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牛乳事件とマシン屋の依頼



新しいパソコンのファンが、気持ちいい音を出している。


リュカは机に頬杖をついて、淡々とゲームをしていた。


カラフルな瞳でモニターの映像をきらきら反射させ続ける


ピタッと全く動かない


ただ、指だけが異様に速い。




「……このグラ、すごい」




画面の中で、爆発が花火みたいに咲く。


敵が溶ける。味方が踊る。


リュカは、その迫力に夢中になっていた。




白熱し過ぎて、喉が渇いた。




リュカは牛乳をグラスに注ぐ。


ごくごくごくと喉に流し込む。




リュカは無表情で独り言を呟く


「グレイトモーモー」




コップをパソコンの横に置く。




さらに、熱中する。最近じゃBOTが激しい攻撃を仕掛けてくるから油断ならない。


リュカは唇を噛みながら指を連打しまくる。




そして次の瞬間......


肘が牛乳の入ったグラスに当たった。




「……あ」




白い波が机に溢れ、滑り落ち、デスクも床も大惨事だ




しかし、リュカはパソコンまでの牛乳の到達を類まれなる瞬発力で防いだ


パソコンさえ助かればセーフなのだ




「……セーフ」




パソコンを守るのにとっさに使った服を見る。




薄いピンク。


新品みたいに、柔らかい。ハイブランドかもしれない上品な服だ。リュカのでは無い。




「……へたこいたかも」




ネフフルの声が、脳内で再生される。


『服!化粧品!服!いやまず服!』


ネフフルの美への執着は凄まじい




リュカは、服を見つめたまま固まった。


「……よくやったよ、パソコンを守る服なんて聞いたことない。忘れないよ」


リュカは訳の分からない事を言って現実逃避した。




そして、ゲームに戻った。




玄関が開く。




「ただいまー!」




ネフフルの声が、やけに明るい。




「見てリュカ! 新しい化粧品買っちゃったー!あーしマジ可愛くなるかも! んでさ、しかも前に奮発して高い服買ってたんだよねー。可愛いの合わせ技!!!きゃっ!!!」


異様にテンションが高いネフフル




「後で、超絶可愛くなった私見て頂戴!それと、お土産もあるよ!リュカの大好きなミルクたっぷりシュークリーム」




「.......うん」




「あれ、元気ないね?大丈夫リュカ?風邪?しんどくない?」




「大丈夫、ありがと」




リュカの心は優しすぎるネフフルの言葉と先程の出来事の乖離に耐えきれなくなり、さらに現実逃避する




しかし、




ネフフルの鼻が、ピクッと動く。




「……なにこの匂い」




ネフフルは部屋を嗅ぎ回り、机の横で立ち止まった。




床。


拭いた跡。


そして——




ハンガーに掛かった服。


薄いピンクの新品のやつ。牛乳でさらにピンクになっている




ネフフルの目が、ゆっくり細くなる。


「……これ」


鼻を近づける


「うわっくっさ!!!」




ネフフルはリュカに顔を近づける


「リューーーカーーー」





リュカはコントローラーを置かずに言った。


「にゃんすか?」





「にゃんすか?じゃねーよ!!」





リュカは、視線をゲームから外さずに言う。


「……たぶん、ちがうよ誤解してる」





「いや、確信犯だろ!!!牛乳だろ!!!!」





「……匂いで分かった?」





「何、クイズ出した人みたいに聞いてんだよ!!!」





「.............」





ネフフルは服を持ち上げ、鼻を近づける。


「……うわ。最悪。ほんとに最悪。新品の“おニュー感”が牛乳で上書きされてる。これじゃ学校の雑巾じゃねーか」





「学校の雑巾着て、化粧するほど私アクロバティックじゃねーぞ」





リュカは、少しだけ申し訳なさそうに言った。


「……責めないで、その雑巾パソコン守った」





「責めてねーよ服は、あんたを責めてるの!て、いきなり雑巾扱いすんな犯人が」





「ごめん.....ネフフル・ミーナ」




「ちょ.....なんでフルネームで謝るの?なんかずるいわ!」




「ホントにごめん、作るから服」




「作るって何?いきなりファッション関連甘く見るのやめて」




「んーーーーどうすればいいの?許して、ねぇ、許して、尽くすから、他の男の連絡先全部消すから」




「別れたくない彼女やめろ!あんた、メッセージアプリすらやってないだろ」




「テレビで電脳イケメンアイドルのニュース躊躇なく変えて、世界の珍妙な異形の衝撃映像100連発で耳クソほじりながら大笑いしてたじゃねーか」




「正解」




ネフフルは深呼吸する。埒が明かない......




