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浮遊大陸『メルキア』

ラウル「あのさ、ユニークスキルってあるじゃん」


クラルテ「はい」


ラウル「あの……いやあのもしかしてだけど、”相手の体内に尿道結石を瞬間生成するスキル”とかある?」


クラルテ「 あ り ま す よ ? 」


ラウル「 う わ や だ ソ イ ツ と 絶 対 遭 遇 し た く ね え 」


《メルキア航空管制局より入港許可を確認》


「艦首ちょい上げ両舷前進微速」


《両舷前進微速》


《メルキア重力圏突入まで3、2、1……突入》


 ぐんっ、と艦が引っ張られる感覚は確かに感じた。空気抵抗を腹で受けるように艦首を持ち上げたソーキルが増速して、メルキア大陸へと吸い寄せられるように”落ちていく”。


 ケルビアの時とは全く違う感じだった。


 あれだけの質量の浮遊大陸である。それをこうして浮遊させ、世界中を回遊させているという事はその内部にあるコアのサイズも桁外れなのだろう。実に南米大陸と同等のサイズなのだ、周囲に生じる重力干渉の範囲も強さも桁外れである。


「ダイブブレーキ展開、突入コース上の艦影に注意。他の船とキスするなよ」


 ばごん、と音を立てて展開するソーキルのダイブブレーキ。空気抵抗が一気に増して減速を開始、雲海の中に浮かぶメルキアの威容がもうすぐそこに見えてくる。


 雲を突き抜け、メルキアの重力圏内へ。


 ヴォイテクが「船体立て直せ」と命じると、持ち上がっていた艦首が元の角度へと戻っていった。


 身体がほんの少し、重くなったように感じる。まるで二日酔いにでもなったような、あるいは残業に残業を重ねて疲労困憊、せっかくの休暇も疲れ切ってしまい寝ているだけで一日を終えてしまうかのような、そんな身体の重さだ。


「メルキアの重力は1.1Gだ」


 慣れきったような顔でヴォイテクが言う。


「いつものノリで動こうとすると足元掬われるから気を付けるんだぞ」


「はいよ」


 俺たちの会話を聴いていたのか、艦橋で解析をしていた戦闘人形(オートマタ)がこっちを振り向いた。艦橋の床からフレームを介し、ガイコツみたいな金属製フレームで構成された人間の上半身と、センサーが収まっているのであろう金魚鉢のようなガラス製のバイザーで覆われた頭部で構成されている。


《メルキアの気圧は約720hPa、酸素量は地上の72.3%。平均気温は地上と比較して15~17℃低く、紫外線は地上よりも強い環境となっています。植生は針葉樹が中心、雲がかかりやすい高度のため降水量は多く水資源に恵まれています。また環境が高山に近いため特産物は麦、ジャガイモ、豆類などです》


「へぇー……ロザリーってそんな場所で育ったんだな……」


 戦闘人形(オートマタ)から色々と教えてもらい、艦橋の窓から外を見る。


 竜人たちの総本山という事もあり、空を行き交う空中艦の数は圧倒的に多かった。大艦隊が展開しているのではないか、と見間違うばかりで、地上から物資を運んできた貨物船も居ればこれから他の浮遊大陸へと旅立っていく貨物船の姿もあるし、大陸周辺を警戒する天空軍の哨戒艦も見える。


 やはり船乗り同士の暗黙の了解というか、連帯感のようなものもあるのだろう。地上からやってきた貨物船に進路を譲るメルキア側の武装貨物船の姿や、隣を通過する別の空中艦に甲板要員総出で手を振ってエールを送る姿も見えて、なんだかほっこりした。


 大陸上空へと差し掛かる。


 ヴォイテクが「甲板に出てもいいぞ」というので、お言葉に甘えて艦橋を後にし甲板に出た。手すりに命綱を装着しクラルテと2人で甲板へと出て、眼下に広がる浮遊大陸を見下ろす。


 草原で遊ぶ子供たちが俺たちに気付いたらしい。こっちに向かって大きく手を振っていたので、俺もっクラルテもついつい手を振り返してしまう。


 8年前まで戦争をしていたとは思えない。


 確かに獣人と竜人は今でも憎しみ合っているが―――それを越えた先に待つであろう、次の時代の萌芽は既に芽吹きつつあるのかもしれない。


 メルキアは大陸の縁から中心に向かい、緩やかに標高が上がっていく形状をしているようだった。大陸中心部に高山地帯が広がり、周囲に低地が形成されており、高山地帯から流れてくる巨大な川の支流が放射状に広がって大陸各地へと豊富な水を提供している。


 湖や湿地も形成されており、気温は低いがさながらアマゾン川を彷彿とさせる威容だ。しかしその大河も行き着く先は大陸の縁。最終的にはそこから滝として地上目掛けて落下している。


 大型の鳥類の群れがこっちにやってきた。ソーキルを仲間だと思っているのか、それとも興味深い外客だと思っているのかは定かではない。しばらくソーキルの周囲を飛んでからどこかへと飛び去って行ったけれど、正直アイツらがうっかりレシプロエンジンに巻き込まれてバードストライクを起こさないか気が気じゃなかった。


