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転生者VS転生者

どうでもいい話

お風呂上がりのラウル君は、僅か5分だけ髪の毛や尻尾がふわふわのもっふもふになる。


 この世界にいる転生者は、俺だけではない。


 そんな事はヴォイテクを見れば分かる事だ。彼も同じく転生者で、俺と同系統の現代兵器を召喚するスキルを持っている。


 ではもし、それ以外の転生者とこの広い世界のどこかで遭遇したら?


 その転生者が彼のように友好的ではなく、敵対的だったら?


 その転生者が強力なユニークスキルを保有しており、勝率が絶望的だったら?


 常に頭の片隅に根を張って、時折思考を巡らせては本格的な結論が出ずにいた問題が、ついに実体をもって現実のものとなった―――そう思えてならない。


「アイツ……転生者なのか」


「転生者識別番号553番……個体名”マールム”。序列99位の転生者です」


 背中がまだひりひりする。さっきので火傷したか。どの程度かは分からないが、すぐ消火できたのでそれほど深刻ではないだろう。表皮が少し炙られた程度だ。


 相手にMARS-Hを向ける俺に淡々と説明するクラルテ。彼女の首にあるメダリオンは紅い点滅を繰り返しており、彼女ら巫女を統括する”マザー”とかいう上位存在と交信している事が分かる。


「ユニークスキルは【焼却者の剣(バーンアウト)】。手にした剣を触媒に適性S相当の炎の魔術を自由自在に放つスキルです」


「便利だねぇ、そんな事まで分かるのか」


「すべての転生者はマザーのデータベースに紐付けされています。アクセス権限のある巫女であれば参照は容易です」


 これで少なくとも、相手のユニークスキルがどのようなものなのか推理する段階からスタートせずに済むという事だが、それは相手も同じ事。向こうの巫女がその気になればこっちのスキルも駄々洩れだし、対策も簡単に講じられてしまう。


 参ったな、と撤退を視野に入れて考え始めたのと、洞窟の中からボロボロの布に身を包んだ女性が姿を現したのは同時だった。


 金髪の、小柄な女性―――もしや依頼にあった人質なのかと一瞬考えたが、しかしその口元には転生者同様の嗜虐的な笑みが浮かんでいる。


 転生者の隣に立った女性が、ぱちん、と指を鳴らした。


 ごう、と風が薙ぐ。


 身に纏っていたぼろ布が一瞬にして紅い粒子へと姿を変えたかと思うと、彼女の身体に纏わりつくようにして徐々に実体化。やがて先ほどまでのみすぼらしいぼろ布から打って変わって、クラルテが身に纏っているような肌の露出が殆どないシスター服姿へと変わっていく。


 やはり彼女があの転生者の巫女なのだろう―――胸元には、太陽を象った黄金のメダリオンがあった。


「転生者マールム。巫女は”ファム・ファタル”」


「あらあら、あなたはもしかしてシスター・クラルテ?」


 シスター服姿になった巫女―――ファム・ファタルが嘲るように言った。


「アンタ、もしかしてハズレ引いたんじゃない? アンタみたいな優等生が、そんなクソ雑魚ユニークスキルの転生者専属の巫女に割り当てられるなんてカワイソ~♪ ご主人様ガチャ大爆死じゃん♪」


「ファム、アイツのユニークスキルは?」


「ぷっぷー、原初の火薬庫(アーセナル・ゼロ)。銃や兵器を召喚する()()の能力ですって!」


「つまんな、さすが序列圏外www」


 転生者には序列、という概念が存在する。


 転生者が全員で何人いるのかは不明だが、それぞれそれまでの戦績やスキル、戦闘技能などを総合的に判断し序列が割り当てられる。


 上位100名までがその序列に登録され、ランク入りを果たした転生者は『ナンバーズ』と呼ばれる―――それがクラルテから聞いた、この世界における転生者のあり方だ。


 あの男、マールムは序列99位。つまりはナンバーズの中では遥か下位に位置するが、しかしその100位の中にすら入れていない序列圏外の俺からすれば雲の上の存在……なのかもしれない。


