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リュカ・ネザとネフフル・ミーナ 荒野の異界狼退治ログ

二人はお金が無い。


そう、とてもお金が無い。




財布は軽い。冷蔵庫は空っぽ。ツケ帳は厚い。


そしていま、リュカ・ネザとネフフル・ミーナは、電脳タウンの外れ――街灯の届かない荒野に立っていた。




風が鳴る。砂が舞う。遠くで都市のネオンだけが、無関係そうに瞬いている。


そのネオンの海から投げ出されるように、荒野の中央に“それ”はいた。




蝙蝠みたいな巨大な翼。


狼みたいな機動力の高そうな体躯。


そして――八本脚。瞳がギラギラしてる


体中に妖気を纏っている


全長20メートル........




「……ねえ。ネフフル」


膝まで届く真っ青な髪を月明かりに揺らしながら、リュカが静かに言った。幽霊みたいに透き通る真っ白な肌と、鋭く大きな切れ長な目は虹を閉じ込めたようなカラフルな瞳が特徴的、暗闇に薄く光る。チャイナドレスは体にぴったり張り付き、体の線が細い。拳には魔獣の革で作った黒い手袋


「これ、狼じゃない」




「うん、違うな。こりゃ化け物だ」


ミーナは肩をすくめる。燃える様な真っ赤な大きな瞳。戦闘服の上に革ジャン、ショートパンツから伸びた脚が艶めかしく無駄に長い。金髪は背中まで流れ、ピンクのカチューシャが夜の荒野にやけに映える。胸がとても大きい。


動きやすくもあり、見た目重視な装備だ。当たり前だ、ネフフルは自分が常に一番可愛くありたいのだ。


そして背中には――伝説の名刀、星喰。(ホシクイ)




「狼とか言うから安請け合いしたらこれだもんな。あの依頼人舐めてるな。胸ばっかみやがって」


「あ、ごめんリュカ」


ネフフルはリュカの胸を見て無言で頷く


「何が?」




「まあいいや、それにしても八本脚で翼生えてるかよ狼に」


「依頼主のエロジジイの説明、なんて言ってたか覚えてるリュカ?」


リュカが指を折りながら答える。


「「“街から外れた荒野に出現する、犬を討伐してくれんか?大げさにいったら狼かもしれん。」だったかも......」


「いや、過小評価」


「さすがに、じいさんの犬の基準疑うわ」


ネフフルは大げさなリアクションをする


「もしかしたら、あのおじいさん、ものすごいおっきい犬飼ってるのかもよ?」


ジョークかわからない真顔でリュカが言う


「それがダメなんだよ!リュカ。あんたはいつもなんか優し過ぎ。色んな人の味方過ぎ!あのじいさんにそんな犬飼うキャパないだろ?」


「わかんないよ?もしかしたら、おじいさんは世界でかい犬飼う選手権三年連続一位の覇者かもよ?」


リュカが物凄く気まぐれに、適当におじいさんを庇いだして、幽霊みたいに無表情でネフフルをからかうようにウインクまでしたから大変だ。




ネフフルがイライラしてきてる。




「ねえちゃんと聞いてる?リュカ なんでこんな依頼受けたの?」


「お金がないから」


「それはそう! でもさ!」


異界狼を警戒しながらミーナが刀の柄に手を置き、リュカに詰め寄る。


「私たち、もっと安全な依頼も選べたよね? 電脳タウンの中で、せいぜい“異界ネズミ親分”退治とか!あの、炎使う、目が百個あるけど見かけだおしの奴」


「あぁ、あれね.......飽きた.........」


「ばぁ!!!!飽きた!?変な声でたわ!!この狼とビール三杯分しか変わんねーよ報酬。それに仕事が適当か!!」


「でも、ネズミは可哀想」


「可哀想とか言ってる場合じゃないってば!狼はいいんか」


「なんか考えるのめんどかったから」


リュカはスマホの様なデバイスでゲームしだす




ミーナは大きな胸元を押さえるようにして、大きな女性らしい赤い唇をとんがらせ悔しそうに呻いた。


「だいたいさ、金欠の原因は何?」


「……」


「言ってみ? リュカ」


リュカは、虹の瞳を一度だけ瞬かせた。


「ネフフルが、残りの食糧を全部食べて」


「食べてない!!!」


「冷蔵庫の中身を、空にして」


「空にしてない!」


「じゃあなんで太ってるの?」


「違う!!!これは胸!!!くびれ!!!ヒップ!!!グ・ラ・マ・ラ・ス!!!出るとこ出てへこむとこは、ちゃんとへこんでるの!!!何回言わす」


「いいわ正解教えたげる。リュカ、あんたがアプリゲームに重課金したからよ。二人の家賃分まで!!!」


「した!」


リュカは楽しそうにネフフルの肩にもたれかかり目をパチパチさせる


「返事が素直過ぎるよリュカ、全く反省してない怖さがバチバチ滲んでる」




その瞬間。




“それ”が動いた。


八本の脚が、地面を叩く音が遅れて届く。距離感が狂う。


狼のように跳躍と鷹の様な滑空。浮く。落ちる。落ちて、また浮く。空間がひしゃげたみたいに、動きが不自然だった。


しかし移動が驚くほど速い。




「……来た」


リュカが一歩前に出る。


蒼い髪が、風じゃないものに揺れた。




ミーナは舌打ちし、刀を抜く。抜いた瞬間、刃が暗闇を裂き、刃の軌跡に淡い文字列――魔法の痕跡が一瞬だけ走った。


「説教は後にする! リュカ、幽式の乱れ打ち。いける?」


「いける」


「じゃ、私決めるから!!今日は」


「オッケー、おっぱいぶるるんのやつだね」


ぶるるん?


