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盗賊退治 


「いやー、破竹の勢いですねぇ!」


 達成した依頼書に『Completado(達成済み)』のスタンプを押しながら、ウサギの獣人の受付嬢はまるで自分の事であるかのように笑みを浮かべる。


 バシリスクにサイクロプス、中堅の冒険者が名を聴くだけで尻込みするような相手を立て続けに撃破して、ついにはCランクへの昇級も現実味を帯びつつあるのだ。そんな俺たちを活動開始から見守ってくれていた受付嬢である、彼女の気持ちも何となくわかる。


「そういえばエルマータさん、”ギルド”への加入は考えていますか?」


「え……いやぁ、今のところは特に。不自由はありませんし」


「そうですか。ギルドに加入すると色々便利ですよ。頼れる仲間が増えますし、ギルドによっては複数の拠点を持っていたりするので補給の面や遠征時に融通が利いたりして活動の柔軟性が上がります」


「へぇ」


「ギルドの求人募集はあちらの依頼掲示板の隣にある掲示板に貼ってありますので、お時間がある時にでもぜひ」


「分かりました。ありがとう、検討します」


 ギルド……ねぇ。


 例外はあるが、一般的に冒険者のパーティーは4人まで、という規定がある。


 4人で1パーティー、という単位だと思ってくれて構わない。


 パーティー単体で活動している場合はその限りではないが、複数のパーティーで活動しているような大所帯は『ギルド』と呼ばれる。管理局にギルド結成の申請を出して受理されれば晴れてギルドとしての活動が認められるようになるのだ。


 冒険者の仕事は多岐に渡る。魔物退治からダンジョン調査、盗賊退治とか薬草採取とかその他諸々。早い話が何でも屋、便利屋だと思ってくれればいい。


 ギルドは依頼主との契約に基づき、そんな便利な人材を派遣する会社みたいなもんだ。経営の才能がある人材をギルドマスターに頂くギルドは凄まじい規模で成長し、民間軍事会社(PMC)みたいな規模になったものもあると聞く。


 優秀な冒険者がいる場合は、ギルド側からヘッドハントしてくる事もあるのだそうだ。


 ギルド、か。


 あまり考えた事はなかったな、そういえば。


 まあ、ギルドに加入する以上はそこの意向に従う必要も出てくるわけで。そういうしがらみとか活動上の自由度が制限されてしまうのを嫌い単独で活動する冒険者も多いらしい。


 とはいえ今後の選択肢の1つでもある。上手くいけばこっちも甘い汁を啜れるというわけだ。


「ギルドですか」


「クラルテは何か知ってる?」


「うーん、どれも噂話程度のものですが……ギルド内部で頭角を現した新人冒険者が、その存在を危惧したギルド上層部に全額前金支払いの高額報酬依頼に釣られてホイホイ受注、『残念ながら目標など初めからいない』からの『だまして悪いが仕事なんでな。死んでもらおう』というコンボを流れるように喰らって帰らぬ人になったとか、そういう話は聞きますよ」


 怖っ。


 やっぱあれか、そういう出る杭は打たれる的なやつマジであるのか。まあ上層部からすればギルド内での立場を脅かされるのは嫌だからなぁ……俺もこの勢いだとそうなりそうだ、ギルド加入はちょっと見送った方が良いかな。


 というかその消された奴も”全額前金支払いの高額報酬”を提示された時点で気付け。伝統芸能だろそんなん。


 俺だったら依頼を受けないかガチ装備で返り討ちにする前提で挑むか、あるいは二週目で受注するよそういうの。


 求人掲示板の方を覗いてみた。


 バレーシャが大きい街だからなのだろう、やっぱり求人情報はたっぷりあった。『アットホームなギルドです!』とか『ヒーラー募集!』とか『超ストイックな活動方針です。半端物は出ていけ!』とか、まあ色んな文言が記載された求人票があるわあるわ。


 今日は眺めるだけでいいかなぁ、とクラルテに言おうとしていると、「あ、ちょっといい?」と横から声をかけられた。


 振り向いてみるとそこに立っていたのは冒険者の男だった。細身で、私服の上に金属製の胸当てや肩当てを装備している。腰には剣と、それから斬撃が通用しない相手に対処するためなのだろう、メイスもぶら下げている。


