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弾幕弾幕弾幕!

冒険者ギルド『くまさんハウス』


 運送業を主に担っている冒険者ギルド。武装貨物船『ソーキル』を保有しており、更には艦載機も運用するなど単なる運送業者ではない模様。名前の由来は創設時の構成員が全員熊系の第一世代型獣人だけだった事に由来。


 基本的に仕事は選ばず、報酬次第では貨物の代わりに爆弾を満載し空爆するような仕事もこなす。『以来の確実な遂行』をモットーに掲げており、仕事を外部業者に委託する事は極めて稀。地味にラジオでCMも流れている模様。


 なおくまさんハウスの存在を疎んだり、口封じのために騙し討ちをする等した契約違反者に対しては徹底した制裁をする事でも知られており、現時点で6つの団体が壊滅に追いやられている。


 ギルドマスターはポルスキー共和国出身のヒグマの獣人、ヴォイテク。


「んぉ、筋トレか。精が出るな」


 頬に付着した機械油を拭い去りながら出てきたホッキョクグマの獣人、ヨルゲンセン機関長が目にしたのは、甲板の上で20㎏のダンベルを抱えたままスクワットをするソコロフと、その隣でひたすら腕立て伏せをするヴォイテクの姿だった。


 こんな甲板の上で、簡易型の酸素マスクを着用したままよく筋トレなどやるものだ……暑苦しい熊×2に飽きれながら手すりに寄り掛かった機関長は、ポケットから取り出した水筒を口へと運び一気に呷った。


「そういえばラウルとクラルテはどうしたんだ艦長? 艦内には見当たらないが」


「あー、アイツらなら仕事に行ったよ」


 仕事、と聞いて機関長は少し驚いた。


 よくやるものだ……と思う。


 天地戦争の終戦から僅か8年。戦争は終わったが、獣人と竜人の間に芽生えた敵愾心は未だ燻り続けている。双方の歩み寄りを図る勢力は少なくないが、同時に分断を望む者、100年続いた天地戦争の再戦を望む破滅主義者も未だ存在するのが現状だ。


 第一、たかだか8年の空白(ブランク)程度でかつての敵対勢力に対する憎悪が消える筈もない。戦争を経験した世代が現役として経済を回している現状ならば猶更だ。


 以前に話そうとして止められたが、この仕事を始めたばかりのヴォイテクもひどい目に遭わされたものだ。あれは確か終戦から間もない頃、機関長とヴォイテクの2人で配達に行った時の事だ。荷物を抱えて軒先で待っていると、出てきた竜人の客がヴォイテクを獣人と知るなり激しく罵るや、彼に残飯を思い切りぶっかけたのである。


 夫と息子をよくも―――彼女もまた、天地戦争で家族を失ったのであろう。


 あの100年続いた大戦争は、獣人と竜人になにも富をもたらさなかった。


 遺したのはいつまでも膿み、傷み続ける傷口だけだ。


 戦争とはそういうものである。


 あれから8年。多少はマシになったのだろうが、しかしそれでも浮遊大陸は獣人を拒み、地上は竜人を拒み続けている。


(無事に帰ってくれば良いのだが)


 不安になりながら、機関長は水筒の中身を再び呷った。


 西の空には、雷雲が漂いつつあった。


















 魔物の中には、人間と似通った姿をしている種も存在する。


 ラミア、アラクネ、ハーピー、アルラウネ……他にもいるが、まあ代表的なのはこの辺だろう。いずれも美しい人間の女性にヘビやら蜘蛛やら鳥やら植物やら、全く違う生物や植物のパーツが融合したような姿をしており、いったいどういう経緯でそのような進化を果たしたのかは不明である。


 竜人や獣人には【旧文明の人類により遺伝子操作で生み出された種】という説もあるので、彼女らもきっとそういった経緯で人工的に生み出されたのかもしれない。そうでなければ鳥と融合したような姿のハーピーやヘビと融合したラミア、蜘蛛と融合したアラクネなど、進化に整合性が取れない種があまりにも多いのだ。


