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くまさんハウス


「えー、それではですね、えー面接の方をですね、えー始めていきたいと思います」


「はい」


 ……なにこれ。


 冒険者ギルド【くまさんハウス】の求人票があったので、ギルドに求人票を提出して加入申請をした……そこまではいい。それがギルド側から受理されれば晴れてギルドへの加入が認められ、冒険者ギルドの仲間入りを果たすという流れになる。


 とはいえギルド側も、見知った相手ならばまだしも完全な部外者をホイホイ入れるほど不用心ではなく、加盟申請を受理する前に簡単な審査を設けるギルドも少なくない。


 例えばギルドの団員と模擬戦をやらされたり、書類審査があったり、面接だったりとそういった審査を経て、仲間にしても大丈夫だとか戦力たり得ると判断されれば申請が受理されるのである。


 くまさんハウスもそういうギルドだったらしい。


 それは分かる、分かるのだが。


 部屋の中に用意されたパイプ椅子に腰を下ろし、背筋を伸ばして座る俺とクラルテ。


 目の前には長いテーブルがあって、その向こう側にはスーツ姿の熊、熊、熊。


 長机の右からホッキョクグマ、ヒグマ、ツキノワグマ。しかも全員ケモミミと尻尾だけ生えた人間みたいな、ケモナー初心者向けな姿をした第二世代型ではなく、ケモナーガチ勢が喜びそうな動物が二足歩行しているような姿の第一世代型だ。コイツらが服を着ていなかったら野生の熊と見分けがつかないレベルである。


 くまさんハウスの面接会場となったのは、バレーシャ市郊外にある空港。冒険者用のレンタル発着場へと着陸し補給と整備を受けていた武装貨物船『ソーキル』の艦内に案内されるなり、艦内の食堂に通されて今、俺とクラルテは面接を受けている。


 なんかあの……さっきからゴマ油とか山椒とかその他諸々の中華系スパイスの良い香りがするなぁ……と思っていたら、熊×3の後方にある厨房でパンダの獣人(もちろん第一世代型)が汗を拭いながらクソデカ中華鍋を振っているところだった。嘘だろこのギルド、熊が4頭もいる……。


 ヒグマ、ホッキョクグマ、ツキノワグマ、パンダ。え、何このギルド。くまさん? くまさん縛りなの? くまさんで縛りプレイしてるのかヴォイテク? やり込んだゲームにそろそろ飽きてきたから変な遊び方をし始める時期なのかヴォイテク?


「えーそれではですね、質問していきますよ」


 マルチカムのコンバットシャツにコンバットパンツ、特注サイズの空軍用ジャケットという服装のヴォイテクがニヤニヤしながら(お前これ楽しんでるだろ絶対)トントン、とテーブルの上の書類を整えた。


「では最初にですね、ウチのギルドを志望した動機を教えていただきたいのですが」


「は、はぁ……えと、そちらの業務内容に興味を持ちまして」


「なるほど、具体的にどのような点です?」


「空を飛んで荷物を届けながら冒険者の仕事をするというところに興味を惹かれました。冒険者っていうと拠点(ギルドハウス)に住んで仕事を受けて……という流れを想像してたので、空中艦で世界各国を行き来するのは新鮮に思えまして」


「なるほど……では次の質問です」


 おい、と隣に座るツキノワグマの獣人に目線で指示するヴォイテク。ツキノワグマ君は「え、マジでこんな質問やるんスか?」と問いかけてから冗談ではないと悟り、溜息をついてからこっちを振り向く。




「……ぶっちゃけNTRってどう思う?」




「……ゑ?」


 ん、聞き間違いか?


 真面目な質問が飛んでくるかと思いきやNTR……NTRってあれか、えっちなジャンルの?


 いや、そんな筈がない。ギルドの面接でそんな性癖の話を切り出される筈がない。きっと何かの略称だ。NTR-01とかそんな感じの型番のメカってどう思う? 的な質問なんだろう騙されんぞ俺は。


「俺は死すべきだと思ってる」


「」


「だってそうだろ。金髪で日焼けしたチャラ男出てきた時点でもうトカレフ抜くね、間違いない」


 性 癖 の 話 で し た 。


 待てよおまっ、クラルテいるんだぞ? 女性の前でそんな話して―――。


「そうですよね!? 私もそう思います! カップルの仲を引き裂くなんて神に対する冒涜、異端です! 即刻火炙りに処し穢れた魂を浄化するべきです!!」


「 ク ラ ル テ さ ん ! ? 」


 えぇ、と隣で言葉に熱の入るクラルテを見てちょっと引いた。


 あの、えーあの、あのあのあの。何なんですかこの人、今までちょっと怪しげな機械を身につけたけど頼りになるし経験豊富だし色々デカくてえっちなお姉さんだと思ってたのに何この人。ここに来て異端だとか浄化とか、倫理観を中世まで先祖返りさせたようなワード連発させるのやめてもらえます?


