●第八話 灰色の塩
羽根ペンと羊皮紙の絵看板はすぐに見つかった。『代筆屋』だそうで、代筆を頼まずとも筆記用具を借りて客が自分で手紙を書くことも可能だ。
「では、私が手紙を書きます」
「ああうん、差出人の名前についてだけど……」
「ええ、用心して冒険者フィーナにしておきましょう。バール男爵とはそこまで親しくないですし、フィーナという名前はありふれているので、私の愛称とは感づかれないはずです」
ならいいか。
「わかった」
「ではこの手紙をよろしくお願いします」
「はい、確かに」
ヴィント村の出来事をフィーナが冒険者の名でまとめて、無印の封書で送った。
これであとは男爵が上手く取り計らってくれることを祈ろう。
「ところで、王都について何か知らないか」
代筆屋の商人に聞いてみる。
「王都? ああ、あっちは新国王の戴冠で大騒ぎさ。何でも、祭り用の酒と旗が飛ぶように売れてるとか。いやぁ、景気がいい話だよ。手紙も依頼が殺到しているね」
王都では何人かの貴族が拘束されたものの、目立った反乱やそのほかの動きは今のところないそうだ。
「これで、ひとまずここでの用事は済みましたね」
店を出ると、ほっとしたようにフィーナが言う。その柔らかくなった表情は、やはり、少し気を張って今まで無理をしていたのだろう。俺も笑顔でうなずき、次の行動を提案してみる。
「次はさっきの塩の店で聞き込みしてみよう」
「そうですね。もう少し、詳しい情報が欲しいです。拘束されたという貴族の名前も分かると良いのですが」
「そうだな。おそらくその貴族は王女派で間違いない」
「いえ、私は継承権第二位でしたが貴族たちとのお茶会や舞踏会など、限られた応対しかしていません。王太子であったお兄様は政治の話をする親しい貴族もいましたが……」
そこで目を伏せるフィーナ。彼女の兄もすでに処刑されたとのことで、どう慰めたらいいか……。
「でも、ルートヴィッヒに反感を持つ貴族はあなたに協力的なはずよ、フィーナ」
「はい、そうかもしれません……」
少し自信なげに言うフィーナに、俺は力強く言ってやる。
「いや、きっとそうだ。少なくとも、俺たちは君の味方だ、フィーナ」
「ありがとう。頼りにしています」
「ああ。じゃ、店に入ろう」
「ええ」
塩の店は、計り売りをしているようで、天秤が机の上に置かれ、近くに塩の入った麻袋が置かれている。へぇ、粉じゃなくて、結晶の塊で売ってるんだな。しかもちょっと色が濁った灰色だ。石ころに見えてしまう。
「塩を少し買いたいんだが」
「おう、冒険者か。いくら欲しい」
筋肉質の商人が横柄に聞いてくるのでちょっと面食らう。宿屋や冒険者ギルドなど、丁寧に対応する店もあるのだが、銀河同盟の統一化された接客対応とはまるで違うよな。
「三人で一週間分だ」
「なら、干し肉作りの分も入れて五百ガームもあれば充分だろう。銅貨三枚、いや、お前らは十枚だな」
こいつ、今、俺たちを品定めしてから値上げしなかったか?
いいカモだと、舐められたのか?
「少し高い。負けてくれ」
「ふん。なら、銅貨九枚だ。嫌なら他へ行きな。この街じゃ、塩はここしか売ってねえがな」
このテキトーな値段の決め方、ムカつくなぁ。
「それで構いません、お願いします」
もっと交渉してやろうかと思ったら、早々にフィーナが承諾してしまった。まぁ、あまり粘っても本題の情報が聞き出せないか。
「ところで、この塩は王都から運んできたものですよね?」
フィーナが聞いた。
「そうだぞ。運ぶのだってタダじゃねえ、魔物を警戒して冒険者の護衛もつけなきゃならんし、塩は貴重品だ」
「ええ、それはそうでしょうね。ところで、王都から流れてくるなら、王都の状況について教えてくれませんか。近々、そちらに向かう予定なのです」
「親戚でもいるのか」
「いえ……」
「なら、そう心配することもないだろうよ。新しい国王様はもともと将軍をやっていて、禁軍を任されておいでだったからな。それを咎めた貴族様が何人か牢に入れられただけで、混乱もなくあっさりと乗っ取り成功だ。ただ、塩の税は倍に値上げされちまったから、値段も高くなってるってわけだ」
「やはり重税を……」
「ほれ、五百ガームだ。さっさと持っていけ」
追い払うように手で合図され、この店でのこれ以上の聞き込みはやめておく。トラブルになって兵がやってきても面倒だからな。
「ハルト、ボクはちょっとこの店の帳簿を調べてくるよ」
服の間から飛び降りたクロが言う。
「そうか。じゃあ、気をつけろよ」
「大丈夫、大丈夫」
さらに何件か店を回ってみたが、拘束された貴族の名前の情報は手に入らなかった。
だが、気になることをクロが見つけていた。