「凄い大自然ですねぇ……!」


「ああ、綺麗だ。こんなところで8年前まで戦争をやってたなんて信じられない」


 正確には”この周囲で”、か。


 天地戦争末期、地上での竜人の支配地域を全て奪還した獣人たちの勢力『統一獣人戦線』はこの段階で講和に持ち込むべきという意見を一蹴。報復として浮遊大陸にも攻め込むべきという世論に押され、竜人たちの領域たる浮遊大陸へと打って出た。


 戦争末期にこのメルキアの周囲で勃発した『メルキア沖空戦』は、100年続いた天地戦争の戦闘の中でも熾烈で凄惨を極めた、とされている。


 竜人側の主力艦隊1200隻に対し、獣人側は1500隻の主力艦隊と2000隻の強襲揚陸艦を投入して戦闘に臨んだ。獣人側は竜人側の艦隊を殲滅してメルキアへと上陸、彼らの本土を占領する腹積もりだったらしい。


 しかしながらその前の段階となる艦隊戦で両軍に大きな損害が出た。竜人たちは首都メルキアを背に不退転の決意で奮戦を続け、獣人側は作戦を主導したノヴォシア側の強い意向による損害を厭わぬ攻撃を続行。結果、戦闘開始から5時間で両軍は投入した戦力の7割を喪失しついには補給も追い付かなくなり、砲弾を討ち尽くした空中艦同士が体当たりしたり接舷しての白兵戦に移行したり、甲板から敵艦へ銃撃したり工具や補修用の資材を投げつけたりと、とにかく血で血を洗うような戦いだったらしい。


 その惨状に両軍の上層部は戦争継続の限界を見たらしく、双方の歩み寄りにより講和が成立。天地戦争終戦と相成った。


 獣人側の艦隊は1500隻いた空中艦が僅か73隻まで撃ち減らされ、生還した艦も全艦ボロボロで、出迎えに行った乗員の家族たちや空軍関係者は言葉を失ったのだそうだ(これだけの損害を出した艦隊司令は更迭されたという)。


 竜人側も公表されている情報では1200隻の主力艦隊を100隻前後まで減らされたものの、彼らは「戦火からメルキアを守り抜いた英雄」とされ全員に勲章が授与されたらしい。


 戦時中、戦い抜いた兵士たちに思いを馳せながら自然をぼんやりと見ているうちに、艦は雲の中へと入った。


 霧のように真っ白な雲を突き抜けた先に、巨大な都市があった。


 思わず艦首側へと駆け寄り、手すりから身を乗り出さんばかりの勢いで覗き込む。


 ―――聖都『メルキア』。


 メルキア大陸最大の都市であり、首都だ。


 真っ白なレンガの建物に赤みがかった屋根。あの巨大な円形の建造物は闘技場か何かだろうか。都市部中心には教会や貴族の屋敷のような建物も見受けられるが、ひときわ目を引くのがメルキア市街地の中心部に位置する宮殿である。


 天地戦争を終戦に導いた立役者の1人、大帝【ガイウス】がいるというメルキア大宮殿だ。


 その宮殿の上空には巨大な黄金の魔法陣が幾重にも層を成して浮遊しており、聖都メルキア全体を覆っている。首都を守る防御フィールドなのか、それとも何かのまじないの一種なのか、専門家ではないので俺には分からない。


 ソーキルがゆっくりと高度を落とし始めた。眼下にはケルビアのような桟橋ではなく、空中艦が係留するための巨大な塔がある。


 塔からはまるで枝木のように桟橋が伸びており、空中艦はそこに係留するようだ。


 地上では滑走路のような場所にランディング・ギアを出して着陸するのが一般的だが、浮遊大陸では賢者の石による重力干渉を頼りにああやって係留するので、竜人たちが建造する空中艦はランディング・ギアを用いての着陸は想定していないらしい。


 ガイドに従い、塔から伸びる桟橋へと近づいていくソーキル。貨物船が積み荷の搬入出がしやすいよう低層に配されたそれにぴたりと正確な操艦で艦が桟橋に係留されるのを見て、俺たちは艦内へと戻った。


 これから配達の仕事がある。

 


 















「んじゃあ、行って来るよ」


 借りたトラックにどっさりと荷物を積んで、ソコロフは艦を離れていった。助手席にはパンダの獣人でありソーキルの誇る料理人、チャンさも同乗。配達のついでに食材の買い出しに行って来るらしい。


 さて、俺らも行くか。


 クラルテを伴い、冒険者管理局へと足を運ぶことにした。


 俺らも配達に行こうとしたのだが、ヴォイテクに止められた。「ロザリーに会いに行ってきてもいいんだぞ」だそうだ。気遣いはありがたいのだが、良いんだろうか?


