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双星の継承者  作者: まさな
■第三章 流浪の王女 ― The Currency of Trust ―
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●第七話 ピクトグラムと手紙

 情報屋のフェレットに断られた以上、他の伝手を探すしかない。


「じゃ、次は商人に王都のことを聞き込みだな」


「そうね。それならさっきの武具店でいいんじゃない?」


 じゃあ、戻るか。そう思ってきびすを返すと、フィーナが言った。


「いえ、王都の鍛冶屋から取り寄せている銘打ちの鎧も奥にあったのかもしれませんが、見かけませんでしたし、あの店は地元としかやりとりしていないかと。食料品店に行きましょう。塩はこの地方では採れませんから」


 フィーナはよく観察しているし、頭も良いな。


「ちなみに、銘打ちの鎧って、ブランドマークみたいなのがあるの?」


「ブランド……? ええと、紋章のことでしょうか? 私が注意したのは装飾や柄です。ほら、私の鎧は王都の名のある名工が納めてくれたもので、美術品のような彫りがあるでしょう?」


 確かにフィーナの鎧は格調高い美術品といっても遜色ないほどの彫り込みで花柄の模様が入っていた。


「それって百合の花かしら?」


 クローディアの質問にフィーナが笑顔で答える。


「ええ、白百合です」


「んん? 俺は花は詳しくないんだが、百合の花って色で形が違うのかい?」


 鎧は銀色だ。どちらかといえば青みがかった光沢なのだが……


「いえ、形は……ほとんど同じなのですが、例えば、オレンジ色だと花の持つ意味が変わってしまうので……それに、制作者が白百合だと」


 フィーナもそれほど詳しくないのか、少し声が小さくなった。とはいえ、制作者がそう言ったなら、そうなのだろう。


「ああ、なるほど」


「もう、ハルトはそういうところ、ノンデリでモテないわよ」


「はっ?」


 なぜに?


「そうだよ、ハルト、王女様にオレンジ色だなんて言ったら、不敬罪もあり得るかもよ?」


「待て、クロ、そういう重大なことは、ちゃんと説明しろ」


「アハハ、ごめーん、今の適当な雰囲気で生成しちゃった幻語(ハルシネーション)だから」


「おい。じゃあ、クローディアはなんで?」


「私はフィーナさんが白百合と言ったのに、あなたが無粋にツッコミを入れたからだけど」


 別に素朴な疑問であって、ツッコミを入れたわけじゃないんだがなぁ。


「あの、ですが、オレンジ色の花言葉には軽率や淫売という意味合いもあるので……女性にプレゼントするときには気をつけてくださいね」


「な、なるほど、気をつけます」


 花言葉と不敬罪のコンボは初見殺しの地雷だな。おっかない。


 なんだか微妙な空気の中、俺たちは食料品店へと足を運んだ。

 壺の真ん中に二重円の絵看板があり、フィーナによるとあれが塩の店なのだそうだ。こちらの世界のお店は、徹底してユニバーサルデザインを使っているようで少し感心した。


「この看板はわかりやすくていいね。まあ、塩は一度聞かないとわからなかったが」


「そうですね、海のある国では壺に波線を入れると聞いたことがあります」


 おや、となると、ユニバーサルデザインとはちょっと違う気がしてきたな。

 こういう違和感は早めに確認しておくか。


「クロ、こういう看板を使う理由はなんだ?」


「ハルトにはわからなくても仕方がないかな。ピクトグラムは、交流が多く言葉が通じない場所で使うために生まれたんだ。空港とか、国際展示会とかね。グローバル企業もそれを真似して、コストを抑えながら世界展開するようになって普及していったんだよ。ただ、ここでは識字率の低さが、最初から言葉に変わるモノを広く要求するんだ」


「ああ、そうか! 識字率か!」

 

 同行している現地人のフィーナが理知的なので(当然、彼女は文字も扱えるわけだが)見落としていた。


 そして、同時にひらめいた。


「フィーナ、君は味方になってくれそうな有力貴族に今すぐ手紙を書くべきだ」


「なるほど、確かに、貴族の連名で政策再考を具申すれば、国王といえども無視はできません」


「良い案ね!」


 フィーナが王城に自ら出向いて捕縛や殺害の危険を冒すまでもなく、目的も達成できるだろう。


「ボクも賛成だよ」


「では、さっそく、リーナに羊皮紙を用意、あっ……なんでもありません」


 ばつが悪そうに目を伏せ唇を噛みしめたフィーナは、城の侍女に任せようとしたのだろう。残念ながら、ここにはお付きの侍女が一人もいない。


「俺が手伝うよ。ついでにここのバール男爵にも侍女を借りられないか話してみよう」


 さすがに王女様の身の回りを世話する人がいないというのは、フィーナも不便だろう。俺やクローディアは命の恩人だそうだから頼むのに気兼ねもあるだろうし。


「待って、ハルト。それが王女に好意的な人ならいいけれど、簒奪王ルートヴィヒの派閥だと危険よ?」


 クローディアの言う通りだな。


「いいえ、バール男爵は大丈夫だと思います。ルミエルのお導きを信じましょう」


「うーん、お導きか」


 ちょっと心配だ。


「先に商人と話をしてみようか。どのみち羊皮紙、封筒、筆記用具もそろえなきゃいけないし」」


 ヴィント村と隣村の事件は領主に報告すべきだが、これも報告書という形で手紙にした方が安全に思えてきた。

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