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双星の継承者  作者: まさな
■第四章 昇格試験 ― Trial of the Dawn ―
31/38

●第一話 喧噪の中で

「乾杯ッ!」

 ガツンガツンと、勢い良く木のジョッキがあちこちでぶつかり合い、泡の雫が飛び散った。

 熱気の中、ドカドカと運ばれてくる皿の山。丸焼きチキンの皮は、パリパリしておりランプの光が艶やかに反射している。ところどころ焦げた豪快な焼き方の極太ソーセージは、まだジュウジュウと油がしたたり落ちていた。具だくさんの赤いスープからは、清涼感のあるハーブの香りが立ち上り鼻腔をくすぐってくる。

 我慢できず、俺はまだ熱い焼き立てのパンを引き裂いて口に放り込む。濃厚なバターとミルクで煮詰められた、ワンサイズ大きな柔らか~いマカロニが、これまたパンに合う。


「ハフハフ、あちち、クローディア、このマカロニ、行けるぞ」


「ハルト、こっちの豆スープも美味しいわ。トマトじゃなくてビーツなのかしら。甘酸っぱさにホクホクした食べ応えがもう堪らないわ!」


 どうしてもマンネリになりがちな艦隊飯と違い、この酒場の料理には荒削りながらも、刺激的な生命力がみなぎっていた。


 少し落ち着いたところで、食べながら話を進める。


「クロ、構わないぞ、報告してくれ。ここじゃ猫が喋ったところで、誰も気にしないさ」


「うん。さっきの塩の店の帳簿だけどね、レ点で印が付けられたものと、そうでないものがあって、どうやらボクの推測だと、67パーセントの確率で脱税してるみたいだったよ。裏帳簿までは見つけられなかったけど」


「そうか。店主も感じが悪い上に、ぼったくりだったからな。アコギな商人だ、まったく」


 塩は生活必需品だろうに、そんな商人を野放しにしているここの領主も信用ならないな。フィーナは信用しているみたいだったが……。


「もう一つ、ギルドカードの解析だけど、プロコトルの解読までは一部成功したけど、侵入は無理だった。ガチガチの堅牢セキュリティなのか、あるいは単に情報量が少ないだけでスカスカなのか」


 俺は冒険者ギルドのカードを改めて見た。鈍い銀色の板に黒字で文字が書かれているが……。


「冒険者ギルドの受付嬢が確か、これを神々の遺産(アーティファクト)だと言っていたな。ここにかつて銀河同盟の文明が存在していたって線はどうだ?」


「可能性は高いと思うよ。ただ、それだとプロコトルが解読できないのが引っかかる。ここは冒険者ギルドの潜入調査を提案するよ」


「それは今は却下だ、クロ。連中を調べたところで、宇宙船の技術にすぐたどり着けないはずだ。タダ掘り返してそのまま利用しているだけで、技術体系は見ろ、木のジョッキだぞ?」


「そうだよねぇ」


「向こうも詮索を警戒していたみたいだし、トラブルのリスクとリターンが見合わないわ」


 クローディアも半ば諦め気味に言う。


「でしたら、私が王女という身分を明かして、冒険者ギルドに協力を要請してみましょうか?」


 クロがそのまま翻訳してフィーナに聞かせているとは思わなかったので、俺は内心でドキリとした。まぁ、『宇宙船』の部分くらいはごまかしていると思うが。そもそも大航海時代以前の文明では翻訳も無理だろう。


「いや、冒険者ギルドは政府とは相互不干渉で、少し距離を置いているみたいなことを言っていたし、今の君が言ったところで……」


「そうですよね……」


 落ち込ませてしまった。


「ああいや、気持ちは嬉しいんだよ、フィーナ。ありがとう。ルートヴィヒの圧政の件が落ち着いたら、またそのときに頼むよ」


「はい! 必ず」


「でも、ハルト、これからどうするの? ここではもうこれ以上の情報は手に入らない感じだったけど」


「いいや、まだ一人、この街で話を聞いてないヤツがいるだろ。いや、領主を入れたら二人かな」


「ええ? まさか、あのうさんくさい情報屋を当てにしているんじゃないでしょうね。それこそぼったくられて、骨折り損じゃないかしら」


「だが、商人の脱税にしても、裏社会に通じていそうなヤツのほうが、証拠は集めやすいと思うぞ。その証拠を元に……」


 バール男爵に他の貴族の情報を出すように脅迫するか。いや、ダメだな。領内における商人の脱税は男爵の失点にはなるだろうが、責任追及までできるとは思えない。


「私からもお願いします。民が生活に苦しむ中、脱税や不正をそのままにしておくわけには」


「そうだな。というわけで冒険者ギルドでランクを上げることを、当面の目標にしたい」


 そんでもってあの情報屋と『凶狼のヴォルク』をギャフンと言わせてやる。


「はい。ランクを上げるなら、ギルドの依頼を受けてある程度の数をこなす必要がありそうですね」


 フィーナが言う。


「気長な話だけど……そうね、今のところ、すぐにできそうなことはこれといって無い――」


 クローディアがそこまで言ったところで、突然、酒場の入り口から女性の悲鳴が上がった。

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