 まあ、そんな専門的な話は生物学者に丸投げするとして、だ。


「あれか」


「あれですね」


 双眼鏡で岩肌の窪みにいるハーピーの姿を捉え、クラルテに渡した。


 やはりハーピーは人間の女性に似た姿をしている。腰から上の胴体はほぼ人間の女性で、首から上も胴体や翼と化した腕を見なければ端正な顔立ちの美女にしか見えないだろう。


 しかしそれは人間を効率よく捕食するための”疑似餌”としての役割を果たしているに過ぎない。綺麗な女の人がいる、とホイホイ寄ってきた男を無残に貪り喰らう魔物として知られており、口の中に生えている歯は人間のそれでなく肉食獣の牙に近い形態をしている……と孤児院にあった魔物図鑑に記載があった。


 なお、ハーピーの尾羽は幸福を呼び込むお守りとして需要があるらしく、管理局に提出すれば定価の1.8倍くらいの価格で買い取ってくれるらしい。なるべく尾羽は傷付けずに討伐したいところだが、まあそれは出来たらの話である。


 バックパックから筒を取り出し、後端を掴んで伸ばした。


 クラルテの協力を受けて訓練した兵器―――『M72 LAW』である。


 ベトナム戦争の頃にアメリカが開発、実戦投入したロケットランチャーだ。口径は66㎜、一度発射したら発射機は再装填せず破棄する使い捨てランチャー。他のものと比較すると構造もシンプルで軽量、扱いやすいのが最大の売りであるが、しかしさすがにコイツで戦車を攻撃するのはちょっと力不足といった感じがある。


 しかしコイツが今もなお米軍を始め西側諸国の軍隊で現役なのは、その軽量さと扱いやすさが大きく影響している。威力は足りないがそれは戦車を攻撃する場合の話であり、軽装甲の車両やトーチカといった標的を攻撃するのには依然として十分な威力を持っている事から現役のロケットランチャーとして活躍している。


 肩に担ぎ、照準器を立て、後方にクラルテがいない事を確認してから上部にある発射スイッチを押した。


 ロケット弾が発射されると同時に、ボフン、と後方にバックブラストが噴射される。


 こうして発射時に後方に爆風を噴射する事で反動を相殺、あるいは軽減する機構を持つランチャーは多い。RPGとかカールグスタフとかAT4とか、旧いものだとパンツァーファウストとかバズーカとか、そういったものもバックブラストを噴射する機構を持つ。


 まあそんなうんちくはともかく、発射されたロケット弾は岩肌を直撃。きっと巣でもあったのだろう岩肌の窪みで休息中だったハーピーたちをまとめて吹き飛ばす。


 焼却処分する必要がないほど木っ端微塵になったハーピーたち。岩肌の破片に混じって落ちてくるのは焦げた羽や肉片だ。


「……え、これで終わりですか」


「だったらどれほど良かった事か」


 役目を終えた発射機をバックパックに押し込んで、スリングで背中に背負っていたBRN-180を構えた。セレクターレバーを弾いてセミオートに入れると同時に、クラルテも背負っていたM60を構える。


 爆風を突き破り、目から紅い光をこれ見よがしに曳きながら、怒り狂ったハーピーが飛び出してきたのである。


 いきなり巣を爆破されて怒り狂う気持ちも分かる。今のシーズンならば卵もあっただろうし、個体によってはもう孵化して雛も巣にいたかもしれない。俺が今しがたぶちかました一撃は、あのハーピーたちからは家と子供を奪う残虐行為に等しい。