「だよな、やっぱりイチャラブこそ正義だよな?」


「そうです、純愛です! NTRなど言語道断! ね、ラウルさんもそう思いますよね!?」


「……」


 こほん、と咳払いをする。


「…………ぶっちゃけいちゃラブこそ正義」


「「「「Yeah!!」」」」


 ガタッ、と椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がるクラルテと熊×3。なんだこれは。


 でもまあ、彼らの言い分も分かる。イチャラブは最初から最後まで安心して見ていられるジャンルである。現実がクソの極みであるからこそ我々人類は古来から創作に癒しを求めるのであって、創作の中でも心が引き裂かれるような展開を望んでしまう人間は最早生粋のドM、世の中の残酷さに晒され悦ぶ事を運命づけられて生まれてきたような……いや落ち着け、アイツらのペースに呑まれちゃいけない。


「船长,炒蔬菜做好了(艦長、野菜炒めできたよ)」


「お、ありがとチャンさん」


 どんっ、とテーブルの上に野菜炒めの乗った大皿を置くパンダの獣人。チャンさん、と呼ばれたパンダの獣人の彼は手慣れた手つきで野菜炒めを全員分用意するなり、俺とクラルテの分まで用意してくれた。


 そういやまだ昼飯食べてなかったな……。


「快点,趁着还没凉赶紧吃点。食物趁热吃味道最好(さあさあ、冷めないうちにどうぞ。料理は熱いうちが一番美味しいからね)」


「あ、どうも」


 どん、とスープと山盛りのご飯まで用意され、思わず喉を鳴らした。


 ただありあわせの野菜を炒めただけではない。良質なゴマ油と風味を乗せるためのスパイス、調味料の味がしっかり染み込んだ野菜たち。単純に見えて全てが複雑な計算と絶妙なバランスの上に成り立っているような、なんともハイレベルな料理だった。


「……あれ、というか面接は」


「ん、採用採用。それよりほら、世界一の料理人が作ってくれた飯だから食おうぜ」


「照れるヨ」


 あはは、とカタコトで返すチャンさん。語感的にジョンファ出身なのだろう。


 面接なんて、あって無いようなものだった。呼ばれて性癖を語って飯食って……なにこれ。


 いただきまーす、と手を合わせて箸で野菜炒めを冷ましながら口に放り込み、ご飯をかきこむヴォイテク。やけに美味そうに食うものだから俺も我慢できず、彼の後に続いて野菜炒めを口へと運んだ。


「―――!」


 全細胞が喜んでいるような、そんな感じがした。


 油と調味料、そしてスパイスの衣を程よく纏った野菜は、しかし食感までは殺されていない。キャベツに玉ねぎ、にんじんのシャキシャキした食感は確かに息衝いていて、調味料の味やスパイスの風味と程よく調和している。


 少し濃いめの味付けがご飯を進ませ、炭水化物を摂取した後にさっぱりした味わいのスープで口の中をリセット。そしてまた野菜炒めを食べてご飯をかきこんで……という終わりのないループが成立してしまう。


 こ、これが”食の輪”ですか。


「うっま」


「うっっっっっっま!!!!!」


 どかん、と咆哮するクラルテ。多分今のは350㏈くらい。


 なんか前にもこんな人見た事あるな、と思いながら瞬間的に仕込んでいた耳栓を外した。たぶんクラルテの前世はティ〇レックスかア〇ムトルムのどちらかだと思う。


「チャンさんおかわり!」


「はいヨー!」


 空になった茶碗をチャンさんに渡し、ヴォイテクはスープを飲んでからニッ、と快活に笑う。


「ラウル、それからクラルテ―――ようこそ”くまさんハウス”へ」


 歓迎するよ―――その言葉でやっと、孤児院を旅立った俺にも居場所が出来たんだと、そう思った。


















「ソコロフさん、この荷物はどっちだっけ?」


 積載リストを見ていたツキノワグマの獣人、ソコロフに問いかけると、彼は親し気な笑みを浮かべた。


「”ソコロフ”でいいよ。ええとその荷物は……あー、ガラス工芸品だから割れ物注意だ。向こうのハンガーに固定して。金具の装着手順はチェックリスト通りに」


「了解!」


 荷物を揺らさないように、尚且つ崩さないように細心の注意を払いながら運び、艦内の格納庫にあるハンガーにセット。近くに用意されているチェックリストを参照しながら金具でしっかりと固定、緩みがない事を確認してから次の荷物の搬入に入る。


 冒険者ギルド『くまさんハウス』は、運送業と冒険者の仕事を並行してやっているギルドだ。


 本業以外の生業を持つギルドは少なくない。特に自前の空中艦を持っているような裕福なギルドは運送業だったり、フル武装して空爆とか空挺降下とか楽しそうな事をやっている。


