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期待の新人


『一説によると、我々獣人と竜人は共通の祖先を持つ種である可能性が高く、1つの祖先から2つの種族に分岐したのは第1文明以前のふるい時代であるとされている』


 人類史研究者のメモより


 Querida maestra Matilda(親愛なるマチルダ先生へ)



 Gracias por su arduo trabajo diario. Siento que la agitación en torno a la Guerra Tenchi se ha calmado recientemente, pero ¿cómo están?(毎日の激務お疲れ様です。最近は天地戦争の混乱も落ち着いてきたものと感じていますが、いかがお過ごしでしょうか?)


 Ayer tuve la suerte de tener el glorioso logro de derrotar con éxito a un basilisco en el trabajo, lo que me valió un ascenso antes de lo previsto. Creo que la razón por la que he podido convertirme en un aventurero tan exitoso es por la excelente educación que me ha dado la Sra. Matilda, un huérfano, hasta ahora. Muchas gracias por tu ayuda.(昨日、仕事でバシリスクの討伐に成功し飛び級昇進を果たすという華々しい戦果に恵まれました。こうして冒険者界隈で活躍する事ができたのも、全てはマチルダ先生が私のような孤児を今日まで立派に育て上げてくださったからであると信じております。本当にお世話になりました)


 Me gustaría saldar esta tremenda deuda de gratitud con mi maestro y con mis hermanos menores que seguirán mis pasos, por lo que donaré una parte del dinero de recompensa que recibí por matar al basilisco, así como algunas de las escamas de basilisco que fueron enviadas a la Oficina de Supervisión. Al parecer, las escamas en polvo sirven como antídoto contra cualquier veneno. Puedes guardarlas como reserva en caso de emergencia o venderlas para ayudar a recaudar fondos para el orfanato.(この途方もない恩を先生に、そして後に続く弟妹たちに少しでも還元できればと思い、バシリスク討伐で頂いた報酬金の一部と、監理局に申請し頂いたバシリスクの鱗をいくつかそちらに寄付いたします。鱗は粉末状にすればあらゆる毒を分解する解毒剤として活用できるそうです。万一の時の備えとして、あるいは売却し孤児院の収入に充てて頂いても構いません)


 Hasta luego.(それでは、また)



 Tu hijo, Raúl Hermata(あなたの子、ラウル・エルマータ)






















「「かんぱーい!!」」


 ジョッキをお互いに軽くぶつけ合い、なみなみと注がれたアップルジュースを一気に呷った。普通こういう時はお酒なんだろうけど、あいにく俺は未成年だしシスター・クラルテはお酒に弱いのか、それともシスターという立場故に飲酒が戒律か何かで禁じられているのかは不明だが、まあ彼女もジュースでの乾杯となっている。


 バシリスクとの遭遇は想定外ではあったが、まあ現代兵器のおかげで圧勝する事が出来た。恐ろしい相手ではあったが、まあよくよく考えればバシリスクが恐れられているのは奴が好む閉鎖空間での戦いを強いられがちである事に加え、閉鎖空間では毒ガスが滞留しやすく危険度が爆上がりになるからであって、『屋外で』『現代兵器を装備し』『相手の間合いの外からアウトレンジ攻撃できる』という条件が重なればまあ、ああなるよな……というわけである。


 今回は運が良かっただけだ。間違っても『バシリスク弱すぎwww』なんてイキれない。少なくとも閉鎖空間での戦闘を強いられていたら防護服の装備は必須だし、いつ襲って来るか分からない緊張感の中で戦う羽目になっていたであろう。


 今回の昇級も棚ぼたのようなもんであるが、しかし結果は結果。このチャンスを生かさない手はない。


「お待たせしました、パエリアです!」


「わぁ……!」


 どん、と豪快に置かれた大きな鍋。『パエジェーラ』という名称で呼ばれる底の浅いフライパンの上に載っているのは、サフランで鮮やかな色合いに染まったお米と、一緒に炊き込まれたムール貝やイカの切り身、殻の付いたエビ。


 一緒に運ばれてきたお皿の上により分けてからレモンの切り身を絞ってレモン汁を振りかけ、口へと運んだ。


 口いっぱいに広がる濃厚な魚介の旨味と、硬すぎず柔らかすぎずの絶妙なラインを攻めるご飯の食感。しかしそれでいてくどくないのはレモンのさわやかな味わいが加わっているからこそだろう。


 これまでは堅いパンとか屑野菜のスープとかイワシのオイル漬けの缶詰とか、そういう食事ばかりだったものだから、ちゃんとしたこういう料理を口にするのは意外と初めてだったりする。手の込んだ料理を食べるの、下手したら転生前以来かもしれない。


 身体中の細胞が喜んでいるような幸福感に包まれる俺の向かい側では、同じようにパエリアを咀嚼しているシスター・クラルテが狐のケモミミをピコピコ動かしながら全身全霊で喜んでいるところだった。