 だがしかし、これは人間同士の関係ではなく人間と魔物の関係である。


 連中からすれば俺たちは餌、俺たちからすれば外敵だ。そこに人道的な判断だの倫理観だの持ち込む余地は微塵もなく、あるのは殺して生き残るか否か、生存をかけた問題だけである(これに倫理観だとか可哀想だとか言い出すのは大抵現場の苦労を知らない安全圏にいる暇を持て余した連中だけだ)。


 だから以前のように、良心の呵責なんて微塵も感じなかった。


 パシン、とサプレッサー付きの銃口から5.56㎜弾が放たれる。


 初弾は外れたが即座に次弾を発射、ハーピーを撃墜する。隣ではシスター・クラルテがM60の連射力と威力に物を言わせて撃ちまくり、ハーピー相手に制圧射撃をかけているところだった。


 しかしまあ、不思議なものだ。


 BRN-180でハーピーをヘッドショット。人間の女性として生まれていたらその美貌で多くの男を虜にしていたであろうハーピーの右側頭部を吹き飛ばし、死に至らしめる。


 人間相手だったら罪悪感を感じるのに、魔物相手では微塵も罪悪感を感じない。


 撃つ対象が変わるだけでこうも内面に違いが生じるのだ。自分を含め、人間というのは本当に度し難い。


 ホロサイトのUH-1を覗き込み発砲。胸板に5.56㎜弾を咥え込みその激痛によろめいたハーピーだが、しかし怒りと興奮により脳内で過剰分泌されたアドレナリンの恩恵なのだろう、ダメージなど知った事かと言わんばかりの勢いで突っ込んでくる。


 が、次の瞬間そのハーピーは7.62㎜弾の弾幕に呑まれ、その……ハンバーグ焼く前の挽き肉と化した。


 口径のデカい弾丸に被弾するというのは恐ろしい。タンブリングで体内をズタズタに引き裂く5.56㎜弾はまだ温情で、フルサイズのライフル弾となると被弾した場所の周囲を豪快に”抉って”いくからだ。そんなのが50発とか100発とか当たり前のように飛んでくるのだから台パン不可避である。


 12.7㎜クラスは……やめよう、ご飯食べたくなくなる。


「もう規定数倒したよな!?」


「ええ、その筈です! あ、リロードします!」


「はいよ!」


 100発撃ち尽くし、再装填(リロード)に入るシスター・クラルテ。彼女の隙を埋めるようにセレクターレバーをフルオートに入れて制圧射撃をかけ、ハーピーたちの接近を阻む。


 規定数は8体の筈だが……管理局の連中、また情報の精度がアレだったらしい。盗賊団を襲撃したらまさかの空中艦が出てきた例の一件といい、管理局は最低限の情報提供すらしてくれないのか。あるいは俺たちの銃声や爆音が周囲のハーピーたちまで呼び寄せてしまったのか。


 どっちに非があるのかは分からないが、好都合だ。これだけ一気に討伐できれば管理局に打診して報酬の増額も見込めるし、尾羽を回収して売り捌ける。


 今の俺には、ハーピーたちが金に見えた。


 とはいえ、100発単位で撃ちまくれる機関銃と違って俺の得物はアサルトライフルである。それも使用しているのは一般的な30発入りのSTANAGマガジン。そんなものに機関銃同様の弾幕展開を期待するのは酷というもので、あっという間に30発の5.56㎜弾を食い尽くしBRN-180が沈黙してしまう。


 俺も再装填(リロード)……している暇はない。


 大型ホルスターからグロック40を引き抜き、サイドアームでの応戦を試みる。


 グロック40には伸縮式のブレースと、フラッシュライトに予備のマガジンを内蔵する機能を持った『フラッシュマグ』を追加装備してピストルカービン仕様にしてある。マズルにはスパイク付きのマズルガードがあるが、これは相手を殴打したり、押し付けた状態でスライドが半端に後退し発砲できない……という事態を回避するためのものだ。


 使用するマガジンは一般的な15発入りのものではなく、クリス・ヴェクター(※10㎜オート弾仕様。グロックとマガジン共用可)の25発入りマガジンだ。これにより継続力を確保している。