 くまさんハウスの場合は運送業だ。地上と浮遊大陸を行き来して、荷物を運んだり人を運んだり、時折荷物の代わりに爆装して依頼主の敵に爆弾投下のデリバリーをしたりするらしい。


 そんな仕事を、これまでたったの4人でやっていたのだそうだ。荷物や仕事が多様化する中でさすがに4人はキツイと判断、ついに求人を出すに至った……というのが真相なのだそうだ。


 チェックリストを確認してすべての荷物の積載完了を確認。ロードマスターのソコロフが荷物の重心や荷崩れの恐れがないかの最終チェックを行い、完了した旨を伝声管で艦橋へと報告した。


「格納庫より艦橋、積み荷の積載完了」


《了解。ラウルいるか?》


「いるよ、艦長」


《ラウルとクラルテを艦橋へ。特等席で空の旅だ》


 そりゃあ楽しみだ。


 だってさ、とウインクしながら送り出してくれるソコロフ。お言葉に甘えて俺はクラルテと共に格納庫を離れ、通路を通過して角度が急なタラップを駆け上がり、艦橋へと上がっていく。


 武装貨物船『ソーキル』の艦内は、”艦内”というよりは第二次世界大戦の頃の爆撃機を思わせた。内壁を介してレシプロエンジンの振動が伝わってくる。


 水上艦と飛行船を足して2で割ったような姿をしているソーキル。艦首のバルバスバウを思わせる膨らみはソナーを収納するスペースでも水流や気流を受け流すためのものではなく、ガラス張りの航法室になっているようだった。前方には6連装のブローニングM2重機関銃が据え付けられている。


 タラップを上がって艦橋へと入る。爆撃機の操縦席を広くしたような艦橋は、しかしやっぱり手狭だ。中央に艦長席があり、前方に操縦桿や通信機がある。左右の扉は船外の見張り台へと通じているようだ。


 驚いたのはどの設備も自動化されている事だった。操縦桿のところには機械で作った骨人間みたいなロボットの上半身が生えていて、人間の操縦士の代わりに操縦桿を握っている。


《バレーシャ航空保安局ヨリ離陸許可カクニン》


「了解、離陸準備」


《両舷前進微速》


 船外に搭載されているエンジンポッドが一段と唸り声を高くしたかと思うと、ソーキルの船体がゆっくりと前に進み始めた。


 アスファルトで舗装された滑走路に躍り出るソーキル。他の格納庫には冒険者ギルドのものなのか、武装していたりそもそも武装を積んでいなかったりと、多種多様な空中艦が係留されている。


「―――抜錨、ソーキル発進!」


 発進位置につくなり、ヴォイテクが命じた。


 レシプロエンジンが更に大きな音を立てるなり、ぐんっ、とソーキルの全長140mの巨体が押され始める。


 そういや転生前、大阪にいる親戚の所に行った時に飛行機乗ったなぁ……と当時の記憶を思い出していた。ジェットコースターがあまり得意ではなかった俺氏、飛行機の離着陸の際に幼少期のトラウマを刺激され、降下していく感覚に膀胱をぞわぞわさせていたものである。


 ふわり、とソーキルの図体が浮かび上がった。


《対消滅エンジン点火、10秒前》


 伝声管から聴こえるヨルゲンセン機関長の声。面接……とは名ばかりの歓迎式の際、一言も言葉を発しなかったホッキョクグマの獣人の男性だが、あの人こんな低い声してたんだ……。


「捕まってろ、揺れるぞ」


 ヴォイテクに言われたのと、ヨルゲンセン機関長のカウントダウンが終わりに近づいたのは同時だった。


《3、2、1……対消滅エンジン、点火!》


 ごう、と足元の床が震えた気がした。


 ソーキルを押す推力が一段と強くなり、艦が加速していく。先ほどまで艦橋の窓の端に見えていた地表は早くも見えなくなり、爆撃機のキャノピーみたいな窓の向こうには青空ばかりが広がる。


 世界が、覆る。


 15年間―――前世も含めて40年間も慣れ親しんだ大地の重力を離れ、遥か高みに浮かぶ浮遊大陸と空の世界へ。


 




 新しい世界が始まった瞬間だった。















 第一章『転生者ラウル』 完


 第二章『浮遊大陸』へ続く



ここまで読んでくださりありがとうございます!


作者の励みになりますので、ぜひブックマークと、下の方にある【☆☆☆☆☆】を押して評価していただけると非常に嬉しいです。作者の中の人は泣いて喜びます。


広告の下より、何卒よろしくお願いいたします……!

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― 新着の感想 ―
就職面接…圧迫質問…人格否定、うっ頭が。 なんてこともなく、くまさんハウスの面接は順調に進んだかと思ったら貴方もですかヴォイテク伍長。いや私もNTR好きじゃないですけど…ちょっとシスター?何言ってるん…
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