●第三話 試練の門前
翌日、俺たち三人は冒険者ギルドにいた。
「よーし、全員集まったな。これよりCランク昇格試験を行う。オレは試験官のヒューム、Bランクだ。よろしくな」
中年のベテランといった風貌の冒険者が集まった受験者を前に軽く挨拶した。
「よろしくお願いします!」「よろしくお願いします」
そう言ったのは俺とフィーナだけで、他の冒険者がしらけた笑い声を出す。おっと、つい銀河同盟軍の癖が。冒険者の集まりでこの態度は浮いてしまうか。気をつけよう。
「はは、気合いは結構だが、オレに礼儀正しくしたところで一切ひいきはしないぞ。じゃ、試験の場所となるダンジョン『レーヴァ地下墓苑』へ案内する。わかっているとは思うが、すでに試験は始まっている。現場に着いてから詳しいクリア条件を話すが、この試験は冒険者としての器量を見極めるためのものだ。生還するのが大前提だが、魔法が優れているとか剣術がスゲえなんてのは、所詮その一部。――てめえらの命の使い方を見てんだよ。ま、時間が惜しい、ちゃっちゃと終わらせるぞ」
試験官一行が先導して歩き出した。
「クロ、『レーヴァ地下墓苑』の場所はわかるか?」
「西方向で街の郊外となると、ここから二キロ地点にそれっぽい地下建造物の反応があるね」
「二キロ、徒歩で三十分か。結構かかるな」
「試験官、馬車は出すのか?」
「ああ? お前、ケチくさいギルドがそんなお膳立てしてくれると思ってるのか? 依頼場所まで送迎付き? 笑わせんな」
「はっ、馬鹿馬鹿しい。なら最初から現地集合にしろよ。オレは馬車で行く」
「勝手にしろ」
「試験官は許可したみたいね。ハルト、私たちも馬車で行く? 体力が少しだけど温存できると思うわ」
確かにメリットはある。だが、試験官はすでに試験が始まっているとも言った。これは単純に行って帰ってくればクリアというお使いのようなミッションではない。冒険者として試験官に評価してもらわねばならないし、試験官と離れるのは得策とは思えない。
「やめておこう」
「だな、アイツは馬鹿だぜ。試験官がここで『いや、やっぱり試験の場所は違うダンジョンにする』って言えば不合格決定だしな」
近くにいた若い男が言う。
「おいおい、オレはそこまで意地悪はしないぞ。安心しろ、試験の場所は『西の墓地』で間違いない。馬車を使いたいヤツは使って良いぞ」
それを聞いてさらに四人が馬車で行くことを決定した。残った受験者は六人か。
だだ、こうして黙ったまま歩くのも、なんだか時間がもったいない。そう思った俺はブリーフィングが得られれば儲けものという感じで聞いた。
「試験官、『西の墓地』の情報について聞いても?」
さすがにこれくらいで不合格は出さないだろう。
「ヒュームでいいぞ。試験官なんて呼ばれるとむず痒くなる。『西の墓地』は冒険者にとってはほとんど旨みのない場所だ。レアアイテムは出ない、広さも狭い。もし、ダンジョンで稼ぎたいなら他を当たれ。ま、ほとんど行くヤツがいないから、こうした試験にはもってこいなんだがな」
「出現する魔物は?」
「それは教えられん。ま、こっちも若手冒険者の死人を出したいわけじゃないからな、あそこはギルドの推奨でもEランク以上、お前らなら楽勝だろう」
どうだろうな。俺たちはまだ昨日登録したばかりだし、ダンジョンの経験もない。
「あれ? これ、結構やばくないか?」
受付嬢に勧められるままに申し込みをしたが、早まったかも知れない。
「なんでお前、Eランク推奨って聞いてビビってんだ? オレらDランクならランクは一つ上だぜ?」
若い冒険者が言う。
「いや、俺たち三人は昨日登録したばかりで、Fランクの初心者なんだ」
「なにっ!? マジかよ」
「ああ? そんなヤツがこの試験を受けられるわけ――いや、そういえば、受付のメリルがDランクをのした期待の新人を入れときましたからってドヤ顔してたな。やれやれ。ま、安心しろ。試験の階層は一般モンスターは出てこない場所だ。とはいえ、危なくなったらすぐに棄権しろよ」
「了解」
「はっはっ、じゃあ、このリック先輩が何でも教えてやるよ、ルーキー。お兄さんに任せとけって」
肩を組まれた。妙に気安いヤツだな。ま、冒険者の情報が聞けるなら悪くないか。
「おい、リック、教えておいてやるが、そのハルトは登録初日からあの『凶狼のヴォルク』と喧嘩して生き残ったヤツだぞ。特にその『狂犬のクローディア』には気をつけるこった。飛びつかれていきなり腕をへし折られるぞ」
「え? マジ? なにそれ怖い」
リックがサッと腕を放した。
「ちょっと! 私、誰彼構わず喧嘩なんてしないし、勝手に『狂犬』呼ばわりしないで」
「お、おう、悪かった。そう怒るな」
「お前らスゲえな。『凶狼のヴォルク』とやり合って生き残れるなら、問題ないだろう。だが、クローディア、冒険者は持ちつ持たれつだ。強いヤツをぶっ倒してトップに立ちゃいいんだみたいな、青臭い考えはやめておけ」
「くっ……。ハルト、この冒険者って連中、適当に異名を付けて格好付けてるだけで、全然たいしたことないわ」
「気持ちはわかるが、クローディア、今あれこれ言っても誤解されるだけだぞ」
落ち着かせるのに苦労した。
そんな雑談の中、空気が変わった。
先頭を行くヒュームが足を止め、前方の地面を靴の先で軽く蹴る。
そこには、黒ずんだ石段が地の底へと続いていた。
湿った風が頬を撫でる。
――『レーヴァ地下墓苑』
俺たちのCランク試験が、今まさに始まろうとしていた。




