ボクッ子、ヴェルトちゃん
「……よし。じゃあ話が早い。場所は分かってる」
ネフフルが即座に身を乗り出す。
「は?最初から分かってたのかよ。じゃあなんで自分で行かねーんだよ?」
「作った本人だろ?」
ネフフルの声が強くなる。
親方は目を伏せた。
「怖かったんだ......すまねぇ」
「暴走してるもんね」
リュカが小さく言った。
親方は頷く。
「俺だって対話すればと思ったよ.......でも、もし俺が暴走したあいつにやられれば、今後あいつを助けようと動くやつはこの世でいなくなるだろ」
「あいつが苦しみ続ける羽目になんのが嫌だったんだよ」
拳を握りしめる親方
ネフフルは唇を噛んだ。
「まぁ行くか。場所が分かるなら話が早い」
「……でもなおっさん、そんなけ大切なのに魔族の核埋め込むなんて、あんたひどいぜ」
親方は一瞬はっとした顔をする。
自分の作品と言うよりは大切な家族の様に感じていたことをネフフルに気づかされたのだ。
「...........」
「リュカ行くぞ」
「マシンジジイ.......元気だして。連れ戻すから」
「もう一度あいつにあって謝りたい......頼む」
ネフフル達はヴェルトの場所がリアルタイムで表示されるデバイスを親父から受け取り、すぐさま現地へ向かった。
ネフフルは情に深い分、それに反した相手にはかなり高圧的になってしまう
ネフフルが言う
「場所は――イドイーヌ草原の丘の上ね」
「ネフフル怒ってる?」
リュカが少し気まずそうに言う
「まぁな.....あのジジイ、大切な存在に魔族核入れて、収拾つかなくなって自分で助けに行かず人に頼ってんだ」
「クソ野郎だよ......嫌な記憶蘇ったわ」
「途中までバイクの為に我慢してたが、キレちゃった......ごめんリュカ」
「全然いいよ」
珍しくリュカが普通に優しい。
しかしおかしい。リュカの手と背中に異様な物がある
手にはマシンガンと背中にはバズーカだ
「は?リュカ何それ」
「マシンジジイの店から持って来た。リュカがキレてる時、他の店員に武器が必要って言ったらくれた」
「いやいやいや!どうりでいないと思ったわ、あの時」
「え、てか作戦内容知ってる?リュカちん」
「破壊」
「ぶーーーーーーーー!!!」
「全然違うわ!てかあのオッサンに"連れ戻すから"って優しく元気づけてたじゃん?」
「だっけ?」
「だっけって..........はーーー、あんたが一番やばいわ!ずっと暴走してるじゃん」
「てか、店員あほか、なに武器渡しとんねん」
「確かに、あほそうだった」
「リュカはいっつも想像の上超えるね」
「ありあと」
「かーーー褒めてねーーー。」
「最後に一個だけ聞いていい」
「どぞ丸」
「ヴェルトに情けある?」
「あんま、つけない。ストレッチタイプのチャイナ服ばっかだし」
「衣服のベルトじゃねーーーよ!とんちんかん」
「あーーーやめやめ。真剣に考えるの馬鹿らしい。電脳タウンは正気じゃ生きれんな」
「そう丸」
なんやかんやで、イドイーヌ草原の北西、電脳タウンから五kmのに到着した
そこには、一人の人影がいる。
物凄く普通の今風の少年。いや、ボーイッシュな少女
電脳タウンの若者に流行りの黒のパーカー。
黒のショートパンツに黒のタイツ。
瞳と髪は綺麗なシルバー。
トレーニングシューズの様な靴を履いてる
ごく普通の可愛らしい女の子だ
その子が少し寂しそうに体育座りしてる。
リュカが叫ぶ
「ここであったが100年目!!!!!!」
「いーーーや、ちょっと待って色々おかしい。様子見るとかの概念無くないリュカ?」
「絶対最近テレビかなんかで見たでしょ?」
「あたり。爆破戦隊バズレンジャー」
「あぁバズーカそれか、影響受けやす」
リュカは少し恥ずかしそうに言う
「ちがう、やっぱ自分でかんがえたの」
「手遅れだろ嘘つくには?やっぱってなんだ」
もう隠れても仕方ないので、ネフフル達はヴェルトの後ろで茶番を続けていた