切り替えよう。




「……よし。今は怒りを金に変える。依頼だ。依頼行くぞリュカ」




リュカは、画面の勝利演出を見ながら言う。


「うん。依頼で服買い直そ。二人で頑張って。友情パワーで」




「なんか釈然としねーが、まぁいい」






電脳タウン中心区。


ここは“機械の匂い”が強い。


油と、熱と、電気の匂い。




通りには、パーツ屋、改造屋、整備屋。


変な乗り物が当たり前に走って、色んな種類のアンドロイドが行きかう。異形も結構多い


そのエリアに、立派なガラス張りの店があった。


看板は、シンプル。




【MACHINE WORKS】




店の中は広い。


そして、置いてあるものが全部デカい。




戦闘に特化した装着スーツ。


肩だけで人の胴より分厚い。


「試作」「未知異形封印対応」——そんな札がぶら下がってる。




ロボカーもいる。


四輪じゃない。脚がある。


床を踏むたび、金属が“生き物”みたいに重く鳴る。


エンジンじゃなく心臓みたいな生物機械臓器がついてる




ドローンも異常だった。


薄型の板みたいな洗練されたやつが、空中でピタッと芸術的に止まる。ロボにはもはや見えない。


一方で、手が付いたドローンは指を動かして、工具を器用に回してる。


「これ、一機でなんでも整備できるやつだ……」って、見ただけで分かる。




バイクも、何台も並んでる。


速そう。強そう。高そう。


どれも十分すぎるくらいだ。




——なのに。




その中央だけ、空気が違った。




展示台の上。


照明の下で、黒い塊が沈黙している。




大型バイク。




黒いフレーム。


角度のある装甲。


ゴツいタイヤ。




……でも、“ゴツい”だけじゃない。




装甲の継ぎ目が、異様に少ない。


無駄な凸凹がない。


必要な場所にだけ厚みがあり、要らない場所は削ぎ落とされている。




シンプルなのに一番威圧的だ。


まるで速い異界の王をモデルに設計されているようだ。





メーターは少なく、情報は圧縮されている。


スイッチの数も少ない。


つまり——“迷う操作”が存在しない。





そのバイクは、“神獣”みたいだった。


マシンの見た目をした高貴な獣だ


一度こいつに乗る快感を味わえばスピード無しでは生きられなくなりそうだ




ネフフルが、息を吸って


「……超かっこいい!!!!」




リュカも続く


「……超強そう」




二人の目が完全に“欲しい”になった。




奥から、店主が出てきた。


髭、油、無骨。


でも目だけは鋭い。


「……それ、見惚れるな。分かる。最高傑作だ」




ネフフルが前のめりになる。


「旦那、すげーなこのバイク!!!ほんとかっけーよ」


「メカニック万歳」


ネフフルとリュカは絶賛する




「そうだろ、マシンに生涯を注いだジジイの本気なめんなよ」




リュカが言う


「ジジイスゲー。マシンジジイ......ふは.......マシンジジイ」


リュカは自分で言って自分でツボる。




店主は何この子?みたいな困惑顔でネフフルを見るが、ネフフルは毎度の事、すみませんと軽く会釈する




「で、依頼は?」


ネフフルは尋ねる





店主は、ため息をついて、言った。


「今回はな、“連れ戻し”だ」




「連れ戻し?」




「ああ。俺の積み上げてきた最高傑作が、逃げた」




リュカが眉をひそめる。


「バイクが逃げたの?マシンジジイから」




「違う。……、バイクじゃない」


店主は、少しだけ声を落とした。


「人だ。……いや、人みたいなやつだ」




ネフフルが首を傾げる。


「アンドロイドか?」




店主は頷く。


「見た目じゃ分からねぇ。喋る。笑う。礼儀正しい。人より人間らしい瞬間すらある」




ネフフルが、嫌な予感の顔になる。


「……で、なんで“止める”案件なんだよ」




店主は、目を細くした。


「中に、核が入ってる」




「核……?」




「闇市で手に入れた、正体不明の魔族の核だ」


空気が、少し冷える。




「自分の好奇心に逆らえなかった、俺は欲望に負けて大切な我が子同然の最高傑作にあんなものを.......」




「あいつは苦しんで、店を飛び出して行ってから、帰ってこねえ.......」


「すごくいい子なんだ。なんでも手伝ってくれて、俺の体をいっつも心配してくれる」




「もしあいつが暴走すると、きっと誰も手が付けられねぇ。元々あいつには超人の能力をインストールしてるし、そこに得体の知れない魔族のコアだ......誰かが傷つく。……傷つく前に止めて欲しい」




ネフフルが聞く。


「名前は」





店主は、はっきり言った。


「ヴェルトだ」




リュカが、その名前を一度口の中で転がす。


「……ヴェルト」




店主は、バイクを軽く叩いた。


「もしな.....あいつを無事で連れ戻せることが出来たら、報酬はそのバイクでいいぞ。ヴェルトを連れ戻してくれたら、その場でやるよ」




ネフフルの目がギラギラする。


「……マジ!!!!!?え、やばくない。」




ネフフルは、これさえあれば魔獣討伐の移動も楽ちんだし、リュカ乗せて温泉もいけると頭に夢が一気に広がる





「マジだ。俺は誰かを傷つける前に止めたい。それができたら、こいつが惜しいとか言ってる場合じゃねぇ」




ネフフルは、リュカを見る。


リュカも目がキラキラしてる




「……乗ってみたい、マシンジジイに」


「違うでしょ!マシンバ・イ・クにでしょ」




「まぁ.......なんだ....任せたぞ。お前らの面を見りゃ強いのなんてわかる、俺はお前らを信頼するからな?頼むぞ?」




ネフフルが拳を握る。何か思うとこがありそうな顔だ

「信頼か.....任せろおっさん」




リュカも続く

「任せろおっさん」



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