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歓迎会


「ダーッハッハッハ! いやぁ、あの時の兄妹もでっかくなったもんだ!」


 特注のジョッキ(もはや樽みたいなサイズ)一杯に注がれたウォッカを割らずに一気飲みすると、ヴォイテクは顔を真っ赤にしながら大笑いした。


 一応だが、ユリウスやロザリーはヴォイテクと面識がある。それもそのはず、5年前にこの2人をメルキアまで送り届けたのは他でもないヴォイテクたちなのだ。


 しかしヴォイテクやくまさんハウスの面々もまさかギルドに新規加入してきたメンバーが竜人で、それも5年前に浮遊大陸に送り届けた竜人の兄妹とは思いもしなかっただろう。


 管理局で手に入れた物品を換金して列車に乗り、メルキアまで戻ってきた俺たち。係留塔に係留していたソーキルまで帰ると、ヴォイテクは目を白黒させながら驚いていたものだ。


 人生って本当に何があるか分からないものである。


 もちろん加入申請は速攻で受理され、僅か3秒でユリウスとロザリーはくまさんハウスの一員となった。ギルドの一員である事を示すジャケットは後ほど支給する事になる(着用義務はないらしいが)。


 というわけで、こうして早くも2人の歓迎会という事で豪勢な食事が振舞われている。食堂の大きなテーブルの上には回鍋肉ホイコーローや麻婆豆腐が盛られた大皿がデデンと置かれているが、それよりもひときわ大きな存在感を放っているのは中央に鎮座している大皿の上の、羊の丸焼きであろう。


 こういうのマジで出てくるんだなぁ、と思いながら回鍋肉をパクつく。


 ああいう豚とか羊の丸焼きってアニメや漫画の中だけのファンタジー飯だと思ってたんだけど、やっぱり実在してたんだなって。


 野菜をいっぱい敷き詰めた大皿の上に鎮座する羊の丸焼き。大きく腹を開いた状態で美味しそうに焼けた肉の表面では溢れんばかりの肉汁が煌めき、肉にしっかりと摺り込まれた中華系のスパイスの香りが空腹の胃袋を直撃する。


 中華料理って羊肉の使用率がけっこう高いのよね。


 羊の丸焼きを切り分けたチャンさんが「别害羞,想吃多少就吃多少!(遠慮せずたくさん食べてね!)」ととびきりのパンダスマイルで小皿を目の前に置いてくれる。お礼を言ってから羊肉を口へと運んで噛み締めた。


 やっぱり肉って美味しいな、と思ってしまうのは肉食動物の獣人故だろうか。


 それはさておき、人生初の羊肉の丸焼きの感想はもうね、最高ですね。肉って色んな調理方法あるけれど、一番美味しく感じるのはこういう野性味溢れるワイルドなやつだと思う。火はしっかり通っているし臭みも感じない。丹念な下処理の賜物なのだろう、(羊なので少し癖はあるが)純粋に肉の味だけを楽しめる。


 そしてその重厚な味わいに程よいアクセントになっているのがこの中華系のスパイスだ。花椒だろうか。ガッツリ系の味なのに鼻の奥に抜けていく風味は爽やかで、いくらでも食べられそうな感じに仕上がっている。


「わー美味しい……こんなの初めて……♪」


「ここのギルドの料理人、チャンさんって言うんだけど。あの人の料理最高だよ。毎日食える」


「私ここ来て正解だったかもしれない」


「そりゃあもう大正解」


 尻尾を嬉しそうにぱたぱた振りながら隣で羊肉を頬張るロザリー。戦後ということもあって、このレベルの本格中華にありつくのは人生初だったのだろう。一口食べるごとに良いリアクションをするものだから、料理を作ったチャンさんも嬉しそうだ。


 ユリウスはというと、ロザリーほど感情を表には出していないが、それでも言葉を失い食べるのに熱中してしまっているところを見ると抱いた感想は概ね彼女と同じなのだろう。


 大皿の上に山盛りになった饅頭マントウを1つ手に取り、回鍋肉をおかずにそれを頬張る。


 中華料理における饅頭マントウは中身が入っていないパンみたいなものだ。こうやっておかずと一緒に食べる主食という扱いらしい。


 ふわっふわのそれを齧って回鍋肉を口いっぱいにぶち込んで、変化が欲しくなったら麻婆豆腐の辛みで汗をかいて、脂っこく感じてきたら烏龍茶を飲んでリセットして……というループがとにかく幸せ過ぎる。


「にしても、お前らもよく稼いだもんだよなァ」


 羊肉を豪快に噛み切り、白酒パイチュウをジョッキに注ぎながらヴォイテクは言った。ちょっと呂律は回っていなくて、オイオイ飲み過ぎじゃあねえかとちょっと心配になる。


「金庫一杯の金の延べ棒ねぇ……おかげで運営資金の方もだいぶ潤ったよ。ありがとなラウル、クラルテ」


「いやいや、そんな……クラルテのおかげだよ」


「ふんす!」


 誇らしそうに胸を張るクラルテ。そりゃあまあ、彼女が金庫を素手でぶち破って中身を取り出していなければもっと時間がかかっていたか、最悪諦める羽目になっていただろうからなぁ……今回のダンジョン調査のMVPは彼女で間違いないだろう。


 やっぱ物理よ。


「そーいやァさ、メルキアの管理局で噂になってたぞ。”カエサリアの怪異空間(アノマリー)を潰したやべえ新人がいる”って」


「え゛」


 もう!?


