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双星の継承者  作者: まさな
■第四章 昇格試験 ― Trial of the Dawn ―
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●第六話 幻の壁

 乾いた埃とは違う、湿った石とすえたカビの匂いがする。

 迷路の奥は不気味な湿り気を帯び、靴底が石の床を踏むたびに、かすかな反響が返ってきた。延々と続く石畳の道は、所々で崩れ、不自然な段差を作っている。足を踏み外さぬよう注意しながら進むと、頭上から冷たい滴がぽたりと落ち、首筋に不快な冷たさを走らせた。

 進むほどに空気が冷えていく。


 その先の通路で、さっきのガーゴイルと同じ石像が、静止したまま座っているのが見えた。


「こっちはダメだ、引き返そう」


 地図はあるし、上から見たので途中までは迷路の行き先がわかっているが、その先は未知の部分で探索が必要だ。地図にもガーゴイルの位置は載っていない。


 途中、向こうから冒険者がやってきたので言う。


「引き返せ。こっちはガーゴイルで行き止まりだぞ」


「おお、そうか。じゃ情報のお礼に、ひとつ良いことを教えてやろう。こっちだ」


 小柄な革鎧の冒険者が、俺たちについてこいと合図する。


「どうするの?」


「まぁ、罠の可能性もなくはないが……普通はここで敵対しないだろう。行ってみよう」


「甘いと思うわよ、ハルト」

「ボクもリスクが大きいと思うなぁ」


 だが、こちらには『戦闘スーツ』も『パルスレーザーガン』もあるのだ。Cランク試験でよほどのことが無い限り、命を落とすことはあるまい。


「ここだ。いいか、見てろよ……」


 革鎧の男が、手を伸ばすと――その手がすうっと壁を突き抜けた。

 男の腕が壁に沈んだ瞬間、石の表面が波紋のように揺らぎ、

 淡い光のノイズが走った。


「なにっ?」


「ああ、光学ホログラムだね」


 クロが小声で言う。なぜそんなものがここにある。


「どうだ、驚いただろう。こいつは魔法の壁だ。ダンジョンにはよくあるヤツで普通は触らない限り、本物の壁と見分けが付かない。ま、音は通すから、反響や風の流れに注意してりゃ、わりと簡単に見破れるぜ?」


「良い情報だ。礼を言う」


「なに、さっきのお礼ってことでいいぜ。だから、お前との貸し借りはこれでチャラだ」


 別に貸しにしたつもりはないのだが、律儀なヤツだ。


「ああ。だが、別に競争しなくても『赤子石』は全員分あるんだ。協力できるところは協力したほうがいい」


 俺はこの試験を、誰が一番強いかを競うものだとは思っていない。

 いくら強いヤツが一人いたとしても、軍隊には敵わない。

 冒険者も同じだ。パーティーを組んだほうがいろいろと任務の達成率は上がるはず。

 冒険者ギルドの仕組みにもパーティー名やクラスの自己申告制度など、チームで動くことが前提になって部分があった。ならば、ここで一人の力をアピールするより、信頼を得る方がよほど価値がある。


「そうだな」


「じゃ、ここを進むか」


 ちょうど目的地まで近道ができる場所だ。さっきの革鎧の男はもっと近場の『赤子石』を目指すようで途中で別れた。


「よし、あった。まずは一つ。三人で戻るぞ。協力だ」


「そうね」「はい」


 持ち上げると、下に紙が一枚隠されていた。


「これは、地図だな。もう一体の隠し『赤子石』の地点が書かれている」


「つまり、もともとこの試験は”冒険者同士が協力する”ようにできてるってわけね」


「そうだな」


 だが、協力しないという選択肢もある。そこを試験官は見極めたいのかもしれないな。

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