「なあクラルテ」


「はい」


「転生者同士の交戦って認められているのか?」


「……禁止する規定は、存在しません」


 認めたくない現実を突きつけるかのように、声を絞り出すクラルテ。


「マザーは常にあらゆる”記録”を欲しています。転生者同士の争いも、全てはマザーのための”糧”」


「なるほど……レフェリーはこの世界にはいないって事か」


 転生者同士手を組むも自由、殺し合うのも自由。とんだ放任主義である。


「ちなみに現状での勝ち目は?」


「ユニークスキルだけを比較した場合、こちらには万に一つも勝ち目はありません」


「じゃあ、それ以外の要素を考慮に入れた場合は?」


「……ラウルさん、私にはあなたが負ける姿が想像できません」


 にっ、と笑みを浮かべた。


 ウチの巫女のお墨付きを得た―――つまりはワンチャンあるという事だ。


 スキル単体で勝ち目は無くとも、ここまで積み重ねてきた努力と戦術も考慮に入れれば勝てない相手ではない。つまりはそういう事である。


 第一、こっちを騙して闇討ちしようとしていたようなクソッタレだ。一発ぶん殴って、わからせてやってもいいだろう。


「じゃ、やっちゃおうか」


「ええ。向こうの巫女は私にお任せを」


 ジャキンッ、とM60E6のコッキングレバーを引くシスター・クラルテ。


 気のせいか―――いや気のせいなどではない。まるでコッキングが合図であったかのように、彼女の背後から紅い怒気のようなものが立ち昇り始めた。


「―――私の転生者を馬鹿にするような小娘には、お仕置き(わからせ)が必要です」


 相手の巫女はクラルテに任せよう。


 では俺はあの転生者と一対一だ。


 まだこっちを見下ろし馬鹿笑いしている転生者に向かい、引き金を引いた。


 バシン、と7.62×51㎜NATO弾が吐き出される。装薬量を調整した亜音速(サブソニック)弾ではないので、消音効果は限定的だ。あくまでも洞窟内での銃声の反響による聴力の完全封殺を回避するために装着したサプレッサーなので、本格的な消音性能までは求めていない。


 ブースターで拡大されたホロサイトのレティクルの向こうで、転生者”マールム”が左肩を押さえつけながら転がった。どうやら今しがた放った弾丸が、勇者様みたいな白銀の防具をぶち抜いて左肩を深々と抉ったらしい。


 対リザードマン戦を想定してMARS-Hを持ってきたわけだが、アサルトライフルではなくバトルライフルを選択した事がこんなところでプラスに働くとは。


 なぜあんな勇者みたいな防具に身を包んでいるかは不明だが、彼は理解していないのだろう―――人類の長い争いの歴史の中で、()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()


 重く、視界も悪く、機動力の悪化を招く防具。それを遠距離から一方的にぶち抜ける飛び道具が戦場で普及し始めたとなれば、そりゃあ淘汰もされよう。


「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「マールム様!」


 慌てて駆け寄り両手を突き出し、光属性の魔術を発動させようとするファム・ファタル。しかしその突き出した両手の先に黄金のリングが出現するよりも先に、後方から飛来した7.62×51㎜NATO弾の容赦のない弾幕がファム・ファタルの周囲に着弾した。


 悲鳴を上げ、飛び退くファム・ファタル。制圧射撃を受けて詠唱が中断されてしまったらしく、大事なご主人様の受けた傷は全く塞がる気配がない。


「ファム、ファムっ! はやく治療しろぉ!!」


「きゃあっ! マールム様っ、うごけな……ひぃぃっ!!」


 ドガガガガ、と腰だめでM60E6を撃ちまくるクラルテ。5発に1発の割合で含まれている曳光弾はどれもこれもファム・ファタルの周囲に向かって伸びており、制圧射撃だけで完全に相手の巫女と転生者を分断してしまっている。


 そこまでお膳立てされたのならば今度は俺が彼女の献身に応える番だ。


 姿勢を低くしながら全力疾走。狼の獣人の瞬発力たるや、さながら世界レベルの短距離ランナー級だ。あっという間にトップスピードまで加速し、転生者との距離をぐんぐん詰めていく。


「くそっ、くそぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!」


 激痛に苛まれながらも、マールムは右手に持った剣を大きく振るった。


 振り払った剣身が瞬く間に赤熱化したかと思いきや、刀剣から剥離したかのごとく、三日月形の炎の斬撃がこっちに向かって飛んでくる。


 速度は速く、周囲の大気をプラズマ化させるほどだ。斬撃が掠めた草木が発火、猛烈な陽炎が周囲の景色を歪めるが、しかし相手の剣の振り方を見ていれば回避は容易だ。


 ―――アイツはダメだ。


 今の攻撃を見ただけで、相手の技量が窺い知れた。


 力任せに振っているだけだ。洗練とは程遠い。


 もし仮に彼が剣術の鍛錬を積み上げてきた立派な剣士であったならば、あんな力任せの斬撃ではなく最小限の隙でキレのある一撃を放っていただろう。同時にこちらの回避の癖まで見抜き、次こそは回避の難しい必中を期した一撃で迎え撃ってきてもおかしくはない。


 しかし彼はどうだ。力任せに剣を薙ぎ、何も考えず感情のままにユニークスキルを発動させるだけだ。


 きっとユニークスキルに頼り切り、鍛錬を怠り、周囲にチヤホヤされながら俺つえええええええwwwって感じで舐めきった異世界ライフを満喫してきたのだろう。一歩間違えば俺もああなっていた可能性がある、と思えば他人事では済まないが。


 地面を蹴って右へと飛び、放たれた斬撃を回避。


 セレクターレバーを素早くフルオートに入れ、7.62×51㎜弾をばら撒く。


 とはいえ5.56㎜弾のような中間弾薬ではなく、フルサイズのライフル弾をそのまま撃っているわけだから反動が強烈だった。サプレッサーの付いた銃身が跳ね上がり、MARS-Hが暴れに暴れる。しかしそれがかえって制圧射撃のようにマールムの周囲に着弾、彼を震え上がらせる事に成功する。