 普段の大人びた雰囲気とは打って変わって年頃の乙女のような感じだが、この人そもそも狐の獣人だったんだな……。


 少し遅れて別に注文していたウサギ肉の串焼きも運ばれてきた。スパイスをまぶしたそれにも付属していたレモン汁を振りかけて口へと運び、もぐもぐと咀嚼する。


 やっぱり狼の獣人なのでウサギ肉は好物なんだろうけど、なんだろう……孤児院の弟分にもウサギの獣人の子がいたのでなんかこう、その子の顔が脳裏にちらつく。獣人って自分の天敵の動物と同じ獣人の相手を本能的に恐れてしまう傾向があるらしいが、あの子もそうだったのだろうか。結構絡みに行ってしまったが気が気じゃなかったのなら本当に申し訳なく思う。


 狼が天敵の動物ってやっぱり多いのだ。ウサギ以外にもハクビシンとか、まあそういう系の動物が多くあてはまる。


「ほーいえははうふはん、ほへははほうふふんへふは?(そういえばラウルさん、これからどうするんですか?)」


「うん、美味しいよねご飯ね。呑み込んでから喋ろうね」


 口いっぱいにパエリアやらウサギ肉の串焼きやらを放り込み、頬をリスみたいにパンパンに膨らませながら話しかけてくるシスター・クラルテ。なんだろうこの人、普段はものすごく大人びていてしっかり者って印象があるけれど、こういう細かいところで子供っぽいところがチラ見えするのギャップを感じる。


 鍋の底にちらりと見えたおこげ(パエリアはおこげも美味しいのだ)をスプーンでこそぎながら、とりあえず頭の中にある今後の方針についてクラルテに語る。


「これからは……まあ、適度にお金を貯めながらメルキアを目指そうと思ってる」


「メルキア……って、あのメルキア大陸ですか?」


「そ」


 ―――メルキア大陸。


 天空に浮かぶ浮遊大陸の中で最大サイズとされている、竜人たちの総本山。そこに竜人たちの聖都(※首都みたいなもんだ)が存在するとされており、メルキア大陸のサイズは前世の世界でいう南米ほどのサイズにもなるのだそうだ。


 そしてそこに、ユリウスとロザリーの生まれ故郷がある。


 あの2人にとっては戦火を免れた生まれ故郷である。例え、そこで2人の成長を見守ってくれる両親の姿が無くとも。


「約束したんだ、彼女と。冒険者になったら会いに行くって」


「……彼女?」


 ぴく、とクラルテのケモミミが動いた。


「小さい頃、ロザリーっていう竜人の子と知り合って。今メルキアに居るんだ」


「そうでしたか……珍しいですね、竜人と知り合うなんて」


「まあ、向こうにも込み入った事情があったみたいでさ」


 がちゃーん、とすぐ近くのテーブルで大きな音がした。どうやらアルコールの回った冒険者同士が騒ぎを始めたらしい。


 酒場ではよくある事なのだそうだ。冒険者も過酷な環境で働くものだから、やっぱりストレスも凄まじいのだろう。管理局に”食堂”ではなく”酒場”が併設されているのはそのためだ。結局のところ、高ストレス環境に身を置く者にとってニコチンとアルコールは良き隣人なのである。


 懐かしいな、前世の世界で仕事終わりによくコンビニで安い酒とツマミを買ってたなー、なーんて嫌な記憶を思い出していると、酔っぱらった冒険者が俺の隣の席に座ってきた。


「んぉー……お嬢ちゃんアレか、今日飛び級した新人チャンかい?」


「ええ、そうですけど」


「はぇー……どんなインチキ使ったんだ? 偉い人と一緒に寝たのか? ぎゃははは!」


「ん、教えてあげよっか?」


 にこ、と微笑みながら冒険者の肩に寄り掛かる―――ふりをして相手の顎に素早く掌底。ぐわん、と脳を揺らされた彼はアルコールが回っていた事もあってぐらりと身体を揺らし、そのまま床に倒れ込んでしまう。


「……酔っぱらいは嫌いでさ」


「あー……暴力はいけませんよ暴力は」


「ん、暴力は肉体言語」


 パキ、と指を鳴らし、倒れた冒険者を足でどけてからウサギの串焼きをぱくり。


 こそいだおこげをスプーンで口に運んで咀嚼していると、今度は隣のテーブルからふっ飛ばされてきた冒険者が俺の肩を直撃した。


「……クラルテ」


「あの……ですから暴力は」


「ん、対話してくる」


 拳で。


 席を立ち、拳を鳴らし、さっきふっ飛ばされてきた冒険者の顎に一撃。そしてそいつをふっ飛ばした冒険者の顎にもアッパーを叩き込んで2人まとめて黙らせた。


 
