 サイドアームと呼んでいいかどうか怪しいレベルで色々デカいそれを構え、引き金を引いた。ドカン、とグロック40(ピストルカービン化)が吼え、10㎜オート弾がハーピーの胸板にめり込む。


 10㎜オート弾はその威力から、猛獣相手の護身用としても一定の需要がある。たかが拳銃弾と侮ると痛い目を見る代物だ(その実績から俺はサイドアームを9㎜ではなく10㎜にした)。


 とはいえフルオート射撃非対応、射程も短く5.56㎜弾より威力が劣るサイドアームでの応戦にも限界がある。ハーピーの群れがどんどんこっちに迫ってきて……!


 というところで、パラララララッ、と軽快な銃声と共にハーピーの一団が次々に撃ち抜かれていった。


「!?」


 クラルテの手には、異形のマシンピストルがあった。


 グロック18C―――原型となったのはグロックシリーズ唯一のマシンピストルモデル、グロック18系列の拳銃である事が分かる。しかしそれに折り畳み式のストックと推定100発入りの特注ドラムマガジンを装備している姿は、もはやマシンピストルというよりは小型SMGのような何か、と形容せざるを得なかった。


 9㎜弾とはいえ凄まじい速度でばら撒かれればハーピーたちもたまったもんではないらしい。次々に撃墜され、浮遊大陸の一角に屍を重ねていく。


 弾切れになるなり彼女はサイドアームをダンプポーチに押し込んでM60を構えた。ジャキンッ、と重々しくコッキングするなり、再びM60による弾幕が張られ始める。


 ハーピーたちが怯んでいる間に俺もマガジンを交換。100発入りのドラムマガジンをBRN-180に装着してコッキング、射撃を再開する。


 やがて最後の1体になったハーピーが逃げようと踵を返すが、その背中にも5.56㎜弾を叩き込んで撃墜。地面に叩き落とされてもなお息があるソイツにグロック40でトドメを刺し、周囲を見渡す。


「40……50……嘘だろまだいる」


「8体どころの話ではなかったですねコレ」


「追加報酬案件でしょコレ」


 ナイフを取り出し、ハーピーの綺麗な尾羽を切り取っていく。


 尾羽の回収も死体の火葬も、こりゃあちょっと骨が折れそうだ。


















「な、何だよありゃあ」


 ラウルとクラルテがハーピーの群れと戦っている様子を遥か後方から見つめていた冒険者―――ウィリアムは、思わずそう声を漏らした。


 管理局で見かけた獣人の冒険者。酸素マスクを着用していたから、浮遊大陸の大気にも適応できない下等生物だとすぐに分かった。そしてどうせ、すぐに死ぬであろうとも思っていたウィリアム。もしそうならば2人の死体から使えそうなものを略奪してやろうと思っていたのだが、しかし彼とパーティーメンバーが目にしたのは予想外の光景だった。


 一方的な虐殺、と言っていいだろう。


 ハーピーたちは手も足も出ず、ラウルとクラルテは無傷で60体にも迫るハーピーの群れを撃滅してしまったのである。


 それを可能としたのは、2人が持っている武器の性能故だ。


「ウィリアム、どうするよ」


「アイツらあんなに強いなんて聞いてないよあたし」


「バカ、あんな武器持ってるなら奪うしかねえだろ。あんなのが獣人の手にあるなんて危険すぎる」


 それに自分たちで使ってもいいし、金持ちに売れば一体どれだけの値が付く事か。


 ウィリアムの嗜虐心と欲望には、炎が燈りつつあった。



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― 新着の感想 ―
ソーキル号のラジオ放送ですか…何れラウル君のASMRコーナーとか新設されるんですかね。あるいはクラルテの抜き打ち300デシベルコーナー、いやそれはただの兵器ですか() 初手M72とは豪快ですがこりゃ…
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