 走りながらマガジンを交換、ボルトリリースレバーを手のひらで叩くようにしてボルトを前進させ初弾を装填。セミオートに切り替えマールムを狙う。


「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 バヅッ、と嫌な音がした。


 弾丸が今度は左腕の肘の部分に当たったらしい。汎用機関銃や狙撃銃の弾薬としても用いられる7.62㎜弾の直撃を受け、彼の肘は大きく弾け、抉れ、割れていた。だらりと垂れ下がった腕は皮膚と筋肉繊維だけで何とか繋がっている有様で、砕けた骨の断面がホロサイトの向こうに見える。


 吐き気が込み上げてきた。朝食の、クラルテとロザリーに散々食わされたピータン入りの中華粥を吐き出しそうになるが我慢する。


 やっぱり慣れねえなぁ、と思いながらも転生者に肉薄。こっちを見て怯えたような表情の転生者が慌てて剣を薙ぎ払い斬撃を放ってくるが、左に軽くジャンプして回避。MARS-Hを構えて引き金を引く。


 しかしここに来て、勝利の女神は向こうに微笑む事にしたらしい。


 ガギ、と何かが噛み込む音。引き金が重く、弾丸が出る様子もない。よもや装填不良か、と判断するなりMARS-Hから手を放してカランビットナイフを引き抜いた。


「かかってこいよ……てめえなんざ(ハジキ)を使うまでもねえ」


「ほざけ!」


「多様性に配慮したような顔しやがってよォ!!」


 ちょいちょい、と左手で手招きすると、怒り狂ったマールムは赤熱化した剣を突き出してきた。


 左へと軽くジャンプ―――直後、ドン、と陽炎で彼の周囲の光景を歪ませ、猛烈な熱気を纏った紅い閃光が剣から撃ち出される。


 掠めるだけで発火してしまいそうなそれを紙一重で回避。右肩にひりひりする感覚(多分火傷した)を覚え顔をしかめつつも左手を伸ばして相手の剣を握る手を右へと打ち払う。


 そのまま一歩、前に踏み込んだ。


 マールムの多様性に配慮したような顔がすぐ近くに迫る―――散々イキり散らしておきながら実際大した事がないの、なんだか普段ネトゲでイキり散らかしておきながらリアルだと大人しい陰キャあるあるっぽく思える。


 どうせコイツ転生前はアニメのタペストリーとかフィギュアとか色々あるオタク部屋でずっとPCに張り付きゲームやってたような引きこもりだったんだろうなぁ、と偏見に塗れた思考を働かせつつ、右手で逆手持ちにしたカランビットナイフを振るってマールムの右脇腹を掻っ捌いた。


 吹き上がる血飛沫。刃が深く食い込んだのだろう、まるでポンプで押し出されたかのようにでろでろと、ピンク色の腸が彼の叫びと共に溢れ出す。


 左手の指輪のレバーを弾き、棘を出した。


 とっとと終わらせよう―――その想いと共に左手を突き出し、黒い針をマールムの心臓へと突き立てる。


 溢れ出た自分の腸を見てぎゃあぎゃあ喚いていた転生者の姿が、あっという間に灰のように崩れていく。


 かつてそこに彼がいたという痕跡すら残さず、崩れた灰は風に浚われて消えていった。


「終わりましたか、ラウルさん」


「ん。そっちは?」


 クラルテの声に振り向くと、そこにはM60E6を抱えたクラルテと、彼女の弾幕に運悪く被弾してしまったのだろう……右側頭部を砕かれて、ピンク色の脳味噌をぶちまけているファム・ファタルの亡骸があった。


 ふー、と息を吐き、指輪の棘を彼女の亡骸にも突き立てる。


 マールムがそうなったように、ファム・ファタルの死体も灰となって、浮遊大陸特有の強い風に浚われ消えていった。


 ―――終わった。


 異世界転生後、初めての転生者との戦い。


 あまりにも呆気の無い決着に、しかし同じ世界出身の人間を手にかけてしまったという実感が、じわじわと滲みつつあった。






ファム・ファタル


 フランス語で「運命の人」という意味だが、「男性を破滅させる女」という意味合いも持つ。要するに魔性の女である。

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― 新着の感想 ―
 どれだけつよいスキルを持っていようと使いこなせなければ宝の持ち腐れよ  転生後堅実に戦ってきたラウルと違ってマールムはネット小説のように俺TUEEEを実現しようとしただけの阿呆だったなぁって  巫女…
割とこのシリーズでゾンビや残念淑女と並ぶ伝統ですよね。ユニークスキルは優れているけど元々の鍛え方が足りず、酷い目に遭う転生者って。随分な勘助ぶりでしたが配属された巫女もお察しレベルでしたか…そうでしょ…
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