「あのーーー、静かにしてもらえませんか?お姉さん達」
「草原は広いんだから、何処かよそでやってください」
ネフフルは一瞬、言葉を失った。
(……大人だ。しかも、ちゃんと“配慮”がある。暴走っていうより、疲れ切ってる声……)
リュカは、マシンガンとバズーカを持ったまま固まり眉間に皺を寄せてる
「リュカそのノリもういいわ!」
ネフフルが即座に突っ込む。
ヴェルト――少年にも少女にも見えるその子は、ゆっくり立ち上がった。
動きが綺麗だ。
無駄がほとんどない。
「あなた達、親方に言われて、わざわざここまで来たんですね」
声は柔らかい。なのに、距離を詰めない。
“近づけない”じゃない。“近づかせない”。
ネフフルが一歩だけ前に出る。
「……ヴェルト、で合ってる?」
「はい」
頷き方すら礼儀正しい。
そして、その瞬間。
ヴェルトが胸元を押さえる。
「……っ」
痛みを飲み込むように、奥歯を噛んでいる。
ネフフルは確信する。
“核”が暴れてる。本人は、抑えてる
リュカが、真顔で一歩進んだ。
「ねぇ」
「……はい」
「お腹痛いの」
「まぁそんなとこです」
リュカは手に持ったバズーカを少し持ち上げ、発射口をヴェルトに見せる
「これ使っていいよ」
ネフフルがリュカの頭をはたく。
「あほか!!!女の子に何言っとる。あんたのネタどんどん下品になってるよ。その内オッサンでも笑わなくなるよホント」
「それはいや」
ヴェルトは、少しだけ笑った。
瞳の奥は笑っていないが。
深い、濁った赤。
銀の瞳の底で、血みたいに揺れる。
「その武器、下ろしてください。店のでしょ?あなたが思うより危険ですよ。作ったのボクですし」
ヴェルトの声が、ほんの少しだけ低くなる。
ホントにボクっ子っているんだと、二人は同時に思う。
「あんたが素直にマシンジジイの元に帰るならな」
ネフフルは言い切った。
ヴェルトは、視線を逸らす。
「帰れません」
「なんで」
「帰ったら……たぶん、いつか誰かを傷つけます」
ネフフルの眉が跳ねる。
「自分で分かってんのかよ。ならなおさら、今帰って修理するなりどうにかしてもらえ、お前の親方は――」
そこでヴェルトはネフフルを少し睨んだ
「ボクは信頼してたのに、あの人はボクにこんな危ない物をいれたんですよ?」
「もう、信頼なんてできません」
声は礼儀正しいままなのに、圧だけが増える。
草が、ふわっと逆立つ。
風向きが一瞬だけ変わる。
ネフフルが言う。
「全くだ、あのオッサン結構クソだな ははは でもあんたの事、家族って言ってたよ」
ヴェルトは少し何かを思い出すような顔をした。恐らく二人の今までの思い出だろう
「ボクは帰りません。万一あの人をもう一回信じれたとしても、この核から伝わる記憶を見てしまったボクは帰れません」
ヴェルトは、ゆっくり息を吸って、吐いた。
「……すみません」
謝るんだ。
この状況で。
ネフフルの胸が、チクリと痛む。
(やっぱり悪いやつじゃない。むしろ……いい子すぎる)
「帰ろ、バイクが欲しい」
「え?」
「黙れリュカ」
「ほい」
ヴェルトは続けた。
「わたしは……あなた達を傷つけたくない。だから、お願いがあります」
「お願い?」
ネフフルが警戒する。
ヴェルトはまっすぐ言った。
「帰ってください」
ネフフルが言う
「あたしたちもこれが仕事なんだ、そうやすやすとは帰れねぇんだよ。すまんなボクっ子」
「ボクっ子って言わないで」
「え、そこ? てか自分でさっきからボクっていってるじゃん」
「これはプログラムされているんです、親方に」
リュカが言う
「きも」
ネフフルも
「あのジジイ、ロクな事しねーな」
あまり目の前で親を悪く言ってはいけないなとネフフルは焦る
「まっ可愛いけどな!」
ヴェルトの声が恥ずかしそうになる。
「あ.......ありがとうございます。ネフフルさん」
次の瞬間、ヴェルトの顔から笑顔が消えて、ヴェルトの瞳の赤が濃くなる。