「俺、最近ギルドを結成した”レオ”っていう者なんだけど……その茶髪交じりの灰色の髪、もしかして君が最近噂のエルマータって冒険者?」


「え? はぁ、そうですけど」


 もしかしてヘッドハントかな、と思いながらちょっと身構える。


 まあ、こういう時の”嫌な予感”というのは結構当たるもので……。


「良かった、君を探してたんだ! ねえねえ、もしよかったらウチのギルドに加入しない? まだ1パーティーとちょっとくらいの人数しかいない小規模ギルドだけど、君みたいな期待の新人がいればすぐ中堅ギルドと肩を並べられるようになるよ!」


 ちらり、と彼の後ろを見てみると、仲間と思われる男女の冒険者が何人か俺の答えを待っているようだった。


 装備は革の防具だったり金属製の防具だったりと一貫性がないが、共通している特徴がいくつかある。


 金属製の防具を全身に着込んでいるメンバーがいない事、そして装備している武器が一般的なロングソードにレイピア、サーベルだったりと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()になっている事だ。


 通常、冒険者は魔物と戦う機会の方が多いから装備も必然的にそれに特化したものになってくる。金属製の鎧は小型の魔物の攻撃から身を守ってくれるし、大型の魔物と戦うならばそれ相応の大剣とか大型メイスとか大槍とか、そういった装備が必須になってくるだろう。片手サイズの剣など威力がたかが知れているからだ。


 小規模ギルドと言ったが、ならばこそ個人の戦闘能力や依頼達成能力を少しでも底上げする装備構成をしていてもおかしくない筈である。


「まあ、スカウトですか? ラウルさん、チャンスですよ!」


「……あー、お気持ちは嬉しいんですけどもお断りします。俺たちフリーでやっていきたいので」


「え」


「ラウルさん!?」


 意外そうな顔をするレオと名乗った男。隣ではしゃいでいたシスター・クラルテが肩を掴んでがっくんがっくんと揺らしながら「え、何で断るんです?」と問いかけてくる。


「すいません、今回はちょっと……はい」


 申し訳なさそうに言い残し、彼の前を去った。


「ラウルさん、何で断ったんです? ギルド加入のチャンスだったんじゃ?」


「……アイツらの装備、見た?」


「え、装備って……」


 ちらり、と彼らの方を振り向くシスター・クラルテ。


「ロングソードにサーベルにレイピア……普通では?」


()()()()()()()()()()()()()


「……待ってください、どういうことです?」


「真っ当な冒険者だったら、パーティーメンバーに1人くらいは長物持ちがいてもおかしくないだろ? 大剣とか槍とか」


「ええ……あ、まさか」


「……気付いたか」


 長物も買えないような、駆け出しの冒険者が集まったギルドだったら申し訳ない話ではあるが……俺にはどうも、全員が対人戦特化の装備構成をしている点が引っかかる。


 おまけにこっちは現代兵器持ち、この世界の技術水準では到底追い付けないレベルの火力と性能がある。そんな武器を使って無双している新人冒険者がいる、と聞けば大抵の連中はこう考えるだろう……仲間にするか、殺して武器を奪い取るか。


 連中の装備を考慮すると、俺にゃあどうしても後者に思えてならないのだ。


 去り際に振り向くと、先ほどまでいかにも好青年といった感じの雰囲気を発していたレオの表情が一転、獲物を取り逃がして悔しがる捕食者のように思えた。


 危ない危ない。


「あ、エルマータさん!」


 依頼掲示板の方を覗いていた俺を、さっきのウサギの獣人の受付嬢が呼び止めた。


「はい……あ、もしかして」


「はいそうです、昇級試験です!」


 は、早ぇ……。


 活動開始から3日、早くもCランクへの昇級試験か。


 渡された依頼書を見て、俺はちょっと息を呑んだ。


 依頼内容は”盗賊団から荷物を奪還する事”。どうやらクライアントは運送業に従事している冒険者ギルドのようで、盗賊団に荷物を盗まれ困っているらしい。


 ちなみに依頼主は冒険者ギルド【くまさんハウス】。何だその名前は。


 しかし……対人戦か。


 いつかは経験する事になると思っていたが……。


 最悪、盗賊は無視して荷物だけを運び去ればいいかなんて甘い事も考えたが、まあ無理だろう。一戦交える事になるし、この手を血に染める事になるかもしれない。


 相手が魔物から人間に変わっただけ……だというのに、こんなにも覚悟を決める事になるとは。


 とはいえいずれ乗り越えなければならない事だ。


「……クラルテ、君はどうする」


「私はあなたに従います」


「わかった……すいません、この依頼受けます」


「分かりました、では早速―――」


「すいませんが詳細な資料を。盗賊団の素性、想定される装備、それから盗まれた荷物の特徴……匂いがするような情報をください」


 やれというならば、やってやる。


 ここはもう安全な日本じゃない。


 強くなければ生き残れない、異世界なのだ。



















 盗賊の拠点は、バレーシャ市の北部に位置する廃村のようだった。


 州都の目と鼻の先にあるのに憲兵隊は何をやってるんだ、と言いたいところだが、その辺りは憲兵隊が腐敗して賄賂をもらう代わりに黙認していたとか、あるいはつい最近そこに拠点を構えたとか、そういう理由があるのだろう(実際スパーニャの憲兵隊が腐敗しているという話はあまり聞かない)。