 ソコロフの発言に情報広まるの早くないか、と少し驚く。


 カエサリアの怪異空間(アノマリー)……あの黒い幽霊たちである。


 あいつらのせいで、カエサリアの一部区画では行方不明になる冒険者が続出していたらしい。まあ、物理が通用する幽霊(※それを幽霊と呼んでいいかは定かではないが)なので対抗手段がないわけではないが、幽霊という時点でまず大半の人は逃げるだろうし、抵抗してもあの数で迫られたらたまったもんじゃない筈だ。


 銃と人数があったからこそ何とかなったものである。


 でもまあ、アレだよね。ホラゲとかRPGで対抗手段がないと思われていた敵が実は殺せたってなったらみんな殺しに行くよね。


 ……え、行かない?


「がっはっはっはっは! いいねぇ、期待の新人だねぇ!」


 デザートのマンゴープリンが出てきて、調理工程をすべて終えたチャンさんもやっと着席。自分で作った料理を口へと運びながら「我觉得调味料放得有点太浓了……(やっぱりちょっと味付け濃かったかな……)」とストイックな自己採点を始める。


 いや、十分美味しいよチャンさん。味付けが濃いからこそご飯とか饅頭も進むんだよと言いたかったけれど、彼なりに許せない部分はあるのだろう。そのストイックさが今の実力を磨いているのだから俺がとやかく言える事ではない。


「そういやラウル、遺物(レリック)を見つけたってな」


 チャンさん渾身の中華料理に舌鼓を打っていたヨルゲンセン機関長が突然話を振ってきたので、俺は頷いてからポケットの中にあった2つの黒い指輪をテーブルの上に置いた。


 カエサリアの怪異空間(アノマリー)を潰した際、最後の幽霊からドロップしたものだ。闇を凝り固めたような質感で、光を当てても反射する様子はない。まるでブラックホールのように光を捻じ曲げているようにも思えて不気味だ。


 よく貴族が身に着けているような、己の富を誇示するかのようなゴテゴテとした指輪でも、宝石を取りつけた豪華なものでもない。本当にシンプルでこれといった刻印もなく、外見的特徴も特にない。結婚指輪と比較すると少しゴツいかな、くらいのものだ。


 見せてみろ、と言われたのでそれをヨルゲンセン機関長に渡した。機関長は懐から老眼鏡を取り出すなり、その黒い指輪をまじまじと観察し始める。


 チャキ、と小さな音がしたと思いきや、指輪の表面に何か、折り畳まれていた小さなレバーのような物が起き上がる。


 変化は一瞬だった。


 そのレバーのある反対側―――そこから折り畳み隠されていた闇色の細く長い針が、瞬間的に伸びたのは。


「……暗器か?」


 マンゴープリンに手を出していたユリウスの指摘通り、どうやら暗器……暗殺者が仕込んで標的の暗殺に使う武器の類のようだった。


 どうやら針の反対側にある、小指の爪先ほどもない小さなレバーが針の折り畳みギミックを動作させるスイッチらしい。そして怪異空間(アノマリー)でドロップしたという事は、あの針には何か特殊な効果がある可能性が極めて高い。単なる細い針などではない筈だ。


「ラウル、悪いがこれを一晩ワシに預けてはくれんか」


「え、ああ……いいですけど、機関長ってもしかして鑑定士だったりするんです?」


「資格は持ってないが、親父が冒険者向けの鑑定士でな。ガキの頃は機械いじりする傍ら親父の鑑定を見て育ったからそれなりに知識はある」


「ではお願いします」


「うむ、任せてくれ」


 基本的に、怪異空間(アノマリー)で入手した遺物(レリック)は手に入れた者の所有物という扱いになるのが冒険者界隈の暗黙の了解となっている。まあ、その所有権を争って裏切りだとか内部抗争に発展した事例は腐るほどあるので最終的にモラルの問題なのだが、くまさんハウスのメンバーは人格者ばかりなのでその心配はないだろう。


 今はとにかく、鑑定を機関長に任せよう。


















「ねえロザリー」


「なあに?」


 にぱー、と笑顔を浮かべるロザリー。


 俺の部屋という事になっていた個室には、いつの間にか俺個人の私物だけではなく、ロザリーの私物まで置かれている。しかも見間違いであってほしかったが、ベッドの上の枕にはピンクで「YES」って書いてあるカバーがかぶせられており、まさかと思って裏返してみたら両面YESだった……拒否権ナシですか。