「……逃げて」」
次の瞬間。
ヴェルトの姿が――消えた。
いや、消えたんじゃない。
速すぎて“見えない”。
リュカの首筋近くに、銀色の影が走る。
「リュカ!!」
ネフフルが叫ぶ。
ヴェルトが首筋に触れる寸前、リュカは幽体化する。
ヴェルトの指が空を切った。
「……っ」
「今の避けますか.....あなた達何者なんですか」
ヴェルトが小さく息を呑む。
“当たる”と思ってた。
相手の挙動は予測できても、幽体化は想定外。
リュカが、ゲームみたいに淡々と言う。
「何者かって?爆破戦隊バズレンジャー」
「よくわかりません....なんでもいいから早く逃げて」
スルーされてんじゃんとネフフルはリュカをちらっと見る。よくわかりませんが少しツボッた。
リュカが言う
「ボク、まだ話したい」
ネフフルが呆れた様に言う。
「リュカこんな時にボクっ子移ってんじゃん」
「真似したくなった」
ネフフルが言う
「ヴェルトちゃん。自分の中で何が起きてるかちゃんと分かってるの?」
ヴェルトの唇が、かすかに震えた。
「……分かっています」
「じゃあ言って。いま、何が一番苦しい」
ヴェルトは目を伏せる。
「記憶です」
「親方の?」
「違います」
即答。
ヴェルトは低く続ける。
「知らない世界の知らない戦い、怒り、悲しみが流れ込んできます」
「それはヴェルトちゃんの記憶じゃないんだよ?」
ネフフルが言う。強く。
ヴェルトは、目を上げた。
赤い瞳の底で、銀が揺れる。
「……そんなの、分かってます」
声が、少しだけ荒れる。
「分かってるんですよ、でもそれを視た自分が確かに同じ感情を感じてる」
リュカが、静かに言った。
「泣いていいよ、それが生きる事なんだ」
ネフフルが一瞬だけ黙る。
リュカのズレからたまに生まれる優しさに刺さる。
ヴェルトの頭を抱える。
「……泣いたら」
「……泣いてしまったら」
胸を抑える
ヴェルトが消えた。
今度はさっきより速い。
ネフフルが叫ぶ。
「来るぞ!!」
リュカは幽体化のまま、ヴェルトを追う
さっきより速い。
銀の影が、背後からリュカの肩を掠めた。
「痛い」
でも、致命部位じゃない。
当てるなら首も心臓も狙えるはずなのに、わざと外している。
万が一、狙ってもリュカなら平然と避けるのだが
ネフフルが叫ぶ。
「ヴェルトちゃん!!当てる気はないんだろ!だったら止まれ!!」
返事はない。
代わりに、空気が“刃”みたいに走る。
ネフフルの頬の横を、何かが掠めた。
髪が一本だけ切れて、ふわりと落ちる。
ネフフルが舌打ちする。
「……ちっ、やっぱ本気で速い」
リュカが淡々と言う。
「とりあえずあれ使うしかないか」
リュカは幽体化を解く。
わざと“当たる”場所に立つ。
ネフフルが目を見開く。
「おいリュカ!!」
銀の影が現れる。
ヴェルトの拳が、リュカの胸元に——
と、思いきやそこにはバズーカの発射口があった
ヴェルトはそこに拳を突っ込んでしまう
「バズレンジャー参上!!!」
リュカは平然とバズーカを発射した
草原一帯に特大の轟音が鳴り響く
ネフフルが絶叫する
「お前鬼か!!!ヴェルトちゃん当てる気ないの分かってんだろ?」
「知ってる。でもお仕置きは必要。人を傷つけるのに大も小もない」
ネフフルは黙る。今のは正しい。人にはその気が無くてもやってはいけない事がある。子供がそれをしたら叱るのは親の役目だ
「わかる。無茶苦茶わかるよリュカ。でもさヴェルトちゃん粉々になってない?」
「大丈夫です......はは」
ヴェルトの声。
今度は“本人”の声だった。
「むしろ感謝したいです。なんだかすっきりしました。暴れて、それでも絶対止めてくれる人がいて」
「かなり痛いですけど」
「痛いのは……生きてる証拠」
リュカは言う
「ヴェルト」
ネフフルがヴェルトの名を真剣に呼び続けた