 翌日。


 Eランクを飛ばしてDランクへの飛び級が認められた事もあって、討伐系の仕事も増えてきた。


 BRN-180でゴブリンの胴体を撃ち抜き、そのまま倒れ込み悶え苦しむソイツの頭に追加で一発。他の奴は、と視線を巡らせると同時に飛びかかってくる別のゴブリン。棍棒の一撃を咄嗟にBRN-180で受け止める。今のでホロサイトのゼロイン狂ってないよな、と少し心配になりながらも回し蹴りを脇腹に叩き込んでふっ飛ばし、ホルスターから引き抜いたグロック40の10㎜オート弾で黙らせる。


 空気の流れの変化を感じ取りバックジャンプ。直後、俺が立っていた場所に横合いから巨大な丸太が飛んできて、派手に土煙を吹き上げた。


 それを突き破って向こう側から迫ってくるのは、トロール―――ではない。似ているがその顔にある眼球は巨大なものが1つだけ。


 サイクロプスだ。


 トロールの近縁種、あるいは亜種ともされているサイクロプス。手にはどこで拾ったのか、巨大な木の棍棒がある。


 振り下ろしてきたその一撃を回避し、BRN-180のフルオート射撃を腹に叩き込んだ。呻き声を発するサイクロプスに5.56㎜弾がめり込むが、しかし穴を穿つだけでサイクロプスは止まらない。


 Dランクになって、当たり前だが難易度が一気に上がった。


 駆け出し冒険者が下積み時代にこなす採取系の依頼はすっかり鳴りを潜めて、こうやって魔物を討伐するのが当たり前の世界。


 学生の頃、友達が始めたゲームを手伝ってと頼んできた事があった。他の友達と一緒にソイツのゲームを進めるのを手伝ったんだが、後になってソイツそのゲームを辞めてしまったらしい。


 なんでも、俺と他の友達が強すぎるせいで相手の魔物を瞬殺するのが当たり前になってしまい、ゲームが進んだのは良いがプレイスキルが伴わないまま高難易度まで進んでしまったせいで何も出来なくなってしまった……というのが理由なのだそうだ。


 俺たちみたいな飛び級にもそんな弊害があるのかもしれない。昇級を急ぐのも考え物か……。


 などと考えながら全力で走った。倒木の上を飛び越え、邪魔なゴブリンを蹴り倒し踏み台にして大きく跳躍。考えなしに追ってくるサイクロプスをキルゾーンまで誘い込む。


 次の瞬間だった。


 横合いから飛来した7.62×51㎜NATO弾の弾幕が、サイクロプスの右半身を瞬く間に蜂の巣にしたのは。


 より大口径の弾幕を浴び、深手を負うサイクロプス。


 たたらを踏む相手を5.56㎜弾で追撃。マガジンが空になるまで弾丸を撃ち込むと、血塗れになったサイクロプスはゆっくりと崩れ落ちた。


 冒険者登録から僅か3日―――バシリスクに続きサイクロプスの討伐にも成功し、俺たちは着実に知名度と実力を身につけつつあった。


 後は資金を貯めて、メルキアまで乗せていってくれる空中艦を見つけるだけだ。


 そうすれば、空でロザリーにまた会える。





 

 


バシリスク(魔物)


 この世界に生息する大蛇のような姿をした肉食性の魔物。一般的に遭遇する事の多い個体は全長3~7m程度である事が多いが、過去には20mオーバーの巨体を持った個体も確認されており、どこまで成長するのかは不明。赤い鮮やかな鱗と黒い斑模様、頭頂部の王冠のような模様が特徴的。


 体内に猛毒を生成する器官を備えており、ここで分泌した毒液を吹き付けて攻撃するほか、それを蒸発させた毒ガスによる攻撃が最大の脅威。また【生息する地域や環境によって毒の種類が変化する】という性質があるため、討伐前には想定される毒物に対応した解毒剤を用意するか、複数種の薬品を持ち込んで挑む事が推奨されている。なお、ノヴォシア地域の第11文明頃の研究施設には【ノビチョクを体内で分泌する性質を持った非常に危険な個体】が出現した事例もある。


 本能的に狭く暗い場所を好むため毒ガスが閉鎖空間に滞留しやすく、至近距離での戦闘を迫られがちであり、相手の土俵での戦いを強いられる事から難敵とされているが、しかし屋外に出てきてしまった事と現代兵器が相手だったせいでラウルとクラルテ相手には一方的にボコられてしまった。

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― 新着の感想 ―
ラウル君は律儀な性格をしてますねえ。飛び級だからといって舞い上がらず自分を育ててくれた先生と孤児院に仕送り。前世が25歳の苦労人の社会人だったのもあるんでしょうが、考えてみれば孤児なんでマチルダ先生が…
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