 はいはいどうせラウル君は非常任理事国ですよ、と思いつつも予想できた事態に溜息を1つ。


「えへへ、ここが今日から私たちの愛の巣になるんだね♪」


「でも1人部屋だよ、狭いよここ」


 面積的にはビジホのシングルルームを想像してほしい。あれを更にギュギュっと、無駄なスペースを省いたような感じ。それがソーキルの個室だ。部屋に入ってすぐ右手にユニットバスとなっているトイレとシャワールームがあり、部屋の奥にベッドがででんと置かれているような、そんな部屋である。


 1人でもちょっと窮屈だな、と思う部屋に2人も入ったら狭いなんてもんじゃない。


「ロザリー、身長なんぼだっけ」


「えへへ、186㎝のIカップ!」


「  で  け  え  」


「でしょ? ラウルっておっぱい大きな女の人が好きだもんね?」


「な、なぜそれを」


「言ったでしょ? 私、ラウルの事は徹底的にプロファイリングしたって」


 やだこの子怖い。ヤンデレヤバい。


「身長差カップルとかおねショタとか好きでしょ?」


「うぐっ」


「NTRとか凌辱系はダメでしょ? あ、でもやられる側が悪かったり屑だったらその限りじゃないんだよねラウルはね」


「う゛」


「首の裏とお尻にホクロあるでしょ?」


「!?!?!?」


「他には……あ、枝毛の本数は287本だよね?」


「!?!?!?!?!?」


「こっちの世界に転生してからは一度も体調崩してないよね? でも喉が痛くなる前には唾液がちょっと多めに分泌されるから何となくわかるんだよね?」


「!?!?!?!?!?!?!?」


「あとは……ああ、それとトイレでお尻を拭く時と1人で〇〇〇〇する時は左利き―――」


「待って、待って! なんでそんなこと知ってるの!?」


 人の性癖と身体的特徴と体質まで……つーか何この子、何で俺も知らないような枝毛の本数なんて把握してんの? プロファイリングってそんなことまで分かるの?


 怖い、ヤンデレ怖い。


「えへへ、ラウルの事が好きすぎて……つい♪」


「Oh……」


「というわけでラウル、子供作ろっか♪」


「どういうわけで!?」


 ちょっ、バカバカバカ……うわ力強っ……!?


 ベッドに押し倒され、両手をがっちりホールドされて始まるのは濃厚すぎるキス。唇の触れ合いだけでは終わらない、大人の接吻だった。


 いや、そんなロマンチックなもんじゃない。貪るようなキスだった。


「ろ、ロザリー」


「なあに? あ、子供は何人でもいいよ♪ 私ラウルの子供なら何人でも産むね?」


「あの、子供を作るのはまだ早いんじゃないかな?」


「え?」


 きょとんとした顔で顔を寄せてくるロザリー。なんで、と視線が訴えかけてくる。


「もうちょっと収入が安定してからにしようよ。第一結婚式も挙げてないし。子供って育てるのにお金がかかるし、収入が少ない状態で無計画にそんなことしたらさ、君と子供たちを路頭に迷わせることになるかもしれない。いずれ父親になる身としてそんな無責任な事はしちゃいけないと思うんだ」


「あっ……そっか、そうだよね。ごめんなさいラウル、私ったら……自分の性欲ばっかり優先させちゃって……ダメな女よね」


「そんな事ないよ。むしろ5年間も我慢させちゃったんだ、気持ちは痛いほど分かるよ」


「ラウル……」


 ちゅ、と優しいキスをしたところで、ドカン、と部屋のドアが開いた。


「モ゜」


「あら、クラルテ」


 ドアの向こうに立っていたのは私物を詰め込んだと思われるスーツケースを手にしたシスター・クラルテ。武器こそ手にしていないが、その蒼い瞳には対抗心がメラメラと燃え上がっているのが分かる。


 部屋に入ってきたクラルテは部屋の鍵をかけると(なんで!?)、ずんずんと大股でこっちにやってきて俺の隣に腰を下ろし、笑みを浮かべながらラウル君を自分の方へと抱き寄せる。


 それを見ていたロザリーはむっとした表情になりながらラウル君の腕を引っ張り始めた。


 え、ええと。


 なにこれ。











 その日から俺の部屋にクラルテとロザリーが住み着き、ただでさえクッソ狭い部屋が更に狭くなりました。





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本当に審査パスで大丈夫ですか、ヴォイテク艦長?いやこの人からすれば昔助けた子供達が立派になって…程度なんでしょうが。しかしチャンさんは本当に美味しいものどんどん作りますよねえ、これだけの腕前を何処で磨…
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