「本当にいいのか?」


「ああ、いいぞ。俺も配達行くし艦には機関長が残ってる。あ、もしアレなら冒険者の仕事をしてきてもいい。お前の懐も温まるし、ギルドも運営資金が稼げる。お互い得するだろ」


「すまないな、艦長」


「いいって。気を付けていって来いよ」


 そう言うなり、ヴォイテクはKMZ K750Mに跨った。


 ウクライナ製のバイクだ。自作したのか、それとも彼のスキルで召喚したものなのかは定かではないが、ヒグマがバイクに乗っているという絵面が面白過ぎてスマホあったら写真撮りたい。


 ラックとサイドカーにも荷物をどっさりと乗せ、荷崩れしないようロープで縛ってあるのを確認した彼は、ブロロロ……とバイクのエンジン音を高らかに響かせてメルキアの市街地へと走っていった。


 いいなぁバイク、俺も乗りたいなと思いつつ、シスター・クラルテを伴って市街地へ。


 にしても、良い職場だ。ギルドメンバー一人一人を気遣ってくれるギルドマスターに美味い食事、親切な先輩方。前世の職場にも見習ってもらいたいもんだ。有り得ない納期にバカみたいな仕事量、昭和からタイムスリップしてきたかのような上司によるパワハラの毎日。一度でいいからウチの職場に隕石堕ちないかなと思ってみたり、流れ星に「上司死ね上司死ね上司死ね」と願ったり、報復として昼休みに上司が読んでる小説の栞をこっそり抜いたのは一度や二度ではない。


 などと昔の事を思い出して一瞬で記憶の隅に追いやり、メルキアの街を歩いた。


 ケルビアと比較すると浮遊している高度が低いので、酸素マスクは不要だ(とはいえ激しい運動をするとさすがにしんどいだろうけど)。呼吸が楽なのは良いんだけど、しかし重力が1.1Gなせいなのかやはり身体が少し重く感じる。


 酸素が薄く、重力も重い環境で育つ竜人たち。彼らの身体能力が高い理由も頷ける。


 道行く人々はやっぱり、ほとんどが女性だ。ちらほらと男性の姿も見受けられるが、圧倒的に女性の方が多い。


 そりゃあ100年も続いた天地戦争で男はバタバタ死んでいったからな、と納得する。地上でもそうだった。スパーニャはそれほどではなかったけど、でも気持ち男少なくね? って感じではあった。


 竜人たちの首都ともなるとその違いが顕著に表れている。


 冒険者管理局は街の中心付近、ちょうど大きな教会があるエリアの近くにあった。白いレンガと赤褐色の屋根。なんだか古き良きローマ帝国を思わせる色合いの建物の中に意を決して入ってみるが、中身は他の管理局とそう変わらなかった。


 向かって左側に受付があって正面に掲示板、右手に併設された食堂がある。食堂では何やら楽器を持ち込んだ冒険者が曲を演奏していて、その周囲に他の冒険者が集まってなにやらワイワイやっているようだった。


 相変わらず賑やかな場所だ、と思いながら掲示板……ではなく、受付の方に足を運んだ。


 まずはロザリーの所在を調べよう。


 冒険者は花形の職業だし、手数料を払えばだれでも登録できる(それはそれで制度上の欠陥だが)。なのでロザリーもとりあえず登録している可能性はあるし、冒険者と接する機会の多い受付嬢ならば何か知っているかもしれない。


「あの、すいません」


「はい。あ、獣人の方ですか?」


「え? ああ、ええハイ」


「……あっ、ごめんなさい。その、本日はどういったご用件で?」


「人を探してるんです。”ロザリー”っていう名前の……たぶん16歳か17歳くらいの女の子なんですけど」


 用件を伝えると、受付所は冒険者登録している人のリストみたいなのを引っ張り出し始めた。辞典みたいに分厚いリストの中から”R”の項目を探し出し、ページをぱらぱらとめくる。


 しかしポピュラーな名前なようで、ロザリーという名前だけでも139名も同じ名前の人がいるようだった。


「ごめんなさい、どのロザリーさんなのか……何かほかに特徴みたいなのってあります?」


「ええと、髪と瞳の色が翡翠色で俺よりも背が高くて、それから……あ、”ユリウス”って名前のお兄さんと一緒に活動してたりしません?」


「あっ、そのロザリーさんでしたら冒険者登録なさってますよ。今Bランクになってます」


 マジで?


 サラッと俺より格上になってやがるよロザリー……マジか、すげえな。あれからきっと血の滲む努力を続けたんだろうなぁ……。


「今お兄さんと2人でダンジョン調査に向かってるようです。メルキア市街地の北に”ペレノア”という街があるんですが、ペレノアの北西に第25文明の遺構があるんです。そこに行けば会えるかもしれませんね」


「分かりました。ではダンジョン調査行きます」


「かしこまりました。それではこちらに記入を」


 冒険者になったロザリーとダンジョンで再会、か。


 5年の間にどんな女性になってるのか、楽しみだ。


 約束を果たしに来たよ、ロザリー。
















 しかし前からマジで何なんだろうかこの寒気は。








 


 

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― 新着の感想 ―
ユニークスキルではなく錬金術を学びに学び、鍛えに鍛えてそういう事が出来るようになった人がいるんですよ。彼女はイライナの英雄にしてアイドルにして211歳のミニマムハクビシンなんですが。 互いの主力艦隊…
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