな……調査の結果、メルキア西部銀行にキケロー伯爵の裏金がある事が判明してな。屋敷への襲撃と並行してそっちを艦長が単独で襲う事になったんだ」


「Oh……経済的に殺しにかかる気か」


「向こうだってこっちを殺しにかかってきたんだ、命を奪われるか金を奪われるかの違いさ。そうだろ兄弟」


「それはそう」


「何? つまり収入増えるって事?」


「そ。おまけにキケロー伯爵の泣きわめく顔も拝めるかもしれないって事」


「じゃあ子供100人産んでも大丈夫って事?」


「ん、何待ってどういう事?」


 うふふー。ラウルの子供が100人……うふふー、愛の結晶がいっぱい。


 うおやっべよだれ出てきた……楽しみだなぁ強盗。


















 偵察はヴォイテクやソコロフがやってくれるので、俺たちがやるべき事といったら仮の拠点となるこのガソリンスタンドで待機しつつ訓練、アップデートされる情報を頭に叩き込んで作戦計画を練って……という毎日を送る事だ。


 なのでしばらくチャンさんの絶品中華にはありつけない……と思いきやそんな事はなく、一日三食キッチリとチャンさんがバイクで配達に来てくれる。今日も昼食の卵チャーハン美味しかったです。ありがとうチャンさん。


 5.7×28㎜弾を1発ずつ、P90用の50発入りのマガジンに装填したのを確認してから、それを傍らに置いてあるAR-15みたいなライフルのハンドガード上部に沿うように装着。レシーバー左側面から突き出ているコッキングレバーを引いて初弾を装填する。


 AKがそうであるように、資本主義の顔ともいえるARライフルの種類も豊富だ。西側各国の事情に合わせた派生型だけに留まらず、アメリカ国内の銃規制に合わせた派生型など、下手したらAKよりも奇抜なものが多い(前装式のARがあると聞いた時はさすがに耳を疑った)。


 多分この銃もそんな”奇抜な銃”の中にカウントされるのだろう。


 今回の強盗作戦用に選定したメインアームは【AR-57】。


 P90用のマガジンと、独自規格弾薬である5.7×28㎜弾を使用するためのARライフルの1つであり、ハンドガード上にP90のマガジンをそのまま装着する事で使用する事が可能となる。本来STANAGマガジンを差し込んでいる場所はエジェクション・ポートとして機能する事になるが、ここに空のマガジンを差し込んだりすれば薬莢受けとして使用でき、現場に空薬莢を残さずに済む。


 俺が着目したのはまさにその点だった。


 自衛隊の訓練みたく、エジェクション・ポートの近くに薬莢受けを取りつければいいのだが、実戦でそんなものは邪魔にしかならない。しかしAR-57であれば空のマガジンをいつものノリで差し込んでおけばいいので、嵩張るような事もないのだ。


 本来は民間用なのでセミオート限定だが、BRN-180で学んだようにロアレシーバーはM4A1のものを組み込んでいるため、問答無用でフルオート射撃が可能となっている。


 強いて問題点を挙げるならば、ハンドガード上部をP90用のマガジンが占めてしまっている点だろうか。そのせいでレーザーサイトをマウントするスペースが側面か下部しかなく、光学照準器を乗せられるスペースに大きな制限が課せられてしまっている。


 そのためホロサイトとブースターのような組み合わせをマウントするのは不可能になってしまっているが……まあ、今回は室内戦を想定しているのでそんな狙撃するような機会はないだろう。割り切ってしまえば問題ない。


 まあそのなんだ、アサルトライフルなのか個人防衛火器(PDW)なのか機関短銃(SMG)なのか分類に困る小銃だが、一応俺の能力では分類上はPDWだった。使用弾薬のせいなのだろうか?


 ガソリンスタンドの廃倉庫の中に持ち込んだ的を狙い、引き金を引いた。


 サプレッサーを装着した銃口から5.7㎜弾が吐き出され、人の姿をした的の眉間を正確に直撃する。


 装薬量の関係なのか、5.56㎜弾よりも反動はマイルドに感じた。撃ちやすく、それでいて近距離ではボディアーマーの貫通も見込めるほどの威力がある。


 PDWとはそういうものだ。


 元々は砲兵とか補給部隊とか、後方で活動する部隊が万一敵と遭遇してしまった場合に使用する自衛用の火器がPDWである。従来の小銃よりも小型・軽量で取り回しに優れ本来の役目を阻害しない程度のもので、尚且つ拳銃やSMG以上の威力、貫通力を備えたものという要件のもとに生まれたのがこれだ。