「きっとお前は大丈夫だ。お前のその言動、人を傷つけまいと自己犠牲する精神、立ち直ろうとする意思。そんなのない奴なんか沢山いるよ」
「……ボクは一体」
「簡単だ、ただ大人の階段上ってるだけだ。真面目な奴が苦難に出会って藻掻いてる最中だ、その先に成長がある」
「……受け入れるしか、ないんですか」
リュカは頷く
「うん」
そして、補足するみたいに言った。
「でも、ひとりでやらなくていい」
ヴェルトが顔を上げる。。
ネフフルが笑いながら言う。
「また暴走しそうになったら——いつでもあたしたちを呼べ。丘でも街でも、どこでも行ってやるよ。子供の内はな」
リュカも笑う
ヴェルトは、涙が出そうな顔で笑った。
「……ありがとうございます」
そして小さく、頭を下げる。
それは、この子が“戻ってこれた証拠”だった。
ネフフルは、親方に短く連絡する。
「今から連れて帰るよ。ちゃんと出迎えてやれよ」
MACHINE WORKS。
ガラス張りの店の前で、親方が立っていた。
背中が、やけに小さく見える。
「連れてきた」
ネフフルが言う
後ろに、申し訳なさそうなヴェルトがいる。
親方の顔が歪む。
口が震えて、言葉が出ない。
ヴェルトは、視線を落として言った。
「……親方」
親方は一歩踏み出して、止まる。
「……すまねぇ....ホントにすまねぇ。」
「俺はお前を家族と思ってた。本当だ.......信じられないだろうけど、核を入れたのもお前の為になると勘違いしてたんだ」
ヴェルトは少しだけ笑った。
「……親方はマシンの事しか考えてないですもんね。常識を知りませんもん当然です」
「でもボクも、すみません。ちゃんと親方に相談するべきでした。」
親方が、首を振る。
「違う。俺が……俺が悪い」
馬鹿な自分を戒める拳が震える。
マシン屋の親方はヴェルトを見つめバズーカで傷ついたボディに優しく触れる
「お前、ボディ傷んでるな.....大丈夫か.....痛くないか?」
ネフフルとリュカはドキッとする
「……痛いですが」
親方の目が潤む。
「……そうだろうな」
ヴェルトは続ける。
「でも、痛いのは……僕が生きてる証拠だって、ネフフルさんとリュカさんに教えてもらいました」
親方は、涙を堪えながら笑った。
「そうか」
「……お前ら、ありがとう。本当にありがとう」
ネフフルが肩をすくめる。
「おっさん、ちゃんと見守ってやれよ。そうしたら、ヴェルトちゃんは道間違う子じゃねーからな」
「おーよ!俺の自慢の娘だ」
親方はバイクの方を見て言った
「そっか、報酬だな」
「約束だ。持って帰りな!姉ちゃん達。お前らなら乗りこなせるだろうよ!」
黒い神獣バイク。
照明の下で、ずっと待ってたみたいに沈黙している。
ネフフルの目がギラつく。
「おっけきたーーーーー!!!!!」
リュカも目をキラキラさせて言う
「最高だぜマシンジジイ」
ヴェルトが言う。
「ネフフルさん、リュカさん.......あのぅ......その、良かったら連絡先とか教えてくれませんか?」
「時々話せたら嬉しいです」
「あぁ勿論だよ、ヴェルトちゃん。妹分にしてやるよ」
ネフフルはガッツポーズを決める
「え....妹.......はい!!!」
ヴェルトは、ちゃんと頷いた。
「はい」
「妹よさらばじゃ」
リュカが言う
去っていく、二人の後ろ姿を見つめてヴェルトは言う
「面白いお姉ちゃん達」
「二人乗りやり方わかるよなリュカ?」
リュカが真顔で言う。
「できる。ボク、後ろでバズーカ持つ」
「どんな危険な暴走族だよ。てかもうボクッ子やめろ。」
「ミー承諾した」
「何のキャラなんだよ ふふふ 帰るぞ!」
「おう」
夜の電脳タウン。
ネフフルがアクセルを開く。
黒い塊が、街を切り裂く。
ネオンが線になる。
風が笑う。
リュカが叫ぶ。
「マシンパワースゲー―――!!!」
ネフフルが叫び返す。
「こんなもんじゃねーーーーぞ!!!」
二人の笑い声が、電脳タウンの夜に溶けていった。




