●第五話 武具屋
剣の絵看板がある店にやってきた。
ギルドカードの解析結果も気になるところだが、クロがやってくれているはず。こちらは現地の武装を最優先だ。
重厚な扉を開けて中に入ると、ヒゲ面の荒くれ者といった風貌の店主がカウンターに座ってふんぞり返っていた。こちらにチラリと視線は向けたものの、何も言わない。ま、銀河同盟の店みたいに、口うるさい案内ロボットにまとわりつかれるよりはマシか。
ずらりと置いてある武具を三人で順に見て回る。
「この鉄鎧だと、関節技のときに動きにくそう」
クローディアが鎧を見ながら、不満そうにボソリとつぶやく。
「ええと、こちらの剣術では、さっきみたいなクローディアさんの動きは普通、しないですからね……いったい、どんな流派なのですか? まさか素手であんな倒し方があるとは思いませんでしたが」
フィーナが聞いた。
「私の故郷の近接戦闘制圧術なんだけど、クロちゃん、こちらの言葉に直すと何と呼ぶべきかしら?」
「推測になるけど『格闘術』かな。でも、流派とは意味合いが違うし、もう『クローディア流』でいいんじゃない? 誰も文句は言わないよ」
「確かにそうだけど……ハルト、あなたのAIってすごく雑でいい加減ね」
「要点だけを忌憚なく指摘したり提案するようにチューニングしたからなぁ。ま、なんか自己改善で変な性格に偏ったのは認める」
マザーボルバみたいに喋られても堅苦しいだけなので、これでいいのだが。
「く、クローディア流。その若さで格闘師範だったとは、お見それしました……」
フィーナが目を見張って一歩下がると、敬うように直立で背筋を伸ばした。鬼教官に叱られた時みたいな態度だな。だが、それはちょっと変だ。仮にも王女様だろう。
「フィーナは、もしかして、何か戦闘……剣術を学んでいたの?」
俺が聞くと、彼女は弾んだ声でうなずいた。
「ええ、無理を言って、聖騎士カイン様に一通りの手ほどきを受けています。これでも剣術はCランクなのですよ?」
「それは凄い。ただ、立場もあるから、戦闘は俺たちに任せてくれ」
Cランクがどの程度かはわからないが、フィーナはムーンベアには対抗できなかったのだ。
「そうですね。ふぅ、私はやはり、剣術を極めたところで、守られる存在でしかないのでしょうか……」
おっと、フィーナをへこませてしまった。どうしよう。
「いいえ、護衛対象がある程度の武術を会得していれば、守りやすくなるわ。どう、フィーナさん、私の手ほどきも受けてみる?」
「ええ、ぜひ!」
クローディアがウインクして、見事なフォローをしてくれた。
「じゃ、格闘でも動きが邪魔にならない鎧か……クロ、探してくれ」
「うん。でも、鉄鎧だとどれも関節技は難しいかも」
「おい、動きやすい鎧がいいんだな? 防御力が落ちても」
店主の男がにらみつけるようにして、低い声を出す。なんだ? 鉄鎧の店に来て、ワガママを言うなと怒ったのか?
のしのしと歩いてくるので俺は身構えたが、店主は棚の上に置かれていた光沢がない灰色の鎧を引っ張り出して差し出した。
「なら、この革鎧はどうだ。ソフトレザーだが、グレイリザードの皮から作ってあるから、丈夫だぞ。このとおり、な!」
そう言ってナイフを思い切り鎧に突き立てる。少しだけくぼんだが、切れることはないようだ。
「いいわね! ちなみに……おいくらかしら?」
でもお高いんでしょう? と言うニュアンスでクローディアが聞く。
「まあ、上物の材質だからな。鉄鎧とそう変わらない値段はするぞ。三千ゴールド、大銀貨三枚だ」
「ああ、安いですね! では買いましょう」
フィーナが笑顔で即決する。ただ、それだと手持ちが残り一枚になってしまうな。
「大丈夫、ここは私に支払わせてください」
「いや、今回は借りだ。後で返すよ」
「仕方ありませんね」
「安い、かよ。なら、そっちの兄ちゃんも同じのにしておくか? そのヒョロガリのガタイじゃあ、鉄鎧は疲れるぞ」
む、それなりに鍛えてはいるんだが……ま、この店主に比べれば筋肉が少なすぎだな。
俺は肩をすくめて言う。
「頼む。それと初心者でも扱いやすい剣を教えてくれないか」
「いいだろう。素人は長くてデカくてカッコイイ剣を欲しがるが、扱えなきゃテメエが死ぬだけだからな。この片手剣なら、軽くて一番扱いやすい。裏庭で試し切りもできるから、長さの違うのを何本か試してみな」
見た目が強面だが、実に親切な店主だった。
実際に試し切りしてみた結果、藁束はざっくり、茶色の革鎧はなんとか切れる程度、薪は少し食い込むだけ、そんな感じだった。ちなみに、グレイリザード製の革鎧は少しうざったく感じるが、動きにはまったく支障が無い。
「ううん、パルスレーザーガンやマルチツールナイフに慣れていると、この戦闘力低下は厳しいな……」
「そうね。敵も鎧で武装していると想定すべきでしょうし……クロちゃん、何か打開策はある?」
「それならその鎧の下に戦闘スーツを着ればいいじゃないか。冒険者ギルドで重ね着をしている人もいたし、形状もいろんなのがあったから、目立たないと思うよ?」
「「はっ、それだ!」」
実際にやってみると、革鎧は半分まで切り裂き、薪は真っ二つにできた。戦闘スーツがグレイリザード製の革鎧に干渉することもない。
「「よし!」」
クローディアと笑顔で目を合わせ、うなずき合う。これで『凶狼のヴォルク』相手でもそこまで遅れは取らないはずだ。
「す、凄い……!」
「ほお、なかなかやるじゃねえか」
これで最低限の武装は整った。
さあ、次だ。