 草むらに紛れて廃村に接近、双眼鏡を覗き込んで廃村の中の様子を確認する。


「思ったよりも盗賊の人数が少ないな」


 1、2、3、4……枯れた井戸の後ろにももう1人、確認できる範囲で5人だけだ。


「盗みの為に出払ってるんでしょうか」


「なら好都合だ」


 盗まれた荷物は、情報によると飛竜の卵らしい。


 飛竜の卵は珍味として知られている。ダチョウの卵がオモチャに思えるほど大きなサイズで、それでいて濃厚な味わいが人気の高級食材でもある。王都マリードの方では貴族に高値で売買されているらしく、依頼主……くまさんハウスからすれば大口の顧客からの貴重な収入に違いない。


 そんな貴重なものを野ざらしにして置いている筈もない。おそらくは3つある廃屋のどれかに隠している筈だ。高値で売れる代物だから、盗賊たちも早いところ買い手を見つけて売ってしまいたいはずである。いずれにせよ、短期決着が理想だ。


 頭の中で侵入ルートと脱出ルートを構築する俺。その隣ではシスター・クラルテが、背負っていた砲身を底盤の上に乗せて、特徴的な二脚を立て照準器をセットしているところだった。


 アメリカ製60㎜軽迫撃砲『M224』。口径は60㎜と小さく射程も短い(※あくまでも火砲基準であり、個人携行火器と比較すると圧倒的に長い)ものの、その速射性と加害範囲の広さが歩兵には脅威となる。


 というかクラルテ、機関銃だけじゃなくて迫撃砲も扱えたのか……【ユリーカ】ではいったいどんな訓練を受けてきたんだこの人?


「クラルテ」


「はい」


「……君、人を殺した事は?」


 問いかけると、クラルテは迫撃砲の砲弾を周囲に並べながらさらりと答えた。


「ありませんよ」


「……すまない、君をこんな仕事に巻き込んでしまって」


「大丈夫です。私はあくまでもあなたの巫女、必要とあらばこの手を血に染める事も厭わないですよ」


 全く緊張していないような感じで、クラルテはさらりと言ってのけた。


「……恐怖とか、罪悪感に対する懸念とかないのか?」


「ありますし、そう言った事は感情として理解できます。でも」


 迫撃砲の砲撃準備を終えるなり、彼女は胸元のメダリオンに触れた。太陽を象った、何かの宗教のシンボルを思わせる黄金のメダリオン。目立たないように艶消しされているようだが、それでもなお存在感を放っている。


「大丈夫なんです。指名の遂行に不要なそういった感覚は、マザーが”調律”してくださいますから」


「調律……」


「はい。人間が抱く感情の揺らぎを抑制してくださるんです。ですから私の心配はなさらず、ご自分の心配だけをなさってください」


 彼女が崇拝するマザーという存在が、少しだけ恐ろしくなった。


 罪悪感や恐怖……感情の揺らぎは人間を人間たらしめる重要な要素ファクターだ。確かに合理性だけを突き詰めていけば障害になる事もあるだろうが、それを希釈し、ゆくゆくは消失させるという事は人間性の喪失に他ならないのではないだろうか。


 異世界でマザーに育てられた彼女と、日本人だった頃の記憶を持つ俺。


 認識に大きな乖離を感じつつも、とりあえず仕事に取り掛かる事にした。




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― 新着の感想 ―
ねぇ、依頼主ってアイツ?
ギ ル ド 名 : く ま さ ん ハ ウ ス 殺 伐 と し た 界 隈 に 相 応 し く な さ す ぎ る 名 前 ギ ル ド と 言 う よ り 熊 の 保 護 セ ン タ ー く ま っ …
ギルドですかあ…スケールメリットは魅力ですけど余程信頼の置ける間柄じゃないと、人間関係破綻からの崩壊も十分あり得ますよね。普通に騙して悪いが案件が横行しており、対人戦闘装備に統一されたギルドからの勧誘…
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