 要するに『貫通力の高い専用弾薬を使うSMG』という認識で良い。兵器としてはアサルトライフルとSMGの中間、といったところだ。


 俺のAR-57はいつも通りのハンドストップとドットサイト、それから伸縮式のPDWストックを装備している。サプレッサーをそうちゃくしているが亜音速(サブソニック)弾を使用する予定はないので静粛性は限定的になるだろう。


 薬莢受け用のマガジンも用意しており、60発入りの空マガジンを装着している。傍から見ればアサルトライフルにしか見えないだろう。P90用マガジンが50発入りだから、再装填(リロード)のタイミングでこっちも交換する必要が出てくるが……まあ、正面突破みたくバカスカ撃つわけではないので問題にはならないだろうと割り切った。


 今回は全員が同一仕様の小銃で作戦に挑む事になる。


 訓練用に用意したマガジンを撃ち切り、俺はそっと銃口を下げた。


 作戦開始の時は近い。


















 薄汚れたテーブルの上に、ソコロフがドローンで撮影してくれた空撮写真をいくつも並べた。その隣にはヴォイテクがどこからか入手してくれたというキケロー伯爵の屋敷の間取り図も用意されている。


 どうやって入手したんだと問い詰めたら「警備責任者が不倫してたので妻にバラされたくなかったら……わかるな?」と脅したのだそうだ。一夫多妻制が認められている世界でも、特に伴侶との一対一の付き合いを重んじる竜人社会では合法でも裏切りに等しい行為として大きな減点対象になるらしい。まあそうでなくても不倫はNGなのだが。


 クラルテが次々に写真を並べていく。窓からドローンで撮影した写真によると、屋敷の中には絵画や彫刻といった美術品、宝石類が保管されているようだ。美術品はいまいち相場が分からないし贋作が紛れ込んでいる可能性もあるので、優先的に狙うのは宝石類でいいだろう。


「当日はソコロフがドローンで放火するそうだ。放火するのは厨房のある北側の1階。ここなら厨房での火の不始末による出火という形で自然な火事を装える」


 ユリウスの発言に、腕を組みながら頷いた。


「写真を見る限り、宝石類は伯爵や伯爵夫人の寝室に集中しているようだ。さすがに火事ともなれば悠長に金庫を開けて避難している時間はないだろう、宝石類を持って屋敷から退避する余裕はない筈だ」


「では予定通り、消防士のふりをして正面から突入するわけですね」


「そうなる。ただあまり長居すると火の手が回ってくるし、不審がられる可能性もある。近隣に憲兵隊の駐屯地がある以上、作戦行動時間は長く見積もっても10分程度だ。その間に戦闘人形(オートマタ)の排除と略奪を並行して行う必要がある」


 昔から、ゲームとかで制限時間があるミッションが出てくると憂鬱になったものだ。自分のペースでゆっくりと攻略したい人なのだが、制限時間付き(それも余裕がある設定ではなくタイトな設定)だととことん急かされているように感じて、あまり好き好んでプレイしたいミッションではないなという感想しか抱かない。


 とはいえ、今回もそんな甘ったれた事を言っているわけにはいかない。環境に適応できなければ絶滅するだけだ。俺は世界が自分仕様に合わせてくれると思っているような甘ったれたクソガキとは違う。


「ロザリー」


 何度も図面を指でなぞり、頭の中で侵入と略奪のシミュレーションをしているのであろうロザリーに言葉を投げかけた。


 個人的に心配なのは彼女だ。俺との子供を何人産むつもりなのか、もしあの発言が全部本気なのだとしたら一番金のかかる計画を胸に抱いているのはロザリーである。大金を稼ぐチャンスが到来したとなれば、間違いなく一番欲を出すはずだ。


「……分かっているとは思うが、引き際は弁えるんだぞ」


「うん、わかってる」


「巨額の金が手に入っても、隣に君とクラルテがいなかったら意味がない」


「ひゅっ」


 顔を真っ赤にしながら尻尾をぱたぱたさせて悶えるロザリー。


 俺もしかして彼女の扱い方段々分かってきたかもしれない、などとヤンデレな彼女に適応した事を実感しつつも、胸の奥で野心を燃やした。


 人を殺そうとした礼だ―――ナメた態度を取った報い、せいぜい受けてもらおうか。


 


 

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― 新着の感想 ―
うーん、安定のロザリー。消防服を子供服と連想したり37人目まで子供の名前を準備済だったり、強盗収入を育児資金として計算したり。ラウル君もそんな彼女の制御にだんだんと慣れてきたようですが。 警備責任者…
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