「.........リュカ集中して」


リュカは鉛の兵隊の様におちゃらけて歩き出す


「イエッサ」





それに気をとられて、ネフフルは地面を転ぶ


砂に顔から突っ込む。金髪オールバックが砂まみれになる。




「痛っ! うそでしょ!」


「あーーーもう!!!砂だらけ。なんかくさいし」


「ネフフル笑かさないでよ!!!集中」


「どの口が!!!」




異界狼が砂嵐を巻き起こし妖気を纏い突進してくる




「来い! こっちだ化け物! 犬のフリしてるなら“犬笛”に反応しな」


ネフフルが刀を頭上で超速に振り回し、異様な音を立てる。名刀、星喰の抜刀音を聞けば中級の異形なら逃げ出すという噂だ


案の定、異界狼は巨大な翼を閉じ何やら様子がおかしくなる、本能的な警戒を感じている


「犬笛、持ってないよ?ネフフル」


「気分だよ!さぁリュカあいつが気を私に向けてるうちに」




会話してたはずのリュカはいつの間にか異界狼の後ろに回り、静かに息を吐き、拳を構え太極拳の様な動きをする・


拳の軌道が真っ青に灯る。冷たい炎みたいな色だった。




冷たい炎が、夜の荒野に静かに線を引いた。




リュカは深く腰を落とす。


カンフードレスの裾が、ふわりと浮いた。




「――幽式・蒼界乱断拳」




囁くような声だった。




次の瞬間。


リュカの拳が、異界狼の全身を流れる様に打った。


それは音を置き去る程に速すぎる乱れ打ちで、抵抗すら異界狼はできない。まるで影分身してるようにも見える速度だ。


控えめな雰囲気から想像できない様な猛烈なアクロバティックだ




ズドドドドドドドドドオ!!!!!!




音は全て遅れて響く


衝撃はさらに遅れて走った。


青い残像だけが残る




異界狼の妖気が、風船みたいに一気に萎む。


翼がバタつき、八本の脚がばらばらに地面を掻いた。




「ギャアアオオッ……!!」




声にならない鳴き声。


巨体が傾き、砂煙を上げる




「効いてる!」


ネフフルが目を見開く。


「さすが! あんたやっぱ強いわね?最強の幽式とあんたの組み合わせほれぼれするわ。」




リュカは無表情のまま、ふわりと宙に浮き。声をあげる




「ネフフル今......」


「どこ!」


「――喉の奥」




異界狼が口を開いた瞬間、そこに青い痣が浮かび上がった。


蒼痕。作られた核や弱点の位置。




ネフフルは、にやりと笑った。




「オッケー。じゃ、あとは任せなさい」




革ジャンの袖を引き、姿勢を低くする。


名刀星喰を、鞘に納める。




荒野が、静まり返った。




「リュカ」


「うん」


「ちゃんと見てなさいよ」


「おっぱい?」




ネフフルに声はもう届いてない、彼女は一瞬で集中の極致に辿り着く


ネフフルは一息吸う。




「――魔法侍術・居合断星だんせい




抜刀。




音が遅れた。




一閃が走り、その軌道の空間に焔の赤とプリズムの金色の変わった異界文様が裂けるように刻まれる。


斬撃は魔法を帯び、一直線に蒼痕を断った。




「今日は赤と金だな。多分こいつにはこれが効く」




異界狼の巨体が、ぴたりと止まる。




次の瞬間――


崩壊。




妖気が霧のように散り、翼がほどけ、八本の脚が影に溶ける。


20メートルの怪物は、嘘みたいに静かに消えた。




リュカが異界狼の塵に囁く


「ごめんね.....どこかで幸せになってね」


ネフフルは無言で異界狼が消えた場所を見つめる




残ったのは、荒野と、夜風と、二人。




……そして。




「はぁ……」


ネフフルが肩を落とす。


「終わった……。微妙に疲れた……心が」


「お疲れ」


「ねえ、リュカ」


「なに」


「かっこよかった?かわいかった?」


「まぁまぁ」


「いつもそれなんだから」


「ママ」


「なんでいきなりお母さん?まぁお母さん的に世話はしてるけれど」


「ママ大好き」


「可愛いから全部許しちゃうの辞めたいわー」


二人は笑いながらくっついてじゃれ合う。友達の様に家族の様に恋人の様に。とても仲が良い




ネフフルは天を仰いだ。




「帰る! シャワー浴びたい! 砂臭い!」


「一緒に入る」


「リュカのえっち」


「家、水道止まってるよ」


「最悪!!!!」




二人は並んで歩き出す。


電脳タウンのネオンを目指して。




「……でもさ」


ネフフルが言う


「一人だったらあたしこの商売やってないわ」


「うん」


リュカは少しだけ頷いた。


「二人の方がいい」


「帰りになんか食べよっか?」


「わーい」




荒野の向こうで、ネオンが